節目節目で、お世話になった人や好きな人に手紙を書くようにしている。想いを伝えることは、ともすれば長い独り言かもしれない。けれど、それでも「書く」という行為は、関係のおわりや移ろいを感じとった繊細な心持ちを優しく整えてくれるように思う。インクのにじみや紙をめくる音は、デジタルでは決して味わえない身体感覚を伴って心に残る。そんな情緒を大切にしたい時間に、私が選びたくなるのが紙の専門商社・株式会社竹尾のオリジナルステーショナリーブランド「Dressco(ドレスコ)」だ。今回は、このブランドとペーパーアイテムの魅力を紹介したい。
紙の専門商社・竹尾
ドレスコを作っているのは、株式会社竹尾。1899年に創業した紙の専門商社だ。色や風合い、豊かな素材感を持つ「ファインペーパー」の開発と提供を通じ、紙の発展に寄与してきた企業である。国内外の製紙会社と連携し先端技術を取り入れるとともに、多くのデザイナーと協働し、クリエイティビティを刺激する紙を生み出している。
さらに紙の魅力を広める活動の一環として運営しているのが見本帖。「見本帖本店」や「青山見本帖」「淀屋橋見本帖」「福岡見本帖」などの拠点があり、これらは紙を実際に手に取り、色や質感を体感できるスペースだ。デザイナーやクリエイター、印刷関係者をはじめ、私のように趣味で紙を選びたい人も肩肘はらずに楽しめる空間が広がっている。
竹尾のオリジナルブランド・ドレスコ
そんな株式会社竹尾が手がけるオリジナルステーショナリーブランドが「ドレスコ」である。「紙をもっと身近に感じていただきたい」という思いから誕生し、封筒やカード、レターセット、ノートなど多彩なアイテムを展開している。特徴は、紙ならではの豊かな色合いや手触りを日常に取り入れられる点にあり、まるで服をまとうように紙を楽しむことを提案している。「ドレスのように。ドレスと一緒に。」というコンセプトのもと、紙の質感やデザインを活かしたステーショナリーを通じ、日々の暮らしに上質なアクセントを添えるブランドだ。
ちなみにドレスコのマークは羽を広げた孔雀。このブランドのコンセプトである「魅せるステーショナリー」を表現している。
私がこの紙と出会ったのは、まさに見本帖本店を訪れたとき。今までに味わったことのないような紙の面白さに触れられる空間に胸をときめかせ、「せっかくだから何か欲しいな」と思った心にすっと入ってきたのがドレスコのオニオンスキンノートブックだった。
愛しのオニオンペーパー
私がドレスコと出会ったのは、見本帖本店を訪れたとき。棚に並んだノートに心を奪われた。特に惹かれたのは「オニオンスキンノートブック コスモス」。私が幼い頃から好きな鮮やかなショッキングピンクの表紙だったのだ。
ページをめくってさらに驚いたのは、その中身の紙の質感だ。薄く繊細な紙が波打っているかのようだった。粗い質感の紙はこれまでにも見たことがあったけれど、こうした詩的な揺らぎをもつ紙には初めて出会った。
オニオンスキンペーパーとは、まるで玉ねぎの薄皮のように軽く柔らかく、しわ感を伴う薄紙である。鉛筆やペン、万年筆との相性がよく、紙の質感から生まれる独特の書き味が魅力。 一見破れやすそうだが、ペンを走らせてみるとそんなことを感じさせないほど丈夫である。
歴史的には、薄くて丈夫な紙として辞書や多頁書籍、タイプライター文書、公文書、エアメールなどに広く使われてきたそうだ。
ただし、日本国内では製造装置の老朽化により 2010年に国内製造がすべて停止された。 そこで竹尾では、オニオンスキンペーパーを復活させるべく製紙会社と協働し、2020年に「ケイトジョーオニオンスキン」を復活させた。 さらに、2023年秋にはスモーキーな淡い青色の「ケイトジョーオニオンスキン ペールブルー」を、TAKEO PAPER PRODUCTS のオリジナル用紙として導入しているそうだ。
紙を楽しむレターグッズ
ノートのみならず、ドレスコはレターグッズも豊富。紙を専門とする竹尾ならではのこだわりのあるアイテムたちは、シーンや送る相手によって選ぶ楽しさをくれるとともに、書いているときも紙の質感を味わう贅沢な時間をくれる。
例えばグリーティングカードに使われているのは、色鮮やかでクラシカルかつマットな風合いを基調としたファインペーパー「グムンドカラーマット-FS」。そして封筒にはまた違う紙、パール調の淡い光沢を持つ「ぺルーラ」が使われている。
クラフトパルプを配合した素朴で力強い質感をもつファインペーパー「ビオトープGA-FS」で作られた封筒も、私のお気に入り。装飾は、細く繊細な縁取りのみ。実直さと品の良さのバランスがとても良く、かつ相手を問わず使えるシンプルなデザインだから常備しておくと重宝するのだ。
つい先日、フランスの知り合いに手紙を書いた。メールでも良かったのだけれど、どうしても誠意を伝えたい内容だったのである。相手の雰囲気を想像して封筒の色を選ぶ時間、そしてペンを走らせる時間は、私の中の相手への敬意の念も育んだように思う。
その際に使用したのが、細かな染色繊維がブレンドされたファインペーパー「ジャンフェルト」。送った相手は年配の男性で、その方の柔らかで包容力のある雰囲気に合わせ灰桜という名の、少しくすんだピンク色の封筒を選んだ。
手紙を書いて過ごす時間の尊さ
フランスへの手紙は、たったの140円で送れるという。けれども届くまで2週間もかかるそうだ。そこからさらに相手が私の手紙を読み、連絡をくれる時間を思うと、1日以内には返信を返すという社会の暗黙のルールの中で暮らしている私としては、途方もない時間のように思えてくる。
けれども海を越えて一通の手紙が届くこと、つまり私が綴った言葉や想いがはるばる2週間もの時間をかけて相手に届く「待つ時間」の中には、メールでは得ることのできないロマンがあるように思うのだ。
あえて時間をかけることで、育まれる感性や気持ち、そして物事のタイミングというものがあるはず。速さや効率が重宝される社会だけれど、たまには、相手を思って封筒の色を選び、紙の質感を感じながらペンを走らせる時間があっても良いのではないだろうか。
竹尾の紙に出会い、ドレスコのステーショナリーを手にしたことで、私は「紙と過ごす時間」がこんなにも豊かなものなのだと改めて感じた。ペンを走らせ、指先で紙の揺らぎを確かめながら綴る言葉は、いつしか自分の心そのもののような気がしてくる。
速さや便利さの中で失われがちな「情緒」を思い出させてくれるドレスコ。これからも人生の節目節目に、この紙とともに手紙を書いていきたい。
Dressco|竹尾
CURATION BY
東京都出身。フリーの編集・ライター。フランスと日本を行ったり来たりの生活をしている。