Vol.296

FOOD

17 DEC 2021

スイス・フランス・イタリア。各地のご当地チーズで広がる「チーズフォンデュ」の世界

鍋でとろとろに溶かしたチーズにパンなどの具材をつけて楽しむチーズフォンデュ。スイス料理として知られるが、スイスにおいても地方によって様々なフォンデュのレシピがある。またフランスもフォンデュのルーツと名乗るほど、フォンデュが親しまれているし、イタリアにもフォンデュ料理があるという。そこで今回はスイス、フランス、イタリアのフォンデュを、そこに使われる個性豊かなチーズを掘り下げながら紹介しよう。フォンデュは日本の鍋料理のような感覚で楽しむ、冬の家庭料理。レシピやチーズが購入できる専門店のサイトも案内するので、ぜひ作ってみてほしい。

郷土のチーズを使う家庭料理、チーズフォンデュ。本場スイスのレシピを案内

スイスは国土の7割が山岳地帯。チーズ作りを国を挙げて推進している酪農大国として知られる
チーズフォンデュとは溶かしたチーズの意。固くなったパンを美味しく楽しむための料理で、スイス西部がルーツとされる郷土料理として有名だが、フランスやイタリアにも同じような料理があり、その地域はフランスならば東部のサヴォワやフランシュ・コンテ、イタリアではヴァッレダオスタやピエモンテ州などスイスと国境を接する地域。共通するのはアルプスの山々を囲んだ山岳地帯もしくはそこに近いエリアということだ。

アルプスなどの山々に囲まれた地域では冬が長くその時期に食べる食料として、長期保存できるチーズを作り糧としてきた歴史があった。近現代においてはこの山のチーズがスイスの貴重な輸出品となり、チーズをを楽しむレシピとして国を挙げてフォンデュのプロモーションが行なわれ、国民食として広まっていったという経緯もあるという。コーンスターチを使った現在のようなレシピとなったのも近代に入ってから。

昔も今も、固いチーズを美味しく食べるための知恵として親しまれているのがフォンデュなのだ。

12世紀ごろから作られていたという歴史がある、エメンタール
スイスのチーズフォンデュに使用する代表的なチーズは、エメンタールとグリュイエール。エメンタールは1ホールの重さは100kgほどと超巨大。大きな穴がいくつもあいているのが特徴で「トムとジェリー」で出てくる、あのチーズはエメンタールのこと。製造時にチーズに加えるプロピオン酸菌の働きで炭酸ガスが発生することで穴が生じ、ほんのりとした苦みや甘みを感じる塩気の優しいチーズとなる。

かつてはスイス西部や隣接するフランスで作られる大型のチーズはすべてグリュイエールと呼ばれていたとか。©LeGruyèreAOP
一方グリュイエールも車輪のような形をした30kgほどある大型チーズでこちらはスイスでもフランスと接しジュラ山脈山麓となる西部が産地。塩水で洗った後、磨きながら熟成させていくと表面が茶色く固くなり独特の風味が生まれていく。いずれも、そのまま食べてもいいが加熱して溶かすことにより、風味が増し美味しくなる。

トラディショナルなフォンデュのレシピとしてはグリュイエール2:エメンタール1で配合するのが基本。エメンタールは塩気が優しく、それだけでは少し物足りない味となってしまうが、加熱すると良く伸びるのでフォンデュに入れるとパンに絡まって食べやすくなる。グリュイエールは塩気やうまみがしっかりあり、フォンデュにコクを加えることができる。

基本のフォンデュの材料と作り方については、チーズ総量300gに対しワインを100~150mlほど。固いチーズを使うのであればワインは多めにし、柔らかいチーズであれば少な目にするというイメージ。ほかに用意するものは、トロみづけ用のコーンスターチ、風味付けのニンニクと香りづけのキルシュ(サクランボの蒸留酒)。

まずチーズは細かく切るかおろし器などで細かくしておき、コーンスターチ大さじ1ほどを混ぜ合わせておく。フォンデュ鍋は陶器の専用鍋があると一番だが、鋳物鍋でも、テフロン加工の鍋でも。弱火にかけながら頂くことができる鍋を使用する。

