インクではなく、金属で書く
インクレスペンの第1号である「カンビアーノ インクレスペン」は、当時の最新型だったフェラーリのコンセプトカー「カンビアーノ(CAMBIANO)」をイメージしたもので、流線型のフォルム、細身のウッドボディが美しい一品。
「車好きや文具コレクターはもちろん、ペンのクリエイティビティからインスピレーションを得たいという、デザイン業界の人や建築業界、インテリア業界の人もよく購入されていきます」。(佐久間さん)
使い方のユニークさやデザイン性の高さからセンセーショナルなデビューを飾ったインクレスペン。しかしそのルーツは、500年以上前のルネサンス時代にあるという。
ルネサンス時代から使われていた
進化する道具がある一方で、銀筆のように、普遍的な価値を持つものは確かにある。とはいえ、そのようなものにも、時代とともに新しい価値が見出されているようだ。
宇宙空間でも使える
ボディはチタンやアルミよりも軽いマグネシウム製。惑星の軌道をイメージしたリング型のペンスタンドがセットになっている。
「ボディが重いものの方が筆圧が乗りやすいので、比較的筆跡が残りやすいですね。軽いボディのものは書いていて疲れにくいです」。(佐久間さん)
好きな書き味で選ぶも良し。3シリーズともデザインのテイストが異なるので、自分の部屋に合うものをチョイスするのも良さそうだ。
“できない”を、何ができるのかという発想に代える
なるほど、インクレスペンは消しゴムでは消えないし、水濡れにも強いので、水彩画の線を描くのに使ってもにじまず、相性がよさそうだ。また、紙にしか書けないということは、机や服などへ誤って書いてしまう心配がないということにもなり、会議時に速記しなければならない時や、複数人でのアイデア出しのメモに使えそうだ。
できないということをデメリットとしてとらえるのではなく、逆に何に使えるのかを考えるのが楽しい。こういう発想は、利便性を追求しがちな現代ではつい忘れそうになってしまうものかもしれない。
佐久間さんがおすすめする使い方は、インテリアとして飾り、何かアイデアが浮かんだら書きとめたり、とっさのメモを取るのに使うこと。
「久々にペンを使おうとすると、インクが乾いて使えなくなっていることってありますよね。インクレスペンならそういうことはありません。ビジュアルが美しいので、普段はインテリアとして飾っておいて、使いたいときにいつでも使えます。
また、お医者さんで、カルテを書くのに使っているという方もいらっしゃいましたね。たくさんのカルテを素早く書いていく中で、インクや芯を交換したりする時間は惜しくなる。綺麗に残すために書くというよりは一時的な筆記として使い、その後にパソコンにデータを起こすという使い方をされているそうです」。(佐久間さん)
パソコンですべて入力するのも楽だが、いつも使える環境にあるとは限らない。アナログとデジタルの長所を使い分けた活用の仕方が参考になる。
個人的には、記事の企画のアイデア出しに使ってみたいと思う。日常にヒントが眠っている。ふとひらめき、その時は覚えているのに、いつの間にか忘れて悔しい思いをするーーそんなことは誰しもあるはず。インクレスペンを目につくところに飾っておき、ひらめいたらペンの隣に置いたノートにメモをする。そのノートはいつしか立派なアイデア帳になっていることだろう。
インクレスペンが示唆する、たくさんの可能性
「万年筆やボールペン、鉛筆などの文具はここ100年くらいで大きく進化してきました。一方でインクレスペンは、これらほど大きく進化しているわけではありません。今は用途が限られていますが、汎用性や書き味も、今後はまだまだ伸び代があるアイテムだと思います。だからこそ、ここからどう変わっていくのか、あるいは別の進化を遂げるのかをリアルタイムで見ていくことができるかもしれない。そう思うと、楽しみなんです」。(佐久間さん)
「ここ10年間は特に、環境への配慮が見直されていますよね。木やプラスチック、金属を使う文具も環境問題に関わっているのに、大量生産、大量消費が続いている。鉛筆やインクを使うペンのリフィルは使い捨てであることが多いんです。
その点、インクレスペンは時代に合ったアイテム。いいものを長く大切に使っていくことの重要性に気づかされるきっかけになりうるのでは」。(佐久間さん)
こういう気づきが得られるのも、アナログである文具の良さかもしれない。「人間自体がアナログな存在だから、同じくアナログなものである文具は、自分にとって心地がいい、相性がいいものなんですよね」と佐久間さんも頷いてくれた。
インクレスペンには、レオナルド・ダ・ヴィンチらが芸術活動に勤しんだ500年前に思いをはせることができるロマンがある。さらには、将来的には宇宙でおなじみの文具になるかもしれない。
自分の想像力や価値観を広げられるという魅力にも満ちているインクレスペン。あなたはそこにどんな可能性を見るだろうか。