生ゴミが資源であることを伝える、LFCコンポスト
スーパーの食材コーナーでは、産地で作られ集められた野菜を手にする。味も形も均一で、鮮度が保たれた安価な食材。便利であることが安心にもつながっているような気がする。だが、なぜ「便利」を実現できたのかを考えてみて欲しいとたいらさんは話す。
「流通や化学肥料が発達し、遠くからあらゆる資源が届くようになりました。そして生活を通して生み出されたゴミは再び、遠くの埋立地へと捨てられてしまいます。都市生活をしていると、遠くから資源を取り入れ、また遠くに返してしまう。地域内で資源の循環が行われることはありません。それは持続不可能な構図ではないでしょうか」
「生ゴミは90%が水分でできていて、運搬や焼却に大変な負荷がかかります。残りの10%にはリンなど、野菜の育成に必要な栄養素が含まれている。これはつまり、生ゴミは資源として活用が可能であるということです。現代の暮らしの中でその実感を持つのは難しいことですから、LFCコンポストを通して体験してもらえればいいなと思っています」
資源の循環が失われたローカルでは、どのような問題が起こってしまうのだろう。たいらさんいわく、昔ながらの生活が営まれていた時代、街は多様な生物が住める環境が保たれていたそう。それらの動物は、やがて死骸となり分解され土の栄養に、山の落ち葉は腐葉土に戻る。地面に還っていったものたちは、新しい命を育てるためのサイクルを繰り返していた。しかし生物が住みづらい現代では、土の養分となる資源が枯渇している。
「栄養を失った土地では木が育たず、土砂崩れなどの自然災害を引き起こす原因となります。それに、遠方から運んできた石油などの燃料が主流の現在では、木材を燃料資源として使うことも減りました。木材資源の源である里山は、かつて人の手によって管理されていましたが、今は誰もその役を担いません。また、土から川に流れ込む水には農薬などの化学物質が含まれ、天然の栄養素は減少しました。その結果、海洋汚染による生態系の変化を引き起こしています。こうして蓄積された負の連鎖は、食べ物を通して最終的に人のからだに蓄積されているのです。このような問題の元凶となっているのは、均質、スピードなど消費者側からの需要だと言えるでしょう。ですから消費者の意識から変えていくために、ベランダでできるコンポストを開発しました」
初心者でも堆肥を簡単に作れる、コンポストキット
セット内容は3点。基材と呼ばれる腐葉土の元になる土と、専用内袋、そしてリサイクル素材で作られたコンポストバッグだ。
まず基材は、生ゴミから滲み出す水分の吸収と発散に適した天然素材が配合されている。これはLFCコンポストが編み出した独自の比率で作られているそう。菌などは配合されておらず、自然発生する微生物によって発酵が進んでいく。
専用内袋は分解可能な素材で作られている。簡単には液漏れなどのトラブルは起こらなそうだ。
初回の購入は税込価格で4,268円。2~3ヶ月分の生ゴミを堆肥化させることが可能だ。単品購入よりも200円お得な定期便が用意されているので、コンポスト作りを習慣化させたい人は継続購入するのがいいだろう。
また、コンポストの使い方や虫の対策で困ったことがあれば、LINEで相談ができるサービスも提供されている。自動回答ではなく、長年経験を積んできたコンポストのプロからアドバイスをもらえて、学びを得られそうだ。
ベランダでコンポスト生活をはじめてみた
コンポストが自宅に届いたのは2020年11月中旬のこと。早速ベランダにコンポストをセッティングしていく。
「生ゴミの水分を基材が吸収するので、どんどん嵩が減っていき、養分と繊維質だけが濃縮された状態になります。そのため、たくさん入れても大丈夫ですよ」とたいらさん。
家庭で出るあらゆる生ゴミのうち、調理くず(野菜の皮、卵の殻、タネなど)や食べ残し、肉や魚とその骨、茶殻などが分解可能だ。調理に使った油も、1回につき100ccまでなら入れることができる。
一方で貝殻や栗の皮などの硬いものや雑草はNG。分解が進まずに残ってしまうそうだ。このような経験則からしかわからない情報も手順書に記述されているので、初心者でも迷いなく始められる。
初めのうちは野菜のクズを中心に入れていたが、なかなか分解が進んでいないように思われた。本来なら3ヶ月程度で堆肥が完成する予定だったが、11月から1月にかけて寒い日が続いたせいか、あるいは生ゴミのチョイスが適切でなかったのか、変化が見られないまま2ヶ月が経とうとしていた。
そこで余ったカスタードクリームや、豚バラの脂の部分などを入れてみたところ、そこからは大きな変化が見られるようになった。肉の脂部分や、カロリーの高い油っぽいものなど、微生物の好物が入ると活発に活動がはじまり、数が増え分解が進んでいくそうだ。
生ゴミの投入をはじめたのは11月。そこから2ヶ月が経った1月中旬に、生ゴミの投入をストップし、熟成期間に入る。
熟成期間は週に3回ほどコンポストをあけてかき混ぜなくてはならない。生ゴミが腐っていく過程を見なくてはならないことに、抵抗がなかったといえば嘘になる。しかしその行為は思っていたほどの困難ではなかった。
毎週様子をのぞくたび、ゆっくりではあるが生ゴミの形が変わっていく。確実に堆肥へと進化していることがわかるし、生ゴミを減らすことに成功したのだという実感が嬉しかった。臭いが気になったのは2週間ほどの期間。あからさまな生ゴミ臭がしたが、コンポストを閉じればその匂いが漏れてくることもなかった。
「都会にいると土に触れる機会がありませんよね。特にお子さんのいる家庭では、このような体験ができることを喜んでいただけています」
両手に感じる、資源の循環
基材はもともと薄茶色で重量も軽かったが、水分が混じり重くなった気がする。全体的に黒ずんでいて、目視でも栄養がありそうだと感じた。
コンポストの中にいくつもの塊が見られるが、もはや何のゴミだったかを特定することは難しい。スコップで押すとバラバラと解けていった。生ゴミが奥まで分解され、堆肥になった瞬間を目撃したような気持ちになった。
春になれば花が咲き、秋になれば実るだろうか。その種を使って新しいコリアンダーを育てよう。このベランダで小さな循環が続いていく日々を想像している自分に気付いて、コンポストとともに過ごした数ヶ月間の意味を知ったのだった。
これまで生ゴミは生活の中で減らすことのできない、仕方のないゴミだと心の中で思っていた。けれど、生ゴミがそもそも資源であることをコンポストを通して体験したことで、ゴミへの考え方をワンステップ向上させられたような気がする。LFCコンポストは、ゴミを減らしながら、大地に流れる循環を感じられる貴重なプロダクト。今後の展開に注目したい。