風鈴の音色や、うちわを扇いで呼び込んだゆるやかな風。日本に古くから伝わる五感で感じる夏の涼を、今年は食卓にも取り入れてみてはどうだろう。選ぶのは夏に映える、美しくも繊細で個性豊かなガラスの器たち。料理を盛り付ければ、ガラスの器と食材の色彩や質感が織りなす夏の風景が広がるはずだ。自分らしい感性を活かしながら、この季節に味わえる贅沢なワンシーンを描いてみたい。
この夏に選ぶ器は、使いやすさから少し離れて
器が好きな人にとって、お気に入りのお皿やグラスを使うのは暮らしの中の大きな楽しみのひとつ。食器は素材やサイズ、そしてデザインなど多種多様な選択肢があり、メニューに合わせてテーブルコーディネートを考えれば、日々の食卓をより豊かなものにしてくれる。
そんな器の素材の中で、最もハードルが高く感じられるのは、「ガラス素材」かもしれない。飲み物用のグラスはもちろん、小皿や小鉢など小さな副菜を盛る器は既に多くの人が取り入れているに違いない。だがガラス素材を使ったメイン用の器やスープ用の深皿などは、食器が好きな人にとっても迎え入れるのを少々躊躇してしまうことがあるはずだ。
ガラス素材の美しさはその繊細さにあるのだが、その美点がメイン用や深皿となると、逆に気になる点となってくる。「壊れそうで、大きめの器を使うのが怖い」「耐熱仕様でないと、温かい料理を盛り付けられない」などの理由から、ガラスではなく陶磁器を選ぶ方も多いだろう。
しかしガラスの器が放つ透明感は、見る人に水や氷のような涼しさをもたらしてくれる。また、ガラス素材は食材の色彩をより鮮やかに見せるため、見慣れたメニューでも涼やかな特別感をまとい始める。冷たい料理が増える夏は、ガラスの器の魅力を最大限に引き出せる絶好の季節と言えるだろう。
これまで「季節や食材を問わず使える汎用性の高さ」を優先していた食卓に、今年はガラスの器を「夏に味わう贅沢」として取り入れてみたい。丁寧に扱い、慈しむことで、涼を目で味わうひとときはこれまでにないラグジュアリーな体験となるだろう。
料理を引き立てる器を選んで
ガラスの器選びでまず迷ったのが、そのデザインだ。最初は「どんな食材にも合うシンプルなものを」と、主張が控えめなものを探していたが、「夏の贅沢」と思うと、少し冒険してみたくなる。この季節に映える、光の屈折や質感に個性があるものに挑戦したくなったのだ。
そしてもうひとつ、悩ましかったのが「サイズ感」。メイン料理といえば24cm以上ある大皿やボウルをイメージしがちだが、1人前の主菜やスープなどを盛るなら、15cm〜24cmほどの手頃な大きさが一番使い勝手が良いはずだ。大きすぎず、かといって小さすぎない適度な深さや広がりのあるサイズ感が、料理を一番美しく見せてくれる。
個性が強い器は食材を選びがちで、なおかつ盛り付けが難しいと思われそうだが、それらに料理を盛り付けることで完成する、アートのような側面を持っている。ガラス素材独自の透明感があるために、器本体の主張が載せた料理と喧嘩することなく、器のフォルムやガラスの表情が料理を輝かせるフレームの役割を果たしてくれるのだ。
手の込んだ料理でなくても良い。シンプルな調理法のメニューを盛り付けるだけで、そこに華やかな立体感が生まれる。オリジナリティあふれるガラスの器が、夏の食卓に美しい風景を描く手助けをしてくれるのを、きっと実感できるだろう。
スタートは手軽なメニューから。盛り付けて完成する夏の一品
ガラスの器を初めて使う時はちょっぴり緊張するもの。まずは背伸びをしない手軽なレシピからスタートしてみたい。たとえばスーパーで買い求めたパックのお刺身は、これまでは陶器のお皿に移し替えていたが、これを泡ガラスの独自のフォルムを持つ器に盛ってみる。
