Vol.632

FOOD

07 MAR 2025

魚料理のレパートリーが広がる、南仏料理を我が家に

フランス料理と言うと、少し敷居を高く感じる人もいるかもしれない。土地も文化も食材も違うため、興味はあれど、真似をするのはなかなかたいへんだ。けれどもフランスの中でも南仏は海が近いため魚介類に恵まれ、日本と同じように白身魚やイカやタコのレシピも多い。料理は毎日のこと。そのためマンネリになってしまっては億劫になるけれど、似た素材でもまったく違う作り方をするレシピの数々を知れば、日常に新鮮な驚きを取り戻せるはず。そこで今回は、日本でも作りやすい南仏料理を紹介する。

新鮮な海の幸と野菜たち。南仏の料理

旅行で訪れた地中海
真っ直ぐな太陽と地中海の煌めき、そしてバカンスに訪れた人々の陽気な姿。数々の映画で舞台として使われている南仏に、漠然と輝かしいイメージを持っている人も多いのではないだろうか。かくいう私も10代の多感な時期にフランソワーズ・サガンの「悲しみよ こんにちは」やエリック・ロメールの映画などを観て育ったので、「素敵な場所に違いない」と、南仏に憧れを抱いていた。そして大人になり、実際に訪れた地中海の景色を見たり、また日本とはまったく異なる真っ直ぐな太陽を肌で感じたりし、スクリーンに映し出されていたのは誇張されたイメージではなく、南仏の美しさを切実に捉えたものだったのだと実感したのである。

さまざまな種類のトマトが売られている南仏
そんな南仏の郷土料理の特徴は、地元で採れる野菜たちと、地中海の海の幸の数々が使われていることだ。温暖な気候はおいしいトマトやズッキーニ、ナス、オリーブなどを育み、また新鮮な魚や貝類にも恵まれている。

南仏の市場に並ぶ、豊かな魚介類たち

南仏の入口と言われている、アビニョンの市場
例えば市場に行くと、日本でもお馴染みの plie(カレイ)や morue(タラ)、bar(スズキ)が並び、海老や貝類も豊富に揃えられている。マグロなどの赤身も売られてはいるが、淡白な味わいの白身魚の方が種類が豊富な印象だ。

海老や貝類も豊富

野菜、魚、オリーブオイル、ニンニク。日本でも再現がしやすい南仏料理

マルセイユの漁港
”南仏” と耳にしてもあまりピンと来ない方でも、マルセイユやニースなら聞いたことがあるのではないだろうか。地中海に面しているこれらの都市は食材が豊富な上に、イタリアやスペイン、北アフリカなどとも距離が近いため、さまざまな文化が入り混じる場所だ。そんな土地柄ゆえに、食文化も独自の発展を見せている。

アンチョビの塩気がアクセント。サラダ・ニソワーズ
例えばマルセイユなら、同じく地中海の気候の恩恵を受けているイタリアなどに似て、オリーブオイルやトマトを使った「ブイヤベース」が有名だし、ニースではアンチョビやツナなどを使ったサラダ「サラダ・ニソワーズ(ニース風サラダ)」を食べることができる。

トマトやレタスのシンプルなサラダに、缶詰のツナやアンチョビ、オリーブを加えるだけなので、とても簡単でおいしい。お好みでゆで卵や、じゃがいも、インゲンを加えても


魚介類、トマト、オリーブオイル、ニンニクなどがふんだんに使われた料理たちは、フランス料理と聞いて思い浮かぶようなフォアグラやエスカルゴ、クロワッサンなどのヴィエノワズリーよりも、私たち日本人にとって手に入りやすい食材が使われているから、親近感が沸きやすい。そのため南仏の料理について調べていると、「日本で真似をしよう」と思えるレシピに出会うことができるのだ。

南仏の街、マントン
冒頭でも少し触れた通り「フランス料理」と聞くと、なんだか敷居が高く感じられる。けれどもそれは日本でいう懐石料理のように、レストランなど特別な場所で振る舞われるものだ。郷土料理と呼ばれるような地元で育まれた伝統的な一皿は、何気ない食材に工夫を凝らした庶民の味で、食材も作り方も決してハードルの高いものではない。

