Vol.135

FOOD

02 JUN 2020

ひと口で五感を呼び覚ます。「シニフィアン シニフィエ」のお取り寄せパン

食べ物を見つめ、味を想像して口へ運ぶ。食感を確かめながら、口中に広がる香りや味に素材の魅力と作り手の仕事ぶりを知る。食べることは、感覚を研ぎ澄ませることだ。しかし、忙しない私たちはスマホを手に食事を済ませるなど、食べることに集中できなくなっている。そうしたライフスタイルの変化で鈍りつつある五感を呼び覚ますために、素材を生かしたユニークなパンを焼き上げる「シニフィアン シニフィエ」からパンを取り寄せ、朝の静けさの中でひと口ずつ大切に味わった。

パンは生命力に溢れている

パンは生き物だ。最低限必要な材料は、小麦粉、酵母、水、塩。パンの種類によってはそこに砂糖や油脂を加えたり、ナッツやドライフルーツを混ぜ込んだり。シンプルな材料であっても、酵母の働きによって生地が膨らみ、多種多様な風味が生まれる。パン生地の発酵は、酵母の営みの証だ。酵母は生き物であるがゆえに、その働きぶりは日々微妙に異なり、パン職人たちは生地の声に耳を傾けながらパンを作る。

五感を呼び覚ます食べ物は、パンだけではないだろう。けれどパンには、酵母と職人の技が生きている。自然と人のエネルギーが合わさって生み出されるパンは、やはり特別、生命力に溢れた食べ物と言えるのではないだろうか。

シニフィアン シニフィエのオンラインショップで購入できる「おすすめパンセット(S)」(¥3,780)
酵母の力を最大限に引き出すパン作りの製法として、低温長時間発酵と呼ばれる発酵法がある。三軒茶屋に本店を構えるブーランジェリー・シニフィアン シニフィエのシェフ・志賀勝栄さんは、低温長時間発酵のパイオニアとして知られるパン職人だ。生地を低温でじっくり時間をかけて発酵させることで酵母の力を引き出し、素材本来の旨味と力強い食感のパンに焼き上げている。小麦粉のロットなど季節の変化に対応し、同じパンでも水分量や酵母量を変化させながら、自然の恵みを生かすのがこだわりだ。

そんな唯一無二の存在感を放つパンは、オンラインショップで購入できることもあり全国のパン好きを魅了してきた。今回は、そんなオンラインショップで定番人気の「おすすめパンセット(S)」を取り寄せることにした。セットの中身は、バゲットやオ ドゥ ブレなど同店のスペシャリテ、シンプルな食事パン、フルーツやナッツ入りのパン、季節のパンなど、その時々でバランスよく5~6種類がセレクトされている。家族で囲む食卓を彩ってくれるのはもちろん、一人暮らしの食事の時間を充実させてくれる内容だ。

まずはそのまま頬張り、素材を感じる

シニフィアン シニフィエのパンが届いた翌朝、いつもより早く目覚めた。届いたパンの芳醇な香りに心奪われ、味わうのが待ち遠しかったからだ。まずは、パンそのものを味わうことにした。ジャムやバターを塗ったり、サンドイッチにして楽しむのはその後だ。

雑穀が香ばしい食パン「パン オ セレアル」
最初に手に取ったのは、国産小麦に9種の雑穀ブレンドを配合して焼き上げた食パン「パン オ セレアル」。そのまま頬張ると、モチモチとした口当たりの中に雑穀がプチプチと弾け、ほのかな甘さと濃厚な穀物の風味が広がった。食べ進めるほどに、食感が楽しく風味の奥深さが増す。

雑穀は大麦、もちきび、もちあわ、黒豆、緑豆、小豆、黒米、黒ごま、アマランサンスがブレンドされているのだが、これらが合わさることで奥行きのある食感と風味に仕上がっている。モチモチ感はカラメルを入れることで実現し、オーガニックシュガーを加えることで優しい甘みに。トーストすると、より香ばしさを楽しめる。

クルミとピーカンナッツ入りの「パン オ ノア」
続いて、クルミとピーカンナッツを使用した「パン オ ノア」を1㎝ほどの薄さにスライスして、ひと口ずつ大切に味わった。モッチリ弾力ある生地をかみしめると、ナッツの豊かなコクに満たされる。

ほんのりグレーがかった生地なのは、クルミの自然の色が生地に染み込んでいるからだという。つまり、ナッツのコクが凝縮されたパンなのだ。さらに、独特のモッチリ感は生地にジャガイモを練り込むことで生み出されている。

