Vol.714

FOOD

19 DEC 2025

パリ初の「Angelina」で、栗のおいしさを堪能する

「栗」が好きである。ほくほくとした食感に、やわらかく心をほぐしてくれる甘み。私は栗を食べるだけで、とても幸せな気持ちになれる。私が行ったり来たりを繰り返しているフランスでも、栗はとても好まれている食材だ。料理にもお菓子にも使われ、中でも1903年創業のパリの老舗サロン・ド・テ「Angelina Paris (アンジェリーナ)」のモンブランは、日本人観光客にも人気を博している名店だ。今回は、この西洋栗のジューシーな味を楽しむことができるモンブランを紹介したい。

観光客にも大人気のAngelina Paris (アンジェリーナ)とは?

チョコレートにはAngelinaのAマーク
「Angelina」は、100年以上の歴史をもつサロン・ド・テ。本店はルーヴル美術館のすぐ近く、リヴォリ通り沿いにあり、その立地の良さと確かな味への信頼、そして華やかな店舗の人気ぶりからいつも長蛇の列ができている。中では喫茶を楽しめるが、テイクアウトのブティックも併設されているので、マロンペーストやチョコレート、紅茶などを購入して“パリの味”を家に持ち帰ることもできる。

Angelinaのモンブランたち
店内に足を踏み入れると、さすがパリと思わせる光景が広がっている。ベル・エポック様式の天井画や大理石が目に入り、クラシックかつ優雅な空気を味わうことができるのだ。さらに、名物の濃厚ショコラショー「L’Africain(ラフリカン)」の甘い香りが漂い、寒い季節には特に人気が高い。とろりとした質感は、チョコレートを飲むというより“味わう”に近い贅沢さで、モンブランと並ぶ名物として知られている。

華やかな店舗
パリ本店の内装は、ベル・エポック期を代表する建築家エドゥアール・ニールマンが手がけたもの。アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式の装飾、壁を彩るフレスコ画が特徴で、この優雅な雰囲気は世界各国のアンジェリーナにも受け継がれている。

ココ・シャネルやプルーストが愛した味

カップに入った姿もAngelinaらしさ
創業者は、オーストリア出身の菓子職人アントン・ランペルマイヤー。息子ルネとともに、パリのリヴォリ通り226番地にサロン・ド・テを開いた。店名の「Angelina」は、ランペルマイヤーが義理の娘に捧げたオマージュとされている。そして120年経った現在も、本店は同じ場所でその歴史を刻み続けているのだ。

アイスクリームのようなドーム型が愛らしい
当時のパリは、文化人たちが街中のカフェで議論を交わす活気ある時代だった。アンジェリーナもその中心にあり、コメディー・フランセーズの俳優たち、「失われた時を求めて」を書いた作家マルセル・プルースト、カンボン通りから通っていたココ・シャネルなど、名だたる人物が常連として名を連ねている。

その歴史あるサロンは時を超えて愛され、現在は世界各地へと広がっている。日本にも複数の店舗が展開されており、本国のような喫茶スペースこそないものの、モンブランや季節限定フレーバーなど、伝統の味わいを気軽に楽しむことができる。

存在感のある“オリジナルサイズ”

ずっしりとした重さを感じる大きめサイズのモンブラン
Angelinaを語るうえで欠かせないのが、看板メニューであるモンブランだ。創業当時から受け継がれるレシピは、さっくりとしたメレンゲを土台に、軽やかなホイップクリームを重ね、さらに濃厚なマロンペーストがたっぷりかかっているというレシピだ。

左がオリジナルサイズ
なかでも特筆すべきは、“オリジナルサイズ”と呼ばれるその唯一無二の大きさである。一般的なパティスリーで見かけるサイズとは一線を画すサイズで、初めて見たときは「2〜3人で分けて食べるの?」と戸惑ったほどだ。

古くからの伝統を守りつつ、「Angelinaのモンブランといえばこのサイズ」と言われるほど、ブランドの象徴として確立しているサイズである。

“オリジナルサイズ”はこれだけでお腹がいっぱいになってしまうので、私はあまり購入しないけれど、一度はパリ本店のサイズにひとりで挑んでみるのも楽しい経験かもしれない。もちろん、家族や恋人、友人とシェアするのもおすすめだ。

ここでしか味わえないモンブラン。日本限定の味も

さまざまなフレーバーが揃えられている
さらに、Angelinaの魅力は年間を通して登場する“季節のモンブラン”の存在だ。定番のクラシックに加え、日本では月替わりで限定フレーバーが登場し、そのラインナップは驚くほど豊富。例えば春は「桜」から夏には「ココナッツミルク」、秋には「スイートポテト」や「パンプキン」が登場した年もあり、いつ行っても見たことのないフレーバーでワクワクさせてくれる。

和栗らしいベージュのモンブラン
さらに私が大好きなのが、5月〜12月に登場する「和栗モンブラン」だ。和栗らしい繊細な風味と口の中ですっととけてゆく優しい甘味は、西洋栗を使った伝統的なモンブランとはひと味違う仕上がりになっており、日本人だから口に合うのか、私の家族や友人たちもこのモンブランが好きである。

紅茶と合わせて味わう
いつもはコーヒー派の私だけれど、和栗のモンブランを食べていると、儚い香りを引き立てるために紅茶を合わせたくなる。

やわらかく甘さがほどけていくような味わいだから、強いコーヒーではその余韻を少しだけこわしてしまいそうに思えるのだ。紅茶の淡い渋みが寄り添うことで、和栗の香りがふわりと広がり、ひと口ごとに秋の気配が深まっていく。

品のあるシンプルなパッケージ
魅力的なフレーバーの数々はお土産にも最適だ。日本ならではの繊細な味わいは、パリ本店にはない特別感があり、贈り物としてもきっと喜ばれるはず。また珍しい味のモンブランたちは、手に取った瞬間から会話のきっかけにもなり、ちょっとした話題の種を提供してくれる。

箱は、上品なピンク色の地に「ANGELINA」と書かれているのみ。華美ではないが洗練されており、パリのエスプリを静かに伝えるような佇まいだ。

西洋栗の濃厚な味わいを楽しむ

シェアして食べ比べてみるのもおすすめ
けれどもAngelinaのモンブランと言えば、やはり日本人にはあまり馴染みのない、ねっとりとした粘り気と濃厚さをもつ西洋栗の味わいを楽しめることだ。力強い主張のある甘さと、深く重なるようなマロンペーストのコク。そのどっしりとした味わいには、紅茶の軽やかさよりも、コーヒーの香ばしさと苦味がよく馴染むように思う。香りも甘さも食感も、良い意味ですべてがくどい。そしてそのくどさがいつしか癖になるのは、パリという街が持っている魅力に通じるところがあると、私は思う。

たっぷりの生クリーム
忙しい日常の中で、ほんの少し甘いものに救われる瞬間がある。アンジェリーナのモンブランは、まさにそんなひとときを運んできてくれる存在だ。

マロンペースト、生クリーム、メレンゲ生地。材料はいたっていたってシンプルだ。その上日本の店舗では、取り扱いはモンブランのみ。それにも関わらず愛され続ける理由は「パリの伝統を手に取る」という体験そのものにあるのかもしれない。

まだ味わったことがない人は、次の週末にでもひとつ手に取ってみてはいかがだろうか。あなたの“お気に入りの栗の味”が、きっとまたひとつ増えるはずである。

Angelina Paris Japan