Vol.627

MONO

18 FEB 2025

ホテルライクな食卓へ。ヨーロッパの名門磁器で美しい時間を

私がコツコツ集めている、磁器の食器たち。透明感や清潔感を感じるものが好きな筆者にとって、磁器はたまらない魅力を放っている。さらに私が現在暮らしているフランスの蚤の市を歩いていると、さまざまなヴィンテージの磁器類に出会え、その歴史の深さと工房のこだわりの数々には感服するばかりだ。質の良いものを購入すると、つい棚にしまっておきたくなるけれど、重すぎない上に丈夫な磁器製品は、日常で使いやすいのも魅力的な点。今回は、私がヨーロッパで出会った磁器たちをご紹介したい。

使い勝手もデザインも魅力的。磁器を集めはじめたきっかけ

筆者が持っている磁器の食器たち
新生活をはじめたばかりの頃、きっと誰もが自分だけの城を作りたいと、こだわりの家具や食器を揃えることを夢見るはず。私もその例に漏れなかった。初めて自分で稼げるようになり、好きなものを好きなだけ買えるという自由を得たことで生まれた高揚感と、一生懸命働いて得たお金だからこそ、ずっと大切にできるものを買いたいという、今思えば多少暑苦しい意気込みを抱え、週末はインテリアショップやヴィンテージ雑貨の店を見て回っていた。

そんな私が最初に憧れたのは、作家が作った陶器の器だった。人の手だからこそ生み出せる揺らぎが生み出す温もりは、飽き性な私の心に「物を大切にしよう」という想いを芽生えさせてくれそうな気がしたし、一点ものとの出会いという「縁」も、何か特別なものを感じさせたのだ。

けれど食器棚から皿を取り出し、盛り付け、テーブルに運び、洗うという、何気ない日常の中で、私には陶器の重たさが少しずつ負担になっていった。楽な方へ楽な方へと流されたくないという思いもあるけれど、どこまでもつづいてゆく生活というものは、気づかない間に鈍い疲労感を蓄積させてゆく。そしていつの間にか、食器も洋服も、最初の頃の淡く瑞々しい憧れはどこかへと消え、使いやすいものばかり手に取るようになってしまっていた。食器棚の中で眠ったままになっている陶器の器たちを見たときに、自分のキャパと向き合わなければいけない日が来たと感じたのである。

こうした経験を経て、30歳を過ぎた頃、一度すべての持ち物を見直した。ただの憧れで買ってしまったけれど私の体の大きさには合っていなかったブランド物の椅子や、間に合わせで買った収納用の家具なんかを、さまざまな人に譲り渡し、売り渡し、今一度自分に相応しいものとはどんな物なのか、考え直そうと思ったのだ。

ドイツのデザイン学校併設のカフェに飾ってあった器。理想のものに出会いたくて、この当時はあちこちで情報収集をしていた
こうして一度リセットしたときに自然と目に入ってきたのが、エヴァ・ザイゼルというアメリカのプロダクトデザイナーが生み出した器だった。彼女がデザインした皿たちは、工業製品でありがちな画一的で冷たい印象はなく、とてもポエティックで美しい佇まいをしていたのである。試しに一枚購入し、サラダやスープやチャーハンなんていう何気ない料理を盛り付け、そして片付ける、という日々を繰り返した。そうしたら、磁器はとても軽くて扱いやすく、さらに丈夫だからお皿を洗うときもとても気がラクだったのである。私にはこういう使い心地のものが合っている、そう思えた。

そこからお皿はなるべく磁器のものにしようと決め、例えば滞在したホテルなどで、コーヒー用のカップの裏に書かれたマークを、こっそりとチェックするようになった。

拭いたら流しの横の棚へ。洗うときも軽くてラク

蚤の市で出会ったヨーロッパの磁器たち

フランスのヴィンテージショップのウィンドウ。見ているだけで楽しい
さらに磁器の魅力に気づくきっかけをくれたのは、フランスの蚤の市で偶然見つけたLimoges(リモージュ)のお皿だった。

