Vol.484

06 OCT 2023

〔ZOOM in 池尻大橋〕クリエイター達がコラボ、“街の魅力を可視化”した複合施設「大橋会館」

最先端のカルチャーがひしめく渋谷、洗練されたショップが並ぶ恵比寿や代官山、おしゃれとカジュアルが入り交じる中目黒や三軒茶屋……そんな東京を代表する人気の街に囲まれた「池尻大橋」。周囲の街に比べると、誰もが共通して思い浮かぶイメージはないかもしれない。そんな池尻大橋に、2023年8月、池尻大橋の新しい可能性の第一歩となりそうな複合施設が誕生した。池尻大橋エリアで活躍するクリエイター達がコラボし、“池尻大橋の魅力を可視化”したという新スポットを紹介する。

人気エリアに囲まれながら個性あるインディペンデントな街、池尻大橋

池尻大橋は、渋谷、中目黒、代官山、恵比寿、三軒茶屋などの都心の人気エリアに囲まれつつも、昔ながらの商店街や銭湯も立ち並ぶ、どこかローカル感漂う落ち着いた雰囲気。一方では、周辺の街の雰囲気が少しずつ入り交じるミックスカルチャー感がありつつも、独自の路線を貫く個人店が多く立ち並ぶインディペンデントな街でもある。

「大橋会館」周辺の様子。路地沿いに新旧さまざまなお店が並ぶ

「大橋会館」の近くには、地元の憩いの場「目黒天空庭園」も
レトロな喫茶店から、おしゃれなベーカリーやコーヒーショップ、バーなど個性ある飲食店があり、私自身も日頃から、ランチから午後の休憩、夜の飲みに、とさまざまなシーンでお世話になっている。先ほど、独自の路線を貫く個人店が並んでいると述べたが、カウンター越しにお店の人とおしゃべりをしたり、お店に教えてもらったおすすめのメニューを試してみたりと、人とのちょっとした交流も楽しい街という印象だ。

“エリアの潜在的な魅力を可視化する”ことを目指した複合施設

「大橋会館」は、田園都市線・池尻大橋駅から徒歩5分、目黒川沿いにある。
プロジェクト担当の東急都市開発事業部 小池和希さんと、全体ディレクションを担当した「クリエイティブチーム301」大谷省悟さんにも話を聞いてみた。

「以前の池尻大橋は、どちらかというとクローズドな印象があったのですが、4、5年ほど前から周辺エリアからお店を移転する人たちが増えてきたのをターニングポイントに、外エリアからの注目度も高まっていると感じています。今、思う“池尻大橋らしさ”は、トレンドに流されず、あくまで自分たちの理想の生き方や価値観、スタイルを追求しているカッコいい人が多いということです」(大谷さん)

一方で、小池さんは、「それぞれの個人店は魅力があるけれど、街としてはまだまだ盛り上がる余地がある」と感じている。「ランドマークとなる場所があれば、もっと多くの人に池尻大橋に足を運んでもらうきっかけになると思いました。『大橋会館』をコミュニティのハブとして、街としての魅力をもっと発信して、池尻大橋の中と外をつなぐ役割を担えれば」(小池さん)

池尻大橋は、まさに“カルチャーフロンティア”と言えるエリアかもしれない。

「大橋会館」は、地元の池尻大橋で活躍するクリエイターをはじめ、商店街などの地元で暮らす人々、ワーカー、来館者などあらゆる“池尻大橋”をとりまく人々の交流を促すコミュニティハブかつ、新しい街の形を発信していく拠点として誕生した。言い換えれば、池尻大橋のカルチャーが成長し、醸成されている過程を、みんなで楽しみながらつくっていける場なのだ。

1階にはカフェ・ワインバー・レストランとストア&スペース、2〜3階にシェアオフィス、4〜5階にホテルレジデンスとプライベートサウナがあり、それぞれの空間やプロダクトそのものが、クリエイターたちの作品でもある。詳しく見ていこう。

