Vol.371

FOOD

06 SEP 2022

毎日の食事にワクワクを。ロスフルーツを積極利用する「nin」

2021年に登場した「nin(ニン)」は、フルーツバターやドレッシング、シロップ、カレーペーストなど、素材そのものの個性を活かしながら、添加物を一切使わずにつくった保存食品を提供するブランドだ。「美しくて、おいしい」にこだわってつくったというこれらの商品は、「見栄えが悪い」という理由で廃棄されるはずだったフルーツが積極的に使用され、食品ロス問題にも踏み込んでいる。ブランド立ち上げと商品開発を手掛けるのは、クリエイティブプロダクションTETOTETO。多岐にわたって食の新ブランドを生み出してきた食のクリエイティブディレクターであり料理人の井上豪希さんに、ロスフルーツを使おうと思ったきっかけや開発秘話、おすすめの食べ方などを教えてもらった。

生産者・製造者・消費者三方良し。ブランド「nin」はなぜ生まれたのか

「nin」では、フルーツバターやドレッシング、シロップ、カレーなどさまざまなアイテムを展開している
TETOTETOは、食を中心に暮らしの感度を高めるプロダクトをつくる、ブランディングプロダクションだ。食のクリエイティブディレクター井上豪希さんとライフスタイルデザイナー井上桃子さんの2人によって、商品やレシピ開発、店舗開発を行い、数々の新ブランドの立ち上げを行なってきた。今回話を聞く豪希さんは、オリジナリティあふれるメニュー開発を得意とする料理人であると同時に、プロデューサーとしても活躍。“ワクワクするかどうか”を起点に、プロジェクトに関わる全ての人が誇れるものづくりを行い、これまで和菓子やクラフトコーラ、アイスクリームなど、30ブランドを世に生み出してきた人物だ。

長野のりんご農園
そんなTETOTETOは、農家や農園など全国各地の生産者と繋がりを持ち、実際に生産者の元へ足を運ぶことでアイデアを生み出してきた。そして2019年、豪希さんが長野県のとあるりんご農園の元へ訪れ、生産者と話していた時、「見た目が悪いりんごは廃棄されてしまう。千曲川が氾濫した時も、大量のりんごが水没して売り物にならなくなってしまった」という困りごとを知ったという。

古くなってシワシワになったりんご
以前より味がいいのに見た目が悪いりんごや古くなったりんごを使い、フルーツバターづくりを個人的に楽しんでいた豪希さんは、すぐさまそのりんごを保存食に変え世に出すことを思い付く。その後さらに生産者めぐりを続けていると、その悩みはりんご農園だけの話ではないことに気づいたという。

「さまざまな生産者のところへ訪れるたびに『せっかく作っても、たくさんの食品が廃棄されてしまう』という話を聞いて。生産者にかかる負担をなんとかしたいと思いました」と豪希さんは当時を振り返る。そしてTETOTETOが商品づくりに携わり、ブランドとして付加価値をつけることで、ただおいしいだけでは終わらない、環境負荷が低く生産者へのリスペクトを体現したものづくりができるのではないかと考えたそうだ。

こうして生産者・製造者・消費者、すべての立ち位置の人にとって“おいしい”ブランドninが誕生した。

nin「りんごバター」2個 3,300円
ninを代表する商品「りんごバター」は、パンにたっぷり塗って食べるのがおすすめのスプレッド。りんごの程よい酸味と甘さ、クリーミーな舌触りがクセになると話題になった。

りんごバターの進化系「カカオりんごバター」も登場。その味は?

「カカオりんごバター」1,700円
「りんごバター」のほかにも、「洋梨バター」「苺バター」「葡萄バター」など、数量限定でフルーツバターを展開してきたninでは、どの商品も添加物を一切使わず、惜しみなく手間ひまかけて食材のおいしさと美しさを引き出しているという。

そして今回注目したのが、「カカオりんごバター」だ。鹿児島県のkiitosというビーン・トゥ・バーのチョコレートブランドとコラボレーションして生まれたという。

「kiitosさんは、海が見える廃小学校に製造工房を持ち、カカオ豆から一枚一枚板チョコレートをつくっているブランドです。その工程で、カカオ豆を焙煎してできたカカオニブ(カカオの外皮と胚芽を取り除き、胚乳だけにしたもの)をピッキングするのですが、弾かれたカカオニブは、食べられるにも関わらず廃棄されてしまいます。しかもこのカカオニブには、大地のように力強い香りと芳醇なフルーツのような酸味がある。その個性を活かすためにりんごバターにカカオニブを練り込んで、風味を楽しめる商品にしました」

「カカオりんごバター」はパンにたっぷりつけて食べよう
「バゲットはもちろん、カリカリに焼いた食パンにつけるのもおすすめ。強い味を入れず繊細な甘さなので、つけすぎ? と思うぐらいたっぷりつけて食べてみてください」

そんな豪希さんのアドバイスに従ってひと口食べてみると、バターの油分が口の中にジュワッと広がりながら、カカオとりんごの爽やかな酸味、カカオ特有のコクと香りを感じ、やみつきになる味わいだ。「保存料を使っていないので、開封したらなるべく早めに食べ切って」とのことだが、これならすぐに胃袋に消えていくだろう。

