Vol.568

FOOD

26 JUL 2024

型も技術もいらない、家でも外でも楽しめる田舎風タルト

「田舎風タルト」というタルトをご存知だろうか?普通のタルトと違い、型を使った成形をせず、フルーツを思い切り乗せた後にタルト生地を折りたたんで焼くだけのタルトだ。バターたっぷりのタルト生地は、手早く作業をしないと生地が柔らかくなってしまう。そうなるとどうしても食感の悪いタルトになってしまうのだ。その点、田舎風タルトは、できた生地に好きなフルーツをたっぷりと乗せ、ぱたんぱたんと折りたたんで焼き込むだけ。タルト作りに挑戦したことがない人は多いはず。これを機にぜひタルト作りに挑戦し、「この前タルト作ったんだよね!」と大切な人と一緒に頬張ってほしい。

田舎風タルトって?

好きなフルーツや野菜をざくざくと切って乗せるだけ
まず「田舎風タルトって普通のタルトと何が違うの?」と疑問に思う人は多いはず。田舎風タルトの特徴は、普通のタルトと違い型に入れての成形をしないことだ。多くのタルトは、パイ皿やタルト型、セルクルなどに入れて「フォンサージュ」という敷き込み作業を行い、重石(タルトが膨らまないための重しのこと)をして空焼き、もしくはアーモンドクリームを絞り入れて焼き込む。

フォンサージュという作業はある程度手慣れていないと手早くできず、特に暖かい時期などは生地がすぐにだれてしまうので、まさに時間との勝負。穴が空いてしまったり破れたり、分厚すぎたり薄すぎたりして、パティシエ1年目の時の私はこの型への敷き込み作業がとても苦手だった。

無駄な生地を出さないようにひたすら敷き込む
タルトはどのお店でも定番の人気商品。誰しもに愛されるお菓子の1つであるのにその作業工程の多さと、それなりの技術が必要なお菓子であることから、「もう少しタルトというお菓子を作るためのハードルが下がればなぁ…」と常々考えていた。そんな時に書店やSNSでふと目にするようになった田舎風タルト。

洗練された見た目ではないけれど、その焼菓子特有といえるシンプルなデザインには素朴な美しさが漂っていた。装飾が少ないことで、素材そのものの魅力が引き立ち、見ているだけで焼きたての甘い香りが漂ってくるようだった。

簡単な材料と簡単な作り方

砂糖、塩、粉、バター、牛乳。いたってシンプル
好きなフルーツや旬のフルーツをたくさん手に入れたらさっそく作ってみよう。

デザートタルトといえば、一般的にはパート・シュクレと呼ばれる砂糖たっぷりの生地を使うのだが、今回はパート・ブリゼという、パイ生地に似た甘みの少ない生地を使う。砂糖を入れずに作るので、まとめて作って冷凍しておけばキッシュなどの惣菜タルトにも使えて便利だ。

ラップで包んで密閉容器で冷凍保存しておくと便利

●パート・ブリゼの材料(タルト1台分)

薄力粉:125g
無塩バター:65g(必ず冷えたバターを使う。1センチ角くらいに切っておく)
塩:小さじ1/4(ひとつまみくらい)
牛乳:15~20ml(必要に応じて増減。冷水でも可)
砂糖:小さじ1/2(少し甘さを加えたい場合。無くても可)

作り方

①ボウルに薄力粉と塩(必要なら砂糖)を入れ、均等に混ぜる。
② 冷やしておいたバターをカットして薄力粉のボウルに加える。
③バターをすりつぶし薄力粉と混ぜ合わせ、小さな粒状になるまで続ける。

すり合わせたり切るようにして混ぜる
③牛乳(または冷水)を少しずつ加えながら、手で生地をまとめる。水は全体がしっとりとまとまる程度に加える。生地が一つにまとまらない場合は、冷水または牛乳を少量ずつ追加する。まとまりが良い場合は全量入れなくても大丈夫。

※フードプロセッサーがある場合は、①の材料を入れた後に②のバターを入れて撹拌したあと、③の牛乳または冷水を入れてある程度まとまるまで撹拌するだけ。とっても簡単。

フードプロセッサーがあればあっという間に終わる

手袋をして作業すると手の熱が生地に伝わりにくくなる
④生地をひとまとめにし、ラップで包んで冷蔵庫で30分から1時間ほど休ませる。これにより、グルテンが落ち着き、生地が伸ばしやすく食感のよい生地になる。