大橋会館の入り口。築48年の同名の建物を大規模リノベーションした、味わい深い建物(写真提供/大橋会館)

フロア案内板をよく見ると、ライトで「OHKK(OoHashiKaiKan)」のロゴになっているのもオシャレ(写真提供/大橋会館)

朝から夜まで、世界的チームが提供する食カルチャーを楽しめる

まず、「大橋会館」のシンボルとも言えるのが1階にあるカフェ・ワインバー・レストラン「Massif(マッシーフ)」。「Massif」は、日本橋小舟町のカフェベーカリー「Parklet(パークレット)」を手掛け、世界のフードシーンと繋がる「Terrain(テレイン)」が新たなチームを結成してオープンした新店舗だ。

店内は、むき出しの壁や石のテーブル、木の床など、さまざまな素材が使われているのがおもしろい。かつて大橋会館が営業していた当時のものを残しつつ、鉄や石、木などの素材を混ぜて使ってインダストリアル感を取り入れた新旧が溶け合わせた空間になっている。

池尻商店街のエッセンスを意識したという内装設計は、建築家・元木大輔が率いる「DDAA」担当によるもの。カフェ・バーのスペースとレストランのスペースがあり、写真はレストラン

テーブルの天板はあえて「岩っぽさ」を残し、イスは流木を思わせる流線を活かしている
ふらっと立ち寄ってカフェ利用するもよし、店内でじっくりワインや食事を楽しむもよしと、あらゆる時間帯やシーンに合わせて、さまざまな使い方ができる。

手前のスペースでは、朝は「Overview Coffee(オーバービューコーヒー)」のコーヒーとペイストリーを提供。昼から夜はワインバーとして営業し、ロンドンのワインバー「Noble Rot(ノーブルロット)」出身のソムリエCailean McGregor(ケイリン・マグレガー)と、星付きレストランでの豊富な経験を持つカリフォルニア出身のシェフColeman Griffin(コールマン・グリフィン)がタッグを組み、ヨーロッパやアメリカの料理を日本の食材とテイストで表現したメニューを提供する。ワインセラーにはクラシックなものからナチュラルまで常時2,000本以上をそろえている。

カウンターの上に置いてあるペイストリーは日替わり。コーヒーなどのドリンクのオーダー時にお供をチョイス

窓際もいいけれど、奥まったところには座るだけで画になるスペースも。お気に入りの席を見つけるのも楽しみの一つ

仕切りの手前がカフェ・バースペース、奥がレストランスペース

カフェ・バースペースでは昼からワインを楽しめる(写真提供/大橋会館)
奥にあるレストランでは、昼も夜もコースを提供している。昼はコース4品、夜はコース6品で、世界で活躍する国際色豊かなメンバーが、一日を通じて池尻大橋のグルメシーンを多彩に演出する。

ランチコースは4品3,000円(税込)。プラス1,800円(税込)で各料理にワインのペアリングを付けられる。写真はメイン料理の一例(写真提供/大橋会館)

ディナーコース6品8,000円(税込)。こちらもプラス5,000円でワインのペアリングを付けられる。写真はメイン料理の一例(写真提供/大橋会館)

クリエイター達の遊び心あるイベントも

同じく1階の「ストア&スペース」には、日本とアメリカに拠点を構えるクリエイティブアソシエーション「CEKAI」による多目的空間がある。オリジナルプロダクトや大橋会館関連グッズを販売するストアと、作品展示やイベントを行うスペースで構成されている。

オープニングイベントでは、総勢10名のデザイナーによる「大橋会館」や「池尻大橋」をテーマにしたオリジナルTシャツの展示販売会「CEKAI DESIGN FIGHTERS」が行われた。10名のデザイナーは、NIKEなどの誰もが知るブランドを手掛けていたりする錚々たるメンバーなのだが、ユニークなのが会期中の展示はなんと“無記名”で行われたということ。会期中の売上で勝敗が決まり、会期の最終日にどのTシャツが誰の作品だったかが発表されるという仕組みだ(現在イベントは終了している)。

