瀬戸内の島々をつなぐ、しまなみ海道。その途中にある生口島・瀬戸田には、旅の目的地のひとつにもなっているジェラート店がある。国産レモンの産地として知られるこの島で、「しまなみドルチェ」は、地元の柑橘を生かし、瀬戸内らしい味わいのジェラートをつくり続けてきた。素材選びから製法まで、余計なものを加えず、果実そのものの風味を引き出すその味わいは、近年、海外からの旅行者にも人気だ。今回は、株式会社ドルチェ代表の岡 悟さんに、ジェラートづくりのこだわりや、瀬戸田という土地との関わりについてお話を伺った。
果実をそのまま食べているようなジェラート
しまなみドルチェのジェラートは、ひと口食べるとまず、果実の味わいがはっきりと感じられる。後味は驚くほど軽やかで、甘すぎることなく、子どもから大人まで幅広い世代に親しまれている。圧倒的なリピーターの多さも、このジェラートの大きな特徴だ。
ラインアップは豊富で、シャーベット12種類、アイスミルク24種類の定番商品に加え、季節限定のフレーバーもそろう。ショーケースを前にすると、どれを選ぶか思わず迷ってしまうだろう。
中でも人気を集めているのが、シャーベット系の「瀬戸田のレモン」「瀬戸田のデコみかん®」、そして「伯方の塩」を使ったアイスミルクである。柑橘のシャーベットは、酸味だけが際立つのではなく、果実が持つ自然な甘みがきちんと感じられる仕上がりだ。一方、ミルク系はコクがありながら重たさはなく、いくつでも食べ進めてしまう。
こうした味わいについて、「果実をそのまま食べているみたい」という声も多く寄せられている。それは、香料や着色料に頼らず、果汁そのものの風味を生かすことを大切にしているからにほかならない。
日本全国にジェラートの製造・販売を行う店は数多くあるが、フレーバーとなる柑橘をつくる農家がすぐ近くにいる環境を生かし、契約農家から直接仕入れ、自社でジェラートへと加工する専門店は珍しいという。
瀬戸田に根ざし、瀬戸田だからこそ生まれる味。その背景にある取り組みやストーリーを掘り下げていく。
ジェラートに加工し、瀬戸内の柑橘を全国へ
瀬戸田はレモンの産地として知られているが、みかんやはっさくなど、多様な柑橘が育つ地域でもある。しまなみドルチェでは、地元農家が育てた柑橘のうち、いわゆる「B品」と呼ばれるものを活用している。「B品」とは、収穫後に大きさや見た目で選果され、味には問題のないものの、サイズが小さい、形が不ぞろい、傷があるなどの理由で市場に出回らない果実を指す。
仕入れは、瀬戸田で100年以上続く老舗の柑橘農家「もりの農園」を中心に、信頼関係にある農家と契約を結び、直接行う。百貨店やスーパー、食材にこだわりを持つカフェやレストランへも卸している同農園は、品質の高さに定評がある。
農協を介さず直接仕入れることで、農家にとっては、市場へ出荷するよりも高値での取引が可能になる。一方、しまなみドルチェにとっても、状態の良い柑橘を安定して確保できるというメリットがある。その結果、消費者には、素材の良さがそのまま伝わるジェラートを届けられる。農家、つくり手、食べ手の三者にとって価値のある循環が生まれているのだ。
さらに、ジェラートに加工することで、生の果物では届けにくい地域にも、瀬戸田の柑橘の味を届けることができる。これこそが、しまなみドルチェの「地産地消」の取り組みである。
旬の味わいを一年中届ける、しまなみドルチェのこだわり
「足し算よりも、引き算」。目指しているのは、素材をそのまま食べたときの味わいに、どこまで近づけられるかということ。それがしまなみドルチェの商品開発における基準になっている。
例えば、レモンのシャーベットなら、レモン果汁と砂糖と水だけ。デコポンなら、デコポン果汁と砂糖と水だけでつくることを目指す。香りを強くするための香料や、色を整えるための着色料など、余計なものは極力加えない。
ジェラートづくりの工程で大切にしているポイントは、大きく分けて二つあるという。ひとつは、おいしい原液をつくること。もうひとつは、その原液をどのようにジェラートに仕上げるかという点だ。
ジェラートに使う柑橘は、旬の時期に搾汁し急速冷凍する。一番おいしい瞬間を閉じ込めた果汁を、毎日必要な分だけ解凍し、ジェラートに加工することで、季節を問わず安定した味を保つことができる。
