3月4日はバウムクーヘンの日ということをご存じだろうか。その理由を紐解くと、ドイツ菓子であるバウムクーヘンがいかにして日本に伝わったかというルーツにたどり着く。ドイツでは菓子の王様とも称される貴重なお菓子、バウムクーヘン。日本でも買えるドイツ仕込みのバウムクーヘンを探してみたら、スパイスの効いたものや四角い形など、さまざまなものを見つけることができた。本場の味を食べて、ぜひ深遠なるバウムクーヘンの世界へ足を踏み入れてみて欲しい。
3月4日はバウムクーヘンの日。その理由と歴史を紐解く
年輪のような見た目から祝い事の定番お菓子となっている、バウムクーヘン。専門店も数多くあり、日本では人気のお菓子だ。なかでも老舗として知られているのが神戸に本店がある「ユーハイム」。毎年3月4日を「バウムクーヘンの日」という記念日にしていて、この日だけの限定バウムクーヘンも販売している。この3月4日は、バウムクーヘンを日本に伝えたドイツ人、カール・ユーハイム氏が、日本ではじめてバウムクーヘンを販売した日なのだそう。
日本軍の捕虜として大正時代に日本にやってきたユーハイム氏。収容中に広島で作ったバウムクーヘンが日本で売れる様子を見て、日本で菓子作りをすることを決意する。関東大震災で被災して神戸に移ってからは外国人が多い土地柄もあり、すぐに評判の店となっていた。
当時はバウムクーヘンではなく、ピラミッドのような形をしていたことから「ピラミッドケーキ」と名づけられていたとか。戦争に翻弄された生涯だったが、数多くの菓子職人を育て、彼らが日本にバウムクーヘンを広めていくことになる。ちなみにバウムクーヘンという名前で売り出されるようになったのは1960年代からなのだそう。
現在「ユーハイム」ではカール・ユーハイム氏が作り上げた当時のレシピを再現したバウムクーヘンも味わえるという。「デアバウム」と名づけられたその品は、ごつごつとした素朴な形をしていてアラック酒を吹き付けて仕上げたというもの。全国に店舗を構え、お菓子作りのパイオニアとして進化し続けている「ユーハイム」だが、カール・ユーハイム氏の菓子作りの思いを受け継ぐブランドとして、変らない味を今も守り続けている。
ドイツでは貴重なお菓子?バウムクーヘンのルーツを知る
ひとりのドイツ人により日本にもたらされたバウムクーヘンだが、実は本場ドイツではバウムクーヘンを見かけることは少ないという。バウムクーヘン発祥の地のひとつとされる、ザルツヴェーデルやドレスデンなどに名店と呼ばれるお店があるが、バウムクーヘンが食べられる菓子店はごく一部のお店に限られているのだ。
その理由は、バウムクーヘンは、材料、作り方に厳しい規定があり、専用の機械や道具が必要で大変手間がかかる上、職人の腕が必要なお菓子だということが挙げられるだろう。ドイツのマイスター学校では卒業制作にバウムクーヘンを焼き上げることが必須となっているという。
その製法は、芯棒に生地を塗りながら焼き上げていくというものだが、ザルツヴェーデルやドレスデンなどに伝わる昔ながらのバウムクーヘンは波打った形が特徴。ほかにも各地方、お店によってさまざまなバウムクーヘンがあり、100年以上の歴史があるお店も少なくないという。日本ではカール・ユーハイム氏のおかげで馴染み深いお菓子となったバウムクーヘンだが、ドイツでは結婚式など特別な時や特定のお店でしか食べることのできない貴重なお菓子なのだ。
日本でも味わえる本場の味「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」
そんな本場ドイツのバウムクーヘンを作っている店を日本でも見つけたのでいくつか味わってみることにした。一つ目はドイツ北西部・ハノーファーに本店がある、カカオ試飲店がルーツという「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」。120年以上前から提供されているというホット・チョコレートは、今も本店にあるカフェの名物なのだとか。日本には伊勢丹新宿本店など、8店舗を展開している。
「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」のバウムクーヘンは、小麦粉だけでなく小麦デンプンを使用していて、これにより生まれる軽く繊細な食感が特徴。形はクラシックな波型、マジパン(アーモンドと砂糖で作ったペースト)やレモンを生地に入れるのもドイツならではの製法だ。
