健康にもよく、リラックスやリフレッシュ、精神統一をもたらしてくれる抹茶。抹茶は飲んでみたいが、茶道具をそろえても、たまにしか使わない…今の生活スタイルやインテリアになじまない…という心配がよぎる。そんな私が思わず見惚れて、購入してみたのが、抹茶オロジストというUK発のブランド。スタイリッシュな道具は特別なおもてなしはもちろんだが、やぼったくないので現代の暮らしにも寄り添ってくれる。今回はデザインの美しさ、モダンさを兼ね備えた商品を実際に手にして感じたことを紹介。抹茶ラテなど、抹茶を使ったドリンクは当たり前になってきたが、自分で茶道具を用意することで、もうワンランク上の楽しみ方を。淹れ立ての美味しさと香りを味わい、点てるという行為自体も楽しんでみてほしい。
UK発のブランド「抹茶オロジスト」とは
抹茶ラテや抹茶ケーキなど、抹茶は甘いものと相性がよいことから、さまざまな抹茶スイーツやドリンクが人気を集めていることはご存じの通り。海外でも“matcha”として洋菓子やチョコレートなどに用いられていて、世界で通じる言葉になりつつある。そんな抹茶を本来の楽しみ方に原点回帰しながら、現代の生活スタイルにあったスタイルで楽しめるようにと生み出されたのが今回紹介する「抹茶オロジスト」。イギリス人の元銀行マンが日本で茶道文化と出会ったことをきっかけに誕生した、オリジナルの茶道具と抹茶をプロデュースするブランドだ。
ブランドを設立した人物は、日本で抹茶と出会いその歴史、文化に感銘を受け、日本の抹茶産業にしばらく従事していた経歴を持つ。そこで京都・宇治の日本人の生産者や茶師達と出会ったことがブランド発祥へと繋がっていく。京都宇治で出会った素晴らしいお茶を作る、素晴らしい技術をもった職人達。彼らの高齢化や職人の減少を鑑みると、将来的に素晴らしい技術やお茶がなくなってしまうかもしれないと危機感を覚え、ブランドを立ち上げることを決意したという。
抹茶の素晴らしさを後世に伝え、また広く一般の方々からの需要を増やすために、欧米で販売をスタートさせた「抹茶オロジスト」。そしてそれが逆輸入のような形で2018年より日本での販売もスタートする。この日本での販売を推し進めてきたのが、「抹茶オロジスト」の日本法人の代表である山崎さんだ。日本で抹茶が日常に普及していない現状や海外で抹茶が注目されていることを知り、茶道や抹茶を再発見できるブランドとして広く日本人にも知ってほしいと、日本法人立ち上げにかかわることに。
「日本での立ち上げについて、ブランド創業者の本人から聞いた時、日本の伝統技術を継承していくことを海外の方に任せるのではなく、日本人である私たちがやるべきではないかと強く思いました。日本人の方にこそ抹茶の素晴らしさ、抹茶のある暮らしの豊さを感じてもらいたいです」という山崎さん。
公式サイトではさまざまなジャンルのアーティストにインタビューするメディアを立ち上げるなど、抹茶というクラシカルな存在をアップデートさせるべく、クリエイティブなブランディングを展開。オンラインショップで販売するほか、直接体験することができるワークショップを実施するなど、日本での展開が本格的にスタートしている。
抹茶オロジストの3種類の抹茶と道具について
「抹茶オロジスト」で現在販売している抹茶は3種類。どれも京都・宇治で栽培した手摘みした茶葉から作り上げたものだ。新芽を摘んだ後すぐに高温で乾燥させて碾茶を作り上げ、石臼で引くと抹茶ができあがるが、さらに香りや風味を引き立たせるために、職人の技で絶妙に火入れをするというひと手間をかけているのが特徴。これにより香りやうま味のある抹茶ができあがるという。3種類の味の違いは専属の抹茶ソムリエによるもの。初めての人、海外の人にも飲みやすいようにとブレンドされたものだ。
オリジナルの茶杓や茶筅といった道具も本物の竹を使い、職人が作り上げたもの。茶筅は通常よりも柄の部分を長く、先端をコンパクトにして、口径の狭いMatchaeologistのグラスや、マグカップのような深い器でも使えるようにアレンジしている。使ってみると日常になじむようにデザインされていることを感じた。自然素材である竹製品は使うほどに味が出てくるだろう。
手ふきグラスのカップは2重ガラスになっていて、柔らかな曲線で包まれている。茶器を鑑賞することは茶道でも重要な事柄。抹茶の美しい緑を眺めることができ、手に持つとすっぽりと掌に収まり、ガラスだが不思議なぬくもりがある。さらに飲み口が内側にカーブしているので、ワインのようにスワリングして香りを立たせることも。器と共にお茶を楽しむ茶道の心と機能性を兼ね備えたデザインを感じた。
抹茶オロジストでお点前「Matsu」
抹茶オロジストの道具や抹茶の特徴がわかったところで、実際に抹茶を飲んでみる。3つの抹茶で味わいが異なるので、それぞれにおすすめの点て方や楽しみ方を案内していく。
