飲み物を購入したとき、紙製のストローを挿してもらう機会が最近増えている。某大手コーヒーチェーン店でも去年よりプラスチックストローから紙へのストローへ切り替わり、人気のタピオカ店でも挿されるストローは紙製だ。しかし紙のストローで飲むとプラスチックのストローで飲む時よりも飲み物の美味しさがやや感じにくいと思う人もいるのではないだろうか。そのように思っている人におすすめしたいのが「STORLL_01(ストロール01)」だ。
プラスチックだけど繰り返し使えて環境にやさしいストロー
STROLL_01は、不思議な五角形のような形をしていて、くるくると巻いて自分でつくる薄いシート状のストローだ。好みの太さに巻いたらベルトで固定して、通常のストローと同様に飲み物を飲むことができる。プラスチック材質のポリエチレンテレフタラート(PET)とポリエチレン(PE)でできており、自然に還ることができない素材ではあるものの、飲み終わったらストローを広げて洗うことで繰り返し使うことができ、紙ストローのように途中でふやけたり、素材の味がしたりするということは全くなく、快適に飲み物を楽しめる。
開発したのは山口県防府市にある光浦醸造。慶応元年創業で150年にわたり味噌や醤油などの伝統的な調味料を作り続け、昨今はその伝統のなかで培った技術や感性を生かし、「味を、人を、あわせる、」という理念のもと、食卓をより豊かにすることを目的としてものづくりを行っている。ストローも「飲む」という日常の体験のそばにあるさまざまな道具のうちの一つ。STROLL_01はプラスチックの口当たりの良さや耐久性の高さはそのままに、持続可能な社会に向けて、「自分で巻いて形にする」といった、つくる楽しさを加えて家庭の食卓からプラスチック問題に向き合っているプロダクトだ。開発秘話を光浦醸造の代表・光浦健太郎氏に伺った。
きっかけは小学生の自由研究
開発のきっかけは、2019年の夏休みに当時小学3年生だった光浦氏のご息女が取り組んだ夏休みの自由研究。一緒にストローの歴史や様々な素材を研究し、既存ストローの利点や問題点を検証して、繰り返し洗って使えるシート状のストローを考案・発表したところ、学校の先生から「お父さん、これ特許取れるんじゃないですか?」という一言が。そこから大人の自由研究が始まったという。その後、研究を続けて特許を出願、1年以上の開発期間を経て商品化した。
もともとご息女が自由研究を行うきっかけとなったのは、ウミガメの鼻にストローが刺さっていたり、ウミドリがストローを食べていたりする画像をSNS上で見たことから。そこで自然に還る環境に優しいストローについて研究を行なったそう。プラスチックストローの代わりとなる素材を探し、竹やライスペーパー、空芯菜、マカロニなど独自の視点で斬新な素材を試した結果、「自然に還らなくても何度でも使えるストローだと環境に優しいのでは?」という仮説にたどり着き、繰り返し使えること、口当たりの良さ、シートの強度などの観点から、STROLL_01の原型となる繰り返し使えるプラスチックを使ったストローが出来上がった。
光浦氏はSTROLL_01を製品化するにあたり「これまでのストローは自然に還らないという素材の問題は当然ながら、性能や価格が完成形に到達しており、空気のように当然な存在になっていたため、使っていることも捨てたことも記憶が曖昧だったことが問題であった」と述べる。ストローの価値が限りなく低くなっている状態になっていたため、捨てられてしまう。STROLL_01は、自分で巻いて「つくる」ことにより、使用実感値を高め、これまで意識の向きにくかったプラスチックに愛着や思い入れを持って何度も繰り返し使ってもらい、最後は分別して惜しみながら捨てるという使われ方を期待しているという。
五角形の不思議なフォルム
シートの形状は五角形で3つの要素から成り立っており、平行四辺形からなる「ストロー本体部」、それを保持する三角形の「ストロー保持部」、さらにそれを固定する「固定部」からできている。水密性を保ちつつ、まっすぐな円筒状で、飲み口にも飲料にも浸からない一箇所で固定し、口元が鋭利にならない形状を突き詰めた結果、このような形になったそうだ。五角形の元は直角三角形。ご息女の自由研究で長方形のシートをさまざまな方向で巻いてトライし、直角三角形のシートを巻いてみると綺麗に巻けたところからSTROLL_01の五角形は出来上がった。
鮮やかなカラーは飲み物を引き立たせ、ティータイムがより楽しくなる。印刷部分はきっちりラミネートされており、フィルムの断面部分には印刷を施していないため、長時間利用してもインクの成分が飲み物に滲み出ることはない。
STROLL-01は一番長い部分で30cmほどあり、台などを使用せず両手で丸めるだけで真っ直ぐな円筒状のストローを作ることができる。シートを最適な角度で螺旋状に巻く構造になっているため、適切に巻けば液体が漏れることはない。特別な固定器具やテープなどを用いることなくストローを固定することができ、さらに軽くて丈夫なため、手軽に持ち運びもできる。
STORLL_01の使い方とコツ
STROLL_01は初めて組み立てるときには少々時間が必要だが、慣れたら簡単に巻くことができる。そのコツを掴むまでの工程も楽しみたい。
1.持ち方
2.巻き始め
3.引っ張りながら巻く
4.巻き終わり
直径約6mm-11mmの太さで調整が可能。さまざまな太さで飲み物を吸ってみると、麺の太さに好みがあるように、ストローにも好みの太さがあることが判明した。自分の好きな太さを見つけ、ティータイムをストレスなく楽しみたい
5.ベルトを通す(1回目)
6.ベルトを通す(2回目)
7.完成
飲み物を楽しんだら、ベルトを外して広げて洗う。普段食器を洗っている中性洗剤の使用も可能だ。自然乾燥後は何度も使用でき、ストローのハリが弱まってきたら裏返して巻くとハリが戻るので長く使用することができる。ストローの台紙からミシン目に沿って切り抜いて組み立てられる簡易ケースもついており、ストローのベルトを外して緩めながら入れると短くコンパクトに収納できる。
プラスチックを使わないのではなく、賢く大切に使う
「廃棄プラスチックは非常に重要な問題です。その問題を長期的に解決するために、自然に還る紙のストローであれば大量生産・大量消費して良いという考えではなく、このSTROLL_01を通じて、プラスチックとの向き合い方を再認識し、『ものを大切に使う』ことを改めて体験していただけたらと思います」と光浦氏は話す。
プラスチックゴミによる海洋汚染やプラスチックの原料である石油の資源枯渇、廃棄の際に放出されるCO2による地球温暖化などさまざまな問題が世界中で深刻な状況となっており、少しでもそれらの問題を減らそうという取り組みの一つとして紙ストローが普及しているのは言わずもがなだ。今まで苦手ながらも紙ストローを使っていたのは、目の前にある飲み物を美味しく飲みたいという欲と、世界各地で起こっているプラスチックゴミ問題が無意識のうちに頭をぐるぐると回っていたからだと気づく。しかしこれからは悩ませられることもない。STROLL-01をデイリーに使うことで「どんな飲み物を飲もうかな」という悩みだけを楽しむことになるかもしれない。
STROLL_01
https://mitsuura.jp/wp/stroll/STROLL_01 (NAVY, MAUVE PINK, KUMIKO ORENGE, KUMIKO GREEN) 各594円 (税込)
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。