平安時代から使われてきたとされる「手ぬぐい」。現代の日常生活では、目にする機会はだんだんと減り、夏祭りやイベントの記念品としてもらうことが定番になっている気がしている。しかし記念品としてもらった手ぬぐいは使ってみると非常に便利ではあるものの、心躍る柄や色ではなく、使い続けることはなかった。もっと使いたくなる手ぬぐいはないかと思っていたところで知ったのが、hiraliという色彩豊かな手ぬぐいである。表裏それぞれ違う色で染められており、モダンな柄が印象的。そんなhiraliの魅力を紹介したい。
hiraliの開発秘話
全国で唯一、裏表で違う色を染めているhirali。手ぬぐいのような薄い生地を染料で染めるとなると、よくある手ぬぐいのように染料が片面にも染み込んで、裏表ともに同じ模様や色が出てしまうと思い込んでいたため、hiraliを知ったときには目を疑った。どのようにして薄い生地に染料を載せ、色鮮やかなリバーシブルの手ぬぐいができあがるのだろうか。不思議である。リバーシブルに染める秘話やhiraliの開発秘話を竹野染工株式会社のブランドマネージャーである織田氏に伺った。
「竹野染工は昭和36年の創業以来、ロール捺染専業で染めを行ってきました。hiraliを染める際にも使用しているロール捺染という技法は、高度経済成長期に発展した大量生産向きの技術です。かつては何万枚~何十万枚という単位で発注を受けていましたが、最近では小ロットの注文が多くなり、どんどんロール捺染で染める業者も廃業に追い込まれてきました。
今ではロール捺染職人は全国で数えるほどしかおりません。竹野染工は創業以来守ってきたロール捺染技術を何とか後世に残したいという想いで、ロール捺染の技術を使って何か新しいことができないか、竹野染工にしかできない技術は生み出せないかと試行錯誤を繰り返してきました。
「そこで、通常ロール捺染は片面のみを染める機械ですが、先代は染料を裏まで染み込ませて両面を同じ色に染める竹野染工独自の『裏通し』という技術を生み出しました。しかしロール捺染で裏通しの技術を開発したものの、注染で染めた手ぬぐいも同じく裏まで同じ色に染まってしまうため、結局差別化がはかれませんでした。そこで試行錯誤を繰り返し、竹野染工にしかできない染めを追求して4年がかりで開発したのが、表裏別の色で染める『リバーシブル染色』です」と話している。
染色したい場所に糊を混ぜた染料を金型でのせ、捺し染める技法を「捺染(なっせん)」と呼ぶ。これは柄や色彩を緻密に表現することに長けた技術で「ロール捺染」は専用の機械を使い生地に染料を捺し染めることを指すのだが、そのロール捺染の工法でどのようにリバーシブル染色の手ぬぐいが出来上がるのだろうか。織田氏は驚く事実を語ってくれた。
リバーシブル染色とやわらかな生地へのこだわり
「リバーシブル染色は一枚の布の表と裏を違う色に染め分けている新しい染めの技法です。特殊な機械を使って染めていると思われがちですが、ロール捺染の機械は70年以上も前から使っている古い機械です。リバーシブルに染めるには、0.01ミリグラム単位の色の調合と、薄い布の裏に染みないように染めるための機械の微調整という職人技で染めています」と話す。
同じ機械を使ってほかの職人が染めたとしても、うまくリバーシブルには染めることができないそうだ。機械を熟知し、肌感覚で0.01mgの誤差さえも調整できる選ばれた職人が機械と一体となってリバーシブルの手ぬぐいを作り上げていく。hiraliは熟練された技とプロの感覚が合わさった特別な手ぬぐいなのだ。
また、色鮮やかなリバーシブルの染色に目を奪われるのはもちろんだが、手ぬぐいのやわらかな生地にも注目したい。hiraliでは「上文(じょうぶん)」という生地を選定して使用しており、吸水性が高く、肌触りのよい生地で、使うほどにどんどんやわらかくなる。竹野染工社が位置する大阪・堺市を含む泉州地区は、江戸時代から和晒産業が盛んであり、市内を流れる石津川では、純白の布を川いっぱいに流し、近隣の山で天日干しをするという光景が昭和中期頃まで見られた。この和晒を染色して断裁したものが手ぬぐいであり、堺市は今でも全国の手ぬぐい生産の大半を占めているという。
日本の色彩文化「重ねの色目」から着想
hiraliの手ぬぐいは「季語」をモチーフに柄と色目を選定しており、季語から連想される景色、感情、香りなどを色に落とし込むことにこだわりを持って現在32種類が展開されている。「重ねの色目」という日本古来の色彩文化、例えば平安時代の着物の合わせも、表と裏で色を変えたり、季節ごとに色合いを変えたりと色あそびを楽しんでいたことなどから着想を得て、日本の伝統文化や手ぬぐいの伝統的なものを大事にしたいと考えている中で、リバーシブル染色の日本の重ねの色目の文化が合わさりhiraliが生まれたのであった。