ニンニクを切り、断面を鍋にこすりつけ、その香りを移す。みじん切りにして入れ込むというレシピもある
鍋にニンニクを塗ったら、コーンスターチと合わせたチーズ、白ワインを入れて弱火にかける。弱火でじっくり加熱するとチーズの油分が分離するのを防ぎ失敗がない。鍋底が焦げ付きやすいので、常に混ぜながら加熱していく。とろとろに伸びて全体が合わさったら仕上げにキルシュを入れるのがスイススタイル。アルコールの風味が苦手なら入れなくてもいい。ナツメグや黒コショウなどスパイスを入れても相性がいい。パンは前日のパンなど固いものがフォンデュには最適だ。

今回スイスのチーズフォンデュを紹介するにあたって、スイスに20年以上在住した経験を持ち東京都武蔵野市で「スイス食堂ルプレ」を営む高口さんに話をうかがったが、現地でも人気なのが、フリブール風と呼ばれる、フリブール州の名産チーズ「ヴァシュラン・フリブルジョワ」と「グリュイエール」を1:1で配合した「モワティエ・モワティエ」(半分半分の意)というフォンデュ。

スイス西部、フリブール州で作られる、ヴァシュラン・フリブルジョワ
ヴァシュランはスイスチーズにしては珍しいしっとり柔らかいチーズで、形を保つため側面に帯を巻いて熟成させる。日本ではあまり見かけないチーズだが、高口さんはスイスのポピュラーな味を日本でも再現したいとこのチーズを取り寄せ、フォンデュセットとしてネットでも販売する。「エメンタールとグリュイエールのフォンデュと比べると、濃厚なミルクの風味が楽しめ、味わいも深い」のだとか。お店のサイトからフォンデュのレシピも見ることができるので参考にして欲しい。
スイス食堂「ルプレ」
https://leprefromage.com/

ほかにもヴァレー州のチーズで、日本でも人気となっている「ラクレット」も、フォンデュに入れると美味しい。東部アッぺンツェルの名産「アッペンツェラー」を加えるのも濃厚なフォンデュを楽しみたい人にはおすすめだ。どちらも直径30cmほどの円盤型をした、しなやかなセミハードチーズ。ハーブや白ワインなどで香りづけした塩水で洗いながら熟成させる「アッペンツェラー」は、スパイシーとも表現される独特の風味が付いていて、通好みの味になる。少し味が濃いと思ったら優しい風味のエメンタールを合わせて調整するといいだろう。

「日本でも家庭のおでんとお店のおでんがあり、地域で味が違うように、スイスのフォンデュも家庭ではいろいろなチーズを入れている。そしてジュネーブなどではチーズの種類と配合によりコレという味わいを生み出し、人気を博すレストランもある」と高口さんもいう。

大型チーズならではの熟成が生み出す、味わい深いフランスのフォンデュ

40kg近くあるコンテ。コンテベルと呼ばれる鐘のマークが入ったラベルが目印 / 写真提供:コンテチーズ生産者協会
フランスも、スイスと国境を接したフランシュ・コンテ、サヴォワ地域の郷土料理としてフォンデュが親しまれている。使われるチーズは、ボーフォールやコンテ。やはり山麓やその近くで作られる山のチーズだ。特にコンテはフランス人が食べるハードチーズの第一位と言われるチーズで、熟成6か月から3年ものまで幅広くあり、果実やナッツのニュアンスを感じる芳醇な香りや甘みで魅了する。ちょうど山を超えた向う側で作られているのがスイスのグリュイエール。とても製法が似たチーズだ。

熟成したコンテのみを使ったフォンデュ。チーズ好きならばぜひ試してほしい / 撮影協力:ブラッセリーブルゴーニュ
このコンテの24か月熟成というとても贅沢なチーズで作ったフォンデュを食べてみたが、濃厚なうまみがあるが酸味や甘みもあり、1つのチーズだけで作ったフォンデュなのにとても豊かな味わい。コンテチーズ生産者協会のホームページには、コンテのみで作るフォンデュのレシピが紹介されていて、それを見るとコンテのほか、地元の辛口白ワインを使い、刻んだキノコも入れる。セップ茸というキノコだが日本で再現するならマッシュルームでも十分だろう。
コンテチーズ生産者協会 
https://www.comte.jp

