ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2022年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞に輝いた、株式会社中川政七商店の「花ふきん」を紹介する。創業300年を超える老舗が生み出したロングセラー商品の魅力に迫った。
使うほどに手になじみ、用途が広がる大判のふきん
58cm四方の大判で、たたむと厚みが出て水分をたっぷり吸い、広げると薄手で乾きやすい——。「花ふきん」は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店のロングセラー商品の一つだ。
機能的で長く使えるとして人気があり、2025年で発売から30周年を迎える。「花ふきん」単体で累計460万枚を売り上げており、一回り小さいサイズの「かや織ふきん」も合わせると、その数は2,100万枚にものぼる。
「かや織」は、中川政七商店の創業地である奈良県で、古くから盛んに行われてきた工芸の技法だ。昭和初期までは、寝床に蚊よけとして吊るす蚊帳が暮らしの定番であり、奈良はその一大産地として知られていた。しかし昭和の後半になると、網戸やエアコンが普及し始め、蚊帳の需要は次第に減少していく。
そんな中で、「この技術を絶やしてしまうのはもったいない」と考え、蚊帳の吸水性や速乾性に着目し、ふきんとしての活用を決めたのだ。薄くて目の粗い織物である蚊帳に使われる生地を、二枚重ねて仕立てたものが「花ふきん」である。
使い始めはノリがついているため、少しパリッとした感じがする。彩り豊かで華やかだから、水仕事で使う前にも、カゴの目隠しやお弁当包みなど、大判布として幅広く使える。ノリを落として柔らかくなった後は、お皿拭きはもちろん、蒸し布や茶巾として、またお皿や野菜を洗った後の水切り布としても活躍する。さらに、使い込んでくたくたになれば台ふきんとして使い、最後は雑巾にして役目を終える。
発売から30年の間にラインナップは更新されてきたものの、「花ふきん」の本質は変わらない。シンプルで機能的だからこそ飽きることがなく、自分用にも贈り物にも選ばれ続けている。
二度目のグッドデザイン賞!伝統素材を現代の暮らしに合わせて再提案
「花ふきん」は、2022年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。ロングライフデザイン賞は、原則として10年以上にわたり継続的に生産・販売されていることが条件となる。「長年にわたり機能と価値が広く認められ、将来においてもそれらを発揮し続けることが望まれるデザイン」が表彰の対象だ。
審査員からは、伝統素材の蚊帳生地を活かし、現代の暮らしに合う形で提案することで地域の特産品を守った点や、丈夫で長く使える機能性、そして最後まで大切に使うというメッセージ性が評価された。
実は「花ふきん」がグッドデザイン賞を受賞するのは二度目だ。初めての受賞は2008年の金賞で、1995年の発売から10数年が経ち、口コミで評判が広がっていた頃だった。すでに看板商品になりつつあったが、改めてその魅力を整理し、より多くの人に伝えるために応募したという。当時のグッドデザイン賞では、ロボットやテクノロジーなどプロダクトデザインが受賞の多くを占める中で、日用品が選ばれたのは快挙だった。
2022年の応募は、発売からおよそ30年を経て、「花ふきん」が長く使える商品として広く知られるようになったことに加え、ストールやバスマット、おくるみなど、かや織を使った商品展開が広がってきたことも背景にあった。改めて「花ふきん」の価値を多くの人に届けたいという思いから、再び応募を決めたのだ。
グッドデザイン・ロングライフデザイン賞の受賞は、「花ふきん」が長年にわたり、多くの人に愛され続けてきた価値を物語っている。
手仕事の風合いを守るため、挑戦を続ける
中川政七商店の創業は、300年以上も昔の1716年のことだ。当時は奈良の一大産業であった奈良晒(ならざらし)の卸問屋として、その歴史の幕を開けた。奈良晒とは、江戸時代に徳川幕府の御用品に指定され、その名が全国に広まった高級麻織物のことだ。
