厳しい寒さが育む秋田の発酵文化
ヤマモ味噌醤油醸造元も秋田の発酵文化の醸成に貢献してきた会社の1つだ。慶応3(1867)年に秋田県湯沢市で創業し、150年以上にわたって発酵食品に携わってきた。
また、発酵食品づくりには豊かな自然も欠かせない。秋田には、雪解けの地下水、地元産の米など、美味しい発酵食品に必要な条件も揃っている。
試験醸造の結果、リンゴのような香りを持つ独自の特殊酵母「Viamver®(ヴィアンヴァー)」を発見。味噌や醤油以外の食品へも応用できるのではないかと、微生物や発酵を専門とする研究家などとも効果検証を重ねた。2020年には学会で発表し、特許を取得している。
五感で楽しむ、ディナー形式のファクトリーツアー
レストラン事業はコロナ禍を機に参入したそうだ。発酵を取り入れた料理に関心を持つドイツ出身シェフが東京のレストランで働くために来日したが、コロナ禍により休業となってしまい行き場を失ってしまい、ヤマモ味噌醤油醸造元で受け入れることとなったのがきっかけだった。
そこから、日本の思考に囚われない特殊酵母を用いた食の提案を始めることとなる。高橋さんはファクトリーツアーを通して発酵の可能性を感じてもらいたいと話す。
うま味成分が凝縮された「イーストリキッド」と呼ばれる酵母発酵液は調味料として料理に利用されている。漬け込み液やカクテルの隠し味にも使われるなど可能性は無限大だ。
また、酵母から6%のアルコールを生成できることから、ワインの醸造にも取り組んでいる。今後はビールや発酵茶といった新しい飲料の開発を行っていくという。
ヤマモの伝統的な製法を知れる工場見学
発酵一年以内のものは私たちが普段目にする味噌と同じ黄色で、粒々とした米の形を感じることができる。年数が経つにつれ、米の形は無くなっていき、色も黒に近づいていく。二十年味噌はインパクトのある香りとカカオのような風味を感じるため、料理のアクセントに使用することが多いのだとか。
特殊酵母を使った料理と秋田の風土を感じる食材
まずは「もろみ蔵」にて、Viamver® で醸造したフルーティーなワインとフィンガーフード「豚肉とりんご」のペアリングを楽しむ。「豚肉とりんご」は豚肉、りんご、キャンディ、パイ、チーズが重なっており、みかんとマスタードのソースで爽やかに仕上がっている。
地域の歴史や文化、風土も顧客に伝えていきたいと考えているため、料理にはできる限り、地元の食材を使用しているという。
「妙見蔵」は「cultivator」ができる前に研究室として使用されていた場所だそうだ。Viamver® にはコハク酸によるうま味を醸成する性質があるため、魚介などの出汁を取る必要が無い。秋田県産のせりの爽やかな香りが、スープを飲んだ後に程よい余韻となって口の中に広がった。
ヨーグルトとハーブをブレンドしたドレッシングでいただいた。テリーヌはあゆの肝・豆腐・ほうれんそうをブレンドしたソース。全てイーストリキッドを利用して味付けや調理がされている。サラダに使われるレタスは、秋田県にある小安峡の地熱を利用して水耕栽培されたもの。朝採りされ、根が付いたまま届くため鮮度が高い。
アートや文化を感じる2階スペース
メイン料理に入る前に、一度気分を整えるための時間だ。いただいたのは「本直し」と呼ばれる日本最古のカクテルで、ベースは焼酎のみりん割り、そこに抹茶や松の葉、二十年味噌、仕込み水を温めたものを加える。抹茶や二十年味噌で少し苦味を与えているので、口の中がすっきりしていく。
レストランに移動して、特殊酵母のフルコース
美しい庭園を眺めながらゆっくりと食事を楽しむことができた。ツアーでいただいた前菜の他、メインである魚料理・肉料理・リゾット・デザートのフルコースが提供される。
また、同じくViamver®で発酵したパンは、独特の食感が面白い。ソフトとハードの間のような新ジャンルの食感を楽しめる。
また、4種のナッツとプラリネを練りこみ、Viamver®︎ 酵母発酵液と味噌醤油のソースをマーブルにしたジェラートはお子様にも人気なのだとか。
地域の伝統と活性化のために今できること
高橋さんは味噌醤油の事業だけでなく、地域の活性化にも取り組んでいる。高橋さんは昨年度より神社の氏子総代を務めており、コロナ禍で中止していた地域の祭りを再開させる活動に携わった。少子高齢化が進む中、地域に伝統や若い人材を残していくためにも、産業と信仰の融合や地域の魅力の発信に積極的に関わっていきたいと考えている。