Vol.499

FOOD

28 NOV 2023

食も酒も進む。日本の発酵食の魅力を発信する「発酵デパートメント」の至福の熟成マリアージュを体験

世界の高級食材やナチュラルフードなど、さまざまなコンセプトの「食のセレクトショップ」が近年増えていて、未知の食材と出会えるのでわくわくするが、今回注目したのは、発酵をテーマにしたという店。味噌や醤油はもちろん、日本酒やビール、ノンアルコールの発酵ドリンクなど全国から集めた発酵食品がずらりと並び、ドリンクは角打ち風にその場でおつまみと一緒に楽しむこともできる。店のおすすめの酒とそれによく合うおつまみの組み合わせを教えてもらったが、こんな生産者がいるのか…と驚かされるものばかり。日本の食の奥深さを知ることができた。

600以上の商品が集結。発酵の面白さを発信する「発酵デパートメント」

下北沢駅から徒歩5分ほどの場所にある「発酵デパートメント」
小田急線「下北沢駅」〜「世田谷代田駅」の線路跡地を再開発して生まれた「BONUS TRACK」。飲食店や物販店が回遊できるように立ち並んでいて、新しい街並みを作り出している場所だ。この一角に店を構える「発酵デパートメント」は、ずばり“発酵”をテーマにしたセレクトショップ。オーナーは発酵にまつわる数々の著作もある、小倉ヒラクさん。“発酵デザイナー”として、全国の酒・味噌・醤油といった発酵食品の醸造家とさまざまなプロジェクトを立ち上げ、商品を開発しているという。

店内にはそんな小倉さんが開発にかかわった発酵デパートメントでしか買えないオリジナルの商品のほか、日本全国を訪ね、直接製造現場をみたり、食べたりして集めたという商品が並んでいる。その数は600種類以上あり、醤油、味噌、みりんといった調味料はもちろん、日本酒、クラフトビール、コンブチャなどのドリンク類、パン、チーズなど種類も多岐にわたる。

著者の地元、愛知の三河みりんも。自分の地元の商品があると、嬉しいし、なぜ注目したのだろうと改めてその商品を見直すきっかけになる
小倉さんが選ぶのは、麹菌や乳酸菌など微生物と向き合い、その営みを最大限に活かした個性溢れる作り手の商品。味噌や醤油など伝統的な製法を守る造り手はもちろん、イノヴェーティブな発酵食品造りにチャレンジしている生産者のアイテムも数多い。面白いことをしている人から、こっちにもこんな人がいるよと自然と人との繋がりができていくようだ。一部の商品は試食もできるので、気になるものがあればぜひ店の人に声をかけてみてほしい。どの商品も人工的には作り出せない、発酵ならではの力を感じられるだろう。

オーナーの小倉ヒラクさん。イベントやラジオなども積極的に行い、発酵の魅力を発信している
さらに店にはイートインスペースもあり、冷蔵庫にずらりと並ぶ日本酒やクラフトビール、ワインを選び、角打ちスタイルで飲むことも可能。おつまみはもちろん、鮎のなれずしを使ったポテトフライや青森県の郷土食「ごど」など、発酵食を使ったもの。ちなみに「ごど」とは青森県十和田地方に伝わる発酵食品で、小倉さんいわく「納豆に麹を混ぜてさらに乳酸発酵させた、納豆×麹×乳酸発酵という、ラーメンのトッピング全部盛り状態の複合発酵納豆」とのこと。これだけ聞くとクセの強いようにも思うが、食べてみると酸味と旨みが効いていてとても食べやすい。

ごどを使ったオリジナルメニュー「ごど丼」。コンブチャと一緒に
ランチタイムにはこの「ごど」を店で再現して作り上げた「ごど丼」も。鶏肉や野菜、温泉卵と一緒にご飯と混ぜて食べると、さらに食べやすく、「ごど」の酸味がいいアクセントになって食欲をそそる。ほかにもたまり醤油や発酵食品と混ぜて楽しむ「米麺(ミーセン)」など、発酵食を幅広い世代が気軽に楽しめるようにと創作&アレンジしたメニューが並んでいて、これなら発酵食に慣れ親しんでいない人でも試しやすいと感じた。そして店で販売している商品の食べ方、楽しみ方の参考にもなるだろう。

おすすめの酒と一緒に合わせたい、発酵おつまみの組み合わせ

日本酒やクラフト酒、クラフトビールなど、レアな商品がずらりと並ぶ
イートインスペースでは日本酒やワイン、焼酎など、どれも一般的な酒屋やワインショップでは見かけない、レアなアイテムや個性的な作り手のものが並ぶ。どれを選んでいいか悩むのは必至…ということで、その魅力や味わいを知るために、絶妙だと思うマリアージュ(お酒の食の組み合わせ)を教えてもらうことにした。

