Vol.517

FOOD

30 JAN 2024

ココア専門店「Cocoa Shop AKAITORI」に学ぶ。ココアのイロハと楽しみ方

ココアというと、ミルクに溶かして飲むだけの手軽な飲み物、子どもの飲む甘い飲み物と思っている人も多いかもしれない。しかし、ココア専門店を訪ねそのココアを飲んでみると、大人こそ楽しむべき奥深い飲み物だということが分かった。ココアとチョコレートドリンクは何が違う? ココアの味の違いは? 美味しい作り方は? 意外に知らないことが多いココア。専門店の方に話をおうかがいし、その魅力を教えてもらった。

ココアとは?チョコレートドリンクとどう違う?

大人になってココアを飲むことは少なくなったかもしれないが、子どもの頃に飲んだ記憶がある人は多いだろう。ココアの粉を温めたミルクで溶かすと出来上がる、手軽に飲めるホットドリンク、ココア。喫茶店のメニューで見かけることもあるが、そもそもこのココアとはどんな飲み物なのかご存じだろうか。

カカオ豆の原産地の多くは南米。かつては貨幣のように扱われていた時代も
ココアの原料はカカオ豆。カカオ樹の果実の中にある種子のことだ。つまりチョコレートと同じ原料。その製造工程も途中までは一緒。カカオ豆を粉砕してカカオニブにし、それを焙煎、すりつぶすなどの工程を経てできあがるのが、どろどろとしたカカオマス。ここから油分であるココアバターを取り除き粉砕するという工程を経て作られるのがココアパウダー。一方チョコレートはカカオマスの油分は取り除かず、製造過程で生まれるココアバターや砂糖・ミルクなどを加える。その後精錬やテンパリングなどなめらかにする工程などを経て、冷やし固めて作り上げるものだ。

つまりココアはチョコレートの原料であるカカオマスから油分を取り除いてパウダー状にしたもの。製菓材料店やスーパーなどで純ココア、ピュアココアという名で販売されている。このココアパウダーに砂糖や脱脂粉乳などを加えたものが「調整ココア」「ミルクココア」と呼ばれているもので、お湯や温めたミルクに溶かすだけで手軽にココアが楽しめる。チョコレートは塊で簡単にミルクには溶けないが、ココアはパウダー状で溶けやすくドリンクにしやすいというわけだ。

今回、ココアのことを知りたいと思い訪ねたのが、大阪・中央区でココア専門店「Cocoa Shop AKAITORI」を営む、前田貴子さん。日本の有名洋菓子やベルギーの王室御用達ショコラティエVan Denderでショコラティエとして勤務した経験を持つほか、チョコレートやココアなど製菓材料の輸入卸業を営む「前田商店」の副社長でもある人物だ。

職人としての経験を活かし、さまざまなレシピや商品の開発をしている前田さん
「ココアとチョコレートの一番の違いは油脂の量です。ポリフェノールの量もチョコレートと同じで、食物繊維も多いですが油脂が少ない分チョコレートドリンクよりもヘルシーなドリンクといえます。チョコレートを溶かして作るドリンクにショコラショーがありますが、ヨーロッパではどちらもカカオを使ったドリンクとしてあまり区別なく親しまれています」

チョコレートを使ったショコラショーは、より濃厚でなめらかな味わいが楽しめるドリンク。最近ではさまざまな加工技術によりミルクに溶けやすいチョコレートも登場していて、ココアとチョコレートドリンクの違いは何?と疑問に思うこともあったが、製法自体に違いがあるのだと納得することができた。

製法は異なるが、原材料がチョコレートと同じということならば、例えばベネズエラ産、ブラジル産など産地の個性を楽しめる、いわゆるBean to Barの商品はココアではないのだろうか。そういえばココアでそんな商品を聞いたことがない。

手前がアルカリ処理をしていないココア。中央・奥がアルカリ処理をしたココアで、「Cocoa Shop AKAITORI」で使用しているのが中央のオランダ産のココア
「ココアを製造するには、大規模な工場と設備が必要で、ココアを製造できる施設は限られます。しかも味を均一にするために様々な産地のカカオマスがブレンドされ、また一般に流通しているココアパウダーのほとんどがアルカリ溶液に漬けこむという処理が行われています」。アルカリ処理をするとカカオの本来の風味は弱くなってしまうこともあり、産地ごとの特徴を楽しむという商品があまりないのだ。

