「mitosaya」は、薬草園の跡地に建てられた蒸留所。「自然からの小さな発見を形にする」をモットーに、敷地内で育てたハーブや果物、パートナー農家の作物などを用いて、自然の魅力を純度高く閉じ込めたオー・ド・ヴィー(蒸留酒)を手がけている。今回注目したのは、そんなmitosayaが仕込む特製のシロップだ。原料を独自の感性で取り合わせた、丁寧な手作業から生まれるシロップは、一体どのような味や香りを秘めているのだろうか。水やソーダで割って爽やかなドリンクに仕立てるもよし、アイスクリームに回しかけて特別なデザートをこしらえるもよし。さらに新たな使い方を模索してみるのも、面白い。本記事ではmitosayaのプロダクトとともに、シロップの豊かな楽しみ方をご紹介したい。
薬草園の記憶を継ぐ、唯一無二のプロダクト
mitosayaを立ち上げたのは、書店「ユトレヒト」の元代表であり、「TOKYO ART BOOK FAIR」の立ち上げにも携わった江口宏志氏。ある時、同じくパブリッシャーとしてドイツで出版社を構えていたクリストフ・ケラー氏が蒸留家に転身したことを知り、そこから蒸留酒の奥深い魅力にすっかり魅せられていく。思い立った江口氏はドイツへ渡り、彼のもとで1年ほど蒸留を学ぶことに。その後帰国してスタートしたのが、mitosayaのプロジェクトだ。
蒸留所を開く土地を探すなかで偶然巡り会ったのが、千葉県大多喜町の薬草園跡地の活用アイデア募集。約30年の歳月をかけて育まれてきた500種類もの植物が静かに息づくその場所を、新しい蒸留所として引き継ぐことを決意する。
現在mitosayaでは、蒸留酒をはじめ、香辛料やジャム、お茶、はちみつなど多岐にわたるプロダクトを展開している。敷地内で栽培した植物や果樹、信頼できるパートナーが育てた作物を原料に、選定から加工、パッケージングに至るすべての工程へひたむきに向き合う。そうした姿勢から、mitosayaでしか出逢えない唯一無二の製品が生み出されているのだ。
その季節にしか出会えない、特別なシロップ
mitosayaの製品は、四季折々で手に入る自然の恵みを使用しているため、その多くが“その季節だけ”の限定品だ。今回は、夏の終わりに購入した4種類のシロップを試してみた。
ラインナップは、蔓性の植物・スイカズラを使った「スイカズラのヘビーシロップ」、5月頃に白い花をつけるビターオレンジ(ダイダイ)の花から作った「ネロリのヘビーシロップ」、mitosaya薬草園蒸留所のエルダーツリーから花を摘み取り、薬草と合わせた「エルダーフラワーと薬草のシロップ」、ファッションブランド「MARNI」とのコラボレーションにより誕生した「苺、ルバーブ、バジルのシロップ」。
それぞれに違った香りや甘みがあり、素材そのものの個性が際立つ。mitosayaではその時々に収穫したり受け取ったりした作物にあわせて、毎月お酒を1〜2種類、ノンアルコール商品は2〜3種類リリースしているという。味や香りはもちろん、季節の移ろいやものづくりの背景に思いを馳せながら、じっくりと味わいたい。
ひと匙で華やぐ。シロップのいろいろな使い方
ドリンク、デザート、普段の料理など、さまざまなシーンで活用できるのがシロップの醍醐味。今回はそれぞれのシロップごとに、4つの楽しみ方をご紹介しよう。
香りをダイレクトに感じられる、シンプルなソーダ割り
氷をたっぷり入れたグラスに、ネロリのヘビーシロップと炭酸水を1:5の割合で注ぎ、炭酸が抜けないように静かにまぜたら出来上がり。口にした瞬間、柑橘特有の爽やさをまとった繊細な香りがふわっと広がる。
アイスクリームにかけて、甘味とスパイスのバランスを味わう
バニラアイスクリームに苺、ルバーブ、バジルのシロップをかければ、いつもより特別なデザートが完成。苺とルバーブの甘酸っぱさに、スパイシーな山茶花(さざんか)の発酵茶、そして薄荷やバジルの清々しい香りが濃厚なバニラと複雑に絡み合い、絶妙なバランスを生み出している。
