Vol.434

KOTO

14 APR 2023

北欧のお酒アクアビットと一緒に楽しみたい。アートフォトブックのすすめ

北欧と言えば何を連想するだろうか? シンプルで洗礼されたデザイン。オーロラが輝くフィヨルドの大自然やトナカイなどの野生動物。充実した社会保障やジェンダーレスな政治など、日本にいても多少の情報は入ってくる。 そして北欧へ何かしらの憧れがある人も少なく無いだろう。北欧生まれの蒸留酒アクアビットと、その土地から生まれるファインアートフォトブックを手に取れば、日本にいながら北欧のリアルをダイレクトに感じる事が出来るはずだ。 そうして感じることは、きっと単純な事だけではなく、新たな価値に気づくかもしれない。

北欧の地酒。ジャガイモの蒸留酒「命の水」アクアビット

Gerry Johanssonの作品とAALBORG Jubilaeums
アクアビットは、主に北欧や東欧地域で飲まれる、ジャガイモを原料とした蒸留酒だ。その中でも世界一の消費量と生産量がある国はデンマーク。 アクアビットの語源はラテン語で「命の水」を意味する。特に有名な銘柄であるAALBORG(オールヴォー)はスパイスやハーブ、フルーツなどをブレンドした複雑な味わいが特徴的だ。

1846年から現在まで変わらぬレシピで作られており、北欧では知られた歴史あるお酒だ。今回飲むボトルはオールヴォー100周年を記念して作られたJubilaeums(ジュビリウムス)だ。樽熟成され綺麗な黄金色をしている。

ストレートで注いだグラスに鼻を近づけるとオレンジのような香りが広がる。口に含めばキリッとした辛口で、アルコール度数が40%あるにも関わらず、意外にも飲みやすく、デンマークでポピュラーなお酒だと言われている事に納得だ。まずはストレートやロックで楽しみたいが、強いお酒が苦手な方はソーダや水で割っても美味しく飲めるだろう。

ハーブの香り、熟成の有無で個性が分かれる

代表的なアクアビットブランドのオールボー

気温が上がってくると飲みたくなるソーダ割

スウェーデンのプレミアムなアクアビット、ストックホルムブランネリ

北欧らしさを感じるデザインの可愛いボトルが特徴的な、ストックホルムブランネリ アクアビット。 ストックホルムで初めて作られたジンの蒸留所が造った、このアクアビットもおすすめだ。先程のAALBORGと比べると、またガラリと味が変わる。香りにはジェニパーも使われているため、ジンを思わせるような風味だ。

ボトルにはいつ頃ブレンドされたかが分かる為のバッチナンバーや手書きのサインが書かれていて、小規模なクラフト蒸留所らしさが出ていて生産者の想いを感じられる。風味にはスターアニスやスパイスっぽさがある。ロックやソーダでも美味しいし、もちろんナッツやチーズにも合わせても良い。

ジャガイモで造られるストックホルムブランネリ アクアビット

わさび味のナッツとも相性が良かった。

バッチナンバーは、ブレンドした時の番号

フォトアートブックとのマリアージュ

アクアビットをゆっくりと嗜んだら、お気に入りの写真集をゆっくりと鑑賞したい。この瞬間はまさに至福の時間。ポイントはパラパラと急いでめくらずに、時間を掛けてゆっくりと一枚の写真と向かい合っていく事だ。写真集というのは5分でめくり終える事が出来る書籍だが、1日で最後まで読まなくても良い。

Gerry Johanssonの作品 EHIMEとのペアリング
気分に合った一枚が出てきたら、出来るだけページをめくるのを堪える事が大切だ。もちろん好きな音楽を流しても良いし、写真集は自然光や蛍光灯の中で見ると本来のプリントの色が良く分かると言われるが、そんなことは気にせず温かい色のライトの中で自由に見るのもありだ。

