Vol.2

KOTO

28 FEB 2019

自分と世界の関係をミニマルに見つめ直す。「石川直樹 この星の光の地図を写す」

日常の光景を、旅先での風景を、地球そのものを最小単位で見つめ直したことはあるだろうか。現在開催中の写真展「石川直樹 この星の光の地図を写す」は、「自分と世界」という1対1のミニマルな視点から世界を撮った写真展だ。展示には写真とより向き合うための“ミニマルな工夫”も施されていると聞きつけて、ギャラリートークイベントへと足を運んだ。

「K2」2015

石川直樹20年の軌跡をたどる大規模個展

今回訪れた展示は、世界をフィールドに活躍する写真家、石川直樹による東京での初の大規模個展だ。水戸芸術館現代美術センターでの開催から始まり、2年間かけて全国を巡回。そして最終地となる東京オペラシティアートギャラリーでの開催に至ったという。

1977年東京に生まれた石川直樹は、弱冠22歳で北極から南極まで人力で踏破し、23歳で七大陸最高峰の登頂に成功。その後も各地を縦横に旅して撮影を続ける人物だ。人類学や民俗学などの視点を取り入れた独自のスタイルを持ち、日常や世界を見つめ直す活動としても注目されている。

展示では、石川の初期から現在にいたるまでの活動を、写真だけでなく映像や、言葉、実際に使用してきた道具なども含めて、幅広く紹介。北極圏に生きる人々を写した『POLAR』、各地に残る先史時代の壁画を撮影した『NEW DIMENSION』、ポリネシア・トライアングルの島々をとらえた『CORONA』、日本列島の南北に連なる島々を追う『ARCHIPELAGO』、ヒマラヤの西端に位置する世界第2位の高峰に向かう遠征で撮影された『K2』など、各シリーズを通してあくなき冒険と探求を続ける石川の足跡と眼差しに触れられる。

写真家本人から解説が聞けるということもあり、イベント当日は多くの人で賑わっていた。

「この星の光の地図を写す」とはなにか?

石川が言うには、自分なりの地図を写真で提示するという意味が展覧会のタイトルに込められているという。

「見慣れた世界地図もそうだけど、それぞれの人が持っている地図が好きなんです。例えば旅先で道に迷ったときに、現地の人に道を聞いたりする。すると、その人なりの地図を描いて案内してくれたりする。その人だけが知っている通りが描かれていたり、小さなお店なんだけどその人にとっては思い入れのあるお店がでっかく描かれたりいたりする。旅先でもらうその人だけの地図が好きです」と石川は語る。

石川がシャッターを切り、太陽の光によって写し出された写真は、彼が旅をしてきたからこそ描ける地図だと言えるのだろう。

石川直樹の足跡をたどる

石川直樹の初めてのひとり旅はなんと中学2年生の時だったという。坂本龍馬の本を読み、四国の高知県へ行ったそうだ。そして、高校2年生の時からは世界中を旅するようになったという。

「DENALI」というシリーズは、石川が写真家として活動を始めたばかりの20歳の頃のものだ。デナリという北アメリカのアラスカ山脈最高峰で、初めての高所登山を経験した。初めて体験する6000m以上高度に、高山病になって頭はクラクラ。

「DENALI」1998
この写真は、そんななかでゴーグル越しにファインダーを覗き、三重に手袋をした手で撮った1枚だったという。

写真で記述するという石川の一連の行為は、軌跡をたどる地図にもなり、語る言葉にもなる。

「仲間の後頭部が写ってしまったけど、この写真があったことで、その当時の苦労が今でも鮮明に思い出すことができる。今となっては写っていてよかったなと思います」

目の前の世界を写すのであって、決してその場所を写しているわけではない。きれいな風景を撮ってやろうと考えているわけではなく、自分とその場所との関わりを撮っているのだ。

石川と世界との関係性を写し出すのは、プラウベルマキナ670という中判カメラ。過酷な環境に晒され壊れやすいため、中古で買ったものを4台所有しながら20年以上使いまわしているという。

展示スペースごとの世界観を楽しむ

展示スペースは一般的な写真展とは違い、キャプションが置かれていない。「写真と言葉の関係は非常にデリケートなもの」と石川がいう通り、説明の言葉は写真の見え方を規定してしまう。キャプションがないのは、写真に対する来場者の解釈の可能性を広げるため。そういったミニマルにする工夫も施されているのだ。

代わりに、会場のいたるところに石川が綴ったテキストが展示されている。写真のある空間でテキストを読むことで、自身の解釈をより深めてくれることだろう。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
展示会場はいくつかのスペースに分けられ、それぞれの空間に工夫が施されている。
「DENALI」「POLE TO POLE」「POLAR」「ANTARCTICA」シリーズが展示されている最初のスペースは、広々とした白い空間だ。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
「NEW DIMENSION」では古代の人びとが生み出した壁画のプロセスに着目し、ライン状に展示した。壁の色も赤土をイメージさせる。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
「CORONA」「THE VOID」の展示スペースは、海を感じさせる深い青色が心地よい。壁に映し出された映像とともに、アーティスト・山川冬樹がホーメイの歌唱法で歌った音楽が流れる。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
「Mt. Fuji」の狭くグレーな空間を経て、「K2」のスペースに入ると、まるでホワイトアウトのような真っ白な空間に包まれる。パキスタンの街の様子から、遠征本番、そして登頂がかなわなかったK2のなかなか見られない姿が写し出されている。中央のテントでは、世界で最も登ることが困難だと言われるK2への挑戦の記録映像とともに、坂口恭平の音楽を鑑賞できる。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
石川の視点は海外ばかりではなく、国内にも向けられている。仮面をつけて訪れる来訪神に着目し、異質な他者を恐れながらも受け入れる儀礼を追った「MAREBITO」や、日本列島の南北に広がる島々の暮らしや風景を10年にわたって通い撮影した「ARCHIPELAGO」などが展示されている。

石川直樹「この星の光の地図を写す」展示風景 撮影:木奥恵三
展示最後のスペースは「石川直樹の部屋」。石川の活動に影響を与えた愛読書や実際に遠征で使用した装備、旅先で手に入れた道具や地図などが展示され、活動の裏側を垣間見ることができる。

自分と世界の関係を見つめ直す

過酷な環境を乗り越えながら、世界を歩いてきた石川直樹。彼のミニマルな視点は、私たちと世界の関係性のあり方を見つめ直させてくれる。

「自分と世界」の1対1の関係は、刹那の感情であり、記憶であり、思考の起点や通過点にもなりうる。その関係は、部屋でくつろぐ瞬間にも、通勤途中の風景にも、休日の街並みにも見いだせるものかもしれない。

石川直樹「この星の光の地図を写す」

会期:2019年1月12日〜3月24日
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1・2)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00〜19:00(金・土〜20:00)
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
料金:一般 1200円 / 大学・高校生 800円 / 中学生以下無料

石川直樹 アーティストトーク

この展示会は終了しました

日時: 3月9日 15:30~16:30
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(展示室内)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
要整理券(当日14:00より整理券を配布。整理券は1人1枚のみ。参加には当日入場券が必要となります。また参加状況により入場制限を行う場合もございます。)

問合せ:03-5777-8600