自分で作り上げる、食卓の非日常感。
そうは言っても、扱いなれない食材で失敗するのも避けたいし、調理に時間をかけたくない時だってあるだろう。そんな時はトリュフオイルの力を借りてみよう。誰もが知っている世界三大珍味のひとつ、トリュフを使ったオイルは数滴料理にかけるだけで、日常の味を別次元へと誘う力を持つパワフルな調味料だ。
トリュフが高価である理由。その香りをオイルに閉じ込めて
トリュフは育つために木が必要であり、また胞子を分散させるために動物が必要となる。黒トリュフは他の場所でも栽培できるそうだが、白トリュフは不可能と言われている。春から夏にかけて一定の降水量が必要であり、そのためトリュフの出来は年間の天候に大きく左右されるのだ。
掘り出されてから数日、もしくは1週間以内に食さなくては味が落ちると言われているため、通常掘り出してから24時間以内に世界中に販売、配達されている。育つための条件、探す労力、流通期間が短いトリュフは高価であるのが当たり前と言える食材なのだ。
育つのも見つけるのも流通も困難なトリュフをふんだんに食している人はごく少数に違いなく、どちらかと言えば食べたことのない人の方が多い食材。高級と呼ばれるレストランでもお目にかかる機会はあまりないトリュフだが、その味を家庭で気軽に楽しめるのが、トリュフオイルだ。
犬にトリュフの匂いを覚えさせるため、18世紀後半からトリュフをオリーブオイルで煮たものを餌として与えており、これがトリュフオイルの発祥とされる。トリュフの存在が世界中に知れ渡ると、購入しやすい価格でトリュフの香りを楽しめるものとして、1980年代にトリュフオイルは発売された。
強いキノコの芳香と、土や森を連想させる大地の香り、体の芯がとろけるような官能的な香りがするトリュフオイル。何度も蓋を開けてはその香りを味わいたいと思わせる、まるで媚薬のようなオイルなのだ。
想像力を誘発するトリュフオイルで、新たな発見を。
個性の強いトリュフオイルだが、多く使うとその香りが強調され過ぎるし、逆にカレーなどの味がハッキリした料理に使うと負けてしまう。
おすすめはオイル、塩・胡椒で味付けしたシンプルなレシピ。同じキノコ類を使った料理は間違いがない。キノコのパスタやリゾット、味が淡白な白身魚をグリルしたものにもよく似合う。
インパクトのある香り故、鼻を直接瓶のそばに近付けて吸い込むのではなく、蓋を開けたらそっと手で仰ぎ、ある程度距離を取った場所でその香りを感じて欲しい。
トリュフオイルは癖の強い個性派俳優のようなもので、活かすも殺すも監督次第。使うシーンと組む相手の俳優を間違えなければ、またとない魅力を発揮し、忘れえぬ物語を作る際の欠かせない存在となるだろう。
この強い香りに合う食材は何だろう?和食の味とは合うのだろうか、肉類ならどんな部位がマッチする?トリュフオイルを使い始めると、楽しみ方はその味わいだけでなく、どの料理と合わせるかと想像する時間も含んでいることに気付くだろう。
食の好みは全く個人的なものだから、自分が美味しいと体で感じることこそ重要なはず。特別なものは何もいらない。いつもの食材、いつものレシピで充分。自分が家で常日頃作っているものの中から、トリュフオイルに合うものを探してみたい。
料理の腕よりも、想像力が必要とされる調味料なのだから。
自宅での食事に愉悦と喜びを。
けれど自宅で調理し食する場合の利点ももちろんある。店へ往復する手間もいらないし、初めての店で気おくれすることもない。納得できないサービスに不満を感じることもなく、料理と値段が釣り合っていないとがっかりすることもない。
一番くつろげる場所で、好きな時に、食べたいものを。そんなリラックスできる自分の食卓に、外食で味わうような特別感を加えてみよう。トリュフオイルは確かに他の調味料に比べると高価に感じるかもしれないが、必要なのはほんの数滴。意外にもコストパフォーマンスが良いことに気付くはずだ。
食事は人間に与えられた贅沢と楽しみを得られる機会であり、これを日々の義務にしてしまうにはあまりにも淋し過ぎる。そこに「美味しさ」を感じる限り、いつだって喜びを与えてくれるはずだ。そしてトリュフオイルは、きっとその手助けをしてくれるだろう。