岩手県金ケ崎町の「金ケ崎薬草酒造」が立ち上げた、国産ハーブリキュールブランド「和花(わか)」。最大の特徴は、日本古来の「和ハーブ」を基調とし、厳選された国産素材を緻密にブレンドしている点にある。グラスを満たす四季折々の香りは、さながら良質なアロマを愉しむかのよう。現代のライフスタイルに即した、低アルコール設計と飲みきりやすい小サイズも特筆すべき点だ。私のように「お酒は嗜みたいが、多くは必要ない」という方にとって、この適度なボリューム感は、一杯を丁寧に慈しむための心地よい充足感を与えてくれる。ハーブティーを淹れるような軽やかな感覚で、自分を整えるひとときを。和花は、今の時代に寄り添った新しいお酒のスタイルを象徴するリキュールと言える。
和ハーブの香りに満ちて。岩手・金ケ崎から届く、新しいお酒の形
岩手県金ケ崎町。車窓に広がる雄大な山々と、どこまでも続く田畑の緑。その清冽な自然の中に、株式会社K.S.Pが展開する「金ケ崎薬草酒造」はある。
開設したばかりの清廉な空気漂う新工場にて、代表取締役の老川和磨(おいかわ かずま)さんに話を伺った。彼が手がける和花には、現代に息づく新しいお酒の在り方が込められている。
創業のきっかけは、長年身を置いた飲食業界での経験にあったという。老川さんは、かつて海外でバーテンダーとして研鑽を積んだ経歴を持つ。
「海外のバーやレストランの棚に並ぶ日本製品は、ウイスキーが主流です。日本酒や焼酎は『和酒』としての地位を確立しているものの、バックバーを彩る『リキュール』に日本のお酒が選ばれることはほぼありません」
欧州などでは、ハーブや生薬を用いたリキュールを「アペリティフ(食前酒)」として嗜む文化がある。翻って日本を見れば、古くから薬用酒の歴史はあれど、それを洗練された「嗜好品」として愉しむ土壌は、未だ十分に育っているとは言いがたい。
「日本を代表するような、ハーブリキュールを作りたい」
その静かなる情熱が、株式会社K.S.Pの設立、そして「和花」の誕生へとつながった。
株式会社K.S.Pは、リキュールの造り手であると同時に、農業法人としての顔も併せ持っている。代表の老川氏自らが畑に立ち、土に触れる。その手によって育まれるのは、リキュールの核となるハーブだけではない。昨年は新たに、りんごの栽培にも着手したという。
その眼差しは、自社農園の枠を超えて岩手県全域へと向けられている。県内で生産される、味は一級品ながら形や大きさゆえに市場へ出回らない「規格外」の果実や野菜。それらを宝の山として捉え、積極的に活用することで、新たな価値を吹き込んでいるのだ。
また、商品の企画・開発に留まらず、パッケージデザインも自社で手がけているという。原料の栽培からデザインまでを内製化できるこの「機動力」こそが、同社の真骨頂だ。
自社ブランドで年間約30種類、OEM(受託製造)を含めれば約50種類におよぶ商品開発をこなす。この圧倒的なスピード感は、まさに素材から一気通貫で手がける体制があってこそ、実現し得るものなのだ。
四季を醸し、心身を整える。「和花」という新しい養生習慣
和花のラインナップは、日本の四季をコンセプトに構成されている。リキュールの中に、春夏秋冬の移ろいと美しさを封じ込めたのだ。
ハーブを用いたリキュールの歴史は、欧州では極めて長く、古くから「薬用酒」として人々の健やかな暮らしに寄り添ってきた。そのため老川さんはこのリキュールを現代の「季節の養生酒」として楽しんでほしいと願っている。
例えば、夏をイメージした「汐(しおり)」は、涼やかな香りで火照った体を整えてくれる。一方、冬を象徴する「元(はじめ)」は、山椒や唐辛子をブレンドすることで、冬の寒さに滞りがちな血流や代謝を促してくれる。
お酒を飲まないという選択が、ごく自然なものとなった現代。お酒離れという言葉も耳にするが、老川さんは「お酒があるからこそ生まれる、豊かな時間」を大切にしたいと語る。
「度数を10%前後に抑えた和花は、お酒に不慣れな方でも日常に取り入れやすいと思います。無理に飲む必要のない時代だからこそ、おいしいお酒を口にした時の幸福感や、お酒を囲んで誰もが楽しくなれる瞬間を届けていきたいです。和花を通じて、人生をほんの少し彩るお手伝いができればと思っています」
砂糖を抑え、素材の甘みを引き出す。金ケ崎の蒸溜所で丁寧に重層化された、香るリキュール
2026年、金ケ崎薬草酒造は廃校となった幼稚園をリノベーションし、新しい蒸溜所を開設した。
