Vol.576

FOOD

23 AUG 2024

まるでフレンチのデセール。一日の締めくくりに、甘く優美な夜パフェを

お酒を飲んで、さぁ帰ろうと駅に向かう途中、何かやり残しているような……そんな気がして、つい入ってしまうのがラーメン屋だ。体中を駆け巡るアルコールをラーメンが流してくれるような気がしてしまうのだが、スープを半分ほど飲んだ頃にはうっすら後悔。そんな夜を繰り返して行き着いたのは、ラーメン屋ではなくパフェ屋だった。今回はそんな話である。

お酒を飲むとシメたくなる理由

お腹は空いていないはずなのに、何か食べたくなる理由
お酒を飲んだあとに何か食べたくなるという人は、どうやら筆者だけではないようだ。特に飲んだあとのラーメンは格別だと思うのだが、それには科学的根拠があるらしい。

お酒を飲むと、肝臓はアルコールを分解しようとするが、そのときに必要になるのが糖分だ。急激に血糖が消費されることで血糖値が下がり、脳はそれを空腹だと錯覚する。ざっくりいうと、そういうことらしい。

シメのラーメンが美味しいのは脳のイタズラ
「お酒を飲んだ後に、甘いものを食べたくなる」という人もいるという。ほろ酔いの筆者が深夜のコンビニでカップラーメンやホットスナックを選んでいるとき、スイーツ派の方はシュークリームやプリン、アイスクリームに手を伸ばしている。

初めて”シメスイーツ”をする人たちの話を聞いたときは「変わった人もいるのだな」と思ったが、そんな偏見から解き放ってくれたのが、今回ご紹介する「夜パフェ」の専門店だ。

お酒を飲んだ後の「夜パフェ専門店」とは?

すすきのの街で誕生した「シメパフェ文化」とは
札幌で「シメラーメン」ならぬ「シメパフェ」が流行っている。そんな噂を聞いたのは2015年のこと。正統派飲兵衛の筆者にとって「シメ」といえばラーメンか蕎麦であり、スイーツでシメることにはまったく理解が追いつかなかったことを記憶している。

しかし、一日の締めくくりにいただくパフェの専門店は、今や人気のナイトライフとなり、東京、福岡、大阪、沖縄に支店を増やしている。

夜パフェ専門店「Parfaiteria beL渋谷」エントランス

北欧風の落ち着いた店内
その中から、今回ご紹介するのは渋谷にある「Parfaiteria beL渋谷」。平日は17時から深夜まで営業する夜パフェ専門店で、毎晩パフェを求める人の行列が絶えない人気店である。店内は北欧風な雰囲気で、ドライフラワーや壁に描かれたイラストなどが目を惹く。

「夜に食べるパフェ」という異色のコンセプトによって脚光を浴びたのは間違いないが、それが一過性のブームで終わらず、全国的にファン層を広げている理由は次で説明しよう。

こちらは札幌で誕生した夜パフェ一号店である「Parfaiteria PaL」のイラスト

所々に北海道を象徴する木彫りのクマなどが飾られている

壁に描かれているのは夢を食べる妖獣バク

芸術性が高く、味にもこだわりを尽くしたパフェ

季節ごとに変わるパフェメニュー
夜パフェ専門店のパフェは、たくさんのホイップクリームや甘いソース、スポンジケーキやコーンフレークなどが入り、ボリュームと甘さで満たされるような、一般的なパフェとはまったく違い、夜いただくにふさわしいさまざまな工夫が詰まっている。

取材時にいただいた桃のパフェ
まず特筆すべきは、圧倒的なビジュアルの美しさ。季節ごとに発表される新作パフェは、どれも独創的な世界観が表現されている。実に繊細な盛り付けが印象的。こうした芸術性の高いパフェは、店に在籍するパティシエが、すべてのパーツを手作りし、注文を受けてから組み立てて完成させるという。

この夜パフェの楽しみは、ただ「甘いものが食べたい」という欲求を満たすだけではない。パフェが持つ美しさや味わいの変化を堪能しながら、一日の終わりを特別なものにする極上のリラクゼーションと言っても過言ではない。