セレクト1 「マルサン葡萄酒 土と種の味がするぶどう酒」×「上澤梅太郎商店 らっきょうのたまり漬け」

「土と種の味がするぶどう酒」は毎年製造していて、ヴィンテージの違いも楽しめる
店の商品の中でも特に多いと感じたのが山梨県の食材。海がなく、山々に囲まれた土地だからこそ育まれた山梨特有の発酵食や魅力的な作り手の商品が揃う。そんな山梨の作り手とコラボして生まれたのが「土と種の味がするぶどう酒」だ。

300年以上の歴史があるという山梨の葡萄酒。「土と種の味がするぶどう酒」は、そんな山梨の昔ながらの葡萄酒造りの製法を再現しているメーカー「マルサン葡萄酒」と作り上げた商品で、ワインではなく葡萄酒と名乗るところにも、その思いを感じる。通常山梨で作られている「甲州ワイン」は果実を優しく絞り、種や皮のえぐみや苦味が入らないようにする。しかし「マルサン葡萄酒」では皮も種も丸ごとぎゅっと絞る。そこに甲州ワインらしい果実味溢れる葡萄酒をブレンドして仕上げたのがこの商品だ。

今の時代に合ったものにアップデートさせて、新しいものを作る。そんな思いがメーカーの思いとも共有でき完成した「らっきょうのたまり漬」
これに合わせるのは栃木のメーカー「上澤梅太郎商店」とコラボして完成した「らっきょうのたまり漬け」。こちらはもともと日光味噌を作る蔵で土産品として人気だったという商品。土産物なので、日持ちするようにと作られていたが、今の時代にあった商品を作りたい…という作り手の思いと発酵デパートメントのコンセプトが重なり、らっきょうの味わいが生きた、その名の通り、食卓の主役をはれるコラボ商品ができあがった。添加物などを一切使用せず、素材もなるべくシンプルにしたことで驚くほどフルーティならっきょう漬けになっているという。この果実味溢れる漬物に、タンニンもまろやかな「土と種の味がするぶどう酒」を合わせると、酸味や甘味、旨みが重なり合い、絶妙な組み合わせになるのだ。

セレクト2「土田酒造 菌の見える木桶酒」×「稲とアガベ 発酵マヨ」

木桶酒ならではの濃い色合いが特徴的
次に紹介するのは、酒を仕込む工程でおこる微生物の変移をグラフで見ることができるというサイエンティスティックな日本酒と酒粕を使った植物性マヨネーズという組み合わせ。「土田酒造」と発酵デパートメントがコラボして作り上げた「菌の見える木桶酒」は、QRコードを読み込むとこの商品の菌の情報がみられるようになっているという斬新な一本。

米・米麹・水・菌のみの材料で、その他の添加物を一切使用せず、全量生酛(きもと)だけで日本酒造りをしている「土田酒造」。酒米ではなく群馬県産の食用米を、できるだけ削らずに造るという、これも近年続いてきた日本酒造りとは異なる珍しい方法だ。

この酒は旨み、甘味、酸味、どれも非常に豊かだがバランスがとれていて、木桶由来のスモーキーな風味がポテトサラダによく合うと小倉さんと製造元が試飲して太鼓判を押している。ということで、発酵デパートメントで取り扱っているマヨネーズでポテトサラダを作るなら…と紹介いただいたのが、秋田の酒蔵「稲とアガベ」が作る「発酵マヨ」という商品。

「発酵マヨ」はほかに、からし、トリュフなどのフレーバーがあるのでそちらで作っても美味しそう
「稲とアガベ」は、秋田・男鹿で田んぼから醸造まで一切添加物を使用せず酒造りをしている蔵。酒造りで生まれる酒粕を再利用できないかと、酒粕を主原料にした植物性のマヨネーズを作り上げた。食べてみると植物性とは思えないほどまろやかさやコクがあり、「菌の見える木桶酒」の木桶造りならではの熟成感のあるひねた風味ともよく合う。

普通のポテサラでももちろんいいが、さらに深みが増した奥深い組み合わせになると感じた。単純に酒粕が原料というだけで、お酒と合わせやすいのは想像がつくが、さらに自然の力だけで作られたものならではの、ふくよかで滋味深い味わいが相似し違和感がない。ポテサラに使うのはもちろんだが、蒸かしたじゃがいもに、そのままぽってりとのせるだけも、充分に酒のアテになる品になると感じた。

セレクト3「FAR EAST BREWING Sleeping Dragon」×「五味醤油 甲州やまごみそ」

同じ山梨県の、そして同じ味噌を使ったもの同士の組み合わせ
山梨のブルワリー「FAR EAST BREWING」のビールは発酵デパートメントオープン当初から置いている定番商品。山梨というテロワールを大切に、実験的なスタイルを取り入れたビールをリリースしていて、なかでも「Sleeping Dragon」は醸造過程で地元の「甲州やまごみそ」を加えたという斬新なビール。ドイツにゴーゼという塩を入れて醸造させる爽やかなビールがあるが、その塩を味噌に置き換え作り上げた。味噌により発酵が促進されていて、ドライな仕上がりが特徴だ。

