Vol.749

MONO

21 APR 2026

森の香りをそのままに。南足柄産のアロマ|大雄杉

帰宅しても、今日の会社での出来事が気になる。シャワーを浴びても、まだ心が休まらない。日頃頑張っている人ほど、オンオフの切り替えがうまくいかないと感じることはないだろうか。今回紹介するのは、神奈川県南足柄市の森林で採れた杉の枝葉から、夫婦二人が手づくりするアロマ製品「大雄杉®」。ひと吹きで部屋の空気が変わる、人工的にはつくれない自然の香りだ。その香りが生まれる場所と背景を、つくり手の取材を通して掘り下げる。

東京から1時間、森林70%の町が育てた杉

商品が届いたとき、箱を開けた瞬間から香りが漂った。人工的な香りが苦手な人でも受け入れやすい、自然そのままの香りだ。尖ったところがなく、複雑で、どこか懐かしい。

気分が良い時も、気分が乗らない時も。ひと吹きで、空気が変わる

帰宅後や就寝前など、心を落ち着かせたい時には、精油(エッセンシャルオイル)をディフューザーに数滴たらして香りを取り入れるのがいい。インセンス(お香)をたき、同梱のQRコードから南足柄の自然音を聴きながら目を閉じると、森にいるような気分になる。一方、気持ちをシャキッと切り替えたい時にはアロマウォーターを。スプレータイプで、朝のリフレッシュや来客前の空気を整えるのにも、ひと吹きするだけで手軽に使える。

自然音に即興ピアノを重ねた音楽が、QRコードから聴ける




この香りが生まれたのは、品川から新幹線で26分、小田原から大雄山線に乗り継いで約25分の神奈川県南足柄市だ。車なら東名高速道路の大井松田インターから15分足らずで到着する。

「大雄杉」があれば、南足柄の森が育む香りと音を自宅で感じられる

箱根の陰に隠れ、観光地としてはほとんど知られていないが、市域の約70%が森林というこの町に、原料となる杉が育つ。花粉のイメージで語られることの多い杉を、森林資源としてポジティブに捉え直したい。そんな思いを持ち、杉を利用したアロマづくりを始めたのは、南足柄在住の古屋実さん・清美さん夫妻だ。二人は、最初に枝のサンプルを分けてもらった大雄町の名をとり、このアロマ製品を「大雄杉」と名付け、商標登録した。

精油(左)とアロマウォーター(右)。用途によって使い分けたい

捨てられていた枝葉が、精油になる。循環型のものづくり

南足柄市の森林組合が間伐・伐採した杉のうち、幹は木材として活用されるが、枝葉は使われずに廃棄される。大雄杉はその枝葉を分けてもらうことで成り立つ、循環型のものづくりだ。

採取した枝葉は手で細かく切断してから蒸留器にセットする。そうしなければ、精油がうまく取れないからだ。そこに市内で汲んできた湧き水を入れ、水蒸気蒸留にかけると、じわじわと香りが立ち上がってくる。まるで雨上がりの森の中にいるような香りに包まれるという。

しかし、蒸留したばかりの杉の精油がすぐに製品になるわけではない。実は初めて蒸留を試みたとき、二人はあまりにも野生的な匂いに戸惑い、思わず捨ててしまった。それは想像していたアロマの香りとはかけ離れていた。

枝葉の切断と水蒸気蒸留の工程。すべて手作業で行う

ハーブや柑橘の精油であれば、蒸留したその日にボトリングできる。しかし木の精油、とりわけ杉はまったく勝手が違う。何度も試行錯誤を繰り返し、蒸留の専門家にコンサルティングを依頼してはじめて、納得のいく精油が採れるようになった。杉の採油には時間がかかるうえ、枝葉から採れる精油の量はごくわずかだ。

この水蒸気蒸留の過程で生まれるのが精油とアロマウォーター(芳香蒸留水)だが、蒸留を終えた釜の中には使用した枝葉と湧き水が残る。大雄杉はそれさえも余さず活用している。

一度に染められるのは2枚だけ。季節や木の個体差によって変わる色は、まさに自然そのものだ
残った湧き水には杉のエキスが溶け込んでおり、これを染料として使うことで杉染めストールが生まれる。通常の草木染では媒染液にミョウバンを使うことが多いが、大雄杉では手づくりのオリジナル媒染液を使用しており、化学物質を一切加えていない。

釜に残った枝葉は十分に乾燥させ、細かく粉砕するとインセンスの原料になる。インセンスは大雄杉だけではなく、より香りを楽しんでもらうために、香木である白檀や沈香をブレンドしたものも用意している。その日の気分に合わせて使い分けられるのも、うれしいポイントだ。

蒸留後の残渣を乾燥させ、粉砕するとインセンスの材料になる

自然が持つ香りの豊かさを、暮らしの楽しみに

森の中に入ったときに感じるあの香りの正体は、植物が外敵や雑菌から身を守るために放散する、さまざまな有機化合物の集まり。森林浴でなんとなくリラックスした気分になれるのは、こうした成分が影響していると考えられている。