奈良晒は、手で糸を作る「手績み(てうみ)」、そして手機で織りあげる「手織り」と、すべての工程を人の手で行う上質品で、当時は主に武士の裃(かみしも)、僧侶の法衣、そして茶巾などに使われていた。ところが明治時代に入ると、主要な顧客であった武士がいなくなり、需要は激減し、多くの同業者が廃業に追い込まれた。
そんな中、中川政七商店は新たな商品開発に乗り出した。風呂上がりの汗取りや産着などを開発し、汗取りは皇室御用達にも選ばれた。創業当時から大切にしているのは、「手仕事から生まれる独特な風合いを守る」という信念だ。大正時代には自社工場を建設し、つくり手の雇用を確保しながら、産業と人材を守り続けた。
生産拠点や業態を柔軟に変える先見の明も、中川政七商店が長く続く理由の一つだ。人件費の高騰や職人の高齢化が進み、国内での生産が厳しくなると、昔ながらの製法を守るために、生産拠点を韓国や中国に移すことで「手績み手織りの麻織物」をつなげてきた。さらに昭和の終わりには、自社店舗を持ち、小売業を開始。2000年代には、企画・製造から販売まで一貫して手がける製造小売業を業界に先駆けて取り入れた。
近年では、製造小売業にとどまらず、産地支援事業として全国の工芸メーカーへのコンサルティングや教育講座にも取り組んでいる。また、自社が培ってきたノウハウを活かし、経営支援に加え、流通支援の一環として合同展示会やデザインアワードの開催も手がけている。
30周年記念の特別モデルは“アートになるふきん”
通常の「花ふきん」は、桜や水仙、若葉など、季節の花の色に見立てて染められた無地のものだ。かつてのふきんは真っ白なものが多かったが、「台所や食卓に彩りを添えたい」という思いから、花の色をモチーフにした商品が生まれた。
30周年を記念してつくられた限定商品は、定番商品とは少し趣向が異なる。長年愛用してくれている使い手や、製造に携わるつくり手への感謝の気持ちを込め、心も華やぐ“アートになるふきん”に仕上げた。水彩画で描いた季節の花をプリントし、鹿の絵をあしらっている。ふきんとして使うというよりも、壁に掛けたりして、アートのように使ってもらえたら嬉しいという。
限定商品は、「春の花」をはじめとする四季の花と、「寿の花」を加えた全5種類ある。それぞれ異なる色合いと花の絵柄が楽しめるので、全色を揃えて、季節ごとに使い分けてみるのも楽しそうだ。
日本の工芸を未来へつなぐ物語を、暮らしの中で感じて
中川政七商店は、「目標達成にはこだわるが、既存のやり方にはとらわれない」という姿勢で、新しい製造方法や経営手法、考え方を積極的に取り入れてきた。取材を通してその変遷と、背景にある思いを伺い、長寿企業ならではの柔軟さや決断力を垣間見た気がした。
「花ふきん」には、中川政七商店のモノづくりにおける考え方が色濃く反映されている。ブランドと同様に、この商品が長年愛され続ける理由も、そこにあるのかもしれない。
そんな「花ふきん」はオンラインショップのほか、奈良本店、福岡天神店、渋谷店といった3つの旗艦店をはじめ、全国各地の百貨店や商業施設に入居する店舗でも購入できる。足を運べる方は、ぜひ店舗を訪れてみてほしい。全国の約800のつくり手と協業し、社内のデザイナーが手がけた数々の商品が店頭に並ぶのを見ることができる。
取り扱い点数が最も多い渋谷店は「日本の工芸の入り口」をコンセプトにしており、自社商品以外にも全国の工芸メーカーから仕入れた商品が多数揃う。常時約4,000点もの商品が並び、実演やワークショップも毎月のように開催されているそうだ。工芸にまず触れてみたいという方にもぴったりの場所である。
さまざまな形で日本の工芸を未来へつなぐ中川政七商店。その取り組みに、私たちも使い手として参加してみるのも良いのではないだろうか。
取材協力:株式会社中川政七商店 コミュニケーションデザイン室室長 佐藤 菜摘さん
中川政七商店|花ふきん
「ZOOM」シリーズのご紹介
トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。
2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。
トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番
トーシンパートナーズ|ZOOM広尾
CURATION BY
料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。