多種多様な楽しみ方と同じく、世界中ではあらゆる珈琲にまつわる商品が生み出されているが、飲む場所つまり「ロケーション」によって味を選ぶ楽しさを提唱したコーヒーがある。それは「LOCATION COFFEE(ロケーションコーヒー)」といい、その名が語るようにロケーション(景色)をイメージして豆を選び、その景色と一緒に楽しめるという、ありそうでなかったユニークな発想から誕生した。また、そのコンセプトはアウトドアと茶道の野点(のだて)を掛け合わせているという。余暇にキャンプを楽しみ、祖母に茶道の師範を持つ筆者が、その魅力に迫ってみた。
シーンで選ぶ、新しいコーヒーから「日本の文化」を知る
いつの時代でも、様々なシーン、世代に親しまれてきたコーヒー。時には自宅で、オフィスで、カフェで、はたまた旅路の途中で。好きな時間に、好きな香りを選んで楽しむ。私たちの生活に馴染んでいるコーヒーの世界は、とても奥深い。豆の種類からブレンド、炒り方、挽き方、抽出方法、飲み方、フードペアリング…数え出したらキリがないほど、知れば知るほど、コーヒーにはあらゆる楽しみ方が存在する。
西洋のイメージが強いコーヒーとは対極に位置する印象のある、日本の茶道。お茶もまた、古くから日本の人々に愛され続けている飲み物であり、文化である。茶道の中でも野点という楽しみ方をご存知だろうか。野点は、四季折々の景色や鳥の声など、屋内では感じることのできないさまざまな現象を、茶の味を決める要素として尊重する、という自然との調和を前提とした考え方だ。
LOCATION COFFEEはどのような経緯で開発されたのか。株式会社ヒャクマンボルトの担当者にお話を伺った。
「アウトドア専用のコーヒー豆は以前から開発メンバーの中でも話に上がっていたのですが、かつての戦国武将たちが焚き火の煙の匂いがうつった湯で淹れた茶を「ふすべ茶」と呼んで嗜んだという話を知り、自然現象を含有する味覚体験は現代人にこそお勧めすべきなのではと思い、商品コンセプトへのヒントを得ました」。開発メンバーで色々な種類の豆を携え山や海に行き、ロケーションやシチュエーションに合う豆を研究したのだそう。
改めて「日本の文化」を知る
我々日本人でも、茶道を嗜んでいないかぎり、実際に「野点」を知る人は少ないだろう。四季を感じられる日本ならではの文化である野点は、端的に言えば「戸外でお茶を点てること」である。細かく厳格なルールが存在する茶道の中でも、比較的縛りのない環境下でお茶を自由に楽しめる場なのだ。
茶道の先生である祖母に茶道について教えを請うたら、「あなたは当時通っていた幼稚園でも教えてもらっていたし、うちでも結構点てたわよね」と言われて、必死に遠い記憶をたぐりよせる。そういえばお茶の点て方も、袱紗(ふくさ)の折り方も、確かに学んでいたし、他所でお抹茶をいただく機会があればちゃんとお茶碗を2回まわして、飲み終えれば飲み口を指先で摘んでいた。ただ、当時はそう教わったというだけで茶道の本質、和のこころまでは理解できていなかったし、野点の存在も知る由もなかった。
幼少期の思い出と今の気持ちを改めて祖母に伝えると、「茶道は気遣い・心配りの場だからね。ご招待した方を心からもてなす気持ちが大切だね。相手を不快にさせない仕草や丁寧さも大事。マナーや歴史、文化、茶器のあれこれなんかを話せばうんと長くなるけれど、一番大切なのはお客さまへの心遣いだからね」。と教えてくれた。
一方で、野点についても聞いてみた。
「野点は、お心遣いの活きる場だからね。でも、屋外へ出て、毛氈(もうせん)の上でお茶を点てて、その場の空気や温度、香りと、音と、観える景色を楽しめる、素敵な場だね。堅苦しさを除いて、寛いだ心持ちで老若男女楽しめるのもいいね。暖かくなると、野点でもしましょうか。なんて言ったりしてね」。