「クラシックバウム」を食べてみると、仕上げにまとわせたスイス産のクーベルチュールチョコレートの口溶けがよく、卵の香りが広がる生地は優しく繊細。素材の良さが感じられるバウムクーヘンは、幸せな気持ちにさせてくれる味だ。
「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」
http://hollaendische-kakao-stube.jp/「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」三越伊勢丹オンラインストア
https://www.mistore.jp/shopping/brand/foods_b/001596.html
どっしりした四角い形のバウムクーヘン「ベッカライカフェ・リンデ」
次に紹介するのは、丸い形をしていない、四角いバウムクーヘン。ドイツでは「バウムクーヘンリンデ」と呼ばれているお菓子だ。ほかにも丸く焼き上げケーキのように仕上げた「バウムクーヘントルテ」など、バウムクーヘンから派生したお菓子はいくつかあるという。
吉祥寺に本店があり、ドイツパンや菓子を作り続けて20年以上となる「ベッカライカフェ・リンデ」のバウムクーヘンは、この四角いスタイルで長年作られているという歴史あるお菓子。チョコレートがけのパウンドケーキのような見た目だが、持つとずっしり重たい。オレンジの香り漂うリキュール、コアントローで風味付けしたアプリコットジャムをカステラ生地に染み込ませて幾層にも重ね、最上部にマジパンを塗りチョコレートでコーティング。これを切り分ければ、美しい縞模様が現れるというわけだ。
ドイツのマイスター協会の会長を務めていたという人物が「ベッカライカフェ・リンデ」の菓子作りについてアドバイスをしていて、特にこのバウムクーヘンは、ドイツでも昔ながらの製法だと言う一品。バウムクーヘン用のオーブンがなくても作ることができるが、10層ものカステラ生地を重ねる手間暇や均等な縞模様に職人技が光る。変らない味を今に伝えてくれるドイツ菓子は、レトロな雰囲気もあり、なんだか懐かしいと感じる味わいだ。
「ベッカライカフェ・リンデ」
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-27
電話:0422-23-1412
https://www.lindtraud.com/
秘伝のスパイスや黒蜂蜜で風味豊か。「コンディトライ バッハマン」
最後に紹介するのは、ドイツやスイスで修業をし、マイスターの資格も持つ先代が40年以上前に神奈川県平塚市で開いたというお店「コンディトライ バッハマン」。ドイツ・シュレー社のバウムクーヘン専用オーブンを使って作り上げるのは、波型をしたドレスデン風のバウムクーヘンだ。伝統の製法を守りながらも10種類以上のスパイスを調合し、スパイスの風味に合うよう蜂蜜は複雑で力強い味わいを持つインド産の黒蜂蜜を使用するなど、独自のレシピでドイツの味を再現する。ひとつひとつ手作業で生地を塗り焼き上げていく様子は、店頭からも見ることができるという。
仕上げに砂糖液を掛けたバウムクーヘンは、アプリコットジャムや洋酒がアクセントになっていて本当に香りが良く、深い味わい。お店の方におすすめな食べ方をうかがったところ、筒状のバウムクーヘンを縦ではなく削ぎ切りにするのがおすすめとのこと。こうすると断面が広くなり、生地の香りがより楽しめるという。生クリームを添えて、アールグレイと共に味わえば、この上ないティータイムを過ごすことができるだろう。
「コンディトライ バッハマン」
住所:神奈川県平塚市八重咲町24-28
電話:0463-23-5210
https://bachmann.jp
どのバウムクーヘンも基本の材料は卵、砂糖、バター、小麦粉。けれど、さまざまな食感・味のものがあり、ひとつひとつ実に異なることに、バウムクーヘンの限りない奥深さを感じた。とにかく言えるのは、ドイツでも日本でも、生地そのものの味わいを楽しむ、職人の技が必要なとても繊細で手間のかかるお菓子だということ。今回紹介したものは、チョコレートや洋酒の風味などが加わっているのでワインやコーヒーが好きな人への贈り物にすればきっと喜ばれるだろう。ドイツと日本をつなぐ記念日である3月4日に、お取り寄せして自分で楽しんでみるのもいい。バウムクーヘンの新たな魅力を発見できるはずだ。
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。