室内にいながら外の景色を眺めること
造園を手掛けたり美術品を購入したりすることはややハードルが高いが、自身が出逢った自然風景の一部を借りて、アート作品のように室内に配置し、その景色を眺めてみるのはどうだろう。
たとえば小石や枯枝を拾い、自然物の有機的なフォルムや、色、テクスチャーを観察しながら彫刻作品のように飾ってみる。「これは良い石だ」「この枝よりも、あっちの枝が好き」......それまで気に留めることがなかったありふれた自然物たちが、それぞれに個性や美しさを持っていることに気が付くようになる。そこから産地や特徴を調べるようになり……クセになってコレクターになる人も少なくない。
ただし、すぐに素敵なものに出逢えるとは限らない。そういう偶発性も、この遊びの面白いところ。
自然がつくり出すアート作品と出逢う
旅行で訪れた場所で、見慣れない自然物と出逢うこともあるかもしれない。
そうして出逢ったものの中から自分の感性に響くものを選び、宝物のようにコレクションしていく。拾えないものはカメラで切り取るのも良い。
イタリアの美術家、ブルーノ・ムナーリ(1907-1998)は、著作やワークショップで『観察することの大切さや面白さ』を説いている。『木をかこう』(至光社国際版絵本・ブルーノ・ムナーリ/作・須賀敦子/訳)の中では『幹から遠くなるほど、枝は細くなる』といったあたりまえのことが繰り返し描かれている。子ども向けの絵本のような一冊だが、自然物それぞれの規則性を発見したり、不思議がったりすることの楽しさを教えてくれる易しい手本だ。
もっと簡単なのは、地域の植物図鑑や鉱物図鑑を見ること。自然に関する少しの知識を持っておくことで、ものの見方のバリエーションも増えていくはず。
「雑草という名の草はない」
これはNHKの連続テレビ小説『らんまん』のモデルになっている植物学者、牧野富太郎氏の言葉で、名もなき植物と捉えることは見る側の知識がないだけであって、ほぼすべての植物には名前があり、生態が分類されているということ。
春の訪れと共に、アスファルトから力強く生えてくる何気ない草花にも、素敵な名前がついているのかもしれない。
自然のオブジェを室内へ運び、手入れする
植物に関しては、虫が付着している可能性が高いため、丁寧に手入れをしておく方が無難だ。ここでは、私が知人のフローリストに教わった方法をご紹介する。ただし、あくまで簡易的な方法なのであしからず。気になる方は入念に手入れを行ってほしい。
枯木のお手入れ方法
枝物や花のお手入れ方法
花の場合は余計な葉(とくに水に浸かる部分)を取るのが長持ちさせるコツ。枝物も花も、花瓶の水は清潔を保つことが大切だ。ごく少量の漂白剤を入れるといった簡単な方法もある。毎日こまめに水切りをし、痛んだ部分は取り、霧吹きをすると長持ちしやすい。
自然のオブジェをインスタレーションする
このような行為は、芸術分野でインスタレーションと言われている。インスタレーションは、1970年代以降一般化した現代美術における表現手法のひとつで、室内や屋外などにオブジェ等を配置し、場所や空間全体を作品として体験させること。
そして置く物や場所が、人それぞれのセンスの見せ所。
大きめの枝物を空間に配置すると、視点が留まるポイントが生まれるため、仕切りを置かずに空間の間仕切りができる効果がある。
写真を飾る方法のバリエーション
写真の展示方法として一般的なのは、出力したものを額装し壁に設置する方法だが、自分の手で額装するのはなかなか難しいかもしれない。もし額装したい場合は専門店に相談してみよう。さまざまな額装の方法があるため、アドバイスをもらうことができるはず。
額装やマウントをせずに直接壁に貼る方法もある。次の写真は昨今の美術展覧会にも使われるソフト粘着剤を使用。賃貸物件であってもクロスを傷めずに貼り付けることが可能だ。ただし、保存性は弱いため、状態を長く保ちたい場合には不向き。
写真史に名を刻む作家でも、型にはまらず自由な表現手段を選ぶことがある。
平面作品は額装するという形式ばった考えを打ち破った作家の一人を挙げてみると、日本でも人気のあるドイツ現代写真作家、ウォルフガング・ティルマンス(1968-)は自身の作品の展示方法をインスタレーションという手法で見せたことで話題となった。額装ではなくテープで直接壁に貼ったり、クリップで挟んだり、サイズや紙もバラバラだ。
一見ランダムなようで、全体を見ると独特なリズムや呼応を想起させるティルマンスのインスタレーション。機会があれば参考にしてみてほしい。
自然物の実用的な使い方
自然物をインテリアに取り入れて楽しむこと
自宅というプライベートな場所を、日々生活するための実用的な空間としてだけでなく、自分のための小さなギャラリーのように考えてみてはいかがだろうか。そこに並ぶのは既製品にはない、ごく個人的な発見や喜びだ。
ここに2つの石がある。多くの人にとって何の価値もない石ころだが、これらはかつて私が訪れた2つの旅先の記録でもある。ありふれた自然物の中に、プロダクトには持ち得ない唯一無二の魅力を発見する。そういった日々の小さな喜びをコレクションしてみてほしい。