「その場の空気や温度、香りと音と、観える景色を楽しむ」ことを醍醐味として開発されたLOCATION COFFEEは、まさに野点にインスパイアされ誕生したのだと、祖母の話を聞いて確かに合点がいく。ふたたび担当者に確認してみると、
「主たるアウトドア環境をピックアップする中で、コーヒーを飲むという行為と、人が立ち止まる瞬間を想像して、相性が良い環境を優先的に商品化させました。コーヒー豆たちが持つストーリー(産地や製法など)を軸に、それぞれの環境とのペアリングを焙煎士が選定し、実際のアウトドア環境にてさまざまな焙煎具合を試したうえで完成させました。今後、5種以外にも発売予定です。SNSでの新商品アンケートでは、「湖畔」や「雨」といった豆を希望する方も多かったんですよ」。
そんなお話を受けて、祖母にもLOCATION COFFEEの話をしてみた。
「面白いね、茶道の一端をそうして掬ってくれるのは、私たち茶道を嗜む人にはない発想かもしれないね。私はそんなに野点の機会はないし、普段からコーヒーを飲むわけではないけれど、お茶の意を汲んで生まれたのなら少し飲んでみたい気もするね。いつか連れて行ってくれるかい?」と、柔軟な回答が返ってきた。孫としてキャンプに連れて行き、LOCATION COFFEEを淹れてあげたくなった。
山でも、海でも、川でも。景色を味わう5種類のコーヒー
「でも、野点の精神を取り入れたコーヒーって…?」と、少々疑問に思う方もいるのでは。答えは、野点のように決まったルールがないからこそ自分のスタイルを追求し無限に楽しめるのがLOCATION COFFEEだ。
「外でコーヒーを淹れて飲む」というカルチャーが少しずつ浸透してきましたが、商品のコンセプトをどのように伝えるべきか苦労しました。たとえばLOCATION COFFEEのSNSでは、商品情報よりも「アウトドアアクティビティの楽しさ、美しさ」が伝わるようなコンテンツ投稿を心がけています。なによりまずは、アウトドアアクティビティに触れてもらうことが大切だと思うからです。「LOCATION COFFEEを持って、はじめてソロキャンしてみた」といった投稿を目にしたときは嬉しかったですね」と、担当者は語る。
ラインナップは全部で5種類。それぞれのロケーションに合うストーリーと味を持ったコーヒー豆で【Takibi 焚き火】【Yozora 夜空】【Sawa 沢】【Shinrin 森林】【Umi 海】と、まるでストーリーがふわりと浮かんでくるようなネーミングだ。「私たちは、コーヒー豆と旅に出る」というコンセプトを軸に、世界中から厳選されたコーヒー豆を使用している。
【Takibi 焚き火】
産地は、エチオピア。生豆を焚き火にかけ焙煎し客人をもてなす「コーヒーセレモニー」という伝統が存在する国で育まれたコーヒー豆。焚き火のスモークに負けない強い香りと味を出すために、ボディを感じる深煎り で仕上げられている。焚き火で焦がしたマシュマロや、ビターチョコレートといった香ばしさを感じられる食べ物との相性が抜群。 暑い日は氷を入れてアイスコーヒーにもおすすめ。
【Yozora 夜空 】
産地は、東ティモールのアシコ村。夜になると頭上いっぱいに星々が輝く、美しい村で育まれた。口当たりの良い飲みやすいコーヒーでありながら、蜂蜜を思わせるような深いコ クも感じられる中深煎りのコーヒー。ハニートーストやドーナツのような、まったりとしたデザートとの相性がよい。寒い夜には、ホットミルクを注いでカフェオレで楽しむのもまたおすすめ。
【Sawa 沢】
