Vol.126

FOOD

01 MAY 2020

普段のレシピで味わえる贅沢感。想像力を刺激するトリュフオイル

「今日は何を食べようか?」自宅で作る食事は、特別な日こそ食材選びやメニューを決めるのも楽しいものだが、毎日となると億劫になってしまうこともあるだろう。家にある食材、または手に入る材料で栄養バランスを考えて、見た目も美しい食事。もちろんそれが理想だが、慌ただしい日々を送っていると、つい食事は手軽で便利なものをと考えがちだ。
「時短」「節約」「簡単」といったキーワードばかりクローズアップされ、突き詰めると家での食事はやがて喜びではなく、空腹を埋めるための義務になってしまうかもしれない。家での食事でも味に変化と贅沢を。トリュフオイルはどちらの希望も叶えてくれる個性豊かな調味料だ。

自分で作り上げる、食卓の非日常感。

多くのブランドから販売されているトリュフオイル。色々試してみて、好みに合ったものを見つけたい。
一人で、あるいはパートナーや家族と過ごす週末の夜や休日のブランチは、少しだけ贅沢を取り入れた食卓にしたいもの。今まで手が出なかった高級な食材を購入してみたり、ハードルの高い新たなメニューに挑戦してみるのも良いかもしれない。

そうは言っても、扱いなれない食材で失敗するのも避けたいし、調理に時間をかけたくない時だってあるだろう。そんな時はトリュフオイルの力を借りてみよう。誰もが知っている世界三大珍味のひとつ、トリュフを使ったオイルは数滴料理にかけるだけで、日常の味を別次元へと誘う力を持つパワフルな調味料だ。

いつもと変わらない日常の食卓が、トリュフオイルで大きく変化する。

トリュフが高価である理由。その香りをオイルに閉じ込めて

トリュフは世界でも最も高い食材のひとつとして知られているが、その理由をご存知だろうか。楢、セイヨウハシバミ、柳、ポプラなど特定の木のそばの地中で育つトリュフは、品種は木の種類によって異なるが、主に白と黒に分類されている。

トリュフは育つために木が必要であり、また胞子を分散させるために動物が必要となる。黒トリュフは他の場所でも栽培できるそうだが、白トリュフは不可能と言われている。春から夏にかけて一定の降水量が必要であり、そのためトリュフの出来は年間の天候に大きく左右されるのだ。

美しいとは言い難い地中で育つ塊状のキノコが、神秘のような味と香りを持っている。
地中で育つトリュフの場所を探し当てるのは非常に困難で、トリュフハンターと呼ばれるこれを生業とする人々でさえ大変な努力と経験が必須とされる。また、トリュフは長持ちしないのも特徴だ。

掘り出されてから数日、もしくは1週間以内に食さなくては味が落ちると言われているため、通常掘り出してから24時間以内に世界中に販売、配達されている。育つための条件、探す労力、流通期間が短いトリュフは高価であるのが当たり前と言える食材なのだ。

育つのも見つけるのも流通も困難なトリュフをふんだんに食している人はごく少数に違いなく、どちらかと言えば食べたことのない人の方が多い食材。高級と呼ばれるレストランでもお目にかかる機会はあまりないトリュフだが、その味を家庭で気軽に楽しめるのが、トリュフオイルだ。

なかなか味わうことのないトリュフの香りを、気軽に自宅で試してみたい。
トリュフの場所はかつて、「トリュフ豚」と呼ばれる豚が探し当てていたが、豚がトリュフを食べてしまうので、トリュフハンターは犬とともに探すようになった。犬もトリュフを食べてしまうが、訓練すれば食することはなくなるそうだ。

犬にトリュフの匂いを覚えさせるため、18世紀後半からトリュフをオリーブオイルで煮たものを餌として与えており、これがトリュフオイルの発祥とされる。トリュフの存在が世界中に知れ渡ると、購入しやすい価格でトリュフの香りを楽しめるものとして、1980年代にトリュフオイルは発売された。

強いキノコの芳香と、土や森を連想させる大地の香り、体の芯がとろけるような官能的な香りがするトリュフオイル。何度も蓋を開けてはその香りを味わいたいと思わせる、まるで媚薬のようなオイルなのだ。

必要なのは、ほんの数滴。それだけで料理は官能的に。

想像力を誘発するトリュフオイルで、新たな発見を。

トリュフオイルで注意すべき点は、加熱するとせっかくの芳香が飛んでしまうこと。トリュフの特徴的な香りを活かすためにもほんの数滴、料理の仕上げとして使おう。

個性の強いトリュフオイルだが、多く使うとその香りが強調され過ぎるし、逆にカレーなどの味がハッキリした料理に使うと負けてしまう。

おすすめはオイル、塩・胡椒で味付けしたシンプルなレシピ。同じキノコ類を使った料理は間違いがない。キノコのパスタやリゾット、味が淡白な白身魚をグリルしたものにもよく似合う。

インパクトのある香り故、鼻を直接瓶のそばに近付けて吸い込むのではなく、蓋を開けたらそっと手で仰ぎ、ある程度距離を取った場所でその香りを感じて欲しい。

トリュフオイルは癖の強い個性派俳優のようなもので、活かすも殺すも監督次第。使うシーンと組む相手の俳優を間違えなければ、またとない魅力を発揮し、忘れえぬ物語を作る際の欠かせない存在となるだろう。

トリュフオイルの香りが引き立つのは、シンプルに料理された食材。肉、魚とともに淡白な味のものがおすすめ。
上に挙げたトリュフオイルに似合うレシピはほんの一例に過ぎない。どうか実際にトリュフの香りを嗅ぎ、その甘美な香気を知った上で、何のレシピが合うのかを見つけて欲しい。

この強い香りに合う食材は何だろう?和食の味とは合うのだろうか、肉類ならどんな部位がマッチする?トリュフオイルを使い始めると、楽しみ方はその味わいだけでなく、どの料理と合わせるかと想像する時間も含んでいることに気付くだろう。

食の好みは全く個人的なものだから、自分が美味しいと体で感じることこそ重要なはず。特別なものは何もいらない。いつもの食材、いつものレシピで充分。自分が家で常日頃作っているものの中から、トリュフオイルに合うものを探してみたい。

料理の腕よりも、想像力が必要とされる調味料なのだから。

想像力をフルに使い、合うレシピを探してみたい。

自宅での食事に愉悦と喜びを。

「外食」とはレストランなど自分の家ではない場所で、自分や家族が調理したものではない料理を食する機会。家を出てから店の席に着くまでの高揚感やメニューを選ぶ楽しみがあり、手の込んだ美しい料理を五感で味わえて、大切な人と語らう時間を提供してくれる特別なひと時だ。

けれど自宅で調理し食する場合の利点ももちろんある。店へ往復する手間もいらないし、初めての店で気おくれすることもない。納得できないサービスに不満を感じることもなく、料理と値段が釣り合っていないとがっかりすることもない。

一番くつろげる場所で、好きな時に、食べたいものを。そんなリラックスできる自分の食卓に、外食で味わうような特別感を加えてみよう。トリュフオイルは確かに他の調味料に比べると高価に感じるかもしれないが、必要なのはほんの数滴。意外にもコストパフォーマンスが良いことに気付くはずだ。

食事は人間に与えられた贅沢と楽しみを得られる機会であり、これを日々の義務にしてしまうにはあまりにも淋し過ぎる。そこに「美味しさ」を感じる限り、いつだって喜びを与えてくれるはずだ。そしてトリュフオイルは、きっとその手助けをしてくれるだろう。