Vol.173

MONO

13 OCT 2020

重力に逆らって宙に浮く時計「STORY」

現在、0:46。起床時刻を8:00にセットする。起きたら9:00から始まる仕事に向けて支度をし、13:00からの打ち合わせのための資料作りを行い、それを持って12:25発の電車に乗る―― このように大抵の人は時刻によって毎日の生活を決めているのではないだろうか。時計を確認しない日などないだろう。時刻を表示する時計は、空気や日光と同じレベルで我々の生活にとって必要不可欠な存在であり、日常生活を支えてくれている。現代で使われている時計は主に二種類あり、針が文字盤の数字を指して時刻を示すアナログ時計と、“12:34”という数字のみで時刻を表示するデジタル時計である。両方とも一日24時間という時間を、0から9の10種類のアラビア数字によって時刻を表すことには変わりはない。 このように時計は、時を数字で表すのが当たり前と思っていたのだが、その概念を覆すモノが存在する。

ふわふわと宙を周遊する球体

スウェーデン・ストックホルムに拠点を置くクリエイター集団、FLYTE(フライト)社の「STORY」という時計は、前述した時計とは異なった、ユニークな時計だ。

まず注目する点としては、STORYの文字盤に表示されるのは「針」ではなく、ふわふわと自由に浮遊する「球」であること。磁石の反発の技術を利用し、クロム球が重力に逆らって、浮遊しつつ木製の円板の上を周遊していく。シンプルでありながらそのインパクトはかなり大きい。地球に住んでいる以上、浮くということは容易ではないことがわかっているのだが、そのクロム球はずっと浮遊しており、重力に逆らっているアンバランスさや不思議さに自然と目を奪われる。幻想的で美しく、ぼーっと眺めているだけで時が過ぎてしまうほどだ。

始めは、アナログ時計とデジタル時計の融合のようにも見える。

クロム球が浮いている様子。支えるものは何もなく、磁力の力のみで浮く。
STORYが他の時計と違うもう一つの点は、針の代わりに球が浮くということだけではなく、自分だけの期間を設定して、時の流れを可視化できる点である。つまり、ただ時刻を刻む時計ではないのだ。専用のアプリと連動して球体が一周するスパンを自分で自由に設定することができ、その日時に向かって、クロム球が回転しながら0地点のゴールに向かってゆっくりと動くという、自分だけの時計が作れるのである。

自分で設定した日を目指し、一周をかけて進むクロム球

クロム球の動きを、短針に設定。表示されている時刻と連動しているのがわかる。
STORYはさまざまな時間サイクルの指定が可能だ。冒頭で述べたような時計としてももちろん使えるため、「長針」「短針」「秒針」としてクロム球を動かすこともできる。また、クロム球が動くサイクルを「一年」「一ヶ月」「一週間」としても設定することができ、一日という単位ではなく、大きな時間軸を体感することもできる。

「ジャーニーモード」に設定すると、上記で述べた通り、クロム球が動く一周の期間を自由に設定して、自分だけの時の流れを視覚的に教えてくれる。例えば自分の誕生日や、ビッグプロジェクトの発表日、大切な記念日などを好きなように日時を設定することができるのだ。誕生日まであと3ヶ月であれば、時が徐々に迫るように、3ヶ月をかけてクロム球が一周する。クロム球が今どのくらいの時間経過の中にいて、あとどのくらいで設定した「その日」が来るのかを視覚的に表してくれる。自分が設定した日を目指して一周をかけて進むクロム球は、まるで自分自身のようである。

また、月齢カレンダーとしても使える「ルナーピリオドモード」というのもある。現在の月の満ち欠けと連動してLEDが光ったり、クロム球が動いたりと、部屋の照明を落として使えば、神秘的な雰囲気に魅了されるであろう。

ルナーピリオドモードに設定。あと4日で満月になる月と連動し、壁に上弦の月が浮かぶ。

インテリアとしても美しく機能する、STORY

シンプルなデザイン、そしてナチュラルでありながらも高級感が漂うウォルナットの素材感は、どんな空間にもマッチする。

無垢素材ならではの表情と、ウォルナット材の木肌が美しい。
設置方法は「壁掛け」「平置き」「スタンド立て掛け」の3つあり、クロム球はそれぞれ垂直、水平、60度の角度で浮遊する。日中はリビングに置き、夜は寝室に持っていくなど、生活サイクルに合わせて時計を移動させるのも良いかもしれない。

机に直に置くことも可能。空間をモダンな印象へと昇華させる。
また、LEDが裏側に内蔵してあり、間接照明のようにも使用できる。その日の気分に合わせて、色味や明るさを細かく自分好みに細かく設定できるのがポイントだ。紅葉が見頃の秋には、窓から見える景色と連動して濃い赤色に設定したり、気分を落ち着かせたい時は、その効果があるとされる青色に設定したりと、専用アプリで感覚的に変更できる。

無料の専用アプリをダウンロードすれば、スマートフォンで色相、彩度、明度を自由に調節できる。
中央のLED表示の時刻は、「12時間表示」「24時間表示」「OFF」のいずれかを選択でき、時間表示をOFFにすれば時計だとは一見わからず、不思議なクロム球が周遊しているだけのスタイリッシュなオブジェに変化する。

時間表示をOFFにすれば、空間により馴染みやすくなる。時間を気にしたくないリラックスタイムにもちょうどいい。

目に見えないものを可視化すること

止まることを知らず、静かに浮遊し続けるクロム球。
もともと時間というのは目に見えず、捉えることができない概念的な存在である。その概念を時計として表現したことで、我々は目の前の数字を信じながら生活できるようなり、生きやすくなった。

人類にとって、古来は太陽や月の動きが時計そのものであり、紀元前約2000年頃に発明されたといわれる日時計から時計の歴史は始まった。その後紀元前1400年-紀元前700年頃には、特定の大きさで作った蝋燭や線香、火縄が燃える距離を使う燃焼時計、水や砂が小さな穴から落ちる体積を使う水時計や砂時計などが考案された。やがて現在の時計につながる機械式時計を生み出すこととなったのだが、時計を考案してきたその努力はすさまじいものであっただろう。人はもとより不可視なものを可視化する行為そのものに魅力を感じていたのではないだろうか。

目に見えない神を可視化する偶像崇拝を行う宗教が今も存在するようにし、目に見えないものを可視化するというのは遺伝子レベルで人間が持つ根源的な欲求なのかもしれない。

STORYのクロム球も、まさに目に見えない時間、時の流れを可視化している。過去にどれだけ進み、現在はこのポイントで、あとどれだけの未来があることを教えてくれる。さらに一日24時間という時間の概念を超えた、個人的な時間を体感することができる不思議なアイテムである。

自分の時間軸で生活をする

時間の表示と、自分が設定した期間で動くクロム球。二つの時間軸が交差する。
日々忙しい毎日を過ごしていると、過去を振り返って「時が経つのが早い」と意識することはあるものの、今この瞬間や、未来の時間を意識することはあまりないのではないだろうか。STORYが過去・現在・未来の時間を可視化してくれることにより、固定された一日24時間という時間軸ではなく、自分軸ベースで行動すること、自分の時間で時を進めるべきということを教えてくれる。刻々と進み続ける時間に追われる日々ではなく、時に流されず自分を大切に、自分軸で生きる。そもそも一人ひとり時間の感じ方は異なるのだから、一日24時間という限られた時間枠で行動を合わせる必要はないのかもしれない。

STORY(ストーリー)