Vol.142

MONO

26 JUN 2020

今に向き合えるうつわ イイホシユミコの「unjour」

毎日の食事に必ず必要になるうつわ。日本人の平均寿命の81歳まで、毎日3食を食べたとして、約8万9千回も食事をすることになる。日々何気なく使っているそのうつわは、なんとなく買ったものでも毎日目にしているうちに愛着が湧いたり、あなたの日常に欠かせないものになっていることもあるだろう。自分だけのこだわりを持っていれば、今まで以上に毎日を楽しめるようになり、今という時間を意識し、自分と向き合うことで一人暮らしの日々が充実するのかもしれない。より目の前の時間を楽しむためのアイテムとして、うつわを新たに探したい。そんなあなたに手づくりの温かみを残しつつ、日常に溶け込むミニマルなうつわを紹介しよう。

手づくりとプロダクトの境界

様々なサイズがあるunjourプレート
unjour(アンジュール)は磁器作家イイホシユミコさんが最初に製作したプロダクトだ。陶器と磁器は似ているように見えるが別物。そもそも陶器というのは土が主な原料で作られているうつわで、磁器は陶石が主な原料なのだ。磁器の方が軽く割れにくいので使い勝手が良いのだが、保温性が低いのでスープなどが冷めやすくなってしまう。つまり原料の違いで、それぞれの性質が違ってくるのである。

今回紹介するunjourは磁器。そのシンプルで洗練された見た目や使いやすさから、カフェなどでも使われてるイイホシさんの作品のなかでも特に人気の高いシリーズだ。unjourはイイホシさんの作るうつわの特徴の1つでもある、釉薬を施した時に出来る色の濃淡や、1つ1つうつわによって変わる表情の違いを楽しめる逸品である。

イイホシさんは現在unjourの他にも、伊羅保釉(いらぼゆう)のプロダクト「ReIRABO(リイラボ)」や、旅に持っていく器をイメージして作ったシリーズ「bon voyage」など10種類以上のシリーズをデザイン、プロデュースしている。これらは公式オンラインショップをはじめ、都内や大阪に直営店があり購入することができる。

unjourにはシリアルにぴったりなボウルもある
イイホシさんはブランドを立ち上げるにあたって、「手づくりのものは作り手の手跡が残らないように、プロダクトのものは味気のないものにならないように」というコンセプトをもうけたという。

unjourは装飾や無駄なデザインが一切ない、シンプルながらも温かさのあるうつわ。量産でありながら温かみのある食器を作ることを目指して、イイホシさんが手作りした色や形状を、職人の手作業により製作している。

イイホシさんによると、うつわとしての強度があることなどの条件を満たした土を選んでいるという。現在は瀬戸物で有名な愛知県瀬戸市でイイホシさんが依頼した職人さんたちによって、うつわの成形から焼き上げまでの工程が行われている。協業する窯元は、その規模や有名無名を問わないという。思い描いているものを実現するために本当に良いと思う材料や人を選ぶのが、イイホシさんのこだわりなのだ。

職人が1つ1つ施釉しているので色のかかり方の違いも楽しめる
このうつわの名前になっているunjourはフランス語で、「1日」を意味する。サイズの違いから、1日のそれぞれの食事シーンが思い浮かぶように、というイイホシさんの想いから名付けられたものだ。それぞれの食事のシーンに合わせて作られたうつわは、プレートのサイズやボウルなど大小いくつかの種類が存在する。シンプルなデザインなので和食をのせてもよし、ケーキをのせてもよし。使い手次第なのだ。

いつの間にか日常に馴染んで、当たり前に使うようになるうつわは、ふとした時に過去を思い出させてくれたりもする。仕事がうまくいって充実感を胸にケーキを買って帰り、家で1人で頬張った日。友人と喧嘩して泣きながらコーヒーを飲んだ日。うつわはただのモノではなく、一緒に過ごした時間を通して自分の人生を振り返り、向き合うきっかけをくれるツールにもなるのだ。

朝、今日も新しい一日がはじまる

朝を華やかに見せてくれる。
朝をイメージして作られたunjourシリーズのプレートは1番サイズが大きなものだ。

絶妙な色が美しい。左上から順に、moku、ruri、nami、smoke blue 、suna、rainy gray、の6つのカラーから選ぶことができる。
この特徴的なカラーの名前は、イイホシさんがその色から受けた印象がダイレクトに伝わるようにと考えたそうだ。

ワンプレート朝食にも最適
朝は、時間を気にせず自分のペースで活動したいと考えているが、実情は時間に余裕がなくご飯をかきこんだり、そもそも食べる時間がないという人も多いだろう。お金を自由に使うこともひとつの贅沢かもしれないが、忙しい現代人にとって本当の贅沢とは、時間を気にすることなく過ごすことなのではないだろうか。

午後、少し足を休めてみよう

お菓子を乗せれば、カフェを訪れた気分になれる
1時間が過ぎるのは早いもので、気がついたらもう午後3時。経過したその時間に気がついた瞬間、どっと疲れを感じるという人も多い。ちょっとした休憩時間に、楽しみにしていたおやつをお気に入りのうつわに乗せて、ちょっと一息。unjourは自宅にいても、おしゃれなカフェでおやつを食べている気分にさせてくれる。

ちょっと食べたい時にもぴったり
もう一踏ん張りする平日と違い、休日にはおうちに遊びにきた友人とお茶タイム。そんな時にも活躍してくれるのがunjourのうつわ。とりわけ皿としても優秀なのである。友人とわいわい世間話をしながらおやつを楽しむ時間。誰かと楽しむ時間も一人で自分に向き合う時間も、自分と時間を一緒に過ごしてくれるうつわなのだ。

夜、今の自分とゆっくり対話

夜は静かに今日の終わりを楽しむ時間。チョコレートをひとかけら、小さなご褒美としてドリンクと一緒に楽しむのもまた贅沢。食後に今日あった出来事を思い出しながら1人で映画を楽しむのも、大人のいい1日の終わり方だろう。

少しの甘いものを用意して、自分のこころと会話をしよう
イイホシさんのプロダクトは、イイホシさんの手作りのデザインを元に職人さんたちが丁寧に作っているものだ。1つの窯元で全てを作るのではなく、釉薬を施す職人さんや焼きを担当している職人さんなど、多くの人の手が関わって作り上げられているのである。機械ではなく、毎回微妙に異なる人の手を介しているのだ。

だから、1つとして同じ色合いのものは存在しない。機械で無機質に作られたものではなく、思いを持って1つ1つ作られたものと暮らすことで、自分自身も唯一無二の存在であると気がつくことができるのではないだろうか。

今、この時間を見つめ直す

日常に溶け込む。
洗練されたデザインで、温かみがありながらも、使い手によって表情を変化させてくれるunjourのうつわ。シンプルなデザインだからこそ、日常に溶け込んでくれるのである。時間は特に実態がないけれど、一度であっても使った時間が記憶に残っていたり、そのうつわをみてその時のことを思い出すツールになったらいいなと、イイホシさんは話す。

うつわはただの物体として役割ではなく、使う人と時間を共有しその人の人生に関わるものとなる。何気なくうつわを使って食事をしている1日1日も、振り返ったらその人を作っていく時間なのだ。たった1回しかない時間に向き合うのは、人生にとっても大切なことであり、人生をより深く歩むことに繋がっていくだろう。

yumiko iihoshi porcelain

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