忙しい日常から解放され、自分だけの贅沢な時間を過ごすことができる癒しスポット。夜の静けさの中で、一つずつ丁寧に仕込まれたツイーツをいただくのは至福のひとときだ。

「桃の妖精」と名付けられたパフェ
取材時にいただいたのは「桃の妖精」と名付けられたこちらのパフェ。女性の姿を模ったチョコレートに飴の羽、ひらひらのスカートに見立てた桃とゼリー。食べるのがもったいないくらいの美しさだ。

パフェにはこのような短いストーリーが添えられている。

“桃の妖精が桃を食べていたら、
桃の味はどうなるでしょうか?
桃の妖精の魔法の力で
桃の味を一層楽しめるかもしれません。

魔法のかけられた桃。
一度お召し上がりください。”

幾十に積み重なる層は食感や味わいのバリエーションを感じさせてくれる
素晴らしいのはビジュアルだけではない。まるでコースでいただくフレンチのデセールのように、複雑で繊細な味わい。この桃のパフェの中だけでも、非常に多くの材料を使用している。
入っているのはこちら。

ルビーチョコレート

パールクラッカン
マスカルポーネクリーム
ウーウーシート
花穂
軽くコンポートした桃
ブラックペッパーとマスカルポーネのクリーム
紅茶ジェラート
ホワイトチョコクロッカン
ライチソルベ
エディブルフラワー
ペパーミント
ザクロの実
アーモンドガレット
ザクロムース
レモンバーベナジュレ
ルバーブコンフィチュール

全体的に甘さは控えめで、素材の味や食感の工夫によって一口ずつ違った味わいが楽しめる。パリパリのチョコレートと飴。桃の優しい甘みと食感。クリーミーなマスカルポーネと紅茶の香り。カリカリとしたクロッカンの食感と、冷んやりとしたソルベ。清涼感のあるペパーミントの香り、柘榴の酸味、ガレットの香ばしさ、甘酸っぱいザクロのムース———。ひとくちごとに変化していく味と食感は、妖精の魔法という言葉にふさわしい食体験だ。

架空の動物バクの体の模様を表したメニュー
メニューには創業者の思いがこう綴られている。

“一日の締めに美味しいパフェで〆て
よい夢が見られますように

飲んだあと、甘いものが食べたくなりませんか?
僕はなります。
ラーメンとかではなく、パフェが食べたくなります。
ですがホイップした生クリームや
コーンフレークたっぷりのパフェは食べたくありません。
生のフルーツをふんだんに使ったソルベや
さっぱりとしたジェラート、
手の込んだフレンチのコースのデザートが食べたいです。
そんな締めの時間に食べられるパフェがなかったので
夜パフェ専門店を作りました。
ですので飲んだ後の時間でもさっぱり食べられるよう甘さは比較的抑えています。

一番美味しく召し上がれるのは、酔っぱらった時です!(笑)”

ナイトカルチャーをアップデートせよ

渋谷で飲んだあとの、シメパフェはいかがだろうか
お酒を飲む人が減少している現代は、健康を意識した「ソバーキュリアス」というライフスタイルが注目を集めている模様。そんな世の中の流れを予想したかのように、夜パフェという新しいコンテンツが静かに広まりつつある。飲んだ後のシメも良いが、飲まなくてもシメられるというのも、これからの時代の理にかなっているのではないだろうか。

夜の甘い誘惑が美しいビジュアルと共に楽しめるこの夜パフェは、お酒をたしなむ方はもちろん、飲まない人も分け隔てなく楽しめるボーダレスなナイトカルチャーと言えるだろう。客層は女性ばかりかと思いきや、男性の一人客も少なくないという。シメラーメンならぬシメパフェ、ぜひ多くの方に体験していただきたい。

夜パフェ|Parfaiteria beL 渋谷

東京都渋谷区道玄坂1丁目7-10 渋谷道玄坂一丁目ビル
https://www.instagram.com/parfaiteriabel_shibuya/