田舎風タルトって?
フォンサージュという作業はある程度手慣れていないと手早くできず、特に暖かい時期などは生地がすぐにだれてしまうので、まさに時間との勝負。穴が空いてしまったり破れたり、分厚すぎたり薄すぎたりして、パティシエ1年目の時の私はこの型への敷き込み作業がとても苦手だった。
洗練された見た目ではないけれど、その焼菓子特有といえるシンプルなデザインには素朴な美しさが漂っていた。装飾が少ないことで、素材そのものの魅力が引き立ち、見ているだけで焼きたての甘い香りが漂ってくるようだった。
簡単な材料と簡単な作り方
デザートタルトといえば、一般的にはパート・シュクレと呼ばれる砂糖たっぷりの生地を使うのだが、今回はパート・ブリゼという、パイ生地に似た甘みの少ない生地を使う。砂糖を入れずに作るので、まとめて作って冷凍しておけばキッシュなどの惣菜タルトにも使えて便利だ。
●パート・ブリゼの材料(タルト1台分)
無塩バター:65g(必ず冷えたバターを使う。1センチ角くらいに切っておく)
塩:小さじ1/4(ひとつまみくらい)
牛乳:15~20ml(必要に応じて増減。冷水でも可)
砂糖:小さじ1/2(少し甘さを加えたい場合。無くても可)
作り方
② 冷やしておいたバターをカットして薄力粉のボウルに加える。
③バターをすりつぶし薄力粉と混ぜ合わせ、小さな粒状になるまで続ける。
※フードプロセッサーがある場合は、①の材料を入れた後に②のバターを入れて撹拌したあと、③の牛乳または冷水を入れてある程度まとまるまで撹拌するだけ。とっても簡単。
好きなフルーツを好きなだけ乗せて焼くだけ
冷蔵庫から取り出した生地を軽く打ち粉をした作業台に置き、めん棒で直径20センチくらいに伸ばしたら、ピケ(フォークで穴を空けること)をして、お好みのフルーツを生地の端5センチ以内のところまで並べる。
フルーツの上に砂糖、とくにカソナードやベルジョワーズなどの精製度の低い砂糖をふりかけて焼き込むと、ブリゼ生地との甘さのバランスが取れて良い。コクや風味も足されてフルーツの味わいが一層引き立つ。きび砂糖などでも美味しい。
水分量の多いフルーツを使いたい時はクレームダマンドは必須になるので、場合によってフルーツを使い分けるとより手軽に作ることができる。
お菓子作りがもたらす生活の変化
美しく洗練されたお菓子というよりは、おやつと呼ぶのにふさわしく、料理と一緒に食卓に並べて罪悪感なくたくさん食べてほしいお菓子の1つなのだ。
生地さえまとめて作って冷凍しておけば、食べたい時にフルーツを乗せてあとは焼くだけなので、お皿に料理を盛り付けるように、好きなフルーツを好きなだけ、好きなように飾って楽しんで作ってほしい。
最も大切なことは、お菓子を作るということそのものを楽しむことにある。失敗も経験の一つとして捉え、自分なりの工夫を重ねていき、友人や家族と一緒に作ることで、さらに楽しい時間を共有できる。私にとって、完成したタルトを囲んでのひとときは、何事にも代えがたい時間だ。
タルト作りは一見難しそうに感じるかもしれない。けれど、基本を押さえ、楽しむ心を持って取り組めば、誰でも素敵なタルトを作ることができる。ぜひ、自分だけの美味しいタルトを作り上げて、その過程と結果を楽しんでほしい。
何気ない毎日にポジティブな変化を
さらに、お菓子作りは家族や友人との絆を深める機会にもなり、一緒に手や口を動かすことで楽しい時間を共有し、手作りの食べ物をふるまうことで相手への思いやりや感謝の気持ちを伝える手段にもなる。
お菓子というと、どうしても消費する(食べる)行動をとりがちだが、作れるようになることで人を家に招きたくなったり、栄養豊富な旬のフルーツを食べるようになったりと、日常生活に多くのポジティブな変化をもたらしてくれるのだ。
そんな何気ない食卓やキッチンでのひとときが、生活に温かさと幸せをもたらし、日常を少しだけ特別なものに変えてくれるだろう。