前田さんの店ではオランダ産のココアパウダーを使用しているが、1つだけ、アルカリ処理をしていないココアがメニューにある。

「アルカリ処理をしていないコロンビアのカカオだけを使ったココアは、酸味や渋みなどカカオ本来の風味が楽しめ、お砂糖やミルクを使わずにコーヒーのように味わえる一杯です」

アルカリ処理をしていないコロンビア産ココアで作ったココアゼリー。和三盆糖と生クリームを添えて
そのココアは単一のコロンビア産で、飲んでみると、すっきりとしているがカカオの複雑な苦味や酸味があり、個性的な味わい。今まで飲んでいたココアとはまったく異なるドリンクといっていい。甘いドリンクというイメージがココアにはあるかもしれないが、このココアは甘味がなくてもその複雑な味をじっくり楽しめる一杯だった。前田さんは甘いココアが苦手…という人にこちらをおすすめしているそうだ。

いろいろな食材と組み合わせて。ココアのアレンジアイデア

そんなほかでは楽しめないココアがある「Cocoa Shop AKAITORI」。さらにメニューを見ると、さまざまなココアを提案しているのも特徴で、例えばココアといえばホットのイメージがあるかもしれないが、アイスココアのメニューが充実していて、オレンジジュースと合わせた「ショコラオランジュ」や炭酸水と合わせアイスクリームをのせた「ココアクリームソーダ」なども。そして季節ごとにさまざまなココアメニューが登場する。

ココアパウダーの発祥の地であるオランダ産ココアを使ったココアやチョコレートドリンクなどさまざまなメニューが並ぶ
「冬は濃厚なココアをひと匙加えたホットワインや、ピーナッツバターを加えて作ったココアにピーナッツバターを塗ったトーストを添えたココアもおすすめです」という前田さん。

ヨーロッパの冬の定番ホットドリンクに、フルーツやスパイスを漬け込んだグリューワインがある。AKAITORIのホットワインは、このグリューワインにココアをひと匙入れたもの。アルコールにもカカオにも体を温める効果があるので、ほっこりとしたいときにぴったりだ。

ピーナッツバターとココアを組み合わせた「ピーナッツバター」もありそうでなかった組み合わせ。実は「AKAITORI」は50年近く続いたお店の味を受け継いで新たにオープンしたお店で、以前の店で人気だったメニューが「ピーナッツバター」なのだそう。

ピーナッツバターと一緒にココアを作り、上にもチャンクタイプのピーナッツクリームを塗ったカリカリのトーストをのせた「ピーナッツバターのココア」
「私の祖父は50年ほど前に日本にはじめてベルギーからチョコレートを輸入し、本場の味を日本に広めようとした人物。AKAITORIは私の祖父のアドバイスで村田紀美代さんが創業した、当時としては珍しいココア専門店でした」。

土佐堀で1972年にオープンした「Cocoa Shop AKAITORI」。移転した心斎橋では隠れ家のような雰囲気と、優しい味わいのココアで多くの人に愛された。前田さん自身も子どもの頃から祖父に連れられてこの店でココアを飲んだ記憶があり、思い出深い味だった。その店が2018年に閉店してしまうこととなり、このココアが飲めなくなってしまうのはもったいない…と村田さんに話したところ、前田さんが引き継いでくれるなら譲ってもよいと店を託されたのだそう。

かつてのAKAITORIの目印だった看板。今の店でもそのまま受け継がれている
「バーディーココアなど、当時のAKAITORIのレシピそのままのメニューもあります。今でも土佐堀・心斎橋のお店を知る人がわざわざ探して訪ねてくれることも。懐かしい味、変わらない味だと言ってくれます」

前田さんが2018年12月にオープンさせた「Cocoa Shop AKAITORI」は、かつての店の味を継承するのはもちろんだが、そこに前田さんならではのセンスや美味しさを追求した素材を盛り込んで、さまざまなメニューを創作している。

