Vol.300

FOOD

31 DEC 2021

鍋にあう自分だけの極上だしも。オーダーメイドだしパック作りを体験

寒い季節に欠かせない鍋料理だが、その味の基本は“だし”。これが美味しくないと美味しい鍋は作れないが、市販の顆粒だしや鍋つゆで済ませてしまっている…という人が多いのではないだろうか。そこで今回は築地魚河岸として150年以上の歴史を持つ「尾粂(おくめ)」が開発した、日本初となるオーダーメイドだしパック作りを体験。自分でだしの材料を選び、その場でだしパックを作ることができるというもので、素材を実際に見て、美味しさの理由や理論に触れながら、体にも優しいだしパックを作ることができた。肉系鍋やおでんなど、それぞれの味わいを引き立てる、おすすめのだしの組み合わせも教えてもらったので、ぜひ参考にしてみて欲しい。

無添加商店 尾粂の「オーダーメイドだしパック」とは?

無添加のひものや乾物、調味料などを集めた、お食処も併設する食のセレクトショップ「尾粂」
豊洲市場や築地魚河岸で魚の卸店を展開している「尾粂」は、創業明治4年という魚河岸がルーツの企業だ。そんな老舗が三重県にオープンした複合施設「VISON」に初出店した。

店内に入るとだしのいい香り。特上だし、基本だし、三重だしなど、おすすめの配合で調合しただしパックを販売するほか、全て無添加の調味料や珍味、お菓子など全国から集めた美味しいものが並ぶ。そして、ここで体験できるのがオーダーメイドのだしパック作り。全国から厳選した昆布や鰹節、煮干しなど、だしの材料がずらりと並んだコーナーから好きなものを選び、その場で粉砕、充填。目の前でだしパックを作ってもらえるというものだ。だしパックを作る機械は現在特許も出願中だという。

計量、粉砕、充填まで行なうことができるオーダーメイドだしパックのコーナー

美味しいだしづくりの基本。その黄金比率について

実際にだしパック作りを体験してみよう。選べるだしの材料は24種類。スタッフと相談しながら、好みの味や用途に応じて具材を選んでいく。

乾物が並ぶカウンター。それぞれグラム単価が決まっていて、量り売りもしている
今回だし選びのアドバイスをしてくれたのはVISON尾粂の店長、乾さん。鍋にあうだしを作りたいということで聞いてみると、まずは合わせだしの材料と基本的な考え方を教えてくれた。含まれる成分によって、材料を4種類に分け、すべての成分が配合されるように選ぶと旨味が何倍にも増すのだという。例えば椎茸にはグアニル酸、鰹節や煮干しはイノシン酸、昆布にグルタミン酸と、それぞれ異なる旨味成分を持つ。そして、それぞれの分量にも黄金比率があり、鰹節系のイノシン酸が4、煮干し系のイノシン酸が3、昆布のグルタミン酸が2、椎茸のグアニル酸が1という割合がおすすめだという。

オーダーメイド出汁パック用のオーダーシート。枠の中からひとつずつ選べば簡単に黄金比率の組み合わせができるようになっている
尾粂では全て国産にこだわり、全国各地から乾物を仕入れていて、鰹節ひとつとっても、本枯節、荒節などがあり、ほかにもまぐろ節、さば節、むろあじ節など多種多彩。

本枯節はカビ菌を吹き付けながら乾燥熟成を3か月以上させたもので、上品ですっきりとした出汁が出る。荒節は本枯のように熟成させる前のもので、通常出汁で使われるのがこちら。しっかりした出汁が出るので汎用性が高い。まぐろ節は料亭などでも使われ、上品なだしが出る。さば節は独特の甘みとコクがあるので、しっかりした味付けが多い東海地方で親しまれている節だ。

そんな特徴を踏まえながら、使いたい料理や好みの味などに応じて選んでいく。

宗田節(左)と本枯節(右)。本枯節は木のように固く粉をふいたよう。宗田節は宗田鰹から作られ、蕎麦やうどん用の出汁として知られる
昆布は、真昆布、日高昆布、利尻昆布、羅臼昆布の4種類。すべて北海道産のものだ。煮干し系は、片口鰯、うるめ鰯といった定番のものから、焼きあご、煮あごと呼ばれる九州で親しまれている飛魚の煮干し、のどぐろ、エソ、かますなど珍しい魚の煮干しも。

