クリスマスと同時期にならぶお正月用品。おせちや鏡もちとともに並ぶしめ縄飾りは、「歳神様を迎えるため」に飾るものと見聞きしていても、よくは知らないし積極的に飾ろうとするほどの意欲もない、という人も多いだろう。普段仕事などで慌ただしく過ごしている人は尚更だ。そんな人にこそ、自分を見つめ直す機会として「しめ縄飾り」を手づくりしてみてほしい。
歳神様を迎えるための結界としての意味をもつ「しめ縄」
忙しい現代では、正月飾りは既製品を購入するのが一般的だと思う。そもそも手づくりできるもの、というイメージがない人も多いのではないだろうか。既製品のなかから選ぶ楽しみもあるが、少なからず味気なさを感じるところもある。手軽にできるがゆえに、形だけの行いに感じて必要性に疑問を感じてしまう人がいてもおかしくはない。
だからといって何もせずに年の瀬を過ごし、新年を迎えるのももったいないというもの。1年を無事に過ごしたことに感謝しながら、日々を振り返り、心新たにして次の年へ臨む準備として、お正月に家を彩るしめ縄飾りを手づくりしたい。
そもそもお正月は、穀物・農耕の神様である歳神様を迎えるための行事だ。年末の大掃除をして、門松やしめ縄飾りを準備しておくと、来訪神である歳神様がそれを目印にして家々を訪れるという。
しめ縄は日本の神道文化において、神聖な場所と外界を分ける「結界」としての役割を持つ。神社の入り口や神棚にも使われるのと同様に、しめ縄を飾ることで家の玄関先などに神聖な空間を作り出すのだ。
また、しめ縄が作り出す結界は災いを除ける「魔除け」としての意味も持つことから、無病息災や家内安全の願いも込められているそうだ。しめ縄の素材には、稲わらといった自然のものを用いるが、自然の恵みに感謝するともに、五穀豊穣や転じて商売繁盛を願う意味も込められてきた。
このしめ縄に松葉や橙、裏白などを飾るのはお正月だけであり、おめでたい気持ちと豊穣への祈りが込められている。とはいえ厳密な決まりはなく、しめ縄で清浄な場をつくる、という意味を忘れなければ問題ないとされているようだ。
家人全員が使用する玄関先に飾ることで、新年を迎えるための心構えをするとともに新年への期待感を促す象徴としての役割もあるのだろう。
気持ちを整える時間を与え、ぬくもりと充実感を感じられる手づくりの魅力
手づくりのしめ縄は手間や時間はかかるが、それに見合う価値を与えてくれる。
自分で作る場合、色やかたち、その組み合わせの細部に至るまで、パーツの一つ一つを選び取ることから始まる。自身の好きな花や素材を選んでもいいし、冬でも青々とした松・竹に加え、寒いなかでも花を咲かせる梅、難を転ずるとされる南天など、植物の持つ意味を調べながら選ぶのも楽しい。
素材を組み変えながら、少しずつ異なる仕上がりを想像し、自分の「好き」を追求して組み立てていくのはとても楽しい行為だ。藁やドライフラワーなどを使えば、自然の素材がもつ香りや手触りも感じられる。
素材の配置と組み合わせを考えながら手を動かし形を整えていく作業は、集中する心地よさを感じられる。1年を振り返りながら、次の年をどう過ごしていくかを考える時間を過ごせば、お正月を迎える心の準備も整っていくだろう。
作り方はかんたん。自分らしい彩りやデザインを追求する
しめ縄飾りは、意外と簡単に手づくりすることができる。藁や麻紐・紙紐などをよってしめ縄の形にし、しめ縄から手づくりすることもできるが、しめ縄部分だけのクラフト素材が販売されているため、手軽にデコレーションだけでも楽しめる。
しめ縄の固定部分には、ワイヤーなどの固定具が見えないように飾りを取り付けていく。主役になる花などを据えながら、色味や形のバランスなどの組み合わせを考える。
椿や葉牡丹、南天、稲穂などの植物に加え、水引や扇などの飾りを付ければ和の趣がありながらも可愛らしいしめ縄飾りがだんだんと出来上がる。
もしインテリアと合わせたい色味や雰囲気の好みがあれば、組み合わせる花や色・素材によってまったく異なる雰囲気をもつしめ縄飾りを作ることもできる。自分の好きな色・サイズ・雰囲気に合わせることができるのも、手づくりのメリットだ。
全体の色使いや組み合わせるパーツを変えるだけで、まったく異なる雰囲気をもったしめ縄飾りになるため、自分の好みに合わせて細かくデザインを調整する。自分なりにしっくりくる形になったら完成だ。
伝統の文化だからこそ、自分なりの価値を見つけて楽しむ工夫を
手づくりすることは、暮らしに手間をかけるということ。そのうえで、自分らしい暮らしを作っていくことだ。
しめ縄飾りを作る過程は、新しい年を迎える節目に向けて自分の心を整える時間を与えてくれる。特に自然素材を使用すると、清涼感のある植物の香りでリラックスした気分にもなる。そうして作業に集中する時間は、一種の瞑想のようでもあり、雑念が抜けてスッキリしてくるものだ。
しめ縄飾りが完成したあとは、目に入るたびに完成させた達成感やお気に入りのデザインに心が和む。これまでの1年を思い返しながら、新しい年に向かう心の準備が整っていく。加えて自分で作ったものが場を清める力があると思うと、なんだか誇らしくも感じられる。
忙しくも刺激の多い現代にあって、なかなか伝統的な文化や行事について深堀りすることはあまりない。しかし、堅苦しく感じるものも手づくりという自分ごとに置き換えてみれば、行事の本質を深く理解することにもつながる。よく分からないと敬遠せず、自分なりの楽しみを見つけてほしい。
願いを込めた温かなしめ縄飾りで、心清らかなお正月を
自分の願いや気持ちを込めた「特別なかたち」を生み出す時間は、新年を迎える心の準備そのものだ。手づくりのしめ縄飾りができたら、大掃除をすませた玄関などに設置しよう。
自分らしい彩りと温もりあるしめ縄飾りとともに、新たな年の始まりを迎えてほしい。
CURATION BY
フリーライター・ディレクター。必要最低限のもので暮らすミニマリズムの魅力に惹かれ、9割の所持品を断捨離。自分の心に正直であることを信条としている。