Vol.740

MONO

20 MAR 2026

日本一の靴下の町で、ものづくりの楽しさを体験。自転車×靴下|チャリックス

ファッションのひとつであり、足を包み守る役割を持つ、靴下。色や素材にこだわりを持って選んでいる人も多いと思うが、どんなふうに作られているかを知っているだろうか。今回訪ねたのは日本一の靴下の町と呼ばれている奈良・広陵町にある靴下工場。ここに靴下を作ることができる不思議な自転車があるという。とにかくなんだか面白そうだ。子どもも大人もわくわくする、ものづくりの魅力を発信する場所を訪ねてみた。

日本一の靴下の町、広陵町と靴下の歴史

奈良県北葛城郡広陵町は、靴下の町。奈良県随一のベッドタウンで古墳などの史跡も多い歴史ある町だが、町内を歩くと、住宅街の中など各所に靴下工場が点在していて、靴下組合や靴下博物館など、靴下関連の施設がとても多い。広陵町が靴下の町となったのは、明治時代に海外の靴下編み機がこの地にもたらされ、農家の副業として靴下作りが広まっていったことから。もともと奈良は木綿の産地で、大和木綿とよばれる織物が作られてきた場所。この地の人々は手先が器用だったので、靴下作りでもその力を発揮していく。

編み機の音が響く靴下工場。50年以上の働き続けるヴィンテージな靴下編み機も
昭和に入ると編み機の開発も進み、ナイロンなど化学繊維をいち早く取り入れることで全国有数の靴下産地となり、靴下産業が地域の一大産業になった広陵町。しかし近年は海外で安価な靴下が作られるようになり、この地の靴下産業も衰退。町に400軒ほどあった靴下関連会社が今では40軒ほどになってしまった。日本全体をみても靴下の生産は現在、海外が9割を締め、国内産の靴下は1割ほど。それでも、国産靴下の6割以上がここ広陵町を中心とした奈良県で製造されているので、今の日本の靴下産業を支えている町といえるだろう。

町の歴史を紡ぐために。広陵町から靴下の魅力を発信

「創喜」の靴下工場の敷地内にある靴下の実験室「S.Labo」
今回訪ねたのは、そんな広陵町にある、1927年創業の靴下工場「創喜」。家族で代々経営し、大手メーカーの依頼を受け靴下を製造してきた会社だ。5代目の社長の出張さんは、10年ほど前に先代から会社を受け継いだが、もともとまったく別の仕事をしていたのだそう。親の手伝いをしたことをきっかけに、質のよい素晴らしい靴下を作っているのに産業が衰退していくのを目の当たりにし、広陵町の靴下の魅力を伝えたいと家業を継ぐことを決意する。

靴下のつま先を縫いあげるマシン。職人さんの手も必要な仕事が多い

靴下には数多くの製造工程があることから、分業制で作ってきた歴史があった広陵町。町内にはそれぞれの工程に特化した会社も多かったのだそう。しかし現在は海外製品が市場の中心となり、メーカーからの注文数も減少。さらに後継者不足の問題もあり、廃業を選ぶ工場が増えているという。そんな状況をなんとかしたいという思いで作り上げたのが「チャリックス」だった。

「S.Labo」内にある「チャリックス」は3台。要望があれば出張体験もできるという
高品質な靴下を作っているという自負があったが、しかし、それを人に知ってもらえなければ、商品は届かない。ではどうしたら知ってもらえるか。そう考えたときに、蕎麦屋の店先で石臼を挽く店があるように、実際に作っている様子を見せたら注目されるのではないか。靴下を目の前で作り上げることで、興味を持ってもらえるのではないかと考える。そこで、靴下の編み機のチェーンと自転車のチェーンが似ていることに着想し、編み機にチェーンを取り付け、さらにそのチェーンを自転車のチェーンと駆動させた、「チャリンコ」×「ソックス」=「チャリックス」を発明する。

「S.Labo」には創喜の商品が並ぶショールームも

「創喜」の靴下工場のガレージを改装した「S.Labo」には、この「チャリックス」が並ぶほか、靴下工場で生まれる端切れなどの素材をリサイクルするワークショップスペースや自社製品が並ぶショップコーナーも。リアルな現場を案内するような既存の工場見学とはまったく違った、ものづくりの魅力を楽しく体験できる場所には、靴下好きはもちろん、奈良の新しい観光スポットとして、ものづくりの体験場所として、さまざまな人が訪れているという。

自分だけの靴下を自分で作る。「チャリックス」体験

まずは36色の糸の中から3色を選ぶ
「チャリックス」は大人から子どもまで誰でも靴下を作ることができるのが魅力。体験ではまず、作りたい靴下のサイズと好きな糸を選ぶ。36色の糸から3つの糸を選び、この選んだ3本の糸のほかに生成りのシルクと和紙の糸の計5本で糸を撚って編み上げていく。いくつもの糸が不規則に撚り合うことで、模様のようになった独特の風合いを持つ靴下に仕上がっていくのだ。どんな色の組み合わせが面白いかな…と考えて、今回はピンクやブルーを選んでみた。

今回選んだ糸はこちら。白い糸と共に編み上げていく
編み機には選んだ糸をセットし、サイズに合わせた編み機の設計図となるチェーンをセット。ペダルをこぐと編み機が動き、糸が繰り出されていく。編み機をみると円形になっていていて、機械が筒状に編み上げていく様子が見える。履き口部分から少し曲がるかかとの部分やつま先部分になると少し編み方が変化。すると、チェーンに負荷が少しかかったり、がちゃんと音がしたり。自転車を通して編んでいるという感覚を感じることができるだろう。コツは一定のスピードでこぐこと。急に遅くなったり、早くなったりすると上手く網目が整わないことがあるので気を付けよう。