どの手ぬぐいも美しく、色の使い方や柄が異なるのだが、今回はZOOMLIFEおすすめの3種を紹介したい。
風光る
春の風が光り輝くように感じられることを表す季語「風光る」に着想を得たカラーパターン。柄は、昔から玩具としてや家紋としても親しまれてきた風車がモチーフ。
爽やかにそよぐ風と、踊るように明るい陽光をイメージできるカラーが配色されており、グリーンベースのイエローとエメラルドグリーンが清々しい。
波の花
「波の花」とは、岩に打ち寄せた波が白い泡になって、雪のように浜辺を覆う、冬の日本海沿岸で見られる珍しい現象のこと。厳しい冬の海をイメージした色合いを採用し漁師の網の目の形に起因する網目文様がモチーフとなっている。
深みのある色合いがおしゃれな波の花は、魚が優雅に泳いでいる海のようなインディゴブルーとサックスブルーのコントラストが鮮やかだ。
虎が雨
鎌倉時代、父の敵討ちをした兄弟の悲劇から、その日(陰暦5月28日)に降る雨のことを「虎が雨」と呼ぶ。日本で昔から長寿吉兆の象徴として愛されてきた亀甲がモチーフの、向かい亀甲と呼ばれる文様を採用したデザイン。
片方は少しブルーイッシュなブラック、もう片方は砂色と亜麻色の間のようなクールなベージュの色使いになっており、クールに使用できる手ぬぐい。和のイメージが強い古典柄であるが、モダンな色使いで現代のライフスタイルやモダンな住居空間にも馴染んでくれる。
インテリアにも、ファッションにも
従来の手ぬぐいといえば、古来よりハンカチやタオルのように顔や手を洗った後の汗や水を拭ったり、入浴時に体を洗ったりするために使われてきたが、hiraliの手ぬぐいはそれだけではもったいない。
織田氏におすすめの使い方を伺うと、hiraliはまずはどんどん使ってこそ風合いも味わい深くなり、愛着もわくため、たくさん使って馴染ませることがポイントだと話す。美しい柄、色合いのため、額をはめて絵画のように壁に飾り眺めたくなってしまうが、そこはグッと堪えて、たくさん使っていきたい。
テーブル周りでは食器拭きやタオルの代わりとして、また、カトラリーを入れたり、ランチョンマットとして使用したりと活躍する。片方の柄で楽しむのはもちろん、両方の柄が見えるよう折ったりと工夫することで、気分やメニューに合わせてテーブルコーディネートを考えるのも良い。美しくやわらかな色合いが食材を引き立ててくれ、hiraliをきっかけとした会話も弾むことだろう。
お弁当箱や大切な贈り物をhiraliで包んだら、結び目から見える裏の色がポイントになる。包みを開いたときに異なる色が現れるため、お弁当を開くまでの時間も楽しい。
また、両面違う色ならではの使い方として、スカーフのように使ったり、バッグのハンドルに巻いたり、頭に撒いてバンダナにしたりとファッションのアクセントとしても使うことができる。柄の見える部分を調整したり、ファッションと合わせたりして自分だけのコーディネートを楽しみたい。
外出時に1,2枚バッグに入れておけば、食事の際膝の上に乗せてナプキン代わりにもなり、濡らせばお手拭きがわりにも。夏の暑いときには日除けとして使ったり、肌寒くなれば首に撒いたり、袋代わりにちょっとしたものをくるんだり、いざという時に必要なタイミングで手ぬぐいがあると、ちょうどよく暮らしを助けてくれる。
自分の日常を彩るアイテムとしても、ギフトとしてもぴったりで、さまざまなシチュエーションで活用できるhiraliの手ぬぐい。色と色が重なり合う姿を引き立てる使い方や、今までにない新しい使い方を発見していくのも面白いだろう。使っていくことで手ぬぐいの良さに改めて気づくことができ、いつしか手ぬぐいの虜になっていくだろう。
自由な気持ちで毎日をhiraliと共に
「タオルやハンカチとも少し違う、手ぬぐいの便利さは、使って初めてわかると思います」と織田氏。手ぬぐい離れが進み、タオルやハンカチが主流になった現代の生活のなかで、hiraliは平安時代から伝わる日本の伝統の一つでもある手ぬぐいの良さを改めて教えてくれた。
自然が織りなす美しい変化から季節の移ろいを感じ取り、その色彩を衣類にも代々取り入れてきたように、季節ごとに使う手ぬぐいを変えたり、シチュエーションや気分によって裏表の色を変えたり、自らの気持ちの赴くままに、自由な気持ちでhiraliを使いたい。何にもとらわれずに自分だけのとっておきの一枚、使い方を見つけてみてはいかがだろうか。
hirali
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。