「CEKAI DESIGN FIGHTERS」開催時の様子(写真提供/大橋会館)

展示Tシャツは一般販売もされた。次回はシルクスクリーンのライブペインティングも予定している(写真提供/大橋会館)
今後もどんなことが起きるのか期待に胸がふくらむが、「あらかじめ予定を決めるのではなく、あくまでその時々でおもしろいことややりたいことによって何をするかは変わっていきます」(大谷さん)とのこと。新しい出合いを求めてこまめに足を運ぶのも、池尻大橋を楽しむ仕掛けの一つかもしれない。

併設のストアでは、大橋会館の記念ロゴTシャツ「blurhmsROOTSTOCK」(数量限定)やエコバッグなどを販売

ストアで販売している中目黒のモダン・ネパールレストラン「ADI」が製作したナイトウェア(写真提供/大橋会館)

クリエイター達が手掛けた“作品”に泊まれる

クリエイターが一定期間滞在する「クリエイターインレジデンス」を行っている点も、ぜひ注目したい。

4・5階は、1泊からの宿泊も長期滞在もできる「ホテルレジンデンス」があるのだが、計61室のうち4室には、さまざまなジャンルで活躍する4名のクリエイターが滞在し、自らの部屋をデザイン。Airbnbで宿泊もできるそうだ。

「ホテルレジデンス」は、長期滞在者が外出する日は、第三者にホテルとして貸し出すことで利用料金が減額される「リレント」システムを導入している(写真提供/大橋会館)
滞在しているクリエイター達は、ほかにも大橋会館で開催されるイベントに関わっていくなどの予定もあるとのことだ。

4名のクリエイターが手掛けた部屋(写真提供/大橋会館)
ほかにも、館内にはいたるところに別のクリエイター3名のアートが飾られており、館内全体をギャラリーとして楽しむことができる。日常的にアートに触れることができる暮らしとはどのようなものなのかを、実際に体験でき、しかも実際にそれらを購入できるのもおもしろい。

サウナの休憩室に飾られている作品

レジデンス入居者、宿泊者限定スペースに飾られている作品。生活空間にアートがあると、自分の生活にも取り入れてみたくなる

ローカルクリエイターがコラボしたサウナ

渋谷区エリアには、昔ながらの銭湯だけでなく、最近ではリノベーションした銭湯サウナや話題のサウナ施設、プライベートサウナなどさまざまなサウナがオープンしていて、サウナ好きにも注目されている。「大橋会館」の隣にある「文化浴泉」も、大衆感ある地元サウナとして親しまれている。池尻大橋周辺は、いわばサウナ激戦区とも言えるのだ。

そんな中にありながら、それらとはまた違ったカラーを放つのが、5階にあるプライベートサウナ。サウナーの私としても、見過ごせないスポットだ。

「日本で流行しているサウナは“ととのう”特化型ですが、ここで目指したかったのは本場・北欧のようなコミュニケーションのきっかけになるサウナ。池尻大橋の関係人口が増える場になれば」とサウナーでもある小池さんは楽しげ。その言葉どおり、ここは入居者や宿泊者だけでなく、一般利用も可能。4名まで同時に利用が可能で、利用者同士での交流も深まりそうな、サロン的スペースになりそう。

サウナ室内に流れる音楽は三軒茶屋のCDレコードショップを手がける「Kankyo Records」が担当。得意とするアンビエントミュージックで、“ととのい”の時間を演出する。

サウナで実際に使われている香り(インセンスオイル)と音響(カセットテープ、DLコード)のセットは1階のストアで購入することもでき、ととのいの余韻をお土産で持って帰れるのも見逃せない。