紅茶にひと匙かけて、爽やかなティータイムを
お好みの紅茶を淹れたら、スイカズラのヘビーシロップをティースプーン1杯分投入。優しい甘さと、花の成分をすべて閉じ込めたシロップならではの美しい香りが気持ちをスッキリさせてくれる。
いつもの食卓が様変わりする、自家製ドレッシング
オリーブオイル:白ワインビネガー:エルダーフラワーと薬草のシロップを2:1:1の割合でしっかり混ぜて塩・黒胡椒を少々加えたら、酸味の中にほのかな甘さと薬草の香りを感じる自家製ドレッシングが完成。いつものサラダが、本格派レストランの味に。
他にも、ヨーグルトにかけたり、お酒のフレーバーにしてみたり…とまだまだたくさんの活用術が存在するmitosayaのシロップ。「今日はどう使おうか?」と、自由に想像を広げてみてほしい。
「自然からの小さな発見を形にする」mitosayaの現在地
江口氏が蒸留家を目指すきっかけとなったのは、自然物からアルコールを生み出して香りとともに凝縮させる技術、そして、一口で広大な景色や物語が立ち現れる蒸留酒ならではの体験に魅せられたことだったという。そんなmitosayaの思想の根幹に触れたくなり、今回はスピリッツも手にとってみた。
214 HERBAL DRAFT - Fresh Herbs from Blue Note Farm
音楽を起点に、食と農、環境の循環にも取り組む「Blue Note」とコラボして作られた一本。レモンバーベナ、ホーリーバジル、スイートバジル、アップルミントなど、Blue Note Farmで育てた7種のハーブが使用されている。ストレートで味わうと、凝縮されたハーブの香りが一気に五感を通り抜けるような、不思議な感覚に包まれる。まさしく“体験”と呼ぶにふさわしい味わいだ。
mitosayaという名前の由来は、「実」と「莢(さや)」。土に蒔かれた種が芽を出し、花を咲かせ、実を結んでやがて地面へと落ちていく——その自然のプロセスのすべてにインスピレーションを受け、自然の総体を製品へと昇華させている。自然の限りない恵みを余すことなく活用する創造的な感性こそ、mitosayaというブランドが持つ真価なのだ。
2018年に現在の地に蒸留所を構えて、2026年で9年目。プロジェクトの立ち上げ当初と現在で何か変化はあったのだろうか。江口氏に尋ねてみた。
江口氏「 “自然からの小さな発見を形にする”という、最初に決めた考え方は変わっていませんが、さまざまな経験や知識を持つスタッフが加わり、地域の生産者との関わりも増えるなかで、発酵や蒸留の技術は少しずつ進化しています。それに伴い製品のバリエーションも広がり、現在では200種類を超える製品を形にすることができるようになりました。」
mitosayaは、2022年にノンアルコール飲料を手がける「CAN-PANY」も設立。「自然の恵みを、より多くの人に楽しんでもらえるようになった」と江口氏は振り返る。
揺るぎないものづくりの姿勢を軸にしながら、しなやかに広がり続けるmitosayaのプロダクト。その未来から、今後も目が離せない。
自分へのご褒美にも、大切な人へのギフトにも
グラスに注ぐだけで、その土地の季節や空気まで一緒に味わっているような感覚になるmitosayaのプロダクト。炭酸で割って気軽に楽しめるシロップも、夜にゆっくり向き合いたいお酒も、自然へのリスペクトと手仕事の丁寧さが感じられた。
旬の植物をその時だけの形で味わうという体験は、慌ただしい日常を少し立ち止まらせてくれる。自分自身を労わるささやかな楽しみにはもちろん、大切な人への贈りものとしてもきっと喜ばれるはずだ。
mitosaya 薬草園蒸留所
CURATION BY
株式会社マシカクの代表取締役/コピーライター。東京とロックが好きです。