アステカやマヤ帝国の発展を支えたカカオドリンクに思いを馳せた、とうもろこしのココア。仕上げに生クリームとチリパウダーをのせて
ほかにもカカオ豆のルーツである南米に、トウモロコシの粉とカカオを混ぜて作られたドリンクがあり、そこからヒントを得て創作したココアも。コーンスープとココアを組み合わせたもので、コーンの甘味やまろやかさがココアに加わり、スープの塩気が甘味を引き立てていて驚くほど違和感がない。意外な組み合わせにココアの懐の広さを感じるはずだ。

もっと美味しいココアを楽しむために。作り方のポイント

「Cocoa Shop AKAITORI」では、自宅で楽しむ用のココアパウダーやココア専用のホイッパー(押すとばねのようになっていて、底をしっかりとかき混ぜることができる)など、もっと身近にココアを楽しんでもらえるようさまざまな商品の販売もしている。こちらのココアパウダーを使えば、美味しいココアが作れそうだが、家で作るときのコツなどはあるのだろうか。

「基本はミルクを温め過ぎず、しっかり攪拌すること。たくさん作るなら、始めは少量のミルクを鍋に入れて軽く温め、ココアを『練る』という作業をすると香りがより引き立ちますが、少ない量で行う間はこげやすいので、注意が必要。そこに残りのミルクを注ぎ、常に底を擦るように攪拌して沸騰させないように加熱します」。最後に茶こしなどで濾しながらカップへ注ぐ。

ココアを淹れるのに適しているのはホーロー鍋。しっかり攪拌するのがコツ
「Cocoa Shop AKAITORI」では仕上げになめらかに泡立てた生クリームをのせる。この生クリームもココアの味わいを引き立てる大切な素材。店では生クリームとココアの境目を感じさせないよう、北海道のノンホモミルクで作った生クリームを絶妙な固さに泡立ててのせる。甘さもごくごく控えめに。ミルクの豊かな風味がココアと一緒になめらかに口の中に入り、よりまろやかで深い味に仕上げてくれるのだ。これを真似することはなかなか難しいが、せめてホイップクリームではなく、生クリームを少し緩めに泡立ててのせてみてほしい。

アイスココアをオレンジジュースで割った「ショコラオランジュ」。直前にオレンジの皮を削って香りをプラスする
そして「Cocoa Shop AKAITORI」でおすすめなのが実はアイスココアなのだそう。店ではまずホットココアを淹れる要領でココアを作り、それを一晩寝かせてからアイスココアとして提供している。寝かせること=エイジングさせることで、ココアの香りやコクが増し、まろやかになるのだそう。これなら自分でも試せそうだ。さらに店では氷も同じココアで作ったココアの氷を使っており、薄くならず最後まで美味しく楽しめる工夫がされている。

カカオを気軽に楽しめるココアを、もっと身近に

ココアはチョコレートよりも、油脂が少なくヘルシー。その分あっさりとしているが、他の食材と組み合わせることで味わい深いドリンクにすることができる。チョコレートは濃厚でカカオの個性が楽しめるが、ドリンクとして楽しむには少し手間がかかる。それぞれ使い分けて、その時その時の気分や好みに応じて選んで楽しんでみてほしいと前田さんはいう。

「Cocoa Shop AKAITORI」で販売しているココア専用のホイッパー
最近ではホットチョコレート用に溶けやすいフレークタイプのチョコレートを見かけるようになったので、ココアとチョコレートドリンクの差がわかりにくくなってきているが、ココアは油脂が少ないということを知っておけば、チョコレートドリンクを飲みたいけれど、体に気を使いたいというときはココアにするなどの選択ができる。

味わいを引き立たせる作り方や、他の食材との組み合わせで、チョコレートに負けない奥深いドリンクになるココア。前田さんの店でそれを驚きとともに知ることができた。まずは鍋で牛乳を温めて。ひと手間かけてココアを作ってみてほしい。

Cocoa Shop AKAITORI

https://www.akai-tori.jp/

大阪府大阪市中央区谷町6丁目4−8 新空堀ビル 1F

営業時間
【平 日】13:30~18:30(18:15 LO)
【土日祝】11:30~18:30(18:15 LO)

定休日: 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日の火曜日が休)

ココアパウダー、ココアホイッパーなどが購入できる公式ショッピングサイト
https://lecker-lecker.jp/