好きなフルーツを好きなだけ乗せて焼くだけ

ここまでできたら後の作業工程はとても少なくて簡単だ。

冷蔵庫から取り出した生地を軽く打ち粉をした作業台に置き、めん棒で直径20センチくらいに伸ばしたら、ピケ(フォークで穴を空けること)をして、お好みのフルーツを生地の端5センチ以内のところまで並べる。

まんべんなく穴を空ける。好きな作業の一つ
端の部分をぱたんぱたんと折りたたんで完成だ。あとは180℃に予熱したオーブンで約30分、様子を見ながら焼く。

フルーツの上に砂糖、とくにカソナードやベルジョワーズなどの精製度の低い砂糖をふりかけて焼き込むと、ブリゼ生地との甘さのバランスが取れて良い。コクや風味も足されてフルーツの味わいが一層引き立つ。きび砂糖などでも美味しい。

カソナードはクレームブリュレを焦がすためによく使われる

多めにふりかけても美味しい
フルーツの下にクレーム・ダマンドを敷いて焼き込むのが一般的だが、今回は家庭でもより簡単に作れて作業工程を少なくするためにあえてクレームダマンドは入れずに焼き込む。

水分量の多いフルーツを使いたい時はクレームダマンドは必須になるので、場合によってフルーツを使い分けるとより手軽に作ることができる。

熱々にアイスやバターを乗せても美味しそう

お菓子作りがもたらす生活の変化

お菓子を家で作るようになると、スーパーにある果物コーナーを意識して見るようになる。フルーツを使うお菓子は、旬の物を使うことで季節感を演出できる上に格段に美味しく作ることができる。田舎風タルトを作りたいときは、その時旬の、一番安いフルーツを使うことで、手軽に、安く、美味しく作って食べることができる。

美しく洗練されたお菓子というよりは、おやつと呼ぶのにふさわしく、料理と一緒に食卓に並べて罪悪感なくたくさん食べてほしいお菓子の1つなのだ。

焼きたてをそのまま出せば食卓も華やぐ
タルトが生まれたきっかけとして、ジャムやクリームはそのままの状態では食べにくいため、食べられる器に入れて出そうとしたのが始まりと言われている。

生地さえまとめて作って冷凍しておけば、食べたい時にフルーツを乗せてあとは焼くだけなので、お皿に料理を盛り付けるように、好きなフルーツを好きなだけ、好きなように飾って楽しんで作ってほしい。

最も大切なことは、お菓子を作るということそのものを楽しむことにある。失敗も経験の一つとして捉え、自分なりの工夫を重ねていき、友人や家族と一緒に作ることで、さらに楽しい時間を共有できる。私にとって、完成したタルトを囲んでのひとときは、何事にも代えがたい時間だ。

タルト作りは一見難しそうに感じるかもしれない。けれど、基本を押さえ、楽しむ心を持って取り組めば、誰でも素敵なタルトを作ることができる。ぜひ、自分だけの美味しいタルトを作り上げて、その過程と結果を楽しんでほしい。

何を乗せたら美味しいのかを考えてワクワクする

何気ない毎日にポジティブな変化を

家でお菓子作りをするとストレス解消につながる。計量や混ぜるといったシンプルな作業に集中することで、日常のストレスや不安を忘れることができる。

さらに、お菓子作りは家族や友人との絆を深める機会にもなり、一緒に手や口を動かすことで楽しい時間を共有し、手作りの食べ物をふるまうことで相手への思いやりや感謝の気持ちを伝える手段にもなる。

お菓子というと、どうしても消費する(食べる)行動をとりがちだが、作れるようになることで人を家に招きたくなったり、栄養豊富な旬のフルーツを食べるようになったりと、日常生活に多くのポジティブな変化をもたらしてくれるのだ。

そんな何気ない食卓やキッチンでのひとときが、生活に温かさと幸せをもたらし、日常を少しだけ特別なものに変えてくれるだろう。

自分や誰かのための、特別な一品として