印象的な歪みを持つこの器は、それだけで絵になるシーンを描いてくれるが、中に食材を入れることで、その個性がより際立つ。不均一なかたちだからこそ生まれるニュアンスのある風情で、移し替えるだけという手軽なメニューも涼やかで美しい、お酒の似合う一品に生まれ変わった。
そして夏の定番料理とも言える冷製パスタ。冷水で締めたパスタに出来合いのソースに絡めたり、またサラダ仕立てにしても美味しい。これを器の中央が深くなった形状のものに合わせてみた。
シンプルなデザインだが、器の表面に施された波のようなテクスチャーが美しく、食材の色合いを引き立ててくれる。シャープな印象になりがちなガラス素材でも、この器が持つ丸みのある柔らかさが、食卓に心地良い和らぎをもたらしてくれた。
そして食欲のない時でも食べられる、軽やかなキュウリと卵のサンドウィッチ。食べやすいように小さくカットし、サラダと一緒にフラットなガラスの器に合わせてみた。
イエローのカラーがアクセントとなった器は、それだけで清涼感あふれる印象で、そこにグリーンとイエロー、ホワイトの色彩を持つサンドウィッチを盛り付けると、いつもよりぐっと美味しそうなヴィジュアルに。冷たいアイスティーを添えれば、夏のブランチが華やかに変化するだろう。
色彩と質感を意識して。ガラス素材が活きるメニューを食卓に
ガラスの器の取り扱いに慣れてきたら、今度は調理や盛り付け、食材の組み合わせに少し趣向を凝らしてみたい。テーブルの主役になるほどの存在感を持つ器をどのように活かすか、どんな色合いの食材が似合うのかを考えるのは、想像力を刺激する楽しい作業だ。
まずは夏が旬の枝豆を使って冷製ポタージュを作ってみた。泡ガラスの器に盛って、最後にクリームを注いで色合いと味のアクセントに。瑞々しいグリーンの色彩がガラスに映え、夏のテーブルを鮮やかに、美しく彩ってくれる。
そして普段は温かく食べるリゾットを夏らしく冷製に仕立て、イカ墨ソースで和えてみた。トップにはフレッシュなホタテを盛り、その味を引き立てるバジルを添える。ガラスに透ける黒の色彩がホタテの白、バジルの緑と絶妙なコントラストを描き、食べる前から視覚で楽しめる一品となった。
そしてゲストを招いた際にも重宝するのが、手毬寿司だ。ラップに好きな具材を置いたところに酢飯を重ね、ラップごと丸めておく。好みの分量がすべて完成したらラップを外し、フラットな皿に盛り付ければ、見た目も華やかな手毬寿司のできあがり。夏の夜を少し豪華に過ごしたい時にも、大切な人と一緒に語らう際にも似合うメニューとなるだろう。
器がもたらす夏の涼を感じて
暑さが厳しい日本では、古くから五感を研ぎ澄まして涼を感じてきた。軽やかに鳴る風鈴の音、よしずやすだれ越しに通り抜ける風、朝夕の打ち水、シャキッとした浴衣の肌触り。どれもささやかではあるが、夏の思い出として記憶に残る感覚を私たちに与えてくれた。
それに倣って今年の夏は、ガラスの器で食卓に涼をもたらしてみたい。1年のうちで冷たい料理が多く登場する夏にこそ、食材が涼やかに映える、とっておきのガラスの器を見つけてみよう。
凝った料理を作る必要はなく、最初は今まで通りの夏の定番メニューから。ガラスの器が描いてくれる涼しげな景色を味わったら、次は少しだけ手をかけて、色彩を考慮しながら、器と食材のコントラストを楽しんでみる。
お気に入りのガラスの器に似合うメニューを選び、盛り付けを考えるのは、この季節ならではの特別な時間。自分のために美しく食卓をコーディネートしてみれば、そこには夏だからこそ味わえる「涼を感じる食卓」という、忘れがたい風景が広がっているはずだ。
CURATION BY
31年間暮らした英国から日本へ。海と山と川に囲まれた、小さな村での暮らしが始まりました。