「大橋会館」はかつては企業の研修施設だった。その当時の雰囲気を残しつつ、クリエイティブを融合させているのがおもしろい。サウナの入り口も、どこか懐かしいレトロな雰囲気

サウナ室は94度、自分でロウリュ(温まった石にアロマ水をかけて蒸気を発生させる)をして好みの温度まで上げられる(写真提供/大橋会館)

水風呂

ととのいスペースには、「Kankyo Records」によるスローな音楽が流れる。& Supplyが手掛けるホームグッズブランド「MYTONE(マイトン)」のバスマット(写真右下)もかわいい!

施設利用者発のイベントや、独自メディアの発信も

「大橋会館」の主役はクリエイターだけではない。今後は来館者や利用者自身がクリエイティブを担っていく。「コミュニティディレクター」と呼ばれるスタッフが常駐し、ラウンジを活用した展示・イベントの開催や、独自メディア「大橋会館新聞」で情報を発信していくという。

「大橋会館新聞」
例えば、3Dプリンターの作品展示や発表イベントなどをしてもいいし、2・3階のシェアオフィス利用者同士でコラボイベントを開催するのもいい。もちろん、大橋会館のホテルレジデンスやオフィス利用者以外の企画もOKだ。高齢化している池尻商店街で活躍の場を探している若いプレーヤーたちのイベント企画にも使ってもらえれば、という考えもあるとのこと。

「利用者発信のイベントが増えて、池尻大橋外からも来る人が増え、池尻大橋と外エリアをつなぐきっかけになるのが理想」と大谷さん。「あらゆることがオンライン化しているからこそ、フェイス・トゥ・フェイスの場で偶発的な出合いやアイデアが生まれる場は大切。コミュニティや関係人口を育てていきたい」と小池さんも続ける。

24時間使える2階のラウンジ。ほかにも、2、3階には個人から40人規模のチームまでフレキシブルに利用できるオフィススペースがある(写真提供/大橋会館)
池尻大橋というと、正直あまりカルチャーを発信しているというイメージがなかった分、プレイヤー同士がカルチャーをつくり、発信していける場ができるというのはとても興味深いと思った。これからどんなイベントやメディアが生まれ、相乗効果的に広がっていくのか、とても楽しみだ

10年後の池尻大橋へのバトンをつなぐ、今だけの実験の場

実は「大橋会館」は、期間限定(5~10年を予定)の施設。「この場所(大橋会館)があったから、その先の時代の池尻大橋ができたよね、って言われる場所になるといい。限られた時間だからこそ、そこに関わった人たちとか、その場を通じて生まれた出合いの影響は大きいはず」と大谷さんは話す。

「今も目黒川といった自然や、銭湯の文化浴泉、ユニークな個人店・ギャラリーなどの魅力的なスポットが点在していますが、大橋会館が役目を終える5~10年後には、もっとお店の数が増えて、街歩きをしたくなるエリアに育っていたらいいですね」(小池さん)

“注目の街”“住みたい街”は時代によって変わる。数年前には話題にものぼらなかった街が、急に脚光を浴びることもある。今も人気の池尻大橋だが、5~10年後には、一体どんな街になっているだろうか。「大橋会館」は、自分たちの手で街を育て、つくっていける楽しみを教えてくれそうだ。

大橋会館

東京都目黒区東山3-7-11
https://ohkk.jp/

1階 Massif(マッシーフ)
営業時間
カフェ8時-16時、バー12時-23時
レストラン(ランチ)12時-15時(16時30分LO)(ディナー)18時-23時(21時30分LO)
※日曜はディナー休業
定休日:月曜

1階 CEKAI 大橋会館(セカイ オオハシカイカン)
営業時間:12時-19時
定休日:月・火曜※イベント等により定休日が変更になる場合あり

5階 サウナ大橋会館
営業時間:15時20分-23時30分(1回100分×4枠/日)