使い勝手もデザインも魅力的。磁器を集めはじめたきっかけ
そんな私が最初に憧れたのは、作家が作った陶器の器だった。人の手だからこそ生み出せる揺らぎが生み出す温もりは、飽き性な私の心に「物を大切にしよう」という想いを芽生えさせてくれそうな気がしたし、一点ものとの出会いという「縁」も、何か特別なものを感じさせたのだ。
けれど食器棚から皿を取り出し、盛り付け、テーブルに運び、洗うという、何気ない日常の中で、私には陶器の重たさが少しずつ負担になっていった。楽な方へ楽な方へと流されたくないという思いもあるけれど、どこまでもつづいてゆく生活というものは、気づかない間に鈍い疲労感を蓄積させてゆく。そしていつの間にか、食器も洋服も、最初の頃の淡く瑞々しい憧れはどこかへと消え、使いやすいものばかり手に取るようになってしまっていた。食器棚の中で眠ったままになっている陶器の器たちを見たときに、自分のキャパと向き合わなければいけない日が来たと感じたのである。
こうした経験を経て、30歳を過ぎた頃、一度すべての持ち物を見直した。ただの憧れで買ってしまったけれど私の体の大きさには合っていなかったブランド物の椅子や、間に合わせで買った収納用の家具なんかを、さまざまな人に譲り渡し、売り渡し、今一度自分に相応しいものとはどんな物なのか、考え直そうと思ったのだ。
そこからお皿はなるべく磁器のものにしようと決め、例えば滞在したホテルなどで、コーヒー用のカップの裏に書かれたマークを、こっそりとチェックするようになった。
蚤の市で出会ったヨーロッパの磁器たち
ある日、蚤の市で掘り出しものがないか物色していると、段ボールに詰められたままの皿たちを見つけたのである。手に取って見てみると、皿にはぽわっと光源でも隠れているのかと思わせるようななんとも言えない透明感があり、すっかりその美しさに惹かれてしまった。
ヨーロッパにはイギリスのウェッジウッドやドイツのマイセン、デンマークのロイヤル・コペンハーゲンなど、世界的に名前を知られている磁器のメーカーがいくつもある。その中でも、今回は筆者が持っているLimogesと、ベルリン王立磁器製陶所についてご紹介したいと思う。
ため息がでる透明感、Limogesの器
磁器は元々中国で発明されたが、ヨーロッパでは1708年にこのカオリンが見つかったのを契機にドイツのマイセンが制作に成功。その後1768年にリモージュの南約40kmのサンティリュー・ラペルシュでカオリンが発見されて以来、フランス国内にも工場が建てられた。そして万博への出品をきっかけに、アメリカへの販路を拡大。透明感溢れる白さと繊細な絵付けで、世界的に認められる製品となったのだ。
歴史ある、ベルリン王立磁器製陶所
私が持っているものはシンプルなデザインだが、手作業による美しい絵付けや繊細な彫刻が施されたものが多く、今日まで王室御用達の一流品として認められてきた。長い時間をかけて育まれてきた技術は今でも継承され、現在もほとんどが職人の手作業によって作られているそうだ。
まるでホテルのような、背筋が少し伸びる食卓へ
そんなホテルの朝食のような雰囲気を、磁器の食器たちは作り出してくれる。表面の艶や透明感のある白さは、食卓に清潔で上品な印象をもたらし、瑞々しい気持ちの良い空間を作り出してくれるのだ。少しだけ生まれる背筋が伸びる緊張感も、とても心地が良い。
扱いやすいから生活に無理なく馴染み、まるでホテルのような雰囲気を作ってくれるヨーロッパの名門磁器。新しく生み出された製品の中から探すのも良いけれど、自分だけの琴線にふれるヴィンテージをゆっくり探す体験を味わうのもおすすめだ。探す時間も使う時間も心に潤いをくれる磁器の食器を、ぜひみなさんも手に取ってみてはいかがだろうか。
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