Vol.202

MONO

22 JAN 2021

ソロキャンプの相棒に。自然の中で味わうヒップフラスコの世界

友人や家族と過ごすものとは異なる魅力を持つソロキャンプには、自ら厳選した最小限の道具を持って出かけたい。確固としたこだわりを持つ大人のソロキャンプのドリンクタイムに、良き相棒となってくれるのがヒップフラスコだ。蒸留酒やスピリッツ用携帯容器はスキットルとも呼ばれ、アウトドアギアの中でも特にパーソナルなアイテム。自然と向き合う一人の時間を味わう際に、欠かせないプロダクトとなるだろう。

時には初心へ帰って、ソロキャンプへと出かけたい

春と秋、年に2回しか出かけないものの、キャンプ歴は20年を超え年数だけは長くなってきた。だが月日が経つのとともに増えていくのがキャンプ道具。初めはテントと寝袋、簡単な調理器具だけだったのに、今ではキッチンツールやランタンなど道具は増え続け、キャンプに行く日の車の中は隙間もないほどぎっしり荷物が積み込まれている状態だ。

どれもお気に入りであるものの、家の一画を占めるキャンプ道具の山を見ると、どこか間違った方向へ来てしまったような気がする。キャンプに行く度に「もっと快適に過ごせるように」と新たな道具を求めていた自分に疑問を感じてしまう。

キャンプを始めた頃を思い出してもう一度、最小限の荷物で旅に出たい
便利さや快適さを求めて道具を買い揃えるのは、キャンプ本来の目的から大きくずれているのかもしれない。時には初心に帰り、ソロキャンプへと出かけたい。最小限のお気に入りのギアだけで、再び自然と向き合ってみよう。

厳選したキャンプ道具、そしてテント設営後のくつろぎの時間を演出するアルコールに関しては、良いお酒を少しだけじっくりと。そのひと時をより充実させてくれるのが、ヒップフラスコだ。

焚火をしながら飲むウイスキーは格別の味。ヒップフラスコが気分を盛り上げてくれる

ヒップフラスコの歴史

ヒップフラスコ、スキットルは、蒸留酒、スピリッツ専用の携帯容器を指している。携帯用の飲料容器は動物の皮を使用していた石器時代に始まり、ローマ時代にはガラスを、中世では果実の内部を取り除きアルコールで満たしていた。フラスコの前身とも言われるワインスキンは通常ヤギの皮を使って出来た革袋で、ワインを保存していた。

「フラスコ」という名称は14世紀半ばから16世紀頃に生まれ、中世ラテン語で容器、またはボトルを意味する言葉が由来とされている。現在のような特徴的なヒップフラスコのフォルムになったのは18世紀の事だった。これは長期間保存しても傷む事のないアルコールを製造できるようになった蒸留プロセスの発展がひとつの理由として挙げられる。

さまざまなデザインがあるが、ヒップフラスコは手のひらやポケットに収まる形状が特徴的だ
英国では女性が豚の膀胱から作られた飲料容器に、当時の流行であったジンを入れて軍艦に乗り込み、密輸していたことも関係している。それらはドレスの下に隠せるように小さく湾曲した形状で、これが現代のヒップフラスコの原型と言われている。

禁酒法時代に名を高めたヒップフラスコ

英国で上流階級の紳士たちが狩猟や釣りなどのアウトドアスポーツを楽しむ際に携帯していたヒップフラスコが、アメリカで広く知れ渡ったのは禁酒法時代のことだ。1920年から1933年、アメリカではアルコールの消費、生産、流通を禁止する法律が制定された。

だが多くの人々はこれを無視し、アルコール消費量は禁止前とほぼ同じレベルに戻ってしまう。酒類密輸業が横行し、スピークイージーと呼ばれる隠れ酒場も現れた。この時代にアルコールを隠し持ち運ぶために活用されたのがヒップフラスコだ。

犯罪率の低下、信仰心の向上のために設けられた禁酒法。しかし酒の密輸でマフィアは繁栄し犯罪率は増加の一途を辿った
女性の太もも、男性のポケットやブーツの中などに収められるヒップフラスコは大流行となり、禁酒法が始まった最初の半年でそれまで10年間の生産量を上回ったとされている。

法律に従わず、スタイリッシュに政府に反抗する人々を意味する「ヒップスター」という言葉も生まれ、ヒップフラスコは彼らの格好のアクセサリーとなったのだ。

自分のためのデザインとマテリアル、サイズを選んで

素材、形状、容量と選択肢の多いヒップフラスコは伝統的に銀やピューター、ガラス素材が使われてきたが、現在ではステンレス鋼やチタン製も手に入る。

壊れやすいガラス素材は補強用の金属でできたベースとキャップを組み合わせているものが多く、滑らかな曲線と残量が分かりやすいのが特徴だ。

個人的な持ち物となるヒップフラスコだからこそ、自身の好みを反映させたい
92.5%の銀と7.5%の他の金属、通常は強度を与えるために銅で出来ているスターリングシルバー製のヒップフラスコは、作られた当初から現在まで最も価格が高く、そして美しい。手に入れれば生涯大切に持ち続けたいものとなるだろう。

かつては鉛を多く含んでいたピューターだが、今では安全かつ金属製の味を感じさせず、加工がしやすいためエレガントな模様が描かれていることも多い素材。ヒップフラスコに美とこだわりを持ちたい人におすすめだ。

ピューターはハンドメイドで生産されているものも多く見つかる
現在最も手に入りやすく、手入れも簡単なのがステンレス鋼だ。錆びや汚れに強い素材で洗浄も楽に行え、アルコールを保存するには最適と言えるだろう。軽くて丈夫、錆びにくいチタン製もヒップフラスコにはおすすめの素材。マテリアルの特徴を吟味して、お気に入りを見つけてみたい。

ヒップフラスコの容量は1オンス=1ショットと考えれば良いだろう。さまざまなサイズのものが販売されているが、4オンス~8オンスぐらいが一般的。自身の飲む容量を考慮して選んでみよう。

ヒップフラスコは酔うためではなく味わうためのもの。自分にとって丁度良いサイズを選ぼう

ヒップフラスコは薄く四角形のものや湾曲を描いたもの、丸いフォルムなどさまざまな形状を持っている。自然の中でアルコールを嗜む自分の姿を想像しながら、シーンにぴったりと合うものを探してみたい。

キャンプの相棒の手入れは、次の冒険が始まる前のひと時に。

キャンプが好きな人間にとってキャンプへ行く事は、ホテルや旅館に泊まる旅行とは行く前の気分から旅路が終わった後までも全く異なるものと言えるだろう。

目的地のキャンプ場に着き、テントやタープを設置して椅子を置いてほっとひと息。普段とは異なる景色を目の前に、とっておきのアルコールを入れたヒップフラスコの蓋をきゅっと緩める。喉をなめらかに滑り落ちる液体が胃に伝わり身体を温め、張り詰めていた心をふっと溶かしていく。

時間とは、こんなにもゆっくりと流れていくものかと改めて実感できる。自然が作り出した風景と静寂さの中で、失くしていた自分を取り戻せる。そんな瞬間を味わえる、それがキャンプなのかもしれない。

次へ行く場所を考えながら、柔らかい布で優しく手入れを
キャンプへ行く時間がない時は、ヒップフラスコの手入れをしながら次のキャンプ地へと思いを馳せてみよう。キャンプ道具の中でも特に身近に感じるヒップフラスコは、自分だけのキャンプ時間をより充実させてくれるプロダクトなのだ。

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