Vol.705

FOOD

18 NOV 2025

ワインで賑わいを再び。人と町をつなぐ南三陸ワイナリー

ZOOMLIFEを運営するトーシンパートナーズが展開するマンションブランド「ZOOM」シリーズは、2014年度から11年連続・計18棟で「グッドデザイン賞」を受賞している。グッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みで、「Gマーク」とともに広く親しまれてきた制度だ。今回はそれに関連して、2024年に「グッドデザイン・ベスト100」および「グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]」をダブル受賞した、南三陸ワイナリー代表取締役の佐々木 道彦さんにお話を伺った。東日本大震災の復興とともに歩んできた南三陸ワイナリーは、土地の歴史を語り継ぐ存在になっている。その土地に思いを馳せながら味わう一杯は、きっと格別なはずだ。

南三陸の食とともに味わいたい、食中酒にこだわったワイン

ワインは「土地を飲むお酒」と言われるように、土地とのつながりが深いお酒だ。土壌や風、気候といった自然の影響をたっぷり受けて育ったブドウからつくられたワインには、同じ土地で育った食材がよく合う。

ブドウの香りや旨味を引き出しつつ、食事に合うドライな味わいに
南三陸ワイナリーでは、地元食材とのペアリングを意識し、食中酒にこだわって辛口のワインを追求してきた。白ワインはカキやサーモン、赤ワインは放牧豚といった、南三陸を代表する食材との相性をイメージしている。

ワイナリー併設のKitchenでは、ランチやディナー、おつまみメニューを楽しめる
例えば、白ワインの「KOSHU Sur Lie 2024(甲州シュール・リー)」は、甲州ブドウの栽培地としては日本最北端にあたる山形・鶴岡市産の甲州を使い、澱(おり)とともに半年間ゆっくり熟成させる。そうすることで、酸味の中に旨味を感じるバランスのよい味わいに仕上がり、鯛の刺身や天ぷらなど、和食や魚介類との相性が抜群だ。

発酵後のワインを澱の上で熟成させる醸造方法をシュール・リー製法という
また、日本ワインコンクール2025「欧州・国内改良品種等ブレンド 赤」部門で銅賞を受賞した「MERLOT / YAMA SAUVIGNON(メルロ/ヤマ・ソービニオン)」は、2種類のブドウをブレンドし、フレンチオーク樽で熟成した赤ワインだ。酸味やタンニンが穏やかになり、果実味豊かな心地よい飲み口で、カツオのたたき、羊のローストなど、旨味のある料理とよく合う。

さらに、こちらを志津川湾の海中で8ヶ月間熟成させたのが「志津川湾海中熟成ワイン MERLOT / YAMA SAUVIGNON」である。海中熟成は、空気中の約5倍もの速さで音が伝わる海中に沈め、360度あらゆる方向からの微細な振動を利用してワインを熟成させる技法だ。こうした音の振動がワインの分子を均質化させ、通常の約3倍のスピードで熟成が進むとされている。

熟成期間は6ヶ月〜9ヶ月。海水温が下がる11~12月頃に沈め、7月末には引き上げられる

南三陸にワイナリーを。震災復興から始まった挑戦

南三陸ワイナリーは、地域の新産業創出プロジェクトとして始まった。宮城県では、2011年の東日本大震災を機にワイナリーがゼロになり、ブドウ栽培もほとんど行われていなかった。

佐々木さんが、南三陸でワイン関連の人材募集があると知り、地域おこし協力隊として着任したのは2019年1月のこと。そのわずか1ヶ月後に南三陸ワイナリー株式会社を立ち上げ、その年の4月には早くもワインの販売を始めた。

自社蔵での醸造は2020年から。秋保ワイナリーを間借りして醸造したワインの販売からスタートした
実は、そこに至るまでにも心を打つ物語がある。山形で育ち、横浜の大学に進学した佐々木さんは、就職後も地元を離れて暮らしていた。震災のニュースを見るたびに心を痛め、やがて支援の手が少しずつ減っていく現実に、「自分にできることはないか」と思い始める。2012年からは、静岡からボランティアバスに乗り、南三陸へ通うようになった。

