Vol.440

FOOD

05 MAY 2023

雪景色のように美しい麺を生む「稲庭うどん小川」を訪れて

日本のソウルフードとして海外でも定着しつつある「うどん」。うどんの名産地として、多くの人が最初に思い浮かべるのは、香川県の讃岐うどんだろうか。その讃岐うどんと並んで「日本三大うどん」と称される秋田県の稲庭うどんが私の住む東北にある。関東に住む友人に聞いてみても「初めて知った」と言われることも多く、「こんなにおいしいものを知らないなんて......」と、やるせない気持ちになることも。ひとりでも多くの人に、稲庭うどんの世界を覗いてほしい。そんな思いでいっぱいだ。

秋田県の豊かな自然が生んだ、白く美しいうどん

稲庭うどん小川。豊かな自然の中に工場と事務所を構えている
稲庭うどんは、秋田県湯沢市の稲庭地区で作られている。職人たちが伝統的な手延べ製法で作り上げる平たい麺は、つるっとしたのどごしで、乾麺とは思えない美味しさがある。常温で長期保存ができるため、秋田のお土産としても人気が高い。特に夏の暑い時期につるつるっといただく稲庭うどんが最高のごちそうだ。

小川の稲庭うどん。夏の冷やしうどんは格別
先に書いたとおり、稲庭うどんは讃岐うどんほど知られていない。そんな私も「稲庭うどん小川」に出会うまで、稲庭うどんについて深くは考えたことがなかった。製法やパッケージなども気にしたことがなく、どの商品も同じように見えていた。しかし、小川の工場を見学させていただいたことで、すっかり稲庭うどんのファンになってしまった。

「稲庭うどん小川」がある秋田県湯沢市。訪れたときは、山々も白く美しい雪景色だった
四季折々の美しい景色に囲まれている稲庭地区。冬は背の高さほどの雪が積もり、春になると雪解けとともに栗駒山系の秋田杉美林から豊富な水が生み出される。稲庭うどんの原料は小麦・塩・水のみ。これだけシンプルなのに繊細で上品な味を実現できるのは、稲庭のきれいな水と小川のこだわりの製法があるからに他ならない。

稲庭うどんを乾燥する様子、白く真っ直ぐな麺が幻想的
小川の白く真っ直ぐな稲庭うどんは、秋田の雪景色のように美しく、幻想的だ。季節、気温、湿度、天気などによって品質にバラつきが出やすいことから、徹底した熟成管理を行い、毎日、朝昼晩に麺の状態を確認し「寝かせ方」を細かく調整している。

寝息を立てて生まれる美しい気泡を、手延べて丁寧に仕上げる

「美泡が生まれて、コシが生まれる」というキャッチコピーのとおり、小川の稲庭うどんの断面を見ると、複数の気泡がある。およそ四日間の製造期間に、五段の熟成を行うことで、麺の中に微かな気泡が作られていくのだ。

麺の断面をよく見ると、複数の気泡が生じているのがわかる
最適な環境で気持ちよく寝ている小麦粉が、すやすやと寝息を立てているのだろうか。美しい気泡があることで茹で上がりが早くなり、稲庭うどんの特徴である「つるっとしたのど通りの良さ」が生まれる。

均等な厚さに調整しながら、人の手で丁寧に生地を延ばしていく

乾燥後の麺も人の手で丁寧に取り外していく
工場に入ると、リズム良く、あうんの呼吸で連携しながら、黙々とうどんづくりに励む職人の姿があった。専務の小川選子さんは「弊社の社員は真面目で、真摯に稲庭うどんと向き合っています。機械作業で効率化を図る会社が多いなか、こうして手間をかける会社は少なくなりました。」と話してくれた。油を使わず手延べで仕上げる工程では、機械には真似できない職人の技が光る。

手さばきの良さと集中力に驚くばかり
最後は一本一本、厚さや太さを人の手と目で丁寧に確認しながら選別し、袋詰めをする。稲庭うどんは秋田藩主 佐竹侯が贈答品としても利用していたという歴史がある。こうして手間を極めた稲庭うどんだからこそ、長年、大切な人への贈答用として愛されてきたのだと感じた。

一つ一つ丁寧に袋詰めをしていく

伝統を守りながら、現代のライフスタイルに寄り添う食を提案

左:代表取締役社長 小川博和さん、右:専務 小川選子さん
創業者である小川信夫さんが稲庭うどん作りを始めたのは1982年。約350年の歴史を誇る稲庭うどん界では後発になる。だからこそ、常に研究を重ね革新的な製法を生み出すことにこだわっていた。先代の意思を引き継ぎ、現在も伝統的製法を守りながら革新を続けている。

例えば、パッケージ。社内でワークショップを重ね、2年の歳月を経て新パッケージが誕生した。

麺を乾燥させる様子を模した「小川」の文字が印象的、カラフルな色もきれい
うどんのパッケージといえば、以前は筆文字で「稲庭饂飩(うどん)」と書かれている商品が多く、選ぶ楽しみがなかった。新パッケージでは、気泡を表した光沢感のある幾何学模様が洗練された雰囲気を演出し、一つ一つハンコのようなアイコンで表現された製法が稲庭うどんの知識を深めてくれる。味わう楽しみに加えて、見る楽しみ、読む楽しみ、選ぶ楽しみが増えた。

気泡を表した模様。光沢感のあるプリントによって洗練された雰囲気になっている
さらに、稲庭うどんをよりおいしく味わえる「無添加つゆ」の開発に取り組んだ。2022年には海外向けに「ビーガンつゆ」も開発。健康や美容のためにライフスタイルにビーガンを取り入れる人も増えており、ヨーロッパを中心に、うどんとビーガンつゆのニーズが高まっているという。

だしにこだわったつゆは麺の味を引き立ててくれる
私の周りでも体調の変化や病気の経験から、ビーガンなどのライフスタイルを取り入れ、食について考える人が増えた。今後、日本でもビーガンをはじめ、食の多様性は広がっていくだろう。消費者のニーズの変化にどう応えていくのか、小川の挑戦はこれからも続く。

秋田の風土や職人の技を感じる稲庭うどんで食卓を彩る

秋田を後にして自宅に戻り、さっそく稲庭うどんを食べてみることにした。秋田で採れた山菜と一緒にいただいた。ゆで時間は3分と短いので、先に具を切って準備をしておくのがおすすめだ。

冷たい麺をめんつゆで、季節の山菜と一緒にいただく
稲庭うどん専用に開発したという無添加のつゆでいただいた。薬味を加えて新しい味を何度も楽しむ。うどんとたらの芽の天ぷらのほろ苦さの相性も抜群。

塩味のスープとレモンで爽やかな風味の稲庭うどん
次の日は、レモンと一緒にいただいた。シンプルな食材だからこそ、具やスープをアレンジして楽しめるのが稲庭うどんの良いところ。

今回つくったうどんは、どちらも野菜を中心としたビーガンメニューを意識した。私自身、胃が弱くて食が細いので、こんな風にさっぱりとおいしくいただける稲庭うどんは重宝している。

秋田の雪景色のように美しい麺を生む「稲庭うどん小川」。

自然との調和や稲庭の伝統を重んじながら、食を探求し続ける不易流行の姿勢に、職人たちの熱い信念を感じた。

秋田の自然や職人の丁寧な技に心を馳せながら、ぜひ稲庭うどんを味わってみてほしい。

株式会社 稲庭うどん小川

〒012-0107 秋田県湯沢市稲庭町字大森沢144
https://ogawaudon.com/
https://shop.ogawaudon.com/