Vol.114

UNIQUE

20 MAR 2020

ミルクマイスター®高砂さんの生き方に学ぶ、「好き」から広がる牛乳の世界

働き方に関するさまざまな問いや主張をよく目にするようになってきた昨今。自身の働き方について、一度立ち止まって見つめ直す機会も増えたように感じる。ただ、漠然と現状を問う前に、根本にある本当に好きなものあるいは大切なものに気づくことで、自ずと働き方にも影響してくることもあるのではないだろうか。
今回お話を伺った、牛乳をこよなく愛するグラフィックデザイナー/ミルクマイスター®高砂さんは、まさに好きなものを見つめ、豊かに自身の可能性を広げるひとりだ。

世界一牛乳好きなグラフィックデザイナー/ミルクマイスター®の活動とは?

アートやデザイン、イベントなどさまざまなアプローチで牛乳の魅力を発信する高砂さん
山形で生まれ育った高砂さんは名古屋の芸術大学に進学後、広告制作会社に入社する。現在でこそ「牛乳をこよなく愛するグラフィックデザイナー/ミルクマイスター®」という肩書を自ら掲げる高砂さんだが、一度は、牛乳の存在を見失っていたこともあったのだとか。

「2010年、広告製作会社のデザイナーとして多忙な日々を過ごしていました。自分が好きなものに向き合う時間はほとんどなかったんですが、ふと仕事の合間、将来のことを考えた時に本当にこのままでいいのかなと。そんな時に思い出したのが、幼少期から水のように飲んできた牛乳の存在です。大学3年の時、課題で自分の好きなものをブランディングしようという授業があって、テーマとして牛乳を選びました。改めて自分が牛乳を好きだと気づいたきっかけであり、『デザイナーとしてのスキルを活かし、牛乳の魅力を広めたい』という今の思いに繋がるきっかけでした」。

ミルクマイスター®高砂さんの公式HP。WEBサイトのデザインも自身で手掛けている
その後、すぐに会社を退職し、牛乳をテーマにした活動をはじめた。これまでに飲んだ牛乳は350種類以上。もちろん飲むだけに活動は留まらず、雑貨店『ケビンミルク』(※現在は閉店)やグッズの制作、フリーマガジンを制作するために、酪農家や牧場に取材を重ね、知識を深めていったという。

『読めばミルクがもっと好きになるふしぎな新聞 MILK新聞』。酪農家への取材から誌面制作まで全てを担当

牛乳の歴史や知識などを網羅したフリーマガジン『QM』では編集から紙面の制作までを担当
驚くことにこれらは全て高砂さんの自主制作。約10年もの間、誰かに依頼されたわけでもないこの活動を、グラフィックデザイナーとしての仕事の合間に時間を作り、続けている。その原動力はただただ、「牛乳が好き」という気持ちだ。

飲むだけが牛乳じゃない! 牛乳に隠されたストーリーを追って。

ところで、これほどまでに高砂さんが感じる牛乳の魅力とはなんだろうか? そんな疑問を探るべく、今回取材場所としてご協力いただいたのは東京都調布市にある「山本牛乳店」。北海道標津郡中標津町養老牛の山本牧場で生まれた「養老牛放牧牛乳」が購入できる直営店だ。

神代団地商店街にある山本牛乳店。地域住人や遠方からの来客もあるという

左から、山本牛乳店店長兼看板娘・山本春菜さん(以下、春菜さん)、高砂さん、オーナーであり代表取締役の山本照二さん(以下、照二さん)

北海道庁が「北のハイグレード食品」として公認する、産地直送の養老牛放牧牛乳 (900cc 1,400円 / 180ml 400円)。とても甘く濃厚であり、牧草の風味が優しく香る爽やかな味わい
オーナーの照二さんは、1999年36歳の頃、東京から北海道に移住。別海町にある酪農研修牧場で3年間の研修を経て、山本牧場の営農を開始。穀類を飼料に育つ乳牛も多い中、“牧草で育てる(グラスフェド)”ことにこだわりぬいた。それは当時、「狂牛病」としても知られるBSEが国内で発生し、酪農家として課題意識を持ったことがきっかけのひとつだったという。そして、完全放牧で牛たちにとってストレスのない環境作りや飼料の減農薬など試行錯誤を重ね、『養老牛放牧牛乳』は完成した。

お店の壁には、グラスフェドの説明がイラストで描かれている
機械化された酪農や流通の現場にも疑問を感じていた照二さん。2019年9月にオープンした「山本牛乳店」には、顔の見えない消費者であるお客様と牛乳を介したつながりを作り、商品の良さを直接伝えていきたいという思いがこもっていた。