そこで目の当たりにしたのは、壊滅的な被害を受け、産業が少しずつ復旧しても、なかなか賑わいが戻らない三陸沿岸部の町の姿だった。「地域に根ざした新しい事業を地域の人と一緒に作っていかないと、賑わいは戻らない」と強く感じたという。

避難先に移住した人も多く、南三陸町の人口は震災前と比べて6,000人以上減少してしまった
打つ手の早さは、佐々木さんの持ち味だ。2014年に仙台に移住し、住宅関連の仕事を経て、地域の職人たちと家具や食器などを企画開発・販売する事業に取り組むようになった。あるとき、日本人に合うワイングラスを開発したことをきっかけに、ワインの食中酒としての魅力やペアリングの楽しさに惹かれるようになり、ワインを通じて地域を元気にできないかと考え始める。

人気ワイン漫画の原作者とのグラス開発が、ワインへの興味を深めるきっかけに
ワイナリー起業家向けのスクールで基礎を学び、先行して仙台市に誕生した秋保ワイナリーのボランティアに参加してワイナリーの実態を知っていく。そうした活動を重ねる中で南三陸ワイナリープロジェクトに出会い、ワインと地元食材とのペアリングによる新たな賑わい創出の可能性に夢を膨らませて移住したのだ。

設立からの6年間は、「ワインで南三陸に賑わいを取り戻したい」という強い願いを、一つひとつ形にしてきた時間でもある。

1年育ちのカキに放牧豚。海と山の恵みが育む持続可能な食材たち

海と山に囲まれた南三陸には、豊かな食文化がある。山からの栄養が流れ込むリアス式海岸の志津川湾では、カキやホタテ、ホヤ、アワビなどの貝類や銀鮭の養殖が盛んだ。

南三陸町では「海・里・山・ひと」という4つのつながりを大切に震災からの復興を目指している
震災で壊滅した養殖業の中で、新たな形で再開されたのがカキだった。戸倉地区の養殖業者たちは、より高品質なカキを目指して棚の数を震災前の3分の1に減らし、のびのび育てることにした。その結果、1年で甘味たっぷりのカキを水揚げできるようになり、漁獲量も増えたそうだ。

この「戸倉っこかき」は、持続可能な養殖業として、2016年に日本で初めて国際的な「ASC認証(※)」を取得。さらに、2019年には農林水産祭の水産部門で「天皇杯」を受賞するなど、高い評価を受けている。

1年育ちの「戸倉っこかき」は、産卵を1度しか経験していないため、甘みが強く濃厚な味わい
また、町の約77%を占める森林を生かした畜産も盛んである。山に放牧して育てられた「いばり仔豚」は、脂まで甘くておいしいと評判だ。ほかにも、ワカメを飼料に加えることで臭みがなくなり、旨味成分が約6倍に増えた「わかめ羊」などがある。廃棄していたワカメの茎を飼料として活用し、ワイナリーオープン後は赤ワインの搾りかすも加えているという。

ワイナリーでは、こうした地元の食材をつくる生産者を招き、そのこだわりを語ってもらうワイン会も開催する。「海からも山からも生産者を呼べるのは、ワイナリーならでは」と語る佐々木さん。そこには、新たな挑戦を重ねながら復興に取り組む地元の人々や移住者への共感、そしてともに歩みたいという想いが込められている。

目の前に海、背後に山。豊かな食材も、佐々木さんが惹かれた理由のひとつ

震災の記憶を語り継ぐ。水産加工場を再生し、グッドデザイン賞を受賞

町の復興とともに成長してきた南三陸ワイナリーは、土地の記憶を継承する場所になっている。海が見えるワイナリーの建物は、震災後に設けられた仮設の水産加工場を再利用したものだ。

「海の見えるワイナリー」をつくりたいという佐々木さんの願いを知るかまぼこ屋さんが、退去時に真っ先に声をかけてくれた
地産の杉材を多く使用し、小さな窓を取り払って大きな開口部を設けることで、無機質になりがちなプレハブ工場を温かみのある空間へと生まれ変わらせた。