かつて子供たちが駆け回っていた体育館には、今、酒造りのための巨大なタンクが整然と並ぶ。学び舎としての記憶を刻んだ空間に、新たな香りを醸す蒸溜器が鎮座する。その光景は地域の歴史を大切に受け継ぎながら、未来へとつないでいく同社の姿勢を象徴しているかのようだ。
金ケ崎薬草酒造のリキュール造りは、伝統的な手法をベースにしつつも、独自の「時間」と「層」の設計に大きな特徴がある。
一般的な製法に比べて、漬け込み期間は1ヶ月から2ヶ月と長めに設定。さらに、素材をいくつかのパーツに分けて段階的に漬け込みを繰り返すことで、香りが何層にも重なり合う奥深い仕上がりを追求している。
例えば、ベースとなるお酒にまずフルーツを漬け込み、そこへさらにハーブの香りを重ねていく。こうした緻密な工程を、何度も丁寧に積み重ねていくのだという。
また、通常のリキュールは糖分を多く加えるのが一般的だが、ここでは加糖を最小限に留めている。素材そのものが持つ自然な甘みを引き出し、味のボリューム感を表現することに心血を注いでいるのだ。
現在、常時20種類ほどのアイテムを展開。一年を通じて絶え間なく、何かしらの素材を漬け込みながら、その個性を最大限に活かすモノづくりを実直に続けている。
五感で味わう、四季の彩り。「和花」の愉しみ方
実際に和花を手に取ってみる。和花は、薬草酒としての味と香りを楽しむため、氷を入れたグラスでゆっくりと時間をかけて飲むのがおすすめの飲み方だそうだ。他にも、リキュールの味をそのまま味わうソーダ割りは食事との相性が抜群だ。
実際に飲んでみた感想と、老川さんに伺った各銘柄のおすすめの飲み方を併せて紹介したい。
春の樹木をイメージした「樹」。まるで森の中で深呼吸したときのような、清々しいウッディな香りを感じることができる。ベースのりんごに、ゆずと檜(ひのき)の香りが重なり合い、飲んだあとは、軽やかでさっぱりとした余韻が残る。春の芽吹きを感じさせる、凛とした一杯だ。
おすすめの飲み方: トニックウォーターで割るのが一番のおすすめだが、ジャスミンティーで割ることで、より清涼感のあるさっぱりとした味わいを楽しめる。
梅をベースとした甘酸っぱい口当たり。グレープフルーツや大葉などを取り入れているので、ほのかな苦味も楽しめる。新感覚の梅酒だ。
おすすめの飲み方:ソーダ割りでさっぱりと楽しむのはもちろん、夏場のクーラーで冷えた体を温める「お湯割り」もおすすめ。
秋の実りを感じる、フルーティーな飲み心地の「果」。果実味あふれる味わいながら、紫蘇とほうじ茶の香ばしさが加わることで、どこかビターな印象も。同じりんごをベースとした「樹」のさっぱりとした余韻に対し、こちらは奥行きのある深みを感じさせる。
おすすめの飲み方:紅茶割りが非常に相性良く、贅沢なティータイムのような一杯に。また、ウイスキーに一滴加えることで、カクテルのような深みを愉しむこともできる。
唐辛子の少しピリッとしたオリエンタルな後味が特徴。ベースであるいちごの甘みに、山椒や唐辛子といったスパイスの刺激が重なり合う。ハーブの余韻を堪能できる独特の個性は、一度知るとクセになる味わい。
おすすめの飲み方:お湯割りでシンプルに楽しんでも良いが、焼酎のお湯割りに加えることで香りが一層引き立つ。冷たくして飲む場合は、パイナップルジュースなどの南国系ジュースで割ると、おもしろい組み合わせを楽しめる。
金ケ崎の風土に溶け込む、香りの旅へ。収穫や温泉とともに楽しむ、新しいお酒の体験
金ケ崎薬草酒造では、生産規模の大幅な拡大に伴い、主軸のリキュールに加え、ノンアルコール飲料や蒸留酒といった幅広い製造が可能になるそうだ。今後は、ハーブを主体とした新たな飲料展開にも注力していく考えだという。
また、今後は直売所を併設した施設運営も開始する予定とのこと。製造の現場を間近に見ながら、その場で試飲や購入を楽しめる、地域と地酒が交差する新たな拠点への進化を目指している。
りんごの収穫体験やハーブ園の散策を楽しみ、仲間と乾杯する。その後は、近くの温泉に浸かって心身を解き放つ。そんな、この町ならではの贅沢な体験ができるかもしれない。
「酔う」ためではなく、流れる時間とハーブの余韻をじっくりと味わう。そんな穏やかなひとときを、「和花」で楽しんでいきたい。
国産ハーブリキュール|和花(わか)
CURATION BY
宮城県仙台市。中学受験の受付事務を退職後、仙台にて行政関係の事務職や、東京・仙台を拠点とするWeb系の広告制作会社を経て、現在はフリーランス。行政でのWebメディア企画運営やWeb制作会社での経験を基に活動中。Webメディアで執筆、Web制作、SNSの運用、PR業務など。