そして心の奥底では、特別な日以外でも、美味しいコーヒーを飲み続けたいと思っている。自力でお気に入りの豆を選べたなら、その日の気分や体調に合わせて品種を変えることができるだろう。欲を言えば、朝飲むコーヒーと仕事中に飲むコーヒーは別のものを選びたい。合わせる食べ物との相性も考慮できたらこれ以上求めるものはない。
けれど知識がゼロに近い状態からコーヒーのことを勉強するには、時間もお金もたくさんかかりそう。コーヒーに詳しい友人が、私のために毎月オススメの豆を届けてくれたらいいのにと思う。
取り扱う豆は、すべてスペシャルティコーヒー。スペシャルティコーヒー豆とは、高い品質で栽培・管理・輸送された豆のこと。生産国や栽培方法などが正確に把握できているコーヒーであることが認定を受けるための条件だ。
パーソナライズされたコーヒーのある日常
目覚めのコーヒーに求めるのは眠気を引き剥がしてくれる強い香り。どんなコーヒーでもその役割を担えるが、今回は、ミルクを入れて飲む可能性を考慮して、香りが一層強いものを選んでくれた。
華やかな香りが特徴で、余分な酸味や苦味はなく、頭が冴えていくような感覚になる。コンビニで手に入る深煎りコーヒーとは違い、グイグイのめるコーヒー。ランチで脂っこいものをたべたあとの体をリフレッシュさせてくれそうだ。
そんなときのために、バリスタがリコメンドしてくれたのは、重めに落とした少量のIndonesia Mandheling(インドネシア マンデリン)にたっぷりの豆乳を淹れるという飲み方だ。
豆乳は酸味のあるコーヒーとの相性が悪く分離してしまうことから、深煎りをセレクトした。私には豆乳との相性を考慮した豆選びという発想そのものがなかったが、味がとてもよくまとまっていることに驚いた。
スペシャルティコーヒーの魅力
現在、日本におけるスペシャルティコーヒーの流通量は、日本のコーヒー流通量のわずか8%程度に止まっている。それほど希少な豆にこだわる理由を教えてくれた。
「豆の品質が高いほど、味に違いが生まれてくる、その面白さをたくさんの人に感じてほしいです。浅煎り、深煎り、という言葉がありますが、浅煎りに向いている豆は、スペシャルティコーヒーなど品質の高いものに限られています。流通量の多い一般的なコーヒーの焙煎に深煎りが選ばれているのは、どんな品種・品質の豆でも焙煎によって味をごまかせるからなんですよね。焙煎を深くせざるをえないんです」
「スペシャルティコーヒーの中でも、単一の農場で収穫されたコーヒー豆だけで淹れられたシングルオリジンコーヒーは、その個性がより際立ちます。透明性を担保することで、美味しいシングルオリジンコーヒーが手に入りやすくなるんです」
これほど強いこだわりを語った直後に、「でも、スペシャルティコーヒー屋って、うんちくを語りすぎですよね。そういうのあんまり好きじゃなくて」と下村さん。
「ただ美味しいコーヒーを飲むだけでいいのに、学ばなきゃいけないような空気感がある。コーヒーに対する難しいイメージを拭い去って、もっとファッション感覚で楽しんでもらえたらいいなと思うんです。肩肘張らずにコーヒーを楽しんでもらえるように、僕らがPostCoffeeの商品サイトで使う言葉も慎重に選んでいます」
コーヒー選びからユーザーに寄り添うPostCoffee
「好みにあったコーヒーを選ぶことって、そもそもとても難しいことなんです」と語る下村さん。「コーヒーにはたくさんのフレーバーがありますが、そのフレーバーの特徴を理解するには時間がかかります。例えば、オレンジのような風味という但し書きがあったとしても、なかなかイメージしづらいものですよね」
言われてみれば、産地の記載を見ても、フレーバーの特徴を読んでも、自力で美味しいコーヒーにたどり着けはしなかった。それは、コーヒー豆を提供する側の言葉を私たちが理解できなかったということなのだろうか。
PostCoffeeはユーザビリティをさらに向上させるため、2020年2月6日からサービスリニューアルを予定している。テクノロジーの力を使ってユーザー好みのコーヒーを導き出す。ウェブ上で繰り出される10個の質問に回答するだけで、コーヒーの淹れ方からコーヒー豆の種類、量、価格といった様々な要素がパーソナライズされていくというのだ。3種類のコーヒー各約3杯分ずつ (合計約140g)から届けてもらえる。希望に応じて、量を増やすことも可能だ。実際に試したコーヒーのフィードバックを繰り返していけば、自宅に届くコーヒーが、より最適化されていく仕組みとなる。
「AIが繰り出す質問項目は、その人自身のライフスタイルや趣味に関するテーマが中心になります。コーヒーの好みにまつわる質問だと、ユーザー自身も正確に回答できないケースがありますからね。過去の顧客データから、コーヒーを飲む時間帯やパーソナリティーで好みが分かれたりすることがわかっています」
※2020年2月6日のサービスリニューアルに伴い1,480円(税抜)に改訂予定
コーヒーは、ライフスタイルを見直すきっかけになる
これまでコンビニコーヒーで済ませていたものを、わざわざ自分の手でドリップしようと思うようになったのは、スペシャルティコーヒーの美味しさが理由だろう。
新たなルーティンが、これからのライフスタイルにどのような影響を与えてくれるのか楽しみだ。
photo:Yuki Morita