ある日、蚤の市で掘り出しものがないか物色していると、段ボールに詰められたままの皿たちを見つけたのである。手に取って見てみると、皿にはぽわっと光源でも隠れているのかと思わせるようななんとも言えない透明感があり、すっかりその美しさに惹かれてしまった。

蚤の市にはいつもたくさんの皿が並んでいる
購入して家に帰って裏側のマークを見てみると、Limogesと書かれたスタンプが目に留まった。日本生まれの私でも聞いたことがある名前だったために興味が湧き、ここからヨーロッパの磁器をよく見て回るようになったのだ。

ヨーロッパにはイギリスのウェッジウッドやドイツのマイセン、デンマークのロイヤル・コペンハーゲンなど、世界的に名前を知られている磁器のメーカーがいくつもある。その中でも、今回は筆者が持っているLimogesと、ベルリン王立磁器製陶所についてご紹介したいと思う。

初めて購入したLimogesの器

ため息がでる透明感、Limogesの器

透明感のある白と薄さが気に入っている
Limogesとは、メーカーの名前ではなく、産地の名前だ。地域名を冠した磁器の総称で、Limogesで作られている製品をこう呼ぶ。日本の有田焼などのようなものと考えていただけたら、理解がしやすいかもしれない。どうしてこの地域で磁器の生産が盛んになったのかというと、磁器を作るのに必要なカオリン(白土)という粘土が採れるからである。

磁器は元々中国で発明されたが、ヨーロッパでは1708年にこのカオリンが見つかったのを契機にドイツのマイセンが制作に成功。その後1768年にリモージュの南約40kmのサンティリュー・ラペルシュでカオリンが発見されて以来、フランス国内にも工場が建てられた。そして万博への出品をきっかけに、アメリカへの販路を拡大。透明感溢れる白さと繊細な絵付けで、世界的に認められる製品となったのだ。

歴史ある、ベルリン王立磁器製陶所

優雅で繊細な持ち手の形に惹かれたカップ
ベルリン王立磁器製陶所も、1763年にフリードリヒ2世によって設立されたたいへん歴史のあるメーカーだ。日本でも有名なマイセンやアウグスブルクなどが含まれる、ドイツ主要7窯の1つに数えられている。

私が持っているものはシンプルなデザインだが、手作業による美しい絵付けや繊細な彫刻が施されたものが多く、今日まで王室御用達の一流品として認められてきた。長い時間をかけて育まれてきた技術は今でも継承され、現在もほとんどが職人の手作業によって作られているそうだ。

まるでホテルのような、背筋が少し伸びる食卓へ

ホテルのようなテーブルコーディネートを目指して
自分の家の食卓をどんなものにしたいか想像を膨らませたときに、私の頭に自然と浮かんできたのはホテルのようなテーブルだった。ホテルで食べる朝食は、なぜあぁも魅力的なのだろう。オムレツにサラダにパンやハムなんていう何気ないメニューにも関わらず、ものすごく豊たかさを感じさせる。

そんなホテルの朝食のような雰囲気を、磁器の食器たちは作り出してくれる。表面の艶や透明感のある白さは、食卓に清潔で上品な印象をもたらし、瑞々しい気持ちの良い空間を作り出してくれるのだ。少しだけ生まれる背筋が伸びる緊張感も、とても心地が良い。

扱いやすいから生活に無理なく馴染み、まるでホテルのような雰囲気を作ってくれるヨーロッパの名門磁器。新しく生み出された製品の中から探すのも良いけれど、自分だけの琴線にふれるヴィンテージをゆっくり探す体験を味わうのもおすすめだ。探す時間も使う時間も心に潤いをくれる磁器の食器を、ぜひみなさんも手に取ってみてはいかがだろうか。