昆布の中でも最上級品と呼ばれる羅臼昆布。白く粉を拭いているが、これが旨味成分
椎茸は大分などから取り寄せていて、傘が丸まって厚みがある「どんこ」と傘が開いた「香信(こうしん)」の2種類があり、風味が異なるという。ほかにも和洋中と汎用性の高いホタテや動物系の濃い味が出せる鶏節などもあり、普段使ったことない珍しい食材をあえて加えてみるのも、違いを楽しむという意味でおすすめだ。

鍋におすすめのだしの組み合わせ方いろいろ

だしの基本がわかったところで、実際に材料を選んでいく。今回の目標は鍋に合うだしパック。乾さんのおすすめをうかがったが、鍋でも肉系、魚系、おでんと、鍋の種類によっておすすめの組み合わせがあるという。

肉系の鍋をイメージした、だしの組み合わせ。肉や野菜の旨味も加わって、シメまで美味しくいただけそう
まずは豚肉などが入るしっかりした味わいの鍋にと提案してくれたのが、鰹節ではなくまぐろ節を主体に、煮あご・うるめ・片口の3種類の煮干しに、真昆布とどんこ、という組み合わせ。インパクトのある肉の味を引き立てるよう、上品で甘みのあるまぐろ節を選び、あご・うるめ・片口の3種類の煮干しを入れることで複雑でしっかりとした味わいに。真昆布もどんこも甘みや旨味がしっかりしているので肉の味わいを下支えしてくれる。

おでんをイメージした、だしの組み合わせ。濃い目に出せば、うどんつゆにしてもよさそうな組み合わせだ
次に練り物や大根など、さまざまな具材が入る、おでんに合うのではと提案してくれたのが、荒節と香り高い宗田節の2つを組み合わせた、しっかりとした節の味わいが特徴の合わせだし。焼きあご干しで、香ばしさや強い旨味をプラスし、昆布も香りの良さが自慢の利尻に。椎茸は全体の味を支えてくれる香信をセレクト。そのまま飲んでも美味しい、香り際立つだしをイメージした。

粉砕、充填してだしパックが完成。おすすめのレシピ、使い方

出来上がるのは合計30パック×2袋の計60パック。本枯節や焼きあごなど高級素材を選んだので5900円ほどに
だしの組み合わせが決まったら、それを計量、粉砕、パック詰めして完成。通常ならば20分ほどで出来上がる。またこの体験で作っただしは、パッケージに記載された品番を伝えれば同じものをお取り寄せすることが可能。2022年2月からはネットでの注文もできるようになるという。

だしのとり方は、400mlの水に1パックを入れるのが目安。2~3分中火で煮だすだけ。濃い味が好きなら多めにして…と調節も可能だ。鍋にするなら味醂や淡口醬油などをプラスして、味を調えて。顆粒出汁や鍋つゆには塩分や旨味成分が入っているので、天然素材だけを使った出汁パックには塩分が足りないが、調味料にこだわれば体にも優しい、鍋つゆを手軽に作ることができる。

尾粂のお食処で楽しめる定食。だしパックで作った味噌汁やだしガラを使ったふりかけを味わうことができる
今回作ったのは鍋用と銘打ったが、味噌汁や澄まし汁などにももちろん使えるので、普段のだしと置き換えてみれば、その美味しさの違いに気づくことができるだろう。そして、この出汁に合う醤油は…塩は…と天然だしの味わいを活かすために調味料も本物の味わいにこだわりたくなるはずだ。そしてだしを取ったら、ぜひ中身を取り出し、ふりかけを作ってみて欲しい。尾粂のお食処でも、このだしパックのだしガラを味醂や醤油、胡麻などを入れて炒った佃煮風のふりかけを置いていて、ご飯との相性抜群だ。

日本人なら知っておきたい。うまみ際立つだしは、日本が世界に誇る食文化

だしが生み出す旨味(うまみ)は海外にはない概念だったが、和食が広まったことで酸味、苦み、甘味などの味覚のひとつとして認識され、日本独自のだし文化の奥深さ、美味しさに注目が集まっているという。

本枯節や焼あごを入れバランスのよい味わいに仕上げた世界にひとつのオリジナルパックで湯豆腐を楽しむ
オーダーメイドのだしパック作りは、ずらりと並んだ出汁の材料から好きなものを選んで楽しむというアクティビティの要素もありながら、だしの美味しさの理由や、旨味の奥深さについて知ることができる、だしの入門に最適なワークショップ。本来のだしの取り方とは異なるが、粉砕することでより味が出やすくなり、誰でも手軽に安定した味わいを作り出せるので、現代の暮らしに合っただしの楽しみ方と言えるだろう。ぜひこの体験をきっかけに“だし”を知って、日本が誇る和食の素晴らしさをあらためて見直してみてはいかがだろうか。

尾粂VISON