美味しさは見た目が8割? 食器選びの重要性
その割合は味覚が1%、視覚は80%以上という話もよく聞くのだが、この「視覚8割説」は50年ほど前の文献が元となっており、その数値的根拠が明確ではないとも言われているため、ここでは「料理の美味しさは見た目も大きく影響している」としておこう。
日々の食生活を豊かにするためには、料理の腕を磨くことに力を入れがちだが、料理の彩りや盛り付け、器にこだわることも非常に重要なのだ。
実は盛り付けが難しい「白の洋食器」
一般的に「皿」といえば左の写真のような白い円皿。オールマイティに活用できると考えて買い揃えがちだが、いざ使ってみると意外に盛り付けが難しく、とくに和食の場合は白い洋食器が合わせにくいのだ。
白い器は飲食店でもよく活用されている。似たような白の器を使ったとしても、飲食店の料理が格段に美味しそうに見えるのは、彩りの構成力や盛り付けのテクニックを身につけているプロだからこそ。
白い器のすべてがいけないということではないが、料理によっては盛り付けが難しいものが多いということだ。カラーバリエーションが豊富な北欧風の食器といった流行のものも、白い器と同様に合わせる料理が限定されやすい。
料理ジャンルを選ばねばならない食器は、日々の献立が固定化する原因にも繋がる。一般家庭で普段使いするための食器を選ぶなら、どんな料理にも合わせやすいものを選ぶのが良いだろう。
和洋問わず料理を引き立てる「黒の器」
先ほど、白の器は料理を選ぶと伝えたが、筆者も一人暮らしを始めた頃は白い洋食器を一通り買い揃えて使っていた。それから同居人が増え、それだけでは和食に合わないからと、和食器を買い足し、カフェブームの影響を受けて木製の食器を揃え、北欧ブームでグレーや植物柄の皿を……とあれこれ手を出していくうちに、我が家の食器は数百点にもなってしまった。(二人暮らしなのに!)
ジャンルを問わず料理を引き立て、なおかつ飽きがこない器を求め、試行錯誤の果てに辿り着いたのが黒の器だった。
フルーツにはガラス皿、ケーキには白の洋皿、和菓子には和食器か木製のスクエアプレートといった定番のスタイルを目指そうとすると、食器のバリエーションを増やさねばならないが、黒の器ならどんなものにも合わせやすい。
家庭で使いやすい「黒の器」のバリエーション
ここまでご紹介したスタイリング例でお気づきの方もいるかもしれないが、筆者が愛用している黒の器にはある共通点がある。それは、テクスチャーがマットなものを選んでいることだ。
黒の器の中には、ツルツルとした光沢のあるものがあるが、そういったものは和洋両方に合わせられるものが少ないように感じられる。
食空間の演出のために器を使い分ける
器選びは、料理を美味しそうに盛り付けるためだけではなく、食空間のイメージを演出することでもある。黒の器は使い回しが利くが、カジュアルよりフォーマル、昼より夜、ルーズよりソリッドといった落ち着いたイメージに仕上がりがちで、軽やかさを演出しにくいデメリットがあるのだ。
これは洋服のコーディネートに置き換えるとわかりやすい。黒のジャケットが一着あれば、ビジネスシーンや冠婚葬祭、デートにも着られそうだが、そこが真夏のビーチならば話は別。黒が悪いとは言い切れないが、もっと涼しげなコーディネートが好ましい。
明るさや繊細さ、優しさ、爽やかさ。
そういった軽やかな景色を演出する場合は、黒以外の色の選択肢を持っておくのが良いだろう。
ものの本質を引き立てる「黒」を使いこなす
千利休の「黒楽茶碗」、ココ・シャネルの「リトル・ブラック・ドレス」、川久保玲や山本耀司の「黒の衝撃」。それぞれ黒を選択した本意は異なるかもしれないが、装飾的な価値観へのアンチテーゼや、モノ、コトの本質を際立たせることを意図しての黒という選択だったのではないだろうか。
食卓に小さな革命をもたらす「黒の器」を、日々の食事に活用してみてはいかがだろうか。
積極的に黒の器を活用する家庭はまだ多くはないかもしれないが、実際に使ってみると、料理の見映えが格段に上がることを感じてもらえると思う。たとえ日々のさもない料理でも、器を変えることによって目新しさを楽しめるはずだ。