これに合わせるのは、醸造に使われた五味醤油の「甲州やまごみそ」を使った料理を。山梨に古くから伝わる甲州味噌は、米と麦、両方の麹をミックスして仕込む、全国的にも珍しいスタイル。その伝統製法を守る五味醤油が作る「甲州やまごみそ」は今も代々受け継ぐ木桶を使って味噌を仕込んでいるそう。発酵デパートメントにはこの「甲州やまごみそ」を使ったかりんとうもあり、甘じょっぱさの奥に味噌の風味が生きた素朴なお菓子。同じ原料をルーツとするもの同士、合わないはずがない。

セレクト4「ORYZAE BREWING ジャパニーズホワイトNO.9」×「阪東食品&川添フルーツ BAKASCO」

それぞれ相似する酸味を持っているので、そこから発想した組み合わせ
和歌山県にある「ORYZAE BREWING」はビールで通常使う麦芽を一切使用せず、米麹・麦麹を使ってビールを造っている、とても珍しいブルワリー。造り酒屋や味噌・甘酒のメーカーに務めた経験を持つ木下さんが、日本の醸造技術をベースにビール造りに取り組んでいる。なかでも「ジャパニーズホワイトNO.9」は米麹や米のほか日本酒の酵母を使い瓶内発酵させたというビール。ボディがしっかりしていて、日本酒やスパークリングワインを思わせる爽やかな酸味。和食、特に魚料理などに合うという。

そんな独創的な日本ならではのビールに合わせるのは、海をはさんで対岸にある徳島県のメーカーが作る、柚子を使ったペッパーソース「BAKASCO」。柚子、柿酢、唐辛子などすべて徳島県産の食材を使った、日本ならではの“タバスコ”だ。添加物も一切入っておらず、素材の味わいで勝負する。タバスコのようにいろいろな料理に使えるが、さっぱりとした軽やかな酸味とほどよい辛味があり、「ジャパニーズホワイトNO.9」と合わせるならば、魚フライなど揚げ物にかけるのがいい。

そして白身魚の切り身にオリーブオイルと塩、そしてこの「BAKASCO」を振りかけて作ったカルパッチョも抜群とのこと。素材の旨みが引き立つ一品になる。米や麹由来の酸味と柚子や柿酢の酸味はどちらもさっぱりと爽やか。日本伝統の食材同士が心地よく寄り添う。

隠れた逸品や面白いことをしている造り手と出会える場所

オリジナル商品が数多くあり、どれも手に取りやすいデザイン。HPなどで使い方や楽しみ方も提案している
今回教えてもらった組み合わせは、同じ素材を使っている、同じ土地で作られているなど、どこか繋がりがあるものばかり。そのルーツを知って組み合わせることで、濃厚で複雑なマリアージュができあがった。どれも植物や微生物が生み出した自然な味わいで、この酸味はどんな菌が、どんな食材が由来なのか…と、それぞれを味わいながらその奥にあるルーツ・原料に思いを巡らせることができ、感覚が研ぎ澄まされるようだった。

今回紹介した商品からわかるように、発酵デパートメントの商品は、発酵をしっかりと感じられる品ばかり。だからといってくせが強いわけではなく、ひとつの食品として、味わい深く、じっくりと楽しめ、発酵という作用の奥深さに気づくことができた。

店内は、小倉さんたちが「面白いことをしている!」と感じた醸造家やメーカーの商品でいっぱい
店に置かれているのは、ほとんどが小規模な造り手ばかり。発酵食を単純に美味しいから、健康によいからということでいただくのはもちろん、イノヴェーティブなモノづくりするメーカーを応援する意味でいただくでもいい。そして、そのふくよかな味わいから、いろいろな料理と合わせたくなるものばかりなので、きっと食欲はもちろん、料理を作りたいと思わせてくれたりと、さまざまな刺激を与えてくれるだろう。

さらに発酵食がどんなふうに作られていくのか知りたいという探求心も湧いてきて…と、その沼にはまってしまうかもしれない。いいことづくしの発酵食を気軽に楽しめ、そしてディープな発酵沼にも連れて行ってくれる。そんな発酵食の奥深い世界の入口となってくれる店「発酵デパートメント」にぜひ足を運んでみてほしい。

発酵デパートメント

東京都世田谷区代田2-36-15
営業時間:物販 11:00~18:30 / 飲食 11:00~16:00(L.O. 14:00)
定休日:不定休 ※HPまたはSNSで確認ください

https://hakko-department.com/