Vol.340

20 MAY 2022

〔ZOOM in 六本木・麻布〕 mymizuとマイボトルで街の”サステナブル”を発見

街を歩いていて、ふと気になるお店に出合うことがある。しかし、きっかけがなくて、結局行かないままになってしまっているのは、誰しも経験があると思う。そんなちょっとした”きっかけ”となり、SDGs(世界を良くするための持続可能な開発目標)に貢献できるのが、街の給水スポットを探せるアプリ「mymizu(マイミズ)」。今回はこのアプリを使って、東京都内屈指の繁華街・六本木と麻布エリアを探索してみよう。

ペットボトルをマイボトルに代えて、街に繰り出す

アプリ「mymizu」に登録されている給水スポットは、世界20万カ所、日本国内で1万1,000ヶ所以上。公園などの公共施設のほか、1,800ヶ所を超えるカフェやレストラン、ホテルなど。家族経営の小さなお店から、イケアなどの世界的有名ブランドや大規模な商業施設まで多種多様だ。アプリを開けば無料で給水できるスポットが表示され、外出中に気軽に利用できる。

写真左/給水したことを記録して、削減できたペットボトルの本数やCO2の排出量、節約できた金額をトラッキングできる。 右/無料で給水できる場所がマップ上に表示される。
mymizuが生まれたのは、2019年のこと。きっかけは、一般社団法人Social Innovation Japan代表理事で共同創設者のマクティア マリコさんが2018年に旅行先で見た衝撃的な光景だった。

「とても綺麗なビーチが、大量のゴミ、主にペットボトルで汚染されていたのです。いま世界的に注目されているプラスチック問題は遠い話ではなく、日本も直面しているものだと実感しました」。

世界のプラスチックの年間生産量は過去50年間で20倍にも拡大しており、その年間生産量は約4億トン。日本は、1人あたりのプラスチックごみの量が世界で2番目に多い国(UNEP)というから、ますます他人事にはできない。プラスチックごみは、海の美しい景観や魚たちの命だけでなく、魚介類を口にする私たちの健康も奪ってしまう可能性がある。

「マイボトルを持っていれば、使い捨てのペットボトルに入った水を買う必要がないはず。しかし、給水できる場所がなかなか見つからないことに気がつき、mymizuを考案しました」とマクティアさん。

給水スポットの目印となる水色のステッカー。給水できる水は、お店に設置してあるウォーターサーバーや水道水など。店員に水を注いでもらうところもある。
通勤・通学や街の散策、ジョギング中などの水分補給は健康面でも大切。ペットボトルの水やお茶を購入するシーンは少なくない。しかし、それをマイボトルに変えるだけで、使い捨てプラスチックの消費を減らすことができる。

「世界が直面している環境危機という大きな問題。問題のスケールが大きすぎて、希望を失う方々も少なくないと思います。でも、一人一人がアクションを取ることで、世界は変わると信じています」。

とはいえ、ただペットボトルからマイボトルに変えるだけでは、なかなか持続させることは難しい。その点、mymizuでは削減したプラスチック量や給水した量を記録し、他のユーザーとも共有できるので、ゲーム感覚で楽しめる。効果を可視化できると、モチベーションにつながるのは大きい。また、暮らしている街や、外出先で、今まで行ったことがないお店に行くきっかけにもなりそうだ。

六本木、麻布エリアはどんなところ?

マイボトル1本から、どんな新しい発見があるのか。

実証すべく足を運んだのは、都内でも特にmymizuの登録スポット数が多いエリアの一つである六本木エリアと麻布エリア。

六本木エリアは、オフィスや高級マンション、六本木ヒルズや東京ミッドタウンなどの商業施設などが立ち並び、バーやクラブなども多い華やかなイメージがある一方で、美術館やアートギャラリー、緑豊かな公園などの憩いのスポットも多い。

六本木ヒルズ

毛利庭園

六本木 蔦屋書店
麻布エリアは、各国の大使館があり国際色豊かな側面と、昔ながらの商店街の下町の雰囲気も同居していて、その多様性も魅力だ。

東麻布商店街
mymizuに登録されているのも、そんなエリアごとの特色を感じられるスポットが多い。今回訪れたのは、そんな中から特に筆者が以前から気になりつつ、行ったことがなかった2店舗。六本木のベーカリー「bricolage bread & co. (ブリコラージュ ブレッド&カンパニー)」、東麻布にあるタップルーム(クラフトビアバー)「RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM(ライズアンドウィン カンパニー カミカツ タップルーム)」は、どんなお店なのだろうか。

