広島県・宮島。世界遺産・嚴島神社を擁するこの島は、日本を代表する観光地として知られている。海に浮かぶ大鳥居や神秘的な景色、古くから続く神事や文化など、その魅力は尽きない。「神の島」とも呼ばれる宮島には、どこか特別な空気が流れている。そんな宮島の海水から生まれたのが「みやじまの塩」だ。宮島を旅した時に、特に印象に残ったのが「盛り塩セット」だった。盛り塩の起源には諸説あり、中国の伝承と日本独自の神事が融合し、日本の風習として定着したとされている。中国では客寄せや吉祥、日本では清めや厄除けの意味が込められてきた。今回、実際にセットを使って体験してみた。
神様が宿る島・宮島。海上の社殿と大鳥居が織りなす幻想的な世界
瀬戸内海に浮かぶ宮島は、古くから島そのものが「神様が宿る場所」として信仰されてきた。そのため、かつては海を挟んだ対岸から手を合わせる風習があったそうだ。松島、天橋立と並ぶ日本三景のひとつ「安芸の宮島」として知られ、世界文化遺産にも登録されている。
宮島へ向かう際、まず船の上から見える大鳥居の姿が強く印象に残った。鳥居の上の部分(笠木)には、西側に三日月、東側に太陽の形をした飾りがつけられている。
国の重要文化財にも指定されているこの大鳥居は、日本最大級の大きさだ。潮が満ちているときには海に浮かんでいるような幻想的な景色が広がり、潮が引いているときには足元まで歩いて近づくことができる。
先に触れたように、宮島は島そのものがご神体とされていたため、その上に建物を築くことは畏れ多いと考えられてきた。こうした背景から、嚴島神社の社殿は陸地ではなく、海上に建てられている。
その歴史は古く、593年に建てられたのち、平安時代に平清盛によって現在のような美しく立派な姿に整えられたと言われている。以後、皇室や武家からの信仰を集め、日本を代表する神社として広く知られるようになった。
神聖な島の風習「潮汲み」を形に。非効率だからこそ尊い「みやじまの塩」
宮島にて「みやじまの塩」を手がける株式会社フレイムの代表取締役 川本 修さんと林 沙織さんにお話を伺った。もともとは宮島の対岸にある宮島口で別の事業を始めたものの、オープンと同時に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出され、休業せざるを得なくなってしまったという。そこで川本さんは、これを機に改めて宮島の歴史や文化を学び直した。
歴史を辿るなかで、かつて宮島にあった「潮汲み(しおくみ)」という風習に興味を惹かれたそうだ。「潮汲み」とは、神社の近くの海水を汲んで店や家の前にまき、その場を清めるもの。川本さんは、この古くからの文化に着想を得て、人々の暮らしに寄り添う特産品が作れないかと考えた。
宮島周辺の海は牡蠣の養殖が盛んで、海水には石灰分が多く含まれている。そのため、塩づくりに適した海水とは言いにくく、川本さんたちが実際に試作してみても、できあがった塩は理想とはほど遠いものだったという。
その後、大分県佐伯市にある製塩所の協力のもと、塩づくりの修行を重ねた。不純物を取り除く作業や、最後の脱水を工夫するなど、宮島の海水に合わせて製法を細かく調整していったという。およそ1年にわたる試行錯誤の末、ようやく宮島の海水でおいしい塩を作ることに成功したそうだ。
宮島の塩づくりが特別なのは、その製法だけではない。実は、塩を作る前の段階から大きな手間がかかっている。一般的な製塩所は海のすぐ近くにあり、効率よく塩を作ることができる。しかし宮島は古くから神聖な島として守られてきたため、海辺に新しく建物を造ることが非常に難しい。
そのため、現在は山のふもとにある建物を製塩所として使っている。海水を汲む際は、船に大きなタンクを積んで海へ出向き、漁港と何度も往復する。そして、汲み上げた海水をトラックに積み替えて、製塩所まで運ぶのだ。
