国内で4軒のみ。湯町窯における布志名焼の歴史
湯町窯の焼き物は地元の自然素材を使用しており、松江市の豊かな風土が作品に深く影響している。シンプルながらも力強いデザインが特徴で、地元産出の粘土や釉薬を使い、美しい黄色のガレナ釉と落ち着いた海鼠釉(なまこゆう)のコントラストが印象深い。布志名焼きの流れを汲む伝統的なものから、大皿をはじめ多種の皿類、コーヒー椀、湯呑、花瓶、エッグベーカーなど、幅広く親しまれている。
まろやかな口当たりと飽きのこないデザイン
青と白の絶妙な色彩、厚みと丸みのあるフォルムを見ると、「あ、湯町窯だ」と思うくらい、存在感のある焼き物である。海鼠釉を使った焼き物は、他にも豆皿や楕円皿など、様々な形の焼き物が揃えられていた。普段使いに程よい大きさで、使うシーンを選ばず実用的なので、ついつい揃えたくなってしまう。
窯の代名詞。英国の技術を継承したエッグベーカー
内側に描かれた独特な模様は、湯町窯のマークとして特許が取られている。イギリス伝来の「スリップウェア」という技法で、土と水を混ぜてクリーム状にしたスリップ(化粧土)で表面を装飾する技法が施されている焼き物は、一度は目にしたことがある人もいるのではないだろうか。なんとも芸術的な模様である。
卵焼きの作り方はいたってシンプル。何度も作って習得した私の中のベストな焼き加減は、生卵を1個落として、とろ火で3分。火を消してから蓋をして、そのまま5分蒸らせば完成。白身はぷるんと、黄身はねっとりで、味付けもいらない美味しさだ。
ちなみに電子レンジ調理も可能で、その場合は500Wで50秒から1分でOK。時間がない日でも、おいしい目玉焼きと白ご飯で幸せな朝を過ごせそうだ。
グラタンやソース作りにも活躍
和風な使い方ばかりではなく、高い保温性を活かして美味しいアヒージョを作ってみよう。火を消してもオイルがぐつぐつとしていて、そのまま食卓に出せば熱々のアヒージョを囲むことができる。お皿がついているので、熱々のままテーブルに乗せることができるのも安心。
食べる直前に焼かなくても、焼いた後に蓋を閉めておけば、開けた瞬間のチーズの香ばしい香りで食欲をそそられる。まだまだ暑い日が続くが、今年の冬にはぜひこちらを使ってみてほしい。
蓋ごと冷やしておけば、冷たいアイスも溶かさずゆっくり食べることができる。写真のアイスはイタリアンスイーツのカッサータ。カッサータはアイスケーキなのだが、ゆっくりと楽しみたい時にこちらの器が大活躍する。
自分の手に馴染むまで使い込んで、さまざまな季節で楽しめる土鍋として食卓に迎え入れてみてほしい。自分の中の特別なアイテムとして、愛着が湧くこと間違いなしだ。
変わらない軸と意思で作り上げられるもの
良いと思うデザインを盛り込みすぎたり、新しいカラーにしてみたり、他者が求めるものと、自分が作りたいものの狭間で揺れ動くこともある。
シンプルに、実用的に、継承された技術そのままに作り出すことは、簡単そうに見えて至難の業なのだと感じる。何十年も何百年も、変わらないものを作り続けることは、自分自身にストイックでなければできない。
海鼠釉の焼き物の如くクールに、エッグベーカーでできた卵焼きのように熱く。
民芸の心は深くここ松江市に根付き、今なお全国で愛され続けている。