窪田氏とデザイナーズチェア
窪田 俊 プロフィール
デザイナーズチェアの魅力
———椅子をたくさんお持ちですが、どのように選んでいますか?
「仕事柄、椅子に限らずさまざまな家具を見てきました。今は、一周回って最初に見て直感的に惹かれたものがしっくりくるな、というのが結論。トレンドや型にはめ込んでしまうと、空間が薄っぺらくまとまってしまうような感覚があります」
———直感ですか。ノウハウをお聞きしようと思っていたので、想像と真逆の回答でした(笑)。
「自分がそのプロダクトのどこが好きなのかを考えてみると『有名デザイナーが手掛けたから』とか『トレンドだから』『使い心地が良いから』といった理由ではありません。僕は純粋に家具が好きでこの職業につきました。家具を使って空間をプランニングしていくことは、僕にとっては自己表現でもある。だから型にはめるのではなく、壊して再構築していくために、自分の直感が大事だと思っています」
———ネームバリューやトレンドに惑わされることなく『自分はこれが好き』という直感は大事にしたいです。いろんなデザイナーズチェアをお持ちですが、同じシリーズで統一するのではなく、異なるチェアを組み合わせている理由はありますか?
「同じものをセットで使うよりも“こなれ感”が演出できます。組み合わせには少しコツがあって、同じブランドのもので違うラインナップを組み合わせたり、同じプロダクトでも色違いを選んだり、素材や色を合わせるといった方法があります」
実は座り心地が良くないものもある
「正直言うと、古くからあるデザイナーズチェアは座り心地がそれほど良くないんですよね……」
———それはまたびっくりです。座り心地は重要ではないのでしょうか。
「今作られている椅子とはデザインも素材も違うんです。それでも多くの人に長年愛されてきた理由がある。それぞれのブランドストーリーがあり、それがデザインに反映されている。僕は、そういう部分に惹かれているのだと思います。座り心地は二の次ですね」
デザイナーズチェア好きは「ウラ」と「うしろ」を見る
「僕、デザイナーズチェアの座面の裏を見るのが好きで、購入する前につい見てしまう部分が裏ですね」
「私も裏をみるのが好きなんです!」と奥様もインタビューに飛び入り参加。
「このスタンダードチェア(写真・上)は現行品なので、座面と背もたれ部分の材質がオリジナルのものと違う。だからここにリサイクルマークが入っていたりする。こういう部分も見ていて楽しいです」
———なかなかマニアックな視点ですが、食器なども裏面を見たりしますから、同じような感覚なのでしょうね。他に、注目しているところは?
「椅子を選ぶ時、多くの方はプロダクトを正面から見てしまいがちですよね。でも、実際に室内で目にする機会が多いのは正面ではなく背面か側面です。だから、僕が見るのは後ろの方。後ろ姿と横の姿が美しいものを選びます」
「リプロダクトは、意匠権の期限が切れた製品のオリジナルデザインを元に、出来るだけ忠実に復刻生産した製品で、オリジナルよりも低価格で購入できる反面、クオリティが良いものと悪いものがあります。実際に手にとって品質を確かめる方が良いと思います」
窪田さん愛用のデザイナーズチェア
CH24 SOFT BY ILSE CRAWFORD
「このYチェアは、僕がアトリエを造るタイミングで購入したものです。こちらの製品はYチェア発売70周年を迎えた2020年の限定カラーシリーズ。ホワイト以外にもカラーバリエーションがあります」
———ホワイトを選んだ理由はありますか?
「オリジナルのYチェアはナチュラルな木目のアームで、日本の家屋にも合わせやすく、国内でも人気があります。デンマークの製品ですが、僕は個人的にYチェアに対して和の空間に合わせるイメージがあったので、自宅のスタイルに取り入れてきませんでした。でも、このリミテッドカラーのエディションが出て、上品かつアイコニックな雰囲気がプラスされたので、洋風のスタイリングにもしっくりくると感じて購入しました」
CH24概要
PK1 chair
———座り心地も良さそうですね。
「PK1はお客さんからも座りやすいと評判です。船で使われる頑丈なロープを55メートルほど使っており、クッション性にも優れています。こちらのフラッグハリヤードは現在廃盤になっており、FSC認定の藤編み仕様になっています」
PK1 chair概要
Standard Chair SP (Siège en Plastique)
「この椅子は、僕にとっては座りづらいですね……(笑)。部屋の隅に置いて、オブジェとして活用しています。贅沢な使い方でしょう? 斜めや後ろから見た姿がカッコいい。素材や色でバリエーションを増やしている点も好きです」
Standard Chair SP概要
デザインは生活を豊かにし、芸術は人生を豊かにする
これは今回の取材で撮影を担当した写真家がポロっと呟いた言葉だ。
家具を選ぶときは道具としての使い勝手を重要視しがちである。居住空間の最適解として機能や効率を重視してしまうと、不便だったり高価だったりするデザイナーズ家具を迎えようとは考えられないはずだ。
今回お話を伺った窪田氏が空間を手がける行為は、家具を通じて往年のデザイナー達と対話し、それらを自分の感性と融合させながら、全く新しい物語を編んでいくようなことなのだろう。
これを読んでくださっている皆さんに、もし気になっているデザイナーズチェアがあれば、ご自身がときめく感性を大切にしてみてほしい。
過ぎ去った時代を豊かにしたデザインが、これからの人生を豊かにするヒントになるかもしれないから。決して座り心地の良くない椅子であっても、だ。
F.I.N.D UNIT
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