そこまで手間をかけて運ぶ海水は、一度につき約6トン。しかし、そこからできる塩はほんのわずかだ。大量生産はできないものの、その分、一つひとつの工程を人の手で丁寧に行っている。宮島の塩は、こうした手作業の積み重ねから生まれている。
空間と心を整え、良い流れを招く「宮島ノいつくし御塩 盛り塩セット」
塩は古くから、日本の文化のなかで「お清め」や祈りの象徴とされてきた。その文化を現代の暮らしに取り入れるために生まれたのが、「宮島ノいつくし御塩 盛り塩セット」だ。新しい年を迎える前に空間と心を整え、良い流れを招き入れるための“特別な清めの調度品”として、毎年9月ごろから予約の受付を開始している。
セットには、宮島の海水を月のリズムに合わせて炊き上げた、「満月」と「新月」をテーマにした2種類の塩が用意されている。月の満ち欠けは、海の満ち引きと深く関わっているためだ。満月の塩には「引き寄せと調和」、新月の塩には「浄化やリセット」の意味が込められているという。そのときの気分に合わせて、好みの塩を選んでみよう。
さらに、セットに含まれる固め器や盛り皿も、広島県伝統的工芸品を手がける職人によって作られている。宮島の海水を100%使った塩だからこそ、それを扱う道具も宮島ならではの工芸品にこだわり、地元の作り手たちと協力して開発されたのだという。
塩を円錐の形に固めるための「固め器」は、宮島にある小林一松堂の3代目 小林 松齋氏が手がけている。自然が育んだ木本来の持ち味を生かした伝統工芸品だ。当初、小林さんからは「作るのは難しい」と一度は断られたという。しかし、川本さんの熱意に押される形で小林さんが試行錯誤を重ね、この美しい円すい形の型を完成させた。川本さんの想いに応えるように、職人の手によって理想の形が現実のものとなったのだ。
塩をのせる盛り皿は、対厳堂の3代目 山根 興哉氏が手がける。嚴島神社にて祈祷を受けた本殿下の「御砂」を混ぜて焼き上げる伝統技法が用いられている 。器の両サイドには、大鳥居にも刻まれている「太陽」と「月」のモチーフがあしらわれ、宮島らしさが表現されている 。
実際に「盛り塩セット」を体験
宮島の空気を、大切な人にも
どうしても嚴島神社の社殿や景色の美しさに目を奪われ、島の奥深い歴史や文化までは見落としてしまいがちだ。だからこそ、川本さんと林さんは「塩というかたちで、宮島の魅力を持ち帰ってもらえたら嬉しい」と話してくれた。
現在は、宮島や広島を訪れた人が手に取れるお土産として、「盛り塩セット」のほかにお清めスプレーや食用の塩なども販売されているそうだ。
今後は、宮島の店舗でしか買えない限定商品なども展開していく予定だという。また、塩を使ったバスソルトや石鹸など、新しい商品の構想も進んでいる。シンプルな「塩」という素材を通して、宮島の自然や文化を伝えていく取り組みは、これからも少しずつ広がっていきそうだ。
「みやじまの塩」は、大量に作れるものではない。海水を汲み上げ、運び、すべてを手作業で仕上げていく。一つひとつの工程に、膨大な時間と手間がかかっているのだ。
しかし、その手間こそが、この塩の味わいや価値につながっている。宮島の海、歴史、そして祈りの文化。それらを静かに映し出すのが「みやじまの塩」という存在なのだろう。
もし宮島を訪れることがあれば、その海から生まれた塩にも、目を向けてみてほしい。そこには、島の自然と人の想いがやさしく詰まっているはずだ。
みやじまの塩
CURATION BY
宮城県仙台市。中学受験の受付事務を退職後、仙台にて行政関係の事務職や、東京・仙台を拠点とするWeb系の広告制作会社を経て、現在はフリーランス。行政でのWebメディア企画運営やWeb制作会社での経験を基に活動中。Webメディアで執筆、Web制作、SNSの運用、PR業務など。