例えば先ほど少しご紹介したマルセイユ発祥と言われているブイヤベースは、日本の「あら汁」のように、元々は残った白身魚をハーブと野菜、そして「ルイユ」と呼ばれる少し辛いマヨネーズのようなソースを入れて煮込んだもの。後々貝や海老を入れて豪華になったが、本来はいわゆる残りものを上手に食べるための工夫なのだ。

さらに日本でも有名なラタトゥイユも、使われているのはズッキーニやトマトなど、南仏自慢の滋味深い野菜たちに、ハーブやオリーブオイルと、どれもこれも手に入りやすいものばかり。調理方法も特に小難しい工程はなく、とても家庭的だ。

今回は、そんな南仏の郷土料理の中でも、アイオリと呼ばれるソースと、日本でも手に入りやすい魚のタラを使ったブランダードという一皿をご紹介したい。

aïoli(アイオリソース)」と「Brandade de mourue(塩ダラのブランダード)」

南仏伝統のちょっとリッチなマヨネーズ?アイオリソース

ボイルした野菜や白身魚と合わせて食べる
「aïoli(アイオリソース)」は、先ほどブイヤベースの際にご紹介した「ルイユ」とともに南仏の伝統的なソースで、マヨネーズに近い卵のクリーミーな味に、ニンニクの香りが付け加えられているのがポイントだ。たっぷりとにんにくを使うのは、南仏の料理の特徴。このアイオリという名のソースも、フランス語でニンニクを指す「ail(アイユ)」が名前の冒頭に付いている。

卵とニンニクを混ぜる

用意するのはニンニク、卵黄、オリーブオイル、レモン汁、塩、胡椒のみ。

作り方はとても簡単で、まず卵の黄身にすりおろしたニンニクを加える。次にオリーブオイルを加えながら白くもったりとしたテクスチャーになるまで混ぜる。最後にレモン汁を少しと、塩胡椒で味を整え、完成。

簡単だけれど、にんじんやジャガイモといった茹でた野菜やボイルした白身魚を用意すれば、食べ応えのある一皿が出来上がる。またニンニクが入った味は少しパンチが効いているので、イカやタコのフリットなどにつけてビールや白ワインなどのおつまみにするのもおすすめだ。

パンにつけて食べると絶品。タラのブランダード

「Brandade de mourue(塩ダラのブランダード)」に黒オリーブを添えた
次にご紹介するのは、「Brandade de mourue(塩ダラのブランダード)」。日本でも手頃な値段で買えるタラを使った、ペースト状の料理である。

タラは味わいが淡白なため、お鍋に入れてポン酢で食べたり、竜田揚げにしたりと、さまざまな調理方法に応えてくれる便利な食材だ。そんなお馴染みのタラを使った料理だが、私はこの塩ダラのブランダードを、日本ではあまり見かけない南仏ならではの調理方法だと感じている。

市場で購入した塩ダラ。まずは塩抜きをする
用意するのはタラの切り身、じゃがいも、牛乳、ローリエ(その他タイムやディルなど、好みのハーブ)、塩、胡椒、ニンニク、オリーブオイル。

まずタラの骨や皮を取り除き、タラと細かく切ったじゃがいもを、潰したニンニク、ローリエを加えた牛乳で煮る。じゃがいもが潰せるくらい柔らかくなったら、ペースト状になるように混ぜたり潰したりする。火を止め、塩や胡椒で味付けし、最後にオリーブオイルを混ぜて完成。

タラとじゃがいもを牛乳で煮る
こちらもニンニクが効いているので、お酒に合わせるのはもちろんだが、じゃがいもとタラが作る濃厚な味は、子どもにも受けが良さそうである。

ペーストはパンに塗って食べるのが定番。けれどチーズをかけてオーブンで焼き、グラタンのようにしても食べられる。また1日冷蔵庫で寝かして味を落ち着けて食べても良いし、お好みのチーズを加え、乳製品の酸味をアクセントにしてもおいしそうである

その他、もし作りすぎてしまったら牛乳や生クリームで生地を伸ばしてパスタと絡めても満足感のあるソースが出来上がるし、リゾットにしても合いそうな味だ。

おいしい野菜と魚、オリーブオイル、パン。健康的な南仏の料理たち
同じ食材を使っていても、日本にいた時には気づけなかった発見をもたらしてくれる南仏料理。魚が豊富な土地柄同士、レシピを眺めているだけで新鮮なインスピレーションをもらえるように思う。

南仏料理を食卓に取り入れて、料理のレパートリーを増やしてみてはいかがだろうか。

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