木材がたくさん使用され、明るく開放的なテラス席。気候の良い季節にぜひ訪れたい
ブドウ畑で使用していた支柱を再利用したり、不要になったプレハブ工場の建材を譲り受けたりと、ここでも資源の循環を意識している。こうした再利用型の建築は全国的にも珍しく、2023年には「東北建築賞作品賞」と「第2回JIA東北建築大賞2022優秀賞」を受賞した。

さらに2024年には、グッドデザイン賞において「グッドデザイン・ベスト100」および「グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]」をダブル受賞。審査員からは、震災復興の象徴となった仮設プレハブ建築を継承した点や、耕作放棄地でのブドウ栽培、クルーズなどの観光イベントを通じて地域資源を生かす試みが高く評価された。

設計・デザインを手がけた建築家やデザイナーとともに受賞。醸造所そのものが評価される珍しい受賞例となった

人のつながりを育むワインの力を南三陸で体験しよう

佐々木さんは、ワインについて「人と人、人と地域をつなげるお酒」と話す。ワイン会では、そのワインが「どこの地域で、どんなブドウを使い、誰がつくったのか」といった背景が必ず語られる。そして、どんな食材と相性がよいかといったペアリングの話題で自然と会話が弾み、笑顔が広がっていく。

ワインは誰かと楽しむお酒。初対面でも、自然と会話が生まれるのが良いところ
そのほかにも、海中熟成や醸造体験、収穫祭など、人のつながりを育むさまざまなイベントを開催している。ボランティアとして関わる人も多く、収穫や仕込み、イベント運営などのタイミングでLINEグループに声をかければ、仲間たちが集まってくれるそうだ。さらに2022年には、青森・岩手・宮城のワイナリーを巡る「ワインツーリズムさんりく」を始めるなど、地域の垣根を越えた取り組みも進めている。

販売だけにとどまらず、参加の機会を広げることで、ワインを通じた関係づくりを大切にしている
今後の展望については、「良いと思ったことを続けていくこと」と語る。思い描いた構想を驚くほどのスピードで形にしてきたが、「町に賑わいを生み出す」という想いを実現するためには、地道に継続していくことが何より大切なのだという。

「東京や神奈川などで出店する機会もあります。イベントの案内は公式サイトやSNSで発信するので、まずはワインを味わってもらい、気に入ったらぜひ南三陸へ足を運んでほしい」と佐々木さん。震災の記憶とともにあるワイナリーで、生産者の想いに触れながら、地元食材とのペアリングを楽しんでほしい。

実際にワインを口にすると、伺ったお話や、断片的に知る南三陸の情景が自然と浮かんできた
(※)ASC認証:Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)による、持続可能な養殖業に与えられる国際認証。

南三陸ワイナリー|ワイン

KOSHU Sur Lie 2024 甲州シュール・リー(白・辛口):2,530円(税込/送料別) 
MERLOT / YAMA SAUVIGNON メルロ/ヤマ・ソービニオン(赤・辛口):2,970円(税込/送料別) 
志津川湾海中熟成ワイン MERLOT / YAMA SAUVIGNON(赤・辛口):6,600円(税込/送料別) 
公式サイト:https://www.msr-wine.com/
2024グッドデザイン・ベスト100/グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]:https://www.g-mark.org/gallery/winners/23955

「ZOOM」シリーズのご紹介

トーシンパートナーズの「ZOOM」シリーズは、「SAFETY(安全で、安心する)」「SENSE(センスが刺激される)」「PRACTICAL(実用的で使いやすい)」という3つの価値をコンセプトに、都心での上質な暮らしを提案している。

2024年度は、「ZOOM麻布十番」「ZOOM広尾」の2棟がグッドデザイン賞を受賞している。それぞれ、都心部という制約の多い立地の中で、暮らしやすさと美しさを兼ね備えた設計上の工夫が評価された。麻布十番は構造の工夫によって開放的で自由度の高い空間を生み出した点が、広尾は高層ビルと住宅地の間に自然に溶け込む設計が、特に高く評価されている。

トーシンパートナーズ|ZOOM麻布十番

トーシンパートナーズ|ZOOM広尾

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