産地は、インドネシアのバリ島。現地バリで古くから「聖なる水」として村人たちに守られてきた湧き水で育まれたコーヒー豆。コーヒー好きが納得する優等生。わずかに感じられるミルクのような甘さが特徴。さらに農園オリジナルの酵母を使った柑橘系の香りもプラスされている。朝の沢をイメージし、さっぱりとさわやかに仕上げられたコーヒー。チーズケーキやプリンのようなミルキーなデザートと合わせてみても美味。
【Shinrin 森林】
産地は、ラオスのロンラン村。この村の農園では、様々な要因により失われつつあった森林を守るため、樹木を伐採しないまま栽培するアグロフォレストリーという農法を用いている。森とともに強く逞しく生きるコーヒー豆だ。ローストしたナッツのような香ばしさが特徴で、ハーブのようなさわやかな葉の香りも感じられる。お供には、フィナンシェやクッキーといった焼き菓子が吉。北欧生まれの飲み方、煮出しコーヒーにも最適。
【Umi 海】
産地は、イエメン。アラビア語で「雨の子孫たち」という意味を持つバニーマタルという品種で、雨が多く霧が発生する地方でしか栽培できないコーヒー豆だ。ドライフルーツのような甘酸っぱさが特徴。若くフルーティな香りを、潮風と一緒に楽しむのに最適。苦いコーヒーが苦手な人にも飲みやすい一品だ。フルーツパウンドケーキやフルーツソースを使ったパンンケーキとの相性がよい。
今日は、きみに決めた
実際に仲間とのキャンプにLOCATION COFFEEを連れて楽しむことに。
選んだ豆は【Shinrin 森林】。森や林の中で楽しむコーヒーとして最適だったこと、キャンプへ行く機会に恵まれていたことも相成りセレクト。朝の静かな時間帯に、ホッと一息つくのに正解だった。
目の前に広がる青々とした木々や富士山のパワー、澄んだ空気が、ちょっとした味のアクセントになって、朝から贅沢な気分に浸れる一杯だった。
今回は装備的にドリップ1択になってしまったが、抽出方法によって味わいも異なるので次は煮出しコーヒーに挑戦してみたい。きっとまだまだ知らない味わいが待っているのだろう。こうした尽きないワクワクが、ときどき心を豊かにしてくれるのかもしれない。今日も少し、どこかへ足を伸ばしたい気分だ。
身近なアウトドアのひとときを、LOCATION COFFEEで楽しむ
キャンプやピクニック、釣りやSUP、ハイキングや登山。アウトドアで楽しめるアクティビティ、シチュエーションは、いくつもある。でも、もしかしたら人によっては「気軽にキャンプに行けない...」「遠出は難しい…」「時間がとれない...」などの事情があるかもしれない。交通手段が限られていたり、時間に制約があったり、環境的に制約があったり、様々な要因で困難だったり。
でも、一歩踏み出して見方を変えてみれば、実は「どこでも身近なアウトドア」なのだ。それが例えば自宅の庭でも、ベランダでも、近所の公園でも。
季節の移ろいを感じられる場所で、とっておきの一杯をゆっくり味わう。はたまた「今日はこのコーヒーが飲みたいから、海へ行こう」なんて、コーヒーを選んでから行き先を考えてみる、なんていうのも素敵だ。
これまで訪れたことのある場所へ、再び行くもよし。はたまた、まだ見ぬ未踏の地へ赴くでもよし。新しい発想のLOCATION COFFEEを携えて一歩踏み出せば、行き先のまた違った見方や魅力に気付けるかもしれない。味わい方、楽しみ方は無限大なLOCATION COFFEEと、アウトドアなひとときをぜひ。
LOCATION COFFEE
CURATION BY
フリーのビデオグラファー・ライター。写真はフィルム派。日々のちょっとしたあれこれにときめきや幸せを感じながら、のんびりめに生きているひと。