パンのロスも”アップサイクル”でおいしく。「bricolage bread & co.」

まず訪れたのは、六本木ヒルズ・けやき坂通りにあるベーカリー「bricolage bread & co.」。朝8時、爽やかな空気を楽しみながらテラス席や店内で朝食を楽しむ人、愛犬の散歩がてらコーヒーを楽しむ人でにぎわっていた。

「bricolage bread & co.」
ここは、西麻布のフランス料理店「レフェルヴェソンス」エグゼクティブシェフの生江史伸さん、大阪のベーカリー「ル・シュクレ・クール」店主の岩永歩さん、北欧のカフェ文化を広めてきた富ヶ谷のコーヒーショップ「FUGLEN TOKYO」(富ヶ谷)代表の小島賢治さんという、3つの名店がタッグを組んで2018年に生まれたお店。

「”おいしい”を通じて、日常にある何気ないものの大切さや価値に気付いてもらえたら」と同店マネージャーの森下偉雄さん。それは、パンや料理に使っている材料、お店のデザイン、家具、設備、植物、音響など、お店を構成する一つ一つの要素を大切にしていることからも感じられる。

長野にある建築建材のリサイクルショップ「リビルディングセンター」から仕入れた木材や、福井の古民家の床を再利用するなど、店内の細部にいたるまで哲学が反映されている。マイボトルやマイカップ、マイバッグ持参で会計から10円引きになるサービスも
例えば、お店で提供されているパンは「なるべく顔の見える食材を」とすべて国産小麦というだけでなく、「生産地で直接触れた畑の香りや空気などの感覚をそのまま表現したい」と全粒粉を使用。高い栄養価や豊かな小麦の風味を楽しめるだけではなく、捨てる部分が減るので食品ロス削減にもつながっている。
さらに森下さんはこう続ける。

「どのパン屋さんも抱えている問題ですが、パンの余りや端材の廃棄はどうしても出てしまうもの。『Bricolage bread & co.』では、それらをラスクやまかないなどにして活用したり、和歌山の農家さんに送って肥料にしていただいたりしたのですが、それでも余ってしまっていたんです。そこで、長野のクラフトビール醸造所『AJBブルワリー』と協力して、シグネチャーである『ブリコラージュブレッド』の端材を使ったビールをつくることにしました。

パンの端材を使ったビール「bread」1本800円(税込)。噛むほどに旨味があふれる「いぶりがっこバトン」280円(税込)と相性抜群
ただの端材をつかった”リユース”や”リサイクル”ではなく、あくまで”アップサイクル”。『もっとおいしくする』という考え方です。結局、おいしいことじゃないと何事も続けられないですからね。
いまでは『ブリコラージュブレッド』に関してはロスがゼロになりました。このビールの売り上げの1%は、“ゴミを出さない経済循環”を提案するコミュニティ『530week』の活動費にあてられています」

ほかにも、お店で使っている食材の産地を記した全国マップが店内に置いてあったり、ストローはプラスチック製ではなくステンレス製のものを使っていたり、購入資金が何に使われたかをトラキングコードで追うことができるシアトル生まれのブランド「MiiR(ミアー)」のボトルとのコラボグッズを販売していたり。ポイントを挙げればきりがないほど。mymizuに参加しているのも、そんな想いの一環からだ。

朝食に、スライスしたブリコラージュブレッドにたっぷりのコンビーフやアボカド、とろりと黄身がこぼれる目玉焼きがのった「コンビーフエッグベネディクト」とコーヒーをゆっくりと楽しむ。

「コンビーフエッグベネディクト」1,300円(税込)。豊かな小麦の風味と、少しの酸味が絶妙な「ブリコラージュブレッド」に、沖縄にあるオールハンドメイドのシャルキュトリー専門店「TESIO」のコーンビーフなどの具材をたっぷり。
帰りに店員さんに給水(浄水)をお願いし、お店を後にした。

”ごみゼロ運動”を体現する「RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM」

六本木ヒルズ内にある森美術館や毛利庭園、六本木 蔦屋書店などでゆっくり過ごしていると、12時に。麻布方面に向かい、下町の情緒あふれる東麻布商店街などを通りすぎて歩くこと30分ほどで、東京タワーのふもとにある「RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM」にたどり着いた。給水した水はこの間で底をつき、給水してもらいがてら、クラフトビールを楽しむことにした。

「RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM」
昼間だったが、休日ということもあって店内はお客さんでいっぱい。子どもやペットと一緒に訪れている人も多い。友人や家族同士で、またカウンターに座っている人は店員さんとのおしゃべりを楽しんでいた。

