欲しい情報はすぐ手に入り、時間をつぶすことも難なくできる便利な時代。その豊かさと引き換えに、私たちは「静けさ」を手放しがちだ。移動中や待ち時間、あるいは一日を終える部屋の中でも、次の刺激に手を伸ばすことが習慣となっている。そんな日々の中で必要なのは、何かを増やすことではなく、自らの中に余白を取り戻すことなのかもしれない。インセンス&キャンドルホルダー「POND(ポンド)」が織りなす炎と水、煙と水のアンサンブルを眺めながら、自分自身の内面にある静けさを感じてみよう。
デジタル過多で疲れたときは、空白の時間と向き合いたい
久しぶりに時間ができた夜のひととき、今夜はのんびりしようと心に決める。いつもは仕事や時間に追われ、頭は常にフル回転。心身ともにくたくたになっている。そんな状態をリセットするためにも、時には何もせず、ただぼんやりと過ごしてみたい。
例えばお気に入りのドリンクを片手に、灯りを落として、窓の景色を眺めてみる。あるいは静けさの漂う住まいの中で、ハーブティーとともに心をゆっくりと解放する…。その時こそ、TVやスマホ、音楽など、外から入ってくる刺激を遠ざけてみたい。だがそう決めても、何もしない時間が居心地悪く感じてしまう。いつの間にか「ぼんやり」することが難しくなっており、いつもの習慣でスマホに手が伸びる。
画面をスクロールする度に次から次へと情報が現れては消えてゆき、視覚や聴覚を刺激し続け、気付けば驚くほどの時間が過ぎ去っている。その後に残るのは充実感とは言い難く、どこか空しい、脳が痺れたような疲労感だ。
思えば最後に心を空っぽにして、自らを静寂の中へと導いたのはいつのことだっただろうか。「何もしない」時間が無駄のように思え、空白の時間を常に何かで埋めなくてはならない強迫観念さえ抱くようになっている。
意識に入り込んでくるデジタル過多の悪循環に疲れた時は、静けさの中で心を整えてみよう。心と頭の緊張を解きほぐす手伝いをしてくれるのが、「POND(ポンド)」という名を持つインセンス&キャンドルホルダーだ。プロダクトと対峙する時間を持つことが、自分自身を見つめ直すきっかけとなってくれるだろう。
アルミ鋳物の美しさを手元に
「POND」を生み出したのは、“工場はアイデアの泉である”というコンセプトをもとに、昭和28年に福岡で設立されたアルミ鋳造工場株式会社「エフキャスト」が自社ブランドとして立ち上げた「FOUNTAIN/FOUNDRY(ファウンテンファウンドリ)」だ。
職人はもちろん、工場に関わるすべての人の気づきや閃きから作り出されたのは、暮らしに寄り添うアルミ鋳物のプロダクトたち。彼らは長い歴史の中で培った技術を活かし、型制作から仕上げまでを自社で行っている。
今回ご紹介する「インセンス&キャンドルホルダー POND」は、アジア太平洋地域のデザイン・建築・インテリアのカルチャーを伝えるデザインメディア『design anthology』が主催したdesign Anthology Awards 2025 において、プロダクト(アクセサリー)部門を受賞している。
「インセンス&キャンドルホルダー POND」はその名が示す通り、ひっくり返すことでインセンスホルダーとキャンドルホルダーの二通りの楽しみ方ができるプロダクトだ。そして最も大きな特徴は、どちらも使用する際に「水を張る」という点にある。
本来、火と煙に相反する「水」を共存させ、あえて器に水を張るひと手間を加えることで、火と水、煙と水が交じり合い、不思議な相乗効果をもたらしている。アルミ鋳物が醸し出す静かでクールな陰影、水面が幻想的なワンシーンを描き出す。
存在そのものが空間に静寂を作り出す、インセンス&キャンドルホルダー「POND」。日常における喧噪を忘れさせ、心に上質な空白を生み出してくれるのを体感できるだろう。
プロセスから楽しみたい。火と水が描くコントラスト
まず味わいたいのが、「POND」をキャンドルホルダーとして使用する際、火を灯す前の準備からのプロセスだ。はじめに「POND」をテーブルやデスクに置き、本体にゆっくり、そして慎重に水を注いでみよう。それからティーライトキャンドルを中央のくぼみにセッティングし、火を灯す。
この小さなひと手間と意識を集中させることによって生じる緊張感が、せわしない日常から静けさの中へ入っていくスイッチとなるはずだ。そしてキャンドルに火が灯り、水面にゆらゆらと動く炎が映し出され、水と炎が静かなハーモニーを奏で始める。
その揺らめきを眺めていると、様々な情報が入り乱れ、散り散りになっていた思考がひとつにまとまっていくのが感じられる。「POND」に浮かぶキャンドルの炎は大きくなったり小さく瞬いたりと、瞬間ごとに姿を変える。それと向き合うひとときは、穏やかでありながら濃密に感じられるに違いない。
思う存分、本来の自分自身として過ごす時間を堪能したら、火を消して水を始末する。ボタン一つで完結するデジタルなアイテムと比べると、こなさなくてはならない手順が多い「POND」だが、その手間こそが、素の自分に戻る大切な儀式なのだと気付かされるだろう。
ゆらめく煙が教えてくれる、消えゆくものの美しさ
「POND」が持つもうひとつの顔が、裏返すことで現れる、凛とした佇まいのインセンスホルダーだ。インセンスホルダーはお香を立てて焚くための道具であるが、通常のものは落ちる灰を受け止める仕組みになっている。一方「POND」が生み出すのは、もう一歩奥に踏み込んだ美しい体験だ。
インセンスホルダーとして使う場合もやはり、キャンドルホルダーと同じように水を張るところから始めてみる。「POND」の中央に立てたお香に火を灯すと、細く儚い煙が立ち上り、室内にゆっくりと淡い香りが広がっていく。
インセンスホルダーを使用する際にじっくりと楽しみたいのが、その煙の行く末だ。手に取ることのできないその軌跡を視線で辿り、不規則な動きで天井へ昇っていく様を眺める。部屋と自身を包む香りに身をゆだねていると、日中に降り積もったストレスとともに、凝り固まった思考も一緒に空間に解き放たれていくようだ。
お香は静かにゆっくりと短くなり、やがて灰がふわりと張った水に落ち、ジュッと微かな音を立てて消えていく。灰が沈んでいく様子や、水面に小さな波紋が広がる風景は、消えゆくものの美しさ、手放すことの大切さを優しく教えてくれるだろう。
「POND」とともに、自分だけの贅沢な時間を
これまで家で過ごしていても、疲れが取れない、リラックスできないと思うことが多々あった。それは仕事が忙しい、予定が詰まっているという問題の他に、自ら情報の渦に身を任せていたことも要因だったのかもしれない。
SNSや動画、ゲームやニュース、様々な情報。スマホを手に過ごすのは、空いた時間を埋めるための有益な時間と思っていたのに、いつしか焦燥感を抱きながらも、それなしではいられないような錯覚に陥っていた。
時にはすべてから離れ、自分自身の内面と対話するひとときを持ってみたい。揺らぐ炎とそれが映る水面を眺め、お気に入りの香りの中で消えゆく煙を追ってみる。そのささやかな行為はやがて、本来の自分自身を取り戻す神聖な儀式に変わっていく。本来の自分に戻りたいと感じた時は、「POND」が作り出す静謐なひとときに、そっと身をゆだねてみよう。
POND インセンス&キャンドルホルダー
CURATION BY
31年間暮らした英国から日本へ。海と山と川に囲まれた、小さな村での暮らしが始まりました。