ひと口ずつ味わうことに集中すると、素材の豊かさとそれらの魅力を生かす職人技を感じられる。朝の静けさの中でパンを頬張り、自然の恵みや職人の仕事ぶりに思いをはせると、不思議と心身ともにリフレッシュできその日の集中力が高まったように思う。いつものようにテレビやスマホでニュースをチェックしながら食べる朝食とは異なるものになった。

ほんの少しの手間で起こる変化を感じる

パンそのものの味わいを楽しんだら、その次の朝はほんの少し手を掛けるのもいい。シニフィアン シニフィエのスタッフに教わった、朝食におすすめのパンのアレンジレシピを試してみた。

「パン オ セレアル」で作った卵サンドとひじき煮サンド
シンプルに、「パン オ セレアル」は卵サンドにするのがおすすめ。パンのほのかな甘さに卵の優しい味わいが好相性で、そこに雑穀の食感や香ばしい風味がちょうどいいアクセントになる。さらに和惣菜にも合うというから、作り置きしていたひじきの煮物も挟んでみた。

手持ちのフルーツジャムを「パン オ セレアル」に塗るのもいい
定番だが果実味のあるジャムも「パン オ セレアル」との相性が良い。いちごジャムを塗ってみると、雑穀の香ばしさにみずみずしくフルーティーな風味が加わることで、一気に軽やかな食べ応えになった。

「オ ドゥ ブレ」に目玉焼き、ハム、チーズを挟んだサンドイッチ
シニフィアン シニフィエのスペシャリテである「オ ドゥ ブレ」は、たっぷりの具材を挟んでサンドイッチにしたいパンだ。目玉焼き、ハム、チーズのシンプルなサンドイッチを作り頬張ると、外側はパリッとして内側は驚くほどみずみずしく、パンと具材が一体になっていく。歯切れよくサクッと食べられる上、あっという間になくなってしまうほど口どけがいい。

アボカドとトマトにオリーブオイルと塩をかけて挟むのも、おすすめのサンドイッチレシピだ。オリーブオイルと塩は少し良質なものを使うと、シンプルな具材でも複雑な味になって味わい深い。

パンそのものを味わった後は、ほんのちょっと手を加えてみると風味が複雑になり、同じパンでも新たな一面を見つけることができる。その変化に意識を向けると、前日には知り得なかった発見がある。ひとつのパンに時間をかけ、食べ方を変えながらじっくりと味わっていくことで、五感が研ぎ澄まされていくのを体感できるのだ。

生地の質感に酵母の働きぶりを知る

「オ ドゥ ブレ」の断面
ところで「オ ドゥ ブレ」の断面を見てみると、生地の気泡が大きい。これは、しっかりと酵母が働き発酵した証拠だ。生地をかみしめるとモッチリとして、“みずみずしい”と表現するのがぴったりだ。商品名の「オ ドゥ ブレ」はフランス語で「小麦の水」を意味し、北海道産小麦を使用して水分をたっぷりと加えるオリジナルの製法で作られている。

パンの質感を観察してみると酵母の働きぶりが分かり、ひと口に力強いエネルギーを感じるだろう。

場面を変えて、おやつにもお酒のお供にも

パンを味わう場面を、朝食だけに限ってはもったいない。仕事の合間におやつタイムでリフレッシュしたり、お酒のお供として一日の疲れを癒やす楽しみ方もいいだろう。

「抹茶かのこ」は、春限定の人気商品
「おすすめパンセット(S)」には季節限定のパンが入ることもあり、こちらは毎年春に登場する「抹茶かのこ」。京都の抹茶、イタリアのはちみつ、北海道のかぼちゃペーストなどを練り込んでしっとりとした生地に3種類のかのこがたっぷりと入り、伊予柑ピールの爽やかさがアクセント。まるで和菓子のような上品な味わいで、お茶と一緒に。

ライ麦とフルーツの酸味が絶妙な「フルヒデブロート」
「フルヒデブロート」は、酸味のきいたチェリーやレーズン、プチプチ食感のイチジクがゴロゴロ入ったライ麦パン。ゴマやアマニ、押麦などの穀物を加え、パンの表面にもセレアルミックスをつけて、香ばしくザクザクとした食感に仕上げられる。鼻から抜けるフルーツの酸味と穀物の香ばしさは、無塩バターや白カビチーズと合わせるとまろやかになり、白ワインやスパークリングワイン、ロゼワインと相性が良い。

朝食はもちろん、昼や夜にもこうしたリフレッシュ体験を用意しておくことで生活にメリハリが生まれ、一日の満足度も上がるはず。素材と職人技が生きるパンを味わうことは、鈍ってしまった五感を呼び覚ます体験となるだろう。

シニフィアン シニフィエ