精油はその有機化合物を水蒸気蒸留で抽出したもので、一本の瓶の中には数十から100種類近くの成分が含まれている。

今回はどんな香りだろう、と開けるたびに楽しみが生まれるのも、自然のものならでは

大雄杉の香りは、合成香料のように毎回同じではない。天然の精油はさまざまな成分が混ざり合ってできている。さらに、それらの成分は木が育った場所や気候、季節、樹齢によって含有量が微妙に異なる。たとえば春と秋では、植物が生きるために使う精油の役割が異なり、瓶の中の成分も変化する。同じ場所から採取した枝葉でも、香りが毎回少しずつ違うのはそのためだ。

品質を安定させるために、採取場所にもこだわっている。杉が好むのは、日陰で湿気が多い場所だ。実際に日当たりの良い場所の葉で蒸留を試みたところ、香りが明らかに異なったという。同じ南足柄市内でも、条件が違えば香りが変わる。それ以来、二人は杉が好む条件を満たす場所からのみ枝葉を採取している。

精油は植物油に1〜2滴を垂らして混ぜて使う

木の香りといえばヒノキを思い浮かべる人も多いかもしれないが、大雄杉はサンダルウッド(白檀)のような落ち着いた深みのある香りが特徴だ。

都会を知る二人だからこそ届けられる、南足柄の森の静けさ

大雄杉をつくる古屋さん夫妻は、異なる専門性を持つ。清美さんは原宿表参道のアロマ・ハーブスクールでアロマセラピストやインストラクターの養成講座を担当し、20年以上にわたり第一線で活躍するアロマセラピストだ。一方の実さんは化学系の大学院を卒業後、アメリカ系の化学会社で製品開発や製造管理に携わってきた。

二人は長年、南足柄から東京へ通勤を続けてきた。帰宅するたびに南足柄の静けさにほっとする。その感覚が、大雄杉をつくる動機の一つになった。

都会の喧騒の中で暮らす人が、帰宅後や就寝前にふと息をつける時間を持てるように。そのために何ができるかを考えたとき、手元にあったのが南足柄の森林資源だった。機械で大量につくるのではなく少量を手作業でつくることも、穏やかな心と清らかな環境の中で丁寧に仕上げることにこだわるのも、使い手に森の静けさを届けたいという思いからだ。大雄杉のものづくりは神聖な気持ちで行い、「土地の賜物を分けて頂く気持ち」で、地元の神社仏閣に感謝の参拝を欠かさないという。

使うたびに、この香りをつくった二人の思いが伝わってくるようだ
アロマ関連製品の製造は、基本的に二人で行う。一緒に山に入り、伐採された杉から枝葉のみを採取する。その後、実さんが主体となって枝葉の蒸留や染め、インセンスづくりを担う。清美さんはアロマの知識を生かして香りの仕上がりを見極め、ワークショップや販売を通じて使い手と直接向き合う。それぞれの強みが活かされ、二人だからこそ大雄杉が完成した。

柔らかい風合いで、ビジネスにもカジュアルにも合わせやすい

都会で忙しく過ごす人ほど、自然から遠ざかりがちだ。森に行く時間がなくても、日常の中に少しだけ自然を取り入れることはできる。大雄杉には、そんな二人の思いが込められている。

都会にいながら、森とつながる

大雄杉は、精油・アロマウォーター・インセンス・杉染めストールの4つの製品を展開する。精油はディフューザーでの芳香浴(部屋に香りを広げる)のほか、キャリアオイルで希釈してトリートメントオイルとして肌に使うこともでき、入浴時は乳化剤や無水エタノールと混ぜてバスタブに入れるのもよい。

スプレータイプのアロマウォーターは、場所を選ばず手軽に使えるのが魅力だ。インセンスはお香として火をつけ、煙とともに香りを楽しむ。生活スタイルや好みに合わせて、自分なりの取り入れ方を見つけてほしい。

3種類のインセンス。上から時計回りで、大雄杉+沈香、大雄杉、大雄杉+白檀
背景にあるストーリーを知り、南足柄の自然音を聴きながら香りをまとうと、森林の風景が自然と頭に浮かんでくる。香りには記憶を呼び起こす力があるといわれる。かつて訪れた森の中にいるような感覚が、ふと蘇ってくるようだ。

大雄杉のことを知ったうえで使うと、その心地よさはまた違って感じられるだろう。機会をつくり、実際に南足柄を訪れてみたいという気持ちにもなった。

読書をしながらインセンスの香りを楽しむのも幸せなひととき
製品はOffice MK consultingのサイトから購入できるほか、南足柄市ふるさと納税の返礼品としても購入できる。現地を訪れたときは、南足柄市内の日帰り温泉「おんりーゆー」でも手に取ることができる。都会にいながらオンラインで取り寄せることもできる。

2026年4月には創業2周年を迎えた。コンセプトは「雄大な森から送る、心と体の深い癒し」だ
2026年3月には、地域の産物を活用し、地域のブランド力向上に貢献するものとして、南足柄市のブランド認定を受けた。地域と連携しながら、南足柄の森の豊かさを都会に住む人へ届けようとしている。森の恵みが、都会の暮らしに届くまでのストーリーを知ったうえで、ぜひ手に取ってみてほしい。
取材協力:Office MK consulting 古屋 実さん、古屋 清美さん

Office MK consulting | 大雄杉®

精油・エッセンシャルオイル(2ml) :3.960円
Aromaウォーター・芳香蒸留水(100ml):1.980円
ストール(日本製メリノウール100%):9.900円
インセンス(10個):1.650円 ※いずれも税込・送料別
公式サイト:https://www.officemk-f.com/

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