まずは、うま味甘味などのバランスと複雑な味わいが表現された抹茶「Matsu」について。その前に、抹茶の飲み方ついて説明すると、本来茶道では薄茶と濃茶という2種類の飲み方があり、それぞれまったく点て方が異なる。茶筅で点てるのが薄茶で、抹茶というと、この薄茶をイメージする人が多いだろう。対して濃茶はより多くの抹茶と少ない湯で練り上げていくように入れるもので、茶道では上級の飲み方であり、高級な抹茶でしかできない飲み方とされている。
濃茶は実際にはなかなかハードルの高い飲み方だが、もし楽しむなら「Matsu」が最適だろう。苦みよりもうま味や甘味を感じるふくよかな味わいなので、Matsuならば濃茶にしても比較的飲みやすく感じるかもしれない。公式サイトでは濃茶のように練り上げてから、湯を足して飲みやすくした作り方が案内されていて、これを抹茶エスプレッソとして紹介している。この抹茶エスプレッソに氷を入れれば、リフレッシュしたいひととき、気合を入れたいときに、目覚めの一杯ともなりそうだ。Matsuは複雑な味わいなので、なるべく何も混ぜたりせずにシンプルに。抹茶そのものの味わいを楽しめる点て方で楽しんでみてほしい。
日常で楽しみたいならば、やはり薄茶の淹れ方がおすすめだ。流派によってさまざまなお点前があるのでここではポイントだけを簡単に薄茶の点て方を簡単に紹介する。まずは湯で茶碗と茶筅を温め湯通しする。これで茶筅が柔らかくなり点てやすくなる。湯60ccに抹茶は小さじ1杯程度。茶こしで濾して茶碗に入れると泡立ちがよくなり、ダマになりにくい。それが口当たりやおいしさに影響するので、ぜひひと手間を。70度ほどの湯を注いだら、茶筅で一定方向に素早く動かし、細かい泡が全体に広がったらできあがりだ。
抹茶オロジストでお点前「Meiko」
Meikoは3つの中では一番バランスのとれた味わいといっていいだろう。先に紹介した薄茶で楽しむのはもちろん、もっと手軽に水出しで楽しんでみても。
抹茶オロジストの山崎さんによると水出しとは、冷水を使って薄茶のように点て、氷を入れるという楽しみ方。「よりマイルドで美味しく、簡単なのでお勧めです。お水で点てて氷の入ったグラスに注いでいただくか、タンブラーに抹茶とお水を入れてシャカシャカ振るだけでも美味しいです」とのこと。湯の温度が高いと苦みが出やすいので、水出しであれば温度を気にせず気軽に美味しくできるだろう。
抹茶オロジストでお点前「Midori」
Midoriはほかの食材、特に甘味のある食材と組み合わせることで美味しくなるようにとブレンドされた抹茶。抹茶ラテや製菓用の抹茶だ。抹茶ラテのレシピとして山崎さんが教えてくれたのが、小さじ1の茶葉を40cc の水で点て、グラスにメープルかアガベシロップを少し入れミルクを注いで溶かし、そこに点てた抹茶を注いだ、抹茶ラテ。
またその苦みが甘いものと相性が良いので、パンケーキやパウンドケーキ、クッキーなどの生地に合わせて抹茶スイーツを作ってみてもいい。製菓で使うときはそのまま抹茶を粉と一緒に入れてもいいが、生地を作った最後に湯で練って濃茶にしてから入れると合わせやすく香りも豊か。この濃茶は、抹茶ソースとしてお菓子やデザートにかけて仕上げても。ジンと合わせて抹茶ジントニックにしたりと、カクテルにしても合うだろう。ドレッシングのソースに濃茶を加えれば苦みとうま味と、美しい色合いで特別なサラダになる。
そして私の大好物であるチーズも抹茶と相性がいい。カマンベールチーズのようなとろりとしていてうま味や塩気のあるチーズと薄茶を一緒に楽しんでみたが、旨味や苦みで味わいがさらにふくらむように感じられた。抹茶も茶の木の育った風土が味の違いを生み出すという。ワインと同じようにチーズや食事と合わせて楽しめば、新しいマリアージュが発見できそうだ。
テンションの上がる道具と五感を刺激する抹茶で、茶の湯を日常に
抹茶の点て方や楽しみ方の作法があるのはもちろん知っている。しかし自宅でもっと気軽に、本物の味を楽しんでみたい…というときに「抹茶オロジスト」は恰好のアイテムだった。食後のリラックスタイムやリモートワークの合間に。日本伝統の味わいで心を整え、リフレッシュすることができた。そしていろいろな抹茶を飲み比べたり、飲み方を変えて楽しむことで、茶の味わいが奥深いことを知ることに。
日本人が受け継いできた、おもてなしの精神のルーツである、茶道。それを忘れないため、文化として残していくために。「抹茶オロジスト」はイギリスで生み出されたプロダクトだが、日本人こそ、このプロダクトをきっかけに自国の文化をさらに深く知ってほしいと思った。
抹茶オロジスト
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。