コンテのフォンデュにマッシュルームとブルー・ド・ジェックスを後から追加。どんどんと味わいが変化していく / 撮影協力:ブラッセリーブルゴーニュ
実はマッシュルームなど茸にはチーズと似た香り成分があり、とても相性がよい。茸のうまみも加わり、よりリッチな味わいとなる。さらにコンテと同じミルクで作られた「ブルー・ド・ジェックス」を加えるフォンデュも現地では親しまれており、途中でこのブルーチーズを入れることで味変を楽しむことも。全粒粉で作ったカンパーニュなど、酸味や甘みを感じる素朴なパンがよく合い、ワインが進むはずだ。
ブラッセリーブルゴーニュ
http://www.bourgo.jp

ソースのようにして楽しむ、イタリアのリッチで濃厚なフォンデュ

イタリアでもモンブランなどアルプスの山々を隔ててスイスやフランスと国境を接する州、ヴァッレ・ダオスタやピエモンテで山のチーズが作られた歴史があり、それを使ったフォンデュが「フォンドゥータ」。ヴァッレ・ダオスタの渓谷で作られるチーズ「フォンティーナ」を使った郷土料理だ。

フォンティーナは10kgほどの大きさがあり、指定の地域で作られたものしかその名を名乗れない名産品。夏に生える高原地帯の牧草を食べた牛のミルクで作られたものは「フォンティーナ・ダルペッジオ」と呼ばれ、特に風味豊かだという。ヴァッレ・ダオスタ州からアルプスを越えた向う側にあるのはスイス・ヴァレー州。この州の名産であるラクレットと製法が似ていて、チーズを塩水で洗いながら熟成させて、オレンジ色の外皮を作り出し独特の香りと味わいを生み出す。むっちりと柔らかな食感だ。

イタリアチーズ専門店「Fior di Maso」で販売している、フォンティーナ・ダルペッジオ 
イタリアチーズ専門店「Fior di Maso」で紹介されているフォンドゥータの作り方やイタリア料理店のレシピを参考に作ってみたが、弱火でゆっくり、絶えず混ぜながらが食感よく作るコツ。

まずはフォンティーナ300gを細かく切り、半日ほど牛乳に浸しておく。少し柔らかくなったチーズを牛乳から引き上げ、バター30gと一緒に鍋で弱火にかける。滑らかに溶けるようになったら卵黄3個分を少しずつ入れて溶かせば完成。これを一人前ずつ盛り付け、パンを添えて食べることが多いという。

卵やバターのコクが加わった濃厚な味が楽しめるイタリアのフォンデュ、フォンドゥータ
フォンドゥータはニョッキなどパスタのソースにすることもあるとか。その濃厚さで虜になる一品になることは想像が付く。そしてピエモンテ州では、フォンドゥータにこの地の名産であるトリュフをかけた「ピエモンテ風フォンドゥータ」なるものも。ヴァッレ・ダオスタやピエモンテはイタリアでは珍しくオリーブオイルを使わない地域で、その代わりに卵やバター、チーズをたっぷりと使う料理が多い。フォンドゥータはそんな地域の郷土料理として、さまざまなアレンジで楽しまれている。
イタリアチーズ専門店「Fior di Maso」
https://fiordimaso.jp/ja/product/fontina-dalpeggio-dop/

各地の多様なチーズで、フォンデュの楽しみ方がさらに広がる

アルプス山麓には土地固有の品種が守られている乳牛も多く、ミルクやチーズの個性を生み出す / 写真提供:コンテチーズ生産者協会
アルプスやその周辺の美味しい草を食べた牛のミルクから作られたチーズは、ナッツや蜂蜜、ハーブなどの香りがして、本当に味わい豊か。フォンデュにすることで、蒸気と共にその香りがより広がり、温かく幸せな気分になれるだろう。今回各地のフォンデュの作り方を紹介したが、チーズや材料が異なるだけで基本は同じ。自由にアレンジして楽しむのもいい。そして、ぜひチーズと同じ地域のワインと合わせて楽しんでみて欲しい。