手の込んださまざまな種類が登場し、まるでエンタメのように私たちを楽しませてくれるスイーツたち。どれも魅力的だけれど、素朴な伝統のお菓子には、また違った魅力が備わっているように思う。チョコレートやメレンゲ、クリームといった昔ながらの定番の材料に、精巧すぎない味のある見た目。そんな古い絵本に出てくるかのようなノスタルジーに新しさも加わったのが、北フランスの伝統メレンゲ菓子の専門店「Aux Merveilleux de Fred(オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド)」だ。今回はこのお菓子を紹介したい。
北フランスで愛され続ける「メルベイユ」とは
「メルベイユ(Merveilleux)」とは、フランス語で「素晴らしい」「驚くべきもの」を意味する言葉。その名のとおり、ふんわりと軽い口当たりと美しい見た目で、北フランスやベルギーを中心に長く親しまれてきた伝統菓子である。
お菓子の基本となるのは、サクッと焼き上げたメレンゲ、生クリーム、そしてチョコレートといった、ごくシンプルな組み合わせだ。メレンゲでクリームを挟み、表面にもたっぷりとクリームをまとわせたあと、削ったチョコレートをふりかけて仕上げる。このシンプルな構成だからこそ、それぞれの素材のおいしさが際立っている。
ひと口食べると、まず驚くのはその口どけの軽やかさだ。さくりと小気味の良いメレンゲが、次の瞬間すっとほどけて消えていく。そこに、生クリームのやさしい甘さとコク、チョコレートのほろ苦さが重なり、繊細で奥行きのある味わいを生み出しているのだ。
「まるで雲のような口どけ」と評されているこの軽い食べ心地は、店が大切に守り続ける技術によるもの。クリームやチョコレートなど脂肪分の多い素材を用いながらも、食べ疲れしない、あとを引くおいしさを生み出している。
伝統菓子を現代によみがえらせた「Aux Merveilleux de Fred」
北フランスで長く親しまれてきたメルベイユを、現代のスイーツとして広く知らしめたのが、フランス発のパティスリー「Aux Merveilleux de Fred(オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド)」である。
創業者のフレデリック・ヴォカンは、北フランス出身。故郷の伝統菓子であるメルベイユに特別な思いを抱き、1980年代に従来のレシピを見直した。目指したのは、より軽やかで、口どけのよいメルベイユだ。もともとはチョコレートを使ったシンプルなお菓子だったが、さまざまなフレーバーやサイズを展開することで、伝統菓子に新しい楽しみ方を加えていった。
神楽坂で出会う、小さな北フランス
アジア初の店舗として2020年にオープンしたのが、東京・神楽坂にある店舗だ。神楽坂駅から徒歩約1分、「リトルパリ」とも称される石畳の街並みに溶け込むように、一軒家のパティスリーが建っている。
1階は厨房とショップスペース、2・3階はスイーツやドリンクを提供するカフェスペースが用意されている。3階にはテラス席もあり、天気のよい季節には、神楽坂の空気を感じながらゆったりと過ごすことができる。
店内には、フランスから取り寄せたシャンデリアのほか、大理石のカウンターや布張りの椅子などが配され、スイーツだけでなく、空間そのものからも本場フランスの雰囲気を味わうことができる。
また、1階ではガラス越しに職人たちがメルベイユを仕上げる様子を眺めることができるのも楽しみのひとつ。味だけでなく、空間や職人技まで含めて、北フランスの菓子文化を体感できる店舗である。
古い絵本に出てくるような、味のあるかわいさ
私が感じるメルベイユの魅力は、味わいだけではない。伝統菓子ならではのどこか懐かしさを感じさせる佇まいが、とても愛らしいのである。
ころんと丸みを帯びたフォルムに、ふんわりとクリームをまとった姿。表面にはチョコレートやメレンゲがふりかけられ、一つひとつが手仕事ならではの表情を見せる。均一で完璧に整えられたスイーツとは異なり、人の手を感じられる少しだけラフで温かみのある仕上がりは、まるで古いヨーロッパの絵本や、おとぎ話に登場するお菓子のようだ。北フランスの街角にある小さなパティスリーで、長年愛され続けてきた情景まで想像させてくれる。
一方で、フレーバーは現代に合わせたものとなっている。定番のチョコレートだけでなく、コーヒーやプラリネ、ピスタチオなど彩り豊かなフレーバーが並び、小ぶりなサイズからホールサイズまで幅広く展開。ショーケースいっぱいに並ぶメルベイユは、伝統菓子でありながら現代の感性にも自然と溶け込んでいるのだ。
軽い口どけ。食感が主役のお菓子
サクッと焼き上げたメレンゲに、生クリームと削ったチョコレートをまとわせたシンプルな仕立て。ナイフを入れると繊細なメレンゲが軽やかに割れ、ひと口頬張ると、さくりとした食感のあとに、ふわりとなめらかな生クリームが広がる。
そして印象的なのは、メレンゲが舌の上で儚くほどけていく口どけだ。軽やかな食感がすっと消え、後にはチョコレートの香りとやさしい甘さだけが残る。甘さはしっかりと感じられるものの、不思議と重たさはなく、最後まで心地よく味わうことができる。
この軽やかな味わいは、コーヒーや紅茶との相性も抜群だ。午後のティータイムにはもちろん、ゆっくり本を読みながら味わうひとときにもよく似合う。派手さはないけれど、一度食べるとまた手を伸ばしたくなる。そんな静かな魅力を持つ伝統菓子である。
ご褒美はもちろん、手土産にもおすすめ
また、自分へのご褒美にも、大切な人への手土産にもおすすめしたい。
専用のボックスも、この店の魅力のひとつ。写真のような4個入りをはじめ、人数やシーンに合わせてさまざまなサイズが用意されている。白を基調としたシンプルなデザインに、窓からカラフルなメルベイユが覗く姿は見ているだけで気分が上がり、贈り物にもぴったりだ。
私が特に心を惹かれたのが、一つだけ購入しても、小さなケーキボックスに入れてもらえること。持ち手の付いたクラシカルなデザインは、大きなケーキ箱をそのまま小さくしたような愛らしさだ。箱を手にした瞬間から、特別なご褒美を持ち帰るような高揚感に包まれる。
仕事でひとつ成果を出せた日や、勉強を頑張った日の帰り道。そんな自分だけの小さなお祝いに、この小さな箱を抱えて帰りたくなる。お菓子そのものはもちろん、箱を開けるまでの時間も含めて、日常を少し豊かにしてくれる。
華やかで技巧を凝らしたスイーツが数多く並ぶ今だからこそ、メレンゲ、生クリーム、チョコレートというシンプルな素材でつくられるメルベイユの魅力が際立つ。軽やかな口どけや、少し手仕事のぬくもりを感じる佇まいには、流行とは異なる、長く愛されてきた伝統菓子ならではの豊かさがある。
神楽坂の「Aux Merveilleux de Fred」を訪れたら、まずは一つ、そのおいしさを味わってみてほしい。ふわりとほどけるメレンゲとやさしいクリームが織りなす食感は、一度食べると忘れられないはずだ。
Aux Merveilleux de Fred
CURATION BY
東京都出身。フリーの編集・ライター。フランスと日本を行ったり来たりの生活をしている。