1足編み上げるまでにサイズにもよるが約5〜7分ほど。2足あるので、合計10〜15分ほど自転車をこぐ
こいでいるとだんだんと編み機の下から靴下らしきものが見えてくる。1足できあがるまでには5~7分ほど。つま先部分まで編み上げると、ガタンといって編み機の下部から編んだ靴下が落ちてくる。出来上がった靴下を見ると、筒状でつま先が空いている状態。ここからはスタッフの方により、つま先とはき口を整えてもらう。

チャリックスで編んだ筒状の靴下
まずは靴下を裏返し、つま先部分を縫いあげる。はき口部分も糸を始末してほつれないように整える。スタッフの方はいとも簡単にやってしまうが、縫う場所を間違えると形ができないので、コツがいる作業なのだそう。最後にドライヤーで靴下全体に熱を加え、形を整える。選んだ3本の糸以外に熱を加えると縮む防縮糸も一緒に編みこんでいて、これに熱を加え固定させることで靴下の形がしっかりと整うのだ。通常の靴下の製造工程でも、金型に入れて高温の蒸気でプレスするという工程があり、それをドライヤーで簡易に行ったというわけだ。最後に自分の名前を書いたタグを付け、袋詰めして完成となる。

熱を掛ける前と後で比べてみると大きさが異なるので、糸が締まって形が整っていることがよくわかる
出来上がった靴下は、3つの色の糸がランダムに入ることで模様のようになっていて、一つとして同じ靴下とならない。まさに自分だけの靴下。そして、この「チャリックス」はオンラインで体験することも可能。サイズと糸が選べるのはもちろん、チャリックスをこぐスタッフまでも指定できるという。どんな靴下が届くだろうというわくわく感が、オンラインオーダーでも楽しめるようになっている。

完成した靴下。タグに名前を入れたり、色を塗ったりすることもできる
ほかにも「S.Labo」では、余った糸で作った靴下と靴下のつま先を縫いあげた時に切り落とす輪っか状の端切れをアップサイクルして作るぬいぐるみ「ソックモンキー」作りや穴の開いた靴下を縫うダーニングレッスンなど、靴下工場ならではのワークショップも実施していて、靴下が好きな人、ハンドメイドが好きな人などが訪れているという。

チャリックスで編んだ靴下のサンプル。実際に工場で使われている仕上げプレス用の金型でディスプレー
靴下は毎日履いているけれど、どのように作られているのか知らない人は多い。しかし、それを知ることで、靴下に向ける目線ががらりと変わる。ファッションアイテムとして、暮らしに欠かせないものとして、日本が誇る産業として。「チャリックス」を体験することで、それを楽しく学ぶことができ、靴下をまた新たな視点で選ぼうと思うきっかけとなった。

余り糸で作った子ども用靴下と、靴下の端切れで作る「ソックモンキー」

靴下の町で生まれる、作り手の思いが込められたローゲージソックス

「S.Labo」のショールームに並んでいる商品をみると、アップサイクル素材を使ったもの、吉野檜の糸を使った奈良素材とのコラボしたなど、奈良の魅力を発見したり、靴下の新しい価値を発見できたりと、既存の考え方にとらわれない、さまざまな靴下が並ぶ。その中でも「創喜」の靴下の特徴なのがローゲージと呼ばれるふっくらとしたはき心地の靴下。「チャリックス」で作ることができる靴下もそうだが、ローゲージは、網目の数が少なく、立体感が出る編み方。糸をたくさん使うが丈夫で、何より糸の個性が表現しやすい。

そして「創喜」は、2026年4月1日より自社ブランドのソックスをリブランディング。ローゲージソックスの可能性を広げ、世界中の人々をわくわくさせる靴下づくりを目指していくという。

ショップコーナーには、靴下のガチャガチャも
「広陵町ではメーカーから注文をうけて製造する会社が多かったですが、自社ブランドを立ち上げて販売するメーカーも近年は増えてきました。その中でも会社の強みであるローゲージに特化させることにしました。色や太さの異なる複数の糸を使い、様々なレシピが生まれる靴下はローゲージでしかできないもの。そんな糸の風合いを活かすことで、作り手が込めたストーリーを感じる、わくわくする靴下を作っていきたい」という広報の中川さん。

吉野の森で育った杉や檜を原料にした「木の糸」と靴下工場で生産過程から生まれる端材をアップサイクルしたコットンを組み合わせた靴下

ハイゲージは柄や絵をはっきり描くのには適しているが、ローゲージは糸自体の風合いを楽しむ靴下。天然素材の心地よさや、自然な色、そこに込められたストーリーが魅力となる。そんな「創喜」のローゲージの靴下は、個性を表現しながら、男女問わずはけるデザインでファッションにも合わせやすい。そして丁寧に洗濯をすれば丈夫で破れにくいので長持ちするし、汗を吸ってくれたり通気性もよいなど機能性も高い。国産の、奈良の、広陵町産の靴下だからこそできる一足といえるだろう。

気持ちのいい靴下をはいて。春の野原に出かけてみる

「チャリックス」を体験し、自分で作り上げた靴下や、作り手のストーリーを感じられる靴下をはくことは、自分らしさを表現するひとつの形となる。そして愛着を持ってはくことで、ものづくりも支えることができる。さりげなく個性を表現するファッションとして、足を心地よく守るアイテムとして、広陵町産の靴下をぜひ手に取ってみてほしい。

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