Vol.693

MONO

07 OCT 2025

無印良品「敏感肌用シリーズ」リニューアル——シンプルで洗練された“らしさ”の秘密

ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年に「グッドデザイン・ベスト100」に選出された、株式会社良品計画が展開する無印良品のスキンケア「敏感肌用シリーズ」を紹介する。シンプルなのに、一目で無印良品と分かり、洗練されている。自然と暮らしが整う——その秘密を掘り下げ、無印良品らしさの背景を探ってみた。

成分もボトルも、素材から生まれ変わった

無印良品でアイテムを揃えておけば安心——そう感じる人も少なくないだろう。新生活のスタートに、無印良品で日用品や家具を揃えた経験がある人も多いはずだ。

幅広い年代の人々に暮らしの定番として親しまれてきた無印良品は、回収した衣料品をリユースして販売するなど、環境に配慮しながら暮らしのあり方を見直す提案を続けてきた。時代にあわせて新しい取り組みを続ける一方で、長年愛されてきた定番商品の見直しにも力を入れている。

今回紹介する「敏感肌用シリーズ」もそのひとつ。無印良品のスキンケアの中でも20年以上続くロングセラー商品だが、2023年に全面リニューアルが行われた。

豊富なアイテムが揃う「スキンケア 敏感肌用シリーズ」を、成分もボトルも全てリニューアル
大きく変わったのは、成分とボトルだ。まず成分は、すべてを天然由来へと切り替え、天然由来成分(※)100%を実現した。その過程では、従来使用していた成分が使えなくなったり、新しい成分の導入によって使用感が変わったりと、悩まされることも多かったという。ロングセラーのリニューアルには、新商品開発とは異なる難しさがある。これまで愛用してきたユーザーの期待を裏切らず、従来品以上の仕上がりを目指して試行錯誤が繰り返された。

忙しい時はこれ1本で。ミニサイズのオールインワンジェルは、旅行にも連れて行きたいアイテム
また、成分の変更に合わせ、ボトルも100%再生プラスチック(PET素材)を使用したリサイクルボトルへと刷新された。自然な風合いの「生成り色」は、熱を加えると黄変する再生プラスチックの特性から、結果として生まれたものだ。「透明感のあるボトルの方が好まれるのでは」という声も社内にはあったが、コンセプトを丁寧に伝えていけば受け入れられるはずだと信じ、商品化に踏み切った。

自然な生成り色のボトルが、すっと空間に溶け込む
さらに、乳液のように粘度の高い液体が肩部分に溜まりにくいよう、ボトルの形を円筒から「なで肩」へと変更。裏面の成分表示や商品説明も、従来の固定枠をなくし、文字を大きく表記できるようにした。視認性を高めつつ、フォントを細くしてノイズを抑えることで、「凜とした雰囲気でありながら柔らかさもあるデザイン」を実現し、暮らしの中に自然と馴染むことを目指している。

リニューアルから2年。ユーザーからは「より良くなった」「保湿感が上がった」「肌に合うようになった」などの嬉しい声が寄せられている。

徹底した生活者視点が生む、無印良品らしさ

無印良品のものづくりには、「日常生活の基本を支える」という考え方が根底にある。商品開発は、その考え方に基づき、「生活に欠かせない商品群を強化していく」という方針で進められてきた。

化粧水・乳液ともに「高保湿・しっとり・さっぱり」の3タイプ。自分の肌に合わせて選べるのが嬉しい
興味深いのは、その開発体制だ。商品部や企画デザイン室、生産部、そして実際に製造を担う工場の取引先が連携して商品づくりを行うが、そこに一般的な企業にあるようなマーケティング担当はいない。市場調査から“売れるもの”を探し出すのではなく、つくり手自身が一人の生活者として暮らしを観察し、必要だと思うものを形にしているのだ。

スキンケアの仕上げはクリームで。軽やかなテクスチャーで香りもなく、使う人を選ばない
「敏感肌用シリーズ」の全面リニューアルの背景にも、人々の暮らしや価値観の変化があった。シリーズが生まれた当時、敏感肌という言葉はまだ一般的ではなかったが、いまでは自分を敏感肌と感じる人が多くなり、「肌にやさしいものを使いたい」というニーズも増えている。今回のリニューアルは、そうした時代の変化に応えるかたちで行われた。

生活者の視点を徹底して持ち続けること。それこそが、他にはない無印良品らしさを生み出している。

創業から変わらない「本質重視」のものづくり

その“らしさ”を支えるもうひとつの答えが、創業以来大切にしてきた3つの視点——「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」だ。

「素材の選択」では、シンプルに“その商品に必要な素材でつくる”ことを意識している。品質は変わらないのに見栄えだけの理由で捨てられてしまう素材や、業務用の素材、旬で安価に確保できるものなど積極的に活かし、商品開発の中で特に重視している視点である。

今回のリニューアルで、保湿力がさらに高まった
「工程の点検」では、ひとつの商品ができるまでのプロセスを徹底的に見直し、商品本来の質に関係のないムダな工程がないかを確認する。例えば、割れてしまった椎茸も、出汁を取れば味は変わらない。見た目を整えるための選別や箱詰めといった工程を省くことで、美味しいものをより手頃に届けられると気づいたことが原点になっている。

「包装の簡略化」は、無印良品の店舗を訪れたことのある人なら感じているはずだ。店頭には、ほとんど包装されずにそのまま売られている商品が並ぶ。輸送に必要な分だけを最小限に施すことはあっても、過剰な包装や装飾で購買意欲を煽るようなことはしない。