自分の好きな空間でリラックスして読む事が何よりも大切な事だと思う。デジタルで疲れている時などには、ぜひお勧めしたい時間の過ごし方なのだ。

お酒の郷土にあった写真集が、より想像を膨らませる

北欧のお酒には北欧で生まれた作品がやはり合うし、よりイメージの世界に入り込みやすい。北欧で有名なフォトグラファーには共通する部分がある。イメージを作り込むよりは日常からストーリーを見出し、テクニカルな表現ではなく自然体な写真集が多いように感じる。

綺麗なだけではなく普遍的な問題意識も詩的に表現され、思考された美的センスを感じられる。 ワークスではファッションを撮っている人も多く、オシャレな雰囲気や、トーンの落ち着いた中で映えるような色使いも特徴的だ。有名なノルウェー人フォトグラファーの、Ola Rindal (オラリンダル)の作品もおすすめの一つだ。

OlaRindal The Cloud,the Bird and the Puddle 表紙
表紙に写真は使われておらず、親子を連想させるようなシルエットが小さく描かれている。日常的な風景の中、優しく柔らかなイメージと不穏を感じさせるようなイメージが混ざり合い、そこに子供のポートレートが介入し、単純では無い様々な問題を考えさせられるような作品だ。

また北欧アートフォトブックの多くにステートメントが表記されていない物も多いので、私が勝手に感じた事を多く語るのは、あまりに僭越かと思うので、好きなようにページを開き好きなように感じてもらいたい。ある人には単純に綺麗な風景に見えたとしても、ある人がみたら不穏なイメージに感じることは、多々ある事だ。

OlaRindal The Cloud,the Bird and the Puddle より

OlaRindal The Cloud,the Bird and the Puddle より

日本に所縁がある作家も多くいるのは、日本好きな作家が多いという表れ

他にも、スウェーデンのLina Scheynius(リナシェイニウス)は自身のセルフポートレートや恋人との時間、出産にいたるまでを日記のように撮りためられたMy Photo Book は秀作だ。JH Engstrom( JHエングストローム)もスウェーデン生まれで、作品は毒素や棘を感じるような強めなイメージが印象的だが、そこがクールでカッコ良い。

JH Engstrom の作品集
J.HEngstromのKAOKE SUNNEやCRASHは日本で出版されている。実は日本に所縁があるフォトグラファーは多くいる。日本人が北欧に憧れを持つ人が多いように、北欧でも日本好きな人は多いのかもしれない。

JH Engstrom ENDE UND ANFANG-EARLY TRIPS より

JH Engstrom Tout va Bien より
Gerry Johansson(ゲリーヨハンソン)は愛媛を題材にした作品を制作した上で、日本の版元から出版されている。 愛媛の何気ない風景をオブジェクトとして捉え、アートに昇華させる視点は、我々日本に住む物に新しい気づきを教えてくれる。

京都の塩谷という村に23年も通い、村人や伝統的な生活を撮影し作品にまとめたスウェーデンのAnders Edstrom(アンダースエドストローム)というフォトグラファーもいる。 遠く離れた両国だが、どこか憧れと類似する共通したところがあるのかもしれない。

Lina Scheynius Myphoto Book 11冊コンプリート版

Gerry Johansson Ehime 日本の出版社T&M Projects

Lina Scheynius Myphoto Book より

身近な世界に気づきが増えるかも

lång, kort, stark, tillfällig (長く短く強く儚い)筆者より
アートフォトブックを観ながら、その郷土のお酒を飲むという時間は非常に贅沢なひとときだ。そんな贅沢な時間を楽しんだ後に、カメラを持って街に出たら、また新たな気づきを発見し、少しだけ世界が変わって見えるかもしれない。ありふれた日常から、いつもと違う景色が浮かび上がってくるだろう。

Google Mapで検索したら出てくる写真を同じように撮る意味は何なのか。多くの人が同じ方向にカメラを向けている時には、自分の足元を撮る方が価値のあるイメージなのではないだろうか。