このお店は、徳島県上勝町にあるマイクロ・ブリュワリー「RISE & WIN Brewing Co.」の直営店。上勝町は山間部にあり、過疎化、高齢化が深刻化している一方で、ごみゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」をしていることでも知られている。「RISE & WIN Brewing Co.」も、そのごみゼロ運動を体現している。しかし、本店は徳島市内から車で45分かかり、発信力が課題。フィロソフィーの発信拠点として2016年に誕生したのが、東麻布の直営店だ。


上勝町で壊された古民家の建材などを活用した店内

自然豊かな上勝町の写真も飾られている
同店の店長、谷口貴将さんはこう話す。

「クラフトビールや料理には、徳島ゆかりの食材を使っていますが、ここも”ごみゼロ”を心がけています。例えば、上勝町の特産品である柑橘『柚香(ゆこう)』を使った『KAMIKAZ LEUVEN WHITE(上勝ルーヴェン・ホワイト)』。柚香はポン酢の原材料として果汁だけが使われていて皮は廃棄されてしまうのですが、それを農家さんから仕入れて香り付けとして利用しています。『ポータースタウト』は規格外というだけで食べられるのに捨てられてしまっていた鳴門金時を使用しています。料理にも、規格外の野菜を使ったり、捨てられてしまうような肉の部位もダシをとるために使ったりしていますよ」。

「KAMIKAZ LEUVEN WHITE」は口に含むと、柚香の爽やかな香りが鼻を抜け、さっぱりと楽しめる1杯。サクサク食感が爽快な徳島人のソウルフード「徳島フィッシュカツ」550円(税込)をおつまみに
食材を余すことなく活用しているだけでなく、その販売スタイルも特徴的だ。

「ビールは専用ボトル(グロウラー)に詰めて持ち帰ることもできます。社長がポートランド(アメリカ)に通っていた時に、好きなビールを好きな分だけ量り売りしてもらえるこのスタイルのことを知り、上勝の”ごみゼロ運動”に通じるものを感じて取り入れました。
いまでは日本でも随分浸透してきましたが、お店をオープンした当時はまだ珍しいものでした。上勝の本店には車でないと行くことが難しいので、お客さんの4、5割は1Lボトルを持ってテイクアウトしています。東麻布のこちらのお店ではボトルが手荷物になることもあって、まだ利用者は少ないんですけれどね」。

クラフトビールは全8種。1/2Pint(290ml)750円(税込)〜。テイクアウトは100ml 200円(税込)〜。オリジナルボトル(1L)2,000円(税込)ほか、持参したボトルも使用可
そんなストーリーを聞きながら、少し離れた上勝町に思いを馳せた。給水してもらった水(水道水)と一緒に、1Lボトルに詰めてもらった「ルーヴェン・ホワイト」をテイクアウト。家に帰ったら、またゆっくり楽しむことにしよう。

給水をきっかけに、”サステナブル”なお店に出合えた

「mymizu」に登録しているこの2店舗は、ただ給水サービスをしているだけでなく、「街をもっとよくしたい」「社会をもっと素敵にしたい」という想いがあった。”おいしい”のなかに込められたたくさんの想いを知ることで、味わいや香り、お店の空間などの五感すべてが違ったものに感じられた。

ほかのスポットも、それぞれの想いとストーリーが少なからずあるのではないだろうか。東京、特に六本木や麻布エリアは飲食店や商業施設の激戦区。どこに行こうか迷いがちだが、「mymizu」の登録スポットというフィルターをかけてみると、いつもと違った思いがけない出合いが待っているかもしれない。

探検の終着点は芝公園。ここで一休みしながら最後の水分補給
今回紹介した2スポット以外にも、六本木・麻布エリアにはまだまだたくさんの給水スポットがある。ウォーキングやジョギングで運動がてら、街の”サステナブル”を発見する探検に出てみては。

mymizu

公式サイト:https://www.mymizu.co/


bricolage bread & co.

東京都港区六本木6丁目15-1 けやき坂テラス1F
電話番号:03-6804-3350
営業時間:火曜〜木曜7:00-19:00、金曜7:00-20:00、土・日曜8:00-20:00
月曜定休

公式サイト:https://bricolagebread.com/

RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM

東京都港区東麻布1丁目4-2 1F THE WORKERS & CO
電話番号:03-6441-3800
営業時間:12:00~15:00、17:00~23:00 土・日・祝12:00~23:00
無休

公式サイト:https://www.kamikatz.jp/ja/taproom