「丁寧な暮らし」への憧れはあっても、毎日を特別に保つのは難しい。そう考えている人がいるなら、ベランダに一鉢のエディブルフラワーを置いてみてはどうだろう。エディブルフラワーはいわゆる食用花。ただそれは、単に「食卓を彩る飾り」ではなく、私たちの行動を心地よく変化させるきっかけを与えてくれるはず。エディブルフラワーは、食卓を飾る行動の他に、観察・撮影・栽培・もてなしといった小さな変化を生み出す存在として、日々の生活に少しだけ、潤いをもたらしてくれるのだ。
まずは焦らずに。環境に慣らしてあげよう
かつて、花を食べる習慣は一部の貴族や限られた文化の中だけのものだったという。しかし、現代においてエディブルフラワーは、心身の健やかさを整える食の選択肢として注目を集めている。また、現代人の多くが抱える「忙しさ」や「ストレス」に対し、エディブルフラワーは精神的な豊かさをもたらすツールとしても機能している。
育て、花が開くのを待ち、収穫して食べる。「育てる癒し」を感じながら、その命をいただく。鮮やかな色彩や、品種によって異なるほのかな香りは、食事の満足度を底上げし、自分をいたわる感覚を取り戻させてくれるよう。
また、寄せ植えであれば、自宅に特別な庭がなくても、日の当たる少しのスペースさえあれば、誰でも育てることができる。特別な道具も必要ないその手軽さも、寄せ植えの魅力だ。
エディブルフラワーの寄せ植えが手元に届いたら、まずは植物の状態をチェック。
配送中の暗い環境から急に直射日光に当てると葉焼けの原因になるため、まずは半日陰の風通しが良い場所で数日間休ませて、外の環境に慣らすのがコツ。土の表面を触ってみて、乾いているようであれば鉢底から水が流れ出るくらいたっぷりと水を与えてあげよう。
このとき、咲き終わった花(花がら)や傷んだ葉があれば摘み取っておくことで、次々と新しい花を咲かせてくれる。
エディブルフラワーの代表格であるビオラは、その愛らしい見た目からは想像できないほど丈夫で、次々と花を咲かせてくれる頼もしい存在。
カラーバリエーションも豊富で、シックなアンティークカラーから鮮やかなビタミンカラーまで、インテリアや料理のテイストに合わせて選べるのが魅力だ。
その日の気分で、その日の彩りを
ベランダに花があると、朝は寄せ植えを眺めることから始まる。朝日を浴びてキラキラと輝くビオラの表情をじっくりと観察してみよう。
昨日は蕾だったものが誇らしげに花開いていたり、朝露をまとって瑞々しさを増していたり。植物の小さな変化に気づくとき、目の前にある植物の生命力を感じることができる。
じゅうぶんにその美しさを堪能したら、次は今日の料理に添える一輪を選ぶステップ。どの色が今日のメニューを引き立てるか、あるいは今の自分の気分に寄り添ってくれるか。
パレットから絵の具を選ぶように、迷う時間さえもエディブルフラワーを育てる醍醐味のひとつだ。
これだと決めた花が見つかったら、清潔なハサミでそっと茎をカットする。摘みたての花が放つ瑞々しい美しさと、自分の手で育んだ食材という意識。そうして食卓に並ぶ一皿は、きっと外食では味わえない、格別の温かみに満ちているはず。
摘みたての花が彩る食卓
自分で摘んだエディブルフラワーを日常に採り入れるのは、意外なほど簡単で、心を豊かにしてくれる。
例えば、いつもの朝食。ヨーグルトに手作りのジャムとビオラを浮かべるだけで、まるでカフェのような特別な一品に早変わりする。
週末のおやつ時間には、手作りのケーキに花を添えれば、洗練されたおもてなしの一皿に。花そのものに強い味はないため、料理の味を邪魔することなく、目を楽しませてくれる最高のスパイスとなる。
花それ自体の味にはクセがなく、レタスのような淡白な風味なので、サラダのトッピングはもちろん、スイーツやドリンクに浮かべるだけで一気に「よそゆき」の表情に。
また、ビオラはビタミンAやビタミンCが豊富に含まれていると言われており、美しく健やかなライフスタイルを大切にする方にぴったりのエディブルフラワーだ。一株あるだけで、育てる喜びと「食べるアート」を楽しむ贅沢な時間を日常に運んでくれる。
もし花がたくさん咲きすぎて食べきれないときは、異なる楽しみ方で長く愛おしみたい。
ひとつは、製氷皿に花と水を入れて凍らせる「ビオラ氷」。透明な氷の中で咲き続ける花の姿は美しく、冷たいドリンクに浮かべれば、おもてなしのシーンを華やかに演出してくれる。
もうひとつは、昔懐かしい「押し花」。分厚い本に挟んで数日間乾燥させるだけで、色鮮やかな一片が完成する。
出来上がった押し花は、メッセージカードに貼ったり、小さなフレームに入れてインテリアとして飾ったり。
食卓から始まった花との暮らしは、アイデア次第で無限に広がっていく。
おもてなし料理の仕上げに
エディブルフラワーの真骨頂は、やはり「おもてなし」のシーンで発揮される。大切な友人や家族を招く日、いつものお気に入りのレシピに、摘みたてのビオラを添えてみてほしい。
カルパッチョの仕上げに散らしたり、グリルした魚料理の横にそっと添えたりするだけで、料理の鮮やかさが格段に引き立ち、食卓に洗練された雰囲気が生まれる。数輪飾るだけで、まるでプロが仕上げたような逸品に。テーブルに運んだその瞬間、食卓からは歓声が上がり、会話が弾み始めるはずだ。
美しく仕上がった「食べるアート」は、ぜひ写真に収めて記録しておきたい。窓辺の自然光を利用して、料理の質感と花の繊細さを引き立てるように撮影してみよう。こうして撮影した写真は、ただの記録ではなく、暮らしのスタイリングを楽しむ自分自身のポートフォリオとなる。SNSで共有して同じ趣味を持つ仲間とつながるのもいいし、自分だけのフォトアルバムを作るのもいい。
育て、飾り、食べる。その一連のプロセスを写真として残すことで、エディブルフラワーのある暮らしの充足感は、さらに深まっていくのである。
一輪の花が運ぶ小さなときめき
日々のルーティンにちょっとしたこだわりを入れて生活するには、どうしたら良いのだろう。人から見て変わらない毎日を送っていたとしても、誰しもが「うまくいかない日」「ちょっとだけいい日」など、波がある日々を送っているものだ。良くも悪くも、毎日を「凪な日」に保つことは難しい。
ベランダに迎えた一鉢の苗は、そんな私たちの日常に柔らかな風を吹き込んでくれる。コンクリートに囲まれた生活のなかで、土に触れ、芽吹きを待つ。そのささやかな営みは、ただ単に食卓を飾る材料を用意するためだけの時間ではない。それは、慌ただしく過ぎ去る時間の中に「植物を愛でる」という贅沢な習慣を差し込む行為である。
わずか一鉢、手の届く場所にある花と向き合うことで、見慣れた景色は少しずつ、
けれど確実に、瑞々しさを持って動き出す。
CURATION BY
公務員からパティシエへキャリアチェンジ。日常にそっと寄り添う、シンプルで美しいお菓子作りを大切にする