ジェラートづくりは「装置産業」でもある。機械の性能が味わいに影響するため、しまなみドルチェでは設備投資にも妥協しない。ジェラートの本場イタリアの中でも最高峰とされるカルピジャーニ社のジェラートマシンに加え、柑橘専用で大手飲料メーカーも導入するアメリカ製の搾汁機を導入している。
もちろん、機械だけで完成するわけではない。この仕組みを止めることなく回し続けることに加え、最終的な仕上げは人の感覚に委ねられている。とくに硬さの見極めは、味わいを左右する重要なポイントだ。
素材の良さ、機械の性能の高さ、そして人の感覚。そのすべてが組み合わさることで、しまなみドルチェならではのジェラートが実現している。
「島」「海」「柑橘」——しまなみドルチェの原点にあるもの
しまなみドルチェのはじまりには、創業者 髙下功さんの瀬戸田への強い思いがある。髙下さんは、生口島の観光スポットとして知られる耕三寺の門前で、老舗和洋菓子店「梅月堂」を営む家に生まれ育った。幼少期を瀬戸田で過ごし、東京の専門学校で製菓を学んだ後は、そのまま東京にとどまり、外食産業の現場で経験を積んだ。
現代表の岡さんと髙下さんが出会ったのは、学生時代のアルバイト先である。社会人になってからも同じ業界で働く仲間として交流があった。あるとき、岡さんが「髙下さんが地元に戻り、ジェラート専門店を立ち上げる」と知ったのは、今から30年近く前のことだ。しまなみ海道の開通をきっかけに、地元のレモンを中心とした柑橘を和菓子や洋菓子とは異なるかたちで発信できないかと考えて、選ばれたのがジェラートだった。
以来、「島」「海」「柑橘」をコンセプトに掲げ、瀬戸田らしさの詰まったジェラートづくりを続けてきた。その姿勢は、ロゴや店舗デザインにも表れており、島と海、そして柑橘のモチーフがちりばめられている。
岡さんがしまなみドルチェに関わり始めたのは2007年のことだ。現在も創業者の思いを受け継ぎ、「地元のおいしい果物を加工し、日本中の人に届ける」という軸をぶらさず、規模を追うのではなく、安心できる品質と味わいを届け続けている。
できたてに近いふんわり食感を自宅でも
しまなみドルチェのジェラートは、公式オンラインショップで購入できる。30種類以上のフレーバーから自由に選んでセットにできるほか、どれを選べばよいか迷う人には「定番のジェラートセット」がおすすめだ。季節限定のフレーバーが含まれる「季節のジェラート詰め合わせ」を通して、四季折々の味わいを楽しむのもよいだろう。
自宅でつくりたてに近い味わいを楽しむには、できるだけ柔らかくして、少し練ってから食べるのがおすすめだ。すぐに食べたい気持ちを少し抑え、ひと手間かけるだけで、店頭で食べるような、ふんわりとした食感になるという。
都心では、東京・銀座にある「ひろしまブランドショップTAU」でも味わうことができる。また、TBSの人気番組「バナナマンのせっかくグルメ!!」への出演をきっかけに、各地の高島屋や大丸で開催される「バナナマンのせっかくグルメ!!博覧会」に出店することもあるため、百貨店の催事情報をチェックしてみるのもよいだろう。
一方で、しまなみ海道や尾道を訪れるなら、ぜひ生口島の本店にも足を運びたい。製造拠点は本店のみであり、本当の意味での“つくりたて”を味わえるのは、ここだけである。海を望むデッキに腰を下ろし、瀬戸内の景色を眺めながらジェラートを味わう時間は、特別な体験だ。
「ジェラートの味わいとともに、しまなみの景色やサイクリングの思い出を持ち帰り、自宅に戻ってからも、ジェラートを通してその時間を思い出してもらえたらうれしいです」と岡さんは語る。
しまなみドルチェは、2025年6月に、広島県・岡山県を中心に店舗展開を行うスーパーマーケット「エブリイ」グループの傘下に入った。野菜や果物を一部自社栽培する同社とのシナジーも生かしながら、今後どのようなかたちで発展していくのか。新たな展開の中で、これからもおいしいジェラートを届けてくれることを楽しみにしたい。
しまなみドルチェ
季節のジェラート詰め合わせ 12個セット 4,681円(税込・送料無料)
※「春のジェラート詰め合わせ」は3月より販売
公式オンラインショップ
https://www.setoda-dolce.com/ec/
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。