寒さの厳しい季節にこそ美味しく感じるものがある。時間をかけて煮込んだシチュー、旬の食材をふんだんに用いた鍋料理やじっくり調理するオーブン料理。一方、お酒はどうだろう。ワインやシャンパン、ビールなどが季節を問わず頭に浮かぶが冷たいお酒はこの季節、身体を冷やしてしまう。寒い時期にこそ飲みたいのが、身も心も温めてくれるホットカクテル。就寝前や休日に、身体を温め家時間をひと際心地良くしてくれるドリンクだ。
冬の大敵、冷えにはホットカクテルで
一日の楽しみと言えば、夜に嗜むドリンクタイム。好きなアルコールで喉を潤し、ストレスがゆっくりと抜けていくのを味わうのは格別なひと時だ。だが冬本番となり寒さが厳しい季節には、このリラクゼーションも今一つ効果を発揮してくれない。それというのも、身体の先端からじんじんと伝わってくる冷たさが問題なのだ。アルコールのおかげで頬は火照ってくるものの、指先や足元は寒いまま。
身体が冷えたままだと体調にも様々な弊害が出てしまう。血管は収縮し血流が悪くなり、代謝が低下してしまい老廃物が溜まりやすい身体へと変化する。免疫力は低下し、すぐに風邪をひく、疲れやすいなどの症状も。
指先や足元が冷えたまま仕事をしているため、肩凝りや頭痛に悩まされているという人も多いだろう。また、就寝前に風呂に入っても暖かいのはほんのひと時で、布団に入るころには寒さで寝つきが悪くなることも。
寒さによって体調面に影響が出て来ると、精神面にも弊害が。寒さは苛々感を強め、睡眠不足や疲労によって気力も減退してしまう。そこでおすすめしたいのがホットカクテル。身体を芯から温め、アルコールのおかげでリラックス効果も期待できるドリンクだ。
風邪の引き始めにも。古くから伝わるホットトディ
温かいお酒と聞くと真っ先に思い浮かぶのは日本酒の熱燗かもしれない。だが世界各国で様々なホットアルコールドリンクがあるのをご存知だろうか。その代表のひとつともいえるのがホットトディ。小さじ1~2杯のウィスキー、もしくはブランデーやラムに、小さじ2~3杯のレモンの絞り汁と蜂蜜を加えたものをお湯で割り、クローブやシナモンを足した飲み物だ。
このドリンクは18世紀後半イギリス人によって、イギリス植民地時代のインドで生み出されたという説がある。ヒンディー語で「タディ」は発酵した椰子の樹液から作られた飲料を指しているそうだ。
片やアイルランド人の医師が発明したという説もあり、これは熱いブランデーと砂糖水を混ぜ、レモンとシナモンを加えた飲み物を患者に与えたというものだ。そのせいかホットトディは19世紀半ばまでは「風邪に効く」ドリンクと言い伝えられていた。
その後アメリカで広まったホットトディのレシピはウィスキーではなく、その時代に手に入りやすかったラムとなった。今ではお湯の代わりに紅茶やハーブティーにしてみたり、レモンの他にクランベリーやグレープフルーツを使用するバージョンも登場している。果物の甘酸っぱさとスパイスが効いたホットカクテルは、飲めばじんわり、身体を温めてくれるだろう。
冬のホリデーシーズンに。エッグノッグ
クリスマスにニューイヤー、そんな冬のホリデーシーズンと深い結びつきがあるホットカクテルがエッグノッグだ。
エッグノッグの作り方は、①卵黄と小さじ1杯の砂糖をとろりとなるまで混ぜ合わせ、②ミルクと生クリームをカップ2/3杯分火にかけてゆっくりと煮込み、塩と粉状のクローブ、シナモンとナツメグを、それぞれ好みの分量を加える。①に温めた②をゆっくりと注ぎ、それらを濾したものを再び弱火で鍋にかけ、滑らかになったらバニラエッセンスを数滴加え、小さじ1杯ほどのバーボンやウィスキー、ラムなどのアルコールを足したら完成だ。
このドリンクの発祥は明確ではないものの、13世紀の英国の僧侶たちからと言われている。卵やミルク、ウィスキーが高価であったために庶民のドリンクではなく、17世紀では上流階級の人々が好んで飲むものとなり、これが海を渡りアメリカへ伝わった。
アメリカでもウィスキーは非常に高価であったため、ホットトディと同じように手に入れやすいラムが代用され、今でもアメリカではラムが多くレシピに登場している。そして19世紀になる頃にはエッグノッグは冬のドリンクからクリスマスの飲み物へと変化を遂げる。
欧米では家族が一同集い、皆で過ごすクリスマス。普段は遠く離れて暮らしていても、家族皆で過ごすために帰省する。家族や親族を迎える人々は皆に喜んでもらいたい、という気持ちからふんだんに料理を作り、その時代には贅沢なドリンクであったエッグノッグを用意して迎えたという。
以来エッグノッグはクリスマスやニューイヤーのドリンクとして定着しており、それは身体を温めるだけでなく、一緒に過ごせて嬉しいという気持ちがこもった象徴の飲み物でもあったのだ。それに倣ってエッグノッグを嗜む時は、普段はなかなか会えない人を思い出してみるのも良いだろう。
冬の休日に飲みたいホットカクテル
冬に楽しみたいホットカクテルは多くのレシピが存在するが、ここでは休日にぴったりなドリンクをご紹介しよう。まずコーヒー好きな方のために、ドリップした温かいコーヒーにアイリッシュ・ウィスキーを小さじ1~2杯加え、黒砂糖を2杯ほど。そこへクリームを加えたアイリッシュコーヒーは、予定のない休日の午後にぴったりな飲み物だ。
スイーツが好きな方にはホットココアのカクテルを。ココアパウダーを大さじ1~2杯ほど鍋に入れて軽く炒め香りが出たら、黒砂糖をお好みで加え、別鍋で温めていたミルクをカップ一杯分ゆっくりと注ぎ混ぜ合わせる。カップに注ぎウィスキーやブランデー、ダークラムなど好きなアルコールを小さじ1~2杯加え、トッピングとしてホイップクリームやマシュマロを載せて完成だ。
甘く大人の味がするスイーツ代わりに楽しめるドリンクは好きな映画を観ながら、あるいはお気に入りの本を読みながら楽しみたい。
寒い季節には自分に小さな贅沢を
木枯らしが吹き、冷たい風が肌を刺す冬の季節はふと人恋しくなるシーズン。いつもはどこよりも居心地の良い自宅であっても、誰もいない冷え切った部屋に帰宅するのが億劫に感じてしまう。
太陽を存分に味わえない天候で憂鬱に感じたり、身体の冷えによって肩凝りに悩まされたり、手足が冷たく眠りにつけない夜を迎える日々は、自分で自分を甘やかしてみよう。
湯気の立つカップやグラスに注いだホットカクテルを前にすれば、ふっと気持ちが緩んでいく。小さじ1~2杯のアルコールが身体をぽっと温めてくれる。お疲れ様と自分に声をかける時、ホットカクテルをひと口飲めば心と体を優しく解放してくれるだろう。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。