なかなか知る機会のない、牛乳の背景にある酪農家の思いやストーリー。「牛乳を飲む時は、こういった酪農家さんの思いにも注目しています。僕は牛乳が大好きなので牧場や生産者の方と消費者の方をつなげる役割を担いたいと思い、こういう活動をしてます」と高砂さんは語る。

甘さひかえめで牛乳本来の味が生きたやさしい味のソフトクリーム。「放牧牛乳ソフトクリーム / 自家製コーン プレーン(500円)」

宅配用の牛乳箱。現在は調布市、狛江市、世田谷区エリアで牛乳配達を行っている
しかし、牛乳を飲み慣れない方もいる中で牛乳の魅力を伝えるのは、難しいこともあるのではないかと尋ねると「もちろんそのままでも飲んでほしい。だけど牛乳の良さの一つは、食品としていろんなものに応用できること」と高砂さん。

なるほど、確かに一口に牛乳といってもただ飲むだけではない。実際、山本牛乳店に並ぶパティシエとしての顔を持つ春菜さんが作るスイーツはケーキにシュークリーム、焼き菓子と幅は広い。

素材の味を生かしたスイーツの数々は、養老牛放牧牛乳の良さを知る春菜さん独自のレシピで考案されたもの。濃厚なクリームが入った「シュークリーム(360円)」

放牧牛乳の美味しさが引き立つ「レアチーズケーキ(410円)」

北海道産のクリームチーズと放牧牛乳を使った「チーズケーキ(400円)」

フワフワの生地に甘さが控えめなクリームがたっぷり入った「ロールケーキ(360円)」
高砂さん自身も昨年、バナナミルクを提供するイベントを開催。「牛乳を飲んでくれる人の分母が増えるのであれば、そういう表現でも僕はアリだなと思っていて。そういう意味で牛乳を起点として、いろんな食材と組み合わせて牛乳が好きな人を増やしていけるといいなと思ってます」。

ミルクマイスター®が提案する、牛乳の楽しみ方とは

山本牛乳店内には、インテリアとしても心惹かれる牛乳グッズがある
まだまだあるという牛乳の楽しみ方。それは、牛乳をモチーフにしたプロダクトだ。「牛乳自体が持っているかわいさがあって。ロゴやラベルデザイン、フォルム、牛乳に関係するグッズなど飲む以外の楽しさのところでも伝えていけるといいなと思ってますね」。

高砂さんによるデザインで限定販売された牛乳パックがモチーフの卓上カレンダー

こちらも高砂さんによるデザイン。牛のイラストがキュートなタンブラー
もうひとつ、高砂さんが構想中の牛乳の楽しみ方として提案したいのは「ミルク旅」だという。「牛乳を軸にして旅行のプランを立てる。〇〇の牛乳を飲みたいから、この場所に行こうとか」。確かに、旅先の目的に牧場があるだけで楽しみ方は変わってくるだろう。

筆者も実のところ、2019年5月に北海道中標津町の山本牧場を訪ねる旅をしたことを伝えると「そうなんですね。そんな感じで『山本さんの牛乳を飲みたいから養老牛までいってみよう』とか、そういうのが増えるといいなと。多くの人に生産者の方と話す機会を持ってもらえるといいかなと思いますね」。

牛乳がモチーフのニットを着こなす高砂さん
もちろん、好きなものを自分の内側に留めておくのもいいだろう。ただ、高砂さんは「自分が好きなものを人と分かち合いたい。そういう感覚が映画やアニメ、漫画……昔から何に関しても強くて。自分の中だけにとどめておけない性格で、僕は牛乳が大好きだったので『牛乳おもしろいよね』みたいに伝えたいっていうのがあるんです」という。

そして最後に、この10年間の活動で不安はなかったかを尋ねてみた。「不安はなかったですね。やりたいことがどんどん出てきちゃうタイプなので、まずは小さく、自分でできる範囲のことをやってみるのが大事。いきなり壮大なことを想定してはじめると、途中でつまずいちゃうともったいないので、まずは小さくでも1回自分が思い描いているところを表現してみるのが大事かなと思います」。

思いの込もった活動や商品、人は、やさしくつながっていくのだと、今回の山本さん親子や高砂さんのお話に触れ感じた。そして、誰かの好きなものを伝える力から広がる世界は、とてもワクワクするものだ。きっとこれは牛乳だけではない。自分だけの「好き」からはじまる世界がみつかると、これからの人生を豊かにすることだろう。

牛乳をこよなく愛するグラフィックデザイナー/ミルクマイスター®高砂

1983年山形県寒河江市生まれ。世界中の牛乳を探索しつつ、オススメの牛乳や、牛乳の楽しみ方など、牛乳の魅力を広めるため活動中

公式HP:https://milkmeister.jp/

●山本牛乳店
住所:東京都調布市西つつじヶ丘4丁目23番地 神代団地35号棟102
電話:042-426-7739
公式HP:https://milkshop.wildmilk.jp/