続々展開。注目の“見た目においしい”新商品を実食

ninは、豪希さん自身が料理人として挑戦するためのプラットフォームでもある。そのため、どの商品もおいしさと見た目の美しさの両方にとことんこだわる。その結果、唯一無二の商品が生み出されているのだ。そんな美しくおいしい3商品もご紹介しよう。

「梅ボーイズの白梅酢ドレッシング」1,000円

「梅ボーイズの赤梅酢ドレッシング」1,000円
まず紹介したいのは、和歌山県の梅農家による梅干屋「梅ボーイズ」とのコラボレーションによって生まれた梅酢ドレッシング。梅干しをつくる工程で大量にできる梅酢を有効活用するために生まれた商品だ。白梅酢と赤梅酢の2種類あり、その配色には目を引く美しさがある。

「梅ボーイズの梅酢はとても濃厚で、味も香りも色もしっかりある。その特徴を活かすために梅酢を数日間静置して澱(おり)を取り、透き通ったきれいな色味にしています。またオイルとの色の掛け合わせにもこだわり、白梅酢ドレッシングには、美容にもいいとされる色鮮やかなグレープシードオイルを使用しました。ドレッシング以外にも、『梅干しカレーペースト』もおすすめですよ」

セロリときゅうりのマリネも、「梅ボーイズの白梅酢ドレッシング」を使えば簡単においしくつくれる
白梅酢ドレッシングは、梅酢のおいしさを感じられるさっぱりした味わいが特徴。特にマリネ料理に合わせやすいのだとか。さらに応用編として、「納豆やポテサラにかけるのもおすすめ」とのこと。かけるだけで毎日の食卓をグレードアップできるはずだ。

「梅ボーイズの赤梅酢ドレッシング」は彩りをプラスしたい時に
一方で紫蘇の赤さが美しい赤梅酢ドレッシングは、コクと香りが豊かなのが特徴。葉物野菜にも合わせやすいそう。他にも、そうめんのめんつゆにプラスするだけで、さっぱりとしつつも豊かな味わいになる。豆腐に合わせるのもおすすめだそうだ。

「パッションフルーツシロップ」2,750円
パッションフルーツを栽培する農園で余っている果汁を使った「パッションフルーツシロップ」も、とろっとした質感ときれいなオレンジ色が魅力的だ。パッションフルーツ特有の香りを楽しむなら、シンプルに牛乳で割るのがおすすめなのだとか。その味は「おしゃれなフルーチェみたい」とのこと。

ヨーグルトやアイスにかけるのもおすすめ
「シロップですが、オイルと酢を加えてドレッシングとして使うのもおすすめですよ。ぜひアイデアを広げて色々な料理に活用してみてください」

素材本来のおいしさが丁寧に引き出されたninのアイテムは、シンプルにかけて使えるだけでなく、応用することで料理の幅を無限に広げてくれる。毎日の食卓に常備したくなるのはもちろん、食にこだわりがある人へのプレゼントにも喜ばれるはずだ。

今まで目立たなかった生産者や製造者を、表舞台に

食材の魅力をおいしく、芸術的に引き出す活動を続けるTETOTETO。ninの新しい商品を開発する時も、必ず生産者や製造者の元を訪れ、直接会うことを大切にしているという。そうして密なコミュニケーションを取ることで信頼関係を築き上げていった結果、新たに実験的な取り組みも始まっているという。

「生産者の方々は、これまで様々な制約をクリアしながら消費者のためにおいしいフルーツをつくってきました。しかしそれは、農家さん側への負担が大きく、決してどちらにとってもいい関係性を築けているとは言えません。そこで最近は、農家の方々に『自分達が一番やりたいつくり方でフルーツをつくってみてください』とお願いし、これからの農家がどのように豊かになっていけるか、そのあり方を探ろうとしています」

さらにTETOTETOは、今まで目立たなかった製造者のポジションも引き上げるべく、新たに山梨県の塩山に食品加工所兼販売所兼レストランの立ち上げを進行中だという。レシピ開発のラボであり、ブランドninの旗艦店でもあり、料理でお客さんをもてなすこともできる。まさに桃源郷のような場だ。

高台に位置する、山梨県・塩山の新拠点。1600坪の広大な土地には農園も有しており、新たな取り組みを計画している

内装も今後リノベーションされるそう
「新拠点では製造者はもちろん、関わる人みんながハッピーになれる場をつくりたいんです。地元の食材を使ったり、雇用を生み出すことで地域に還元しながら、一緒にレシピをつくる仲間を募って消費者が魅力を感じる商品をどんどん開発していく。みんながワクワク感を持ち、かっこよく、気持ちよく働ける環境にすることで、さらにブランドが求心力を持ち、地域にも愛される場になるはず。自分たちだけでなく、周辺の環境ごと幸せになれるよう考えながら活動を広げていこうと思っています」

塩山の夜。絶景を眺められるこの拠点で、これからも私たちをワクワクさせる新しいプロジェクトが生まれていくだろう
聞いているだけでワクワクするビジョンに、これからのTETOTETOの活動とninというブランドの展開に目が離せなくなる。そして同時に私たち消費者も、ただ商品の良し悪しを見るだけでなく、生産者や製造者のことまで見つめる姿勢が大切なのだと気付かされる。つけるだけ、かけるだけで料理がアップグレードできるninのアイテムを楽しみながら、より広い視野で豊かな食生活のつくり方について考えを巡らせてみるのもいいだろう。

TETOTETOの新しい加工所 |塩山物語

nin