店舗の設計やレイアウトからも、無印良品が目指す方向性を感じることができる
これらの3つの視点はスローガンとして掲げられているだけではなく、今も社内では「この包装はもっと減らせないか」「この工程は見直せないか」と議論が重ねられている。見栄えよりも本質を大切にし、余計なものを削ぎ落としたうえで、良いものを適正な価格で届ける。この姿勢もまた、無印良品らしさを形づくる大事な要素になっている。

無印良品が目指す、循環のかたち

素材、工程、包装の3つの視点に加えて、近年、無印良品が意識しているのは「循環」だ。まだESGやSDGsといった言葉が広く知られる前から、無印良品は環境に配慮したものづくりを続けてきた。そしていまはさらに一歩進み、リサイクルの仕組みづくりに力を注いでいる。

衣料の回収から再利用まで、循環の仕組みを店頭で感じられる「ReMUJI」プロジェクト
洋服のリサイクルは早くから取り組んできたが、今回のリニューアルを機に、「敏感肌用シリーズ」でもボトル to ボトルの水平リサイクルを目指すことにした。現在はまだ回収量が十分でなく、使用済みの飲料ボトルを原料として再生している段階だが、将来的には「使い終えた化粧水のボトルを店舗に持ち込み、それが新しいボトルとして手元に戻ってくる」といった循環を、ユーザーとともに実感できる未来を思い描いている。

天然由来成分(※)100%処方や100%再生プラスチック(PET素材)を使用したボトル、生成り色のデザイン、なで肩の形状や文字レイアウトといったこれまで紹介してきたリニューアルの取り組みに加えて、回収から再生・製造までを一貫して行う姿勢も評価され、「スキンケア 敏感肌用シリーズ」は2024年のグッドデザイン・ベスト100に選ばれた。

別売りのスプレーヘッドを付ければ、忙しい朝やお風呂上がりのケアも手早く簡単に
無印良品は、アワードをデザインの方向性が社会の流れと合っているかを確認する機会だと捉えている。良い商品ができたと思って応募し、評価されれば「合っている」と実感でき、受賞できなければ「少しズレがあるのでは」と見直すきっかけになる。もちろん担当したデザイナーの励みにもなるが、プロモーションにアワードのロゴを活用することはなく、販促活動には結びつけないというのが、無印良品のスタンスだ。

どんな暮らしにも馴染み、自然と整う

無印良品は、国内外で店舗を拡大し、いまや国内だけでも700近い店舗を展開している。都市部にとどまらず郊外にも広がり、皆さんが目にする機会もますます増えているのではないだろうか。

東京・銀座の並木通りにある、世界旗艦店「無印良品 銀座」
店舗に足を運べば、無印良品らしい世界観が広がる。実は、ひとつのブランドでこれほど多くのアイテムを展開しているのは世界的にも珍しいそうだ。通常なら複数ブランドに分けるところを、無印良品は一貫した世界観のもとで整合性を保ちながら、来店した人が迷わず選べるようにデザインを工夫している。そのうえで「どんな暮らしにも馴染み、長く使えるシンプルさ」と「選びたくなる質の高いデザイン」の両立を目指しているのだ。

ユーザーとの距離が近いのも、無印良品の店舗の特徴だ。地域の人と一緒に「つながる市」を開いたり、タウンミーティングや店舗イベントを通じて交流の場を設けたり、一部店舗ではローカル商品の開発を地域生産者とともに行うなど、地域に根ざした取り組みに力を入れている。また、セルフサービスが基本の店舗だが、化粧品は自分に合うものを選ぶのに迷う人も多い。そこで2024年からは、店頭で相談できる「ヘルス&ビューティーアドバイザー」の育成をスタートし、安心して選べる環境づくりを進めている。

「ヒトとつながる、マチをつなげる」をコンセプトに、地域の人々と一緒につくる市場「つながる市」
今回は「敏感肌用シリーズ」のリニューアルから、無印良品のものづくりを掘り下げた。取材を通して、シンプルでありながら洗練され、一目で無印良品だとわかるデザインの背景には、創業以来変わらない理念と、細部にまで行き届いた工夫があることがわかった。

2025年9月には、「敏感肌用ボディケア」シリーズも全面リニューアルされた
どんな暮らしにも、どんなライフステージにも馴染む最小限のデザインと機能で、それでいて自然と整うのが無印良品の魅力。ぜひ、店舗に足を運び、その世界観を感じてみてほしい。

シンプルで洗練されたデザインの中に、日々の暮らしを整える工夫が隠れている
(※)天然成分を化学的に反応させた成分を含みます。
取材協力:株式会社良品計画
生活雑貨部 (ヘルス&ビューティ ケア担当) 中野 倫弥さん
生活雑貨部 (ヘルス&ビューティ ケア担当) 郭 き さん
生活雑貨部 企画デザイン室 (H&B・トラベル・グラフィック担当) 大友 聡さん

良品計画|無印良品 スキンケア 敏感肌シリーズ

敏感肌用化粧水(300mL) 高保湿タイプ:990円 /しっとりタイプ:790円/さっぱりタイプ:790円(いずれも税込) 
敏感肌用乳液(200mL) 高保湿タイプ:990円 /しっとりタイプ:790円/さっぱりタイプ:790円(いずれも税込) 
敏感肌用クリーム(50g):1,590円(税込)
敏感肌用オールインワンジェル(150g):1,490円(税込)
公式ネットストア:https://www.muji.com/jp/ja/store
2024グッドデザイン・ベスト100:https://www.g-mark.org/gallery/winners/22510

「ZOOM」シリーズのご紹介

トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。

2